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世界が終わる日 ※狼獣人×人間
しおりを挟む明日、世界が終わるらしい。
僕は白い息を吐いて、窓を開けた。子供の頃、大人は言った。『君たちは大人になれない。この地球は寿命を迎えていて、あと数年で消滅してしまう』と。薄暗い夜空に浮かぶ月を見上げて、そんな記憶を思い返していた。
「寒いよ」
「ああ、ごめんね」
すると背後から透き通るような真っ白な手が伸びてきて、ぎゅっと抱き締められる。同じ毛布に包まっていた少年だ。彼は不機嫌な顔をして、「窓を閉めて」と言う。この子は獣人。彼は狼の血が入っている。白銀の髪を撫でると、2つの耳がぴこぴこと動いた。思わず笑ってしまう。不機嫌だったり、ご機嫌だったり、その時々の感情で動きが変わるこれはとても可愛らしいんだ。
「…どうしたの?」
むうっと頬を膨らませる彼を見下ろし首を傾げた。おかしいな。いつもなら照れて離れていくのに、今日は何だか大人しい。じっとくっついたままだ。
「……さびしい」
僕は「ああ」と破顔した。
「ふふ、今日はやけに素直だね。最後にキスをする?」
悪戯な笑みを浮かべる。どうせ冷たい目を向けられるだろう。そう考えた。しかし返事はなかなか来なくて、彼の声が聞こえたのは少し後だった。
「最後……って……言わないで」
「…んっ……」
貪るように唇を奪われた。下唇を噛まれ、じくっと痛みが走る。そのまま溢れる血を啜るように、彼は舌を這わせた。薄目で見えた視界の中で、彼の灰色の瞳が涙に濡れていることに気付いた。ぼんやりと彼を受け入れて、そっと目を閉じる。
「……だいすき」
「…ぁ…っ…あはは。今日は本当に素直だ」
ちゅ、と可愛らしい音を立てて、唇を解放された。たらりと銀色の糸を艶かしく舌で拭い、彼はぽつりぽつりと言葉を落とした。
「好き。……離れたくない。死にたくない」
「僕も。君と離れたくないよ。地球は酷いね」
彼はこくりと頷く。
「でも感謝しよう。君と出逢わせてくれた。今日まで幸せを与えてくれた。こんなに美しくてカッコイイ君と恋人になれた僕は世界一の幸せ者だ」
彼の尻尾が揺れる。
「好き。好き。好き」
ぽろぽろと涙を零しながら、彼は愛の言葉を与えてくれる。
その瞬間、時計の針がカチッと動く。2つの針が頂点で重なり、空が真っ白に光る。同時に地面を突き上げるような悲しい音が鼓膜を刺激した。互いの体温を確かめるように、抱き締め合って、涙を流した。
「愛してるよ。さようなら」
今日、世界が終わるらしい。
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