ラグナは静かに黄昏れたい

りつ

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健全の定義

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 森はララと遭遇した場所から20分程で抜けることができた。20分と言っても実際に時計を見ながら移動してた訳では無い、腹時計頼りの時間感覚なので正確さは欠けている。

「あ、れが王都ですぅ」

 森を抜けたさきは広大な草原でそれはすぐに見えた。
 高い壁に囲まれその奥に王城らしき建物が見える。なんだか進撃されそうな見た目だ。あの有名な歌を歌いたい。
 目視による距離だとここから歩いて10kmはありそうだ2時間かかるくらいといったところか。正直なところすでに少し疲れている自分がいるのであそこまで歩くとなると気が重い。

 道は逸れるが森の近くに小さな村がある。

 ララは既に体力の限界のようで息が荒くなっている。
「ラグナさんと会う前にゴブリンに追いかけられてたんですよー」
 とのことだ。そこでゴブリンというのが強いのでは無いか、俺の知ってるゲームや漫画では雑魚扱いされ続けていたがこの世界では違うんでは無いかと考えララにゴブリンの強さがどれくらいか聞いた。

「駆け出しの冒険者がパーティを組んで普通に倒せるレベルです、あとは新米の騎士達なら1人でも倒せるって聞いたことあります」
 雑魚だった。

「そんなのに君は逃げていたのか」
「だって3匹もいたんですもん!」
「つえを持ってるってことは魔法使いだろう?魔法でドパっと倒せないのか?」
「私得意なのは回復魔法なので他の魔法はあまり・・・」

 ならば何故無謀と思える行動に出たのか聞きたかったが、それを聞くと後戻りできない何かが俺の肩を掴みそうな気がしてやめる。

 俺があのタイミングで魔法を使っていなければララは殺されていた可能性すらある。
 それにもし逃げ切れてもユニコーンの角も不可能だっただろう。
 この角がいったい何に使えるのか知らないが、命を賭けてでも欲しかったのだろうか?それともただ楽観的に動いたのか。彼女を見てるとどうも後者のように思えてくる。
 
「ラグナさんラグナさん!ここまでくれば私でも道わかるのでドーンと道案内任してください!」

 とは言うが目的地が目視できる状況で案内が必要なのかどうか。

 だが俺はその時別の事が気になっていた。

 森の近くの村、場所を考えれば王都に入れないか住む事を拒絶された者達の集まりだと思われる。それでも近くですぐに王都に助けて貰おうという下心のあるやつが村を作ったんだろうと勝手に想像する。
 そして目と鼻の先にあるってことはあそこの村は犯罪者の溜まり場でないことも推察する、もしあの村が犯罪者達の拠点だとするならば、俺が王でもすぐに危険因子は淘汰するだろう。

「なんでこんな王都の近くに村なんか?」
「あーあの村はですね、元々は王都に住んでた人達が作った場所なんですよ」

 彼女は申し訳無さそうに話し始める。

「税金が払えなかったり、貧相な家庭で産まれ親が子供の身分証の取得をせず、そのまま成長していって最終的にはそれが発覚してしまう、そういった理由で追い出された人達が遠くの村々にも行けずに集まって自給自足の生活をしてるうちにああいった村が出来るみたいです、それも年々増えてるらしくお恥ずかしい話しです」
「君が恥ずかしく思うことは無いんじゃない?そういうのは王の責務だしそういった難民を増やさないようにするのも政を収める者の仕事だろう」
 彼女は急に身振り手振りが激しくなり、まるでなにかを誤魔化そうとするかのように。
「そうなんですけど、なんとなくです、なんとなくなんです!自分の住んでるとこはやっぱりいい所なんだと思ってほしいじゃないでしゅか!」
「ハハッ」

 なんとなくで俺は赤面の彼女の頭をクシャクシャと撫でる、なんだか学生の時の後輩を思い出す、普段はキリッとしてるのに少しでも調子が狂うと噛んでしまう。そんな彼女のことを少しだけ懐かしい。
 そして頭を撫でるとなんだか仔犬のように嬉しいそうにするのも、ブンブンと左右に振られる尻尾が見えそうだ。

「あ、ごめん急に」
「いえ、少し驚きましたけど嫌な感じはしなかったですよ!」

 だからもう少し撫でてもいいんですよ、という意思表示は無視をして。

 俺は改めて村の方を見る。
 一見なんともないように見えるが何故か気になる、どうしても気になる。

 なんとかして村の様子をすぐに汁方法は無いかと思い、俺はふざけ半分で思いついたことを試す。
 意識と魔力を目に集中させ見るのではなくと念を込める。
 健全な男子高校生ならほとんどの者が開眼するであろう奥義【隣の女子更衣室せんりがん】これは健全な男子高校生なら90%の確率で獲得すると言われている、プールの授業のために更衣室で着替える女子達を覗くのではない見るのではない視るのだと、さすれば心の目(妄想)で視れる。

 奥義!
 俺はその目で村を視た瞬間、プツリと意識が途切れる。

「えっ?ちょっ!ラグナさん!?ラグナさん!」

 顔がなんだかマシュマロのような感触を感じ取る。
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