女神様の言うとおり

切望

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異界の老騎士

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 異世界生活2日目。
 神殿内には書庫の他にも娯楽室や食堂、挙げ句浴場まであった。神が身近なこの世界に置いては屋敷としての意味合いの方が強いのかもしれない。

「………読めない」
「だろうね」
「これが文字か。なんか、形は類似するのがあるにはあるけどそれに当てはめると意味ない羅列になる」
「似てるからってその文字とは限らないし、そもそも単語が同じとは限らないしね」

 それもそうだ。転移してすぐ文字が読めるし書ける異世界転移主人公が羨ましい。

「文字なら私が教えてあげようか?」
「ついでに自動翻訳切りながらこっちの言葉も教えてくれ」
「言葉も? 私が居るのに?」
「暇なんだよ。別に覚えて何があるって訳じゃない。3万年、言葉も変わってるかもしれないし………そういえば、何で国々で言葉違うんだ? 俺の世界じゃ神が言葉を分けたけど」
「ん~? 数千年ほど放置してたらドラゴンに殺されたり妖精に遊ばれたりして散り散りになって、そこで言葉が別れたんだよ、確か」

 自然と別れたのか。元が同じ言葉でも分かれるものなのだろうか? まあ日本人の祖先も大陸から渡ってきたとされる割に言語が異なるしそういうものなのだろう。

「じゃあお前から習った言葉も3万年後の世界じゃ何処の国でも使ってない可能性もあるのか」
「そうだね。でも文明がある程度発達してたらそれこそ何万年だって続くと思うよ」

 イーナはそう言いながら本を取る。ドラゴンの表紙だ。

「3万年前、子供達も知ってた恐ろしいドラゴン達の知識。最初はこれなんか良いと思うよ」
「ドラゴン………そう言えば、亜竜デミドラゴンドラゴンってどう違うんだ?」
「トカゲと恐竜ぐらい違うよ」
「……こっちの世界の恐竜ってのがそもそもどんなんだよ」
「ああ、これは君の記憶から得た知識だよ。こっちの世界に恐竜っぽい見た目の動物はいるけど亜竜ですらない偽竜って呼ばれてるけどね」
「まあモノホンのドラゴンがいる世界でデカいだけの生き物に恐ろしい竜なんて名前つかないか」

 英語でも恐ろしい蜥蜴という意味らしいし。
 自動翻訳で恐竜と訳されるのだろうが敢えて意味を説明するぐらいにはドラゴンとはまるで別物らしい。

「それでも俺なら小型にも食われそうだがな……ん? これドラゴンの図鑑だよな? 何で森?」
「それは森怨竜ガザルバグナだよ。森そのものが竜なんだ。この葉は鱗、根は尻尾、幹は首、大地は体。と、されてる」
「曖昧だな……」
「ちなみに生物に敵対的なのが邪竜。逆に世界を守ったりするのが竜だね。因みにガザルバグナは邪竜だよ」

 知りたくなかった。森一つのサイズの化け物が人類の敵側とか。

「樹縛竜セルシルクトゥワっていう似た性質の竜とは仲が悪かったみたい」
「………ちなみに、その2つ名ってどう訳されてんだ? 俺の脳の変換? お前の変換?」
「私だね。君の知識にある感じから、相応しい組み合わせを選んで変換されるようにしてる」

 良かった。自分が中二病を患っていたわけではないらしい。

「それはそれとして文字の読み方、単語の意味、全部教えてくれ」
「宜しい、お姉さん先生に任せたまえ」

 と、何処からともなく取り出した黒縁メガネをかけるイーナ。しかも何時の間にかスーツまで着てる。どっから取り出した。というか、どうしてこの世界にある。まさか作ったのか?

「神様だからね。ったのさ」
「そうかよ」

 何でもありだが、まあ神様だし、と思う事にした。

「それじゃあまずはこっちの世界のアルファベット文字を覚えようか」






 それから3ヶ月。

「君って結構順応力高いね」
「そうか?」

 3ヶ月の月日、元の世界に帰りたいともあの日以来言わないマコトに呆れたように言うイーナ。
 確かに元の世界に未練がない事を条件にランダムで連れて来た。何と平和な世界出身らしい。ならば未練などなくとも帰りたがるのが普通なのだが……。

「まあ私としては楽でいいけど。それと、32点」
「むう……」
「ヒヤリングは17点。まあ、普通こんなもんだよ……『ところでそろそろ3ヶ月、世話になってるんだしゼレシウガルには慣れた?』」
「………さ、さん……あ、3ヶ月! えっと……ゼレシウガルが? に?」
「……3ヶ月は聞き取ったんじゃなくて推測かあ」
「悪かったな。えっと、この3ヶ月でゼレシウガルと話せた?」
「違うね。はい、今日の教材」

 と、マコトの記憶を読み取り執筆した本を持ってくる。翻訳、絵、どちらもイーナイマーヤ。

「ところで君もだけど、君の世界の物語の住民って元の世界に帰ろうとする者少ないね?」
「最近だと転移じゃなくて転生………死んでるパターンが増えたしな。俺の場合そもそもお前が未練が無いやつ選んだんだろ。後、こんな危険な世界からは一刻も早く帰りてえよ俺は……」

 凄く嫌そうな顔で睨んでくるマコトにくすくす微笑むイーナ。やっぱり人間は可愛い。

「………ま、お前の発言に照らし合わせるなら、そいつ等は主人公の資格があったんだろ」

 いきなり異世界に訪れて、混乱もせず受け入れ、貰った力を使いこなし、昨今では出会ったその日にベッドインする女に出会える幸運。
 イーナに言わせるところの、主人公だからそうなるのではなくそういう幸運を持ち合わせるから主人公になった者達。

「混乱せず受け入れられる精神、羨ましい限りだ。俺は文字通りし………死ぬような、目にあって……なきゃ冷静になれなかったし………」

 日本語翻訳付きの本を開き読み始めるマコト。混乱し外に出て、首をふっとばされたり漏らしたりした化け物に食われかけたりしたことでも思い出したのか顔を青くして震える。

「思い出だけでもまだ怖い?」
「あったり前だろうが! っ……いや、大声出して悪い。でもな、首ふっとばされて仲良く出来るやつは頭おかしいって」
「まあ時間の問題だとは思うけどね。だって君、離れるけど隠れなくなってるし」

 それは、まあ確かに馴れなのだろう。まあ、以前怖がっているがイーナはそれをニコニコと見つめて、そんな視線にマコトが眉根を寄せる毎日だ。


「まあでも、怖いのは仕方ないか。君この世界じゃちょっと鍛えた子供より弱いし、ゼレシウガルはこの世界で初めて竜殺しを成した人間だしね」
「……竜殺し?」
「そうだよ」
「あれって、人が勝てる存在なのか?」
「驚きだよね」

 自分を一度殺した相手がとんでもない化け物だったと知りますます顔を青くするマコト。イーナはやっぱりニコニコ笑う。

「まあ蟻と像ぐらい違うんだし、怯えるのも仕方ないよ。でもね、ゼレシウガルだって元々は虫けらみたいだったんだよ? それは、確かに才能に恵まれてるけど」
「言い方」
「事実だからね。ゼレシウガルは、元々弱い子供だった。鍛えてあんなに強くなったんだよ」
「例の物理法則を無視できる力か……」
「正解。もちろん魔力同様、君にもあるから鍛えれば強くなれるよ」

 ポン、と頭に手を置くイーナ。強くなれると言われてもとてもではないが信じられない。

「……強く、ねえ。まあ、そこそこ鍛えるだけなら暇つぶしにもなるかもな」

 ドサドサと無言で指南書をおいていくイーナ。この書庫は、割と様々なジャンルがあるのだ。
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