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異界の老騎士
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「ゼレシウガル、落ち込んでた」
「俺が悪いのか? 首ふっとばされてんだぞ」
「いい年した男が過ぎたことをグチグチと言わないの」
「昨日今日首飛ばされた相手と仲良くしたくないのが愚痴っぽいなら永遠に愚痴はいてられるぞ俺は」
というかこんなやばい世界に連れてきた眼の前の女神とだって本音を言えば思う所がないわけではない。ただ、今更言ってもどうにもならないらしいから言わないだけだ。
「君って自分の事に関しては結局納得するタイプだよね。そのくせ、ゼレシウガルを3万年も呪い続けてる何者かにはまだ怒りを持ってる………あ、これ普段食べてるお肉だ」
「………これでも、昔は怒りっぽかったけどな」
「ん~……家族に死なれて、一人生き残って、勝手な罪悪感を感じてるのかもね」
「それは………確かに勝手だな、我が事ながら」
思ったよりあっさり認めたことに意外に思ったのか、イーナは手を止める。
「俺の家族は、俺だけ生き残った事を責める人じゃない。罪悪感……罪だと思ってるのは、俺だけだ。これうま……」
マコトは「しっかり食べろ、大きくなれぬ」とゼレシウガルに渡された食事に舌鼓を打つ。毒は疑わない。ゼレシウガルはそんな面倒な事する必要がないだろうから。あと逆らったから怖いから。
「さっきの言葉聞いて平気で食べるんだ」
「祖先が人なだけだろ? じいちゃんから畑荒らすタイワンザルの肉送られた事あるし」
まあ正直見た目的に美味しくなさそうだったが、意外と美味い。
「魔力が宿った食べ物は基本的に美味しいんだよ。亜竜の肉でさえ高級品だったしねえ」
「魔力?」
「この世の摂理を歪める力だよ。摂理の加護を得る聖力もあるよ。因みに摂理を操る私達神のは神力を持ってる」
「………違いがわからん」
「まあ詳しく知る必要はないよ。魔力は全ての生き物に宿るものだからね。ほら、塩を振ると味蕾が反応して味を良く感じるのと同じだよ。まあ聖力は生命に力を与えるから同じように美味しく感じるけど」
「異世界人の俺に魔力なんてあるのかよ」
「あるよ。だって、私を見てみなよ、おんなじ姿。おまけに普通に生きしてるし、構造的に似かよってる証拠。それに魔力だって発音が異なってるよ?」
自動翻訳で意味は通じてるがそれこそマジックポイントだのといった発音違いがある。術を扱っているイーナはケンヤが単語を自動翻訳した事を解るから、『魔力』という概念がどちらにも存在することが伺えると笑う。
「火のない所に煙は立たない。君の世界にも魔法はあったんじゃないかな? 永い永い歴史の中廃れ、人は己の目に映らぬものを偽りと決めつけただけで」
「……………」
「そもそもここまで姿が似通うなら、何らかの繋がりがあったのかもしれないしね」
「猿から進化しただけなんだけどな……」
「進化の過程は多くいるんだろ? その中に紛れ込んだのかもね」
途中まで一緒だったとされる別の類人猿も確かにいる。何なら血が混ざったとされる別種の旧人類も。確かに異世界から混じっていても不思議ではないかもしれない。
「つまり、こっちの世界から元の世界に渡る方法があるかも知れねえのか」
「帰りたいの?」
「………少なくとも、この世界よりはマシだろ」
「でもどうやって帰るの?」
「……………」
外に出る、言葉できるだろう。死にかけても今の自分は死なない。だが、死なないだけだ。今回はゼレシウガルに助けられたが、次はどうなるか解らない。
森の獣に襲われ、動けない状態にされ、しかもその後食うところが無くならないのだ。獣が果たして離れるか。離れたとしても、別の獣が血の匂いで寄ってくるかも知れない。
そんな事を考えるだけで血の気が引く。
「今からでもチート能力貰えたりしないか?」
「良いけど、ゼレシウガルには勝てないよ?」
「森から出るだけで良いんだよ。そしたら助けを呼ぶぐらいはしてやる」
「うーん。でも外の状況がわからないしなあ。竜や邪竜はこの3万年で、数える程しか減ってない。それにあったら、君死ぬよ? ま、竜なら話は通じるけどさ」
チート能力貰っても勝てないのか、この世界のドラゴン達は。
「亜竜なら勝てるけどねえ。出会う竜出会う竜ぜぇんぶ亜竜だなんて都合の良い奇跡は起きないと思うんだね」
「………出会わないにかけるのは」
「もちろん、出会わない可能性もあるけどさ……まあ不死身なんだ。千年でも一万年でも、ここで私と過ごすのもありなんじゃない?」
マコトを召喚したのはイーナだ。少なくとも彼女は別世界にまで手を届かせる事が出来る。ならば、信仰エネルギーとやらを与えて元の世界を探させるべきなのだろうか?
とはいえ、何年かかるか解らない。やらないよりはマシだろうか?
「………何してんの?」
「崇めてる」
両手を前で合わせたマコトを見て首を傾げるイーナ。マコトは神前で手を合わせ崇めるのが故郷のやり方だと伝えた。
「別に形を取る必要はないよ。心の持ちようだから、それこそ儀式なんかすれば多めに蓄えられたりするけど、形だけの尊崇には意義はない」
「………そうか」
「まあ私を神だと認めてくれてるから、信仰エネルギーは貯まってるけどさ」
つまりこんな周りに危険な化け物が蔓延る森に囲まれた遺跡でイーナに力が貯まるのを待たなきゃいけないようだ。
「まあまあ、そんな顔しないで。面倒見の良いゼレシウガルなら周辺の化け物ぐらい倒してくれるよ!」
「つってもあまり遠くには行けないんだろ?」
「ゼレシウガルが一瞬で移動できる範囲だろうね。全盛期なら、300キロぐらいだったけど」
「マッハ何キロだよ。てか、それ衝撃波で周り吹っ飛んだり彼奴自体砕けたりしないのか?」
「しないね」
「物理法則働いてねえのかよこの世界」
「異世界に既存の法則を持ってくるほうがおかしいんじゃない?」
正論である。
「ついでにいうとこの一瞬って1秒じゃないよ? 1秒あれば戦闘経験の少ない民なら千人は肉塊にできる奴等がゴロゴロいたし」
文字通りの一騎当千というわけだ。いや、それどころの話じゃない。同じ種族で何故そうも差が出るのか。
「てか、彼奴あれで全盛期じゃねえのか。まあ3万年も生きてりゃ…………あれ? てか、この世界の人間ってそんなに長く生きるのか?」
「いやあ、アンデッド化してるよあの子。良かったね、お仲間だよ」
「………アンデッド」
ファンタジーなゲーム、漫画、小説ではお馴染みの単語。この世界にもいるのか。
「ついでに言えば、物理法則は一応あるよ。音速を越えようとすれば空気の壁に当たるし、突破したら衝撃波が発生する。それを起きないように移動するのも、そんな速度で動きながら周囲を確認できる程の思考加速が行えるのも、アンデッドが生まれるのも、おんなじ力が働いてるの。ま、頭潰されたり心臓増えまくって脳の血管破裂したりするとなぁんにも出来なくなる君はまだまだ届かな領域だね」
「この世界の連中は頭がなくても動くのか」
「稀だけどね。でも戦争中頭に剣を刺されても戦ってる人を見た事あるよ。戦いが終わると同時に、流石に死んだけど」
「アンデッドとは違うのか?」
「違うね。少なくとも、体は生気に満ちてたし。まだ魂の繋がりがあった。アンデッドは無理やり繋げてるんだよね」
それって、自分はどうなのだろうかとマコトは己の体を見る。思い出すだけでも首が切り飛ばされ、増えた心臓で内蔵が潰れ喉がつまり腹が破裂し脳の血管が裂け………2回目の死、あんまり過ぎないだろうか。
「君の場合そもそも魂と肉体が繋がる以前に重なってるんだよ。魂が破壊されない限り死なないし、きちんと魂喰対策に魂に不滅の特性も与えてるし」
「愛の神ってそんな事もできるのか?」
「大概のことは出来るよ。というか神は人から見れば結構万能だよ」
まあ、そもそも生物としてどころか存在の尺度が違うのだろう。人間にとっては数多の権力者が求めても手に入らないものでも、神からすればポンと与えられるものなのかもしれない。
「てことは、神なら俺を殺せるかもってわけか」
「まあ神にもよるけどね。私は結構すごい神なんだよ?」
ふふん、と片目を閉じペロリと舌を出すイーナ。深くにも、可愛いと思ってしまった。
「ところで今更だけど、トイレとかあるか?」
「あるよ。こっちこっち」
と、扉を開けるイーナ。どうやら外にさえ出なければ、割と自由らしい。
「ちなみに書庫もあるよ」
「3万年前のだろ?」
「ここは神殿。神の住まう場。そして私がここにいる。書物の状態を保つなんてちょちょいのちょいだよ」
「………やたら奇麗なのも?」
「掃除はゼレシウガルがやってくれてる」
「家事もできるのかよあのバケモンみてえな強さを持つ戦士なのに」
「休日は娘や妻と一緒に家の掃除をしてたからね」
既婚者だったらしい。
「俺が悪いのか? 首ふっとばされてんだぞ」
「いい年した男が過ぎたことをグチグチと言わないの」
「昨日今日首飛ばされた相手と仲良くしたくないのが愚痴っぽいなら永遠に愚痴はいてられるぞ俺は」
というかこんなやばい世界に連れてきた眼の前の女神とだって本音を言えば思う所がないわけではない。ただ、今更言ってもどうにもならないらしいから言わないだけだ。
「君って自分の事に関しては結局納得するタイプだよね。そのくせ、ゼレシウガルを3万年も呪い続けてる何者かにはまだ怒りを持ってる………あ、これ普段食べてるお肉だ」
「………これでも、昔は怒りっぽかったけどな」
「ん~……家族に死なれて、一人生き残って、勝手な罪悪感を感じてるのかもね」
「それは………確かに勝手だな、我が事ながら」
思ったよりあっさり認めたことに意外に思ったのか、イーナは手を止める。
「俺の家族は、俺だけ生き残った事を責める人じゃない。罪悪感……罪だと思ってるのは、俺だけだ。これうま……」
マコトは「しっかり食べろ、大きくなれぬ」とゼレシウガルに渡された食事に舌鼓を打つ。毒は疑わない。ゼレシウガルはそんな面倒な事する必要がないだろうから。あと逆らったから怖いから。
「さっきの言葉聞いて平気で食べるんだ」
「祖先が人なだけだろ? じいちゃんから畑荒らすタイワンザルの肉送られた事あるし」
まあ正直見た目的に美味しくなさそうだったが、意外と美味い。
「魔力が宿った食べ物は基本的に美味しいんだよ。亜竜の肉でさえ高級品だったしねえ」
「魔力?」
「この世の摂理を歪める力だよ。摂理の加護を得る聖力もあるよ。因みに摂理を操る私達神のは神力を持ってる」
「………違いがわからん」
「まあ詳しく知る必要はないよ。魔力は全ての生き物に宿るものだからね。ほら、塩を振ると味蕾が反応して味を良く感じるのと同じだよ。まあ聖力は生命に力を与えるから同じように美味しく感じるけど」
「異世界人の俺に魔力なんてあるのかよ」
「あるよ。だって、私を見てみなよ、おんなじ姿。おまけに普通に生きしてるし、構造的に似かよってる証拠。それに魔力だって発音が異なってるよ?」
自動翻訳で意味は通じてるがそれこそマジックポイントだのといった発音違いがある。術を扱っているイーナはケンヤが単語を自動翻訳した事を解るから、『魔力』という概念がどちらにも存在することが伺えると笑う。
「火のない所に煙は立たない。君の世界にも魔法はあったんじゃないかな? 永い永い歴史の中廃れ、人は己の目に映らぬものを偽りと決めつけただけで」
「……………」
「そもそもここまで姿が似通うなら、何らかの繋がりがあったのかもしれないしね」
「猿から進化しただけなんだけどな……」
「進化の過程は多くいるんだろ? その中に紛れ込んだのかもね」
途中まで一緒だったとされる別の類人猿も確かにいる。何なら血が混ざったとされる別種の旧人類も。確かに異世界から混じっていても不思議ではないかもしれない。
「つまり、こっちの世界から元の世界に渡る方法があるかも知れねえのか」
「帰りたいの?」
「………少なくとも、この世界よりはマシだろ」
「でもどうやって帰るの?」
「……………」
外に出る、言葉できるだろう。死にかけても今の自分は死なない。だが、死なないだけだ。今回はゼレシウガルに助けられたが、次はどうなるか解らない。
森の獣に襲われ、動けない状態にされ、しかもその後食うところが無くならないのだ。獣が果たして離れるか。離れたとしても、別の獣が血の匂いで寄ってくるかも知れない。
そんな事を考えるだけで血の気が引く。
「今からでもチート能力貰えたりしないか?」
「良いけど、ゼレシウガルには勝てないよ?」
「森から出るだけで良いんだよ。そしたら助けを呼ぶぐらいはしてやる」
「うーん。でも外の状況がわからないしなあ。竜や邪竜はこの3万年で、数える程しか減ってない。それにあったら、君死ぬよ? ま、竜なら話は通じるけどさ」
チート能力貰っても勝てないのか、この世界のドラゴン達は。
「亜竜なら勝てるけどねえ。出会う竜出会う竜ぜぇんぶ亜竜だなんて都合の良い奇跡は起きないと思うんだね」
「………出会わないにかけるのは」
「もちろん、出会わない可能性もあるけどさ……まあ不死身なんだ。千年でも一万年でも、ここで私と過ごすのもありなんじゃない?」
マコトを召喚したのはイーナだ。少なくとも彼女は別世界にまで手を届かせる事が出来る。ならば、信仰エネルギーとやらを与えて元の世界を探させるべきなのだろうか?
とはいえ、何年かかるか解らない。やらないよりはマシだろうか?
「………何してんの?」
「崇めてる」
両手を前で合わせたマコトを見て首を傾げるイーナ。マコトは神前で手を合わせ崇めるのが故郷のやり方だと伝えた。
「別に形を取る必要はないよ。心の持ちようだから、それこそ儀式なんかすれば多めに蓄えられたりするけど、形だけの尊崇には意義はない」
「………そうか」
「まあ私を神だと認めてくれてるから、信仰エネルギーは貯まってるけどさ」
つまりこんな周りに危険な化け物が蔓延る森に囲まれた遺跡でイーナに力が貯まるのを待たなきゃいけないようだ。
「まあまあ、そんな顔しないで。面倒見の良いゼレシウガルなら周辺の化け物ぐらい倒してくれるよ!」
「つってもあまり遠くには行けないんだろ?」
「ゼレシウガルが一瞬で移動できる範囲だろうね。全盛期なら、300キロぐらいだったけど」
「マッハ何キロだよ。てか、それ衝撃波で周り吹っ飛んだり彼奴自体砕けたりしないのか?」
「しないね」
「物理法則働いてねえのかよこの世界」
「異世界に既存の法則を持ってくるほうがおかしいんじゃない?」
正論である。
「ついでにいうとこの一瞬って1秒じゃないよ? 1秒あれば戦闘経験の少ない民なら千人は肉塊にできる奴等がゴロゴロいたし」
文字通りの一騎当千というわけだ。いや、それどころの話じゃない。同じ種族で何故そうも差が出るのか。
「てか、彼奴あれで全盛期じゃねえのか。まあ3万年も生きてりゃ…………あれ? てか、この世界の人間ってそんなに長く生きるのか?」
「いやあ、アンデッド化してるよあの子。良かったね、お仲間だよ」
「………アンデッド」
ファンタジーなゲーム、漫画、小説ではお馴染みの単語。この世界にもいるのか。
「ついでに言えば、物理法則は一応あるよ。音速を越えようとすれば空気の壁に当たるし、突破したら衝撃波が発生する。それを起きないように移動するのも、そんな速度で動きながら周囲を確認できる程の思考加速が行えるのも、アンデッドが生まれるのも、おんなじ力が働いてるの。ま、頭潰されたり心臓増えまくって脳の血管破裂したりするとなぁんにも出来なくなる君はまだまだ届かな領域だね」
「この世界の連中は頭がなくても動くのか」
「稀だけどね。でも戦争中頭に剣を刺されても戦ってる人を見た事あるよ。戦いが終わると同時に、流石に死んだけど」
「アンデッドとは違うのか?」
「違うね。少なくとも、体は生気に満ちてたし。まだ魂の繋がりがあった。アンデッドは無理やり繋げてるんだよね」
それって、自分はどうなのだろうかとマコトは己の体を見る。思い出すだけでも首が切り飛ばされ、増えた心臓で内蔵が潰れ喉がつまり腹が破裂し脳の血管が裂け………2回目の死、あんまり過ぎないだろうか。
「君の場合そもそも魂と肉体が繋がる以前に重なってるんだよ。魂が破壊されない限り死なないし、きちんと魂喰対策に魂に不滅の特性も与えてるし」
「愛の神ってそんな事もできるのか?」
「大概のことは出来るよ。というか神は人から見れば結構万能だよ」
まあ、そもそも生物としてどころか存在の尺度が違うのだろう。人間にとっては数多の権力者が求めても手に入らないものでも、神からすればポンと与えられるものなのかもしれない。
「てことは、神なら俺を殺せるかもってわけか」
「まあ神にもよるけどね。私は結構すごい神なんだよ?」
ふふん、と片目を閉じペロリと舌を出すイーナ。深くにも、可愛いと思ってしまった。
「ところで今更だけど、トイレとかあるか?」
「あるよ。こっちこっち」
と、扉を開けるイーナ。どうやら外にさえ出なければ、割と自由らしい。
「ちなみに書庫もあるよ」
「3万年前のだろ?」
「ここは神殿。神の住まう場。そして私がここにいる。書物の状態を保つなんてちょちょいのちょいだよ」
「………やたら奇麗なのも?」
「掃除はゼレシウガルがやってくれてる」
「家事もできるのかよあのバケモンみてえな強さを持つ戦士なのに」
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