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光留と花南
序章
しおりを挟む薄暗い住宅街の路地。人気の少ない裏通りに火の手が上がる。
「蝶子! そっち行ったぞ!」
「わかってるわよ!」
青年が叫ぶと、蝶子と呼ばれた美女が青年と反対方向へと駆け出す。
青年は追っていた化け物と民家と民家の隙間にある細い道で対峙すると、炎の玉を投げつけ、化け物に当たるとそこから炎が燃え広がる。
苛烈な炎は民家を巻き込むことはない。だが――。
『グオオオオオオーーッ! 守リ人ゴトキガ、我ヲ陥レルナド、アッテナルモノカァーーッ!』
「陥れるって、勝手に路地裏に入り込んだのはそっちだろ」
呆れたようにぼやくと、炎は勢いを増して化け物を焼く。
『ガアアアッーーー!!』
耳を塞ぎたくなるような断末魔。
『呪ッテヤル、貴様ノ巫女姫ゴト呪ッテヤルゥゥ!』
「ッ!」
化け物の爪が青年の腕をかすめる。しかし、それが最後の力だったのか、化け物は燃えカスとなり夜の空気へと灰も残さず消えた。
残った青年はヒリヒリと痛む腕を抑える。
「あー、マジで呪詛が入ってる。気持ち悪っ」
だいぶ慣れてきたとはいえ、やはり怪我や呪詛を受けるのは辛い。
「そっちも片付いたみたいね」
蝶子は、赤い髪を靡かせながら青年に近づく。
「お疲れ様、光留」
「蝶子もな。そっちもってことは、蝶子の方も終わったんだな」
青年――光留は無傷の蝶子を見てホッとする。彼女が受けるはずの呪詛は全て彼女の守り人である自分に来る。
それを受け入れたのはもう五年も前の話で、蝶子と落神退治するのにも、守り人としての力を使うことにも慣れた。
「ええ。今日の落神、ちょっと強かったわね。その呪詛、浄化しちゃいましょう」
「あぁ、助かる」
蝶子は光留の腕を取り、祝詞を唱える。
「どうした?」
蝶子が腕を見ながら眉を顰める。
「これ、ちょっと根が深いわね」
先程光留達が対峙した化け物――落神という元は神だったモノが悪意と負の感情によって落ちた姿だ。放っておくと生きた人間を害するが、彼らは巫女姫や巫女と呼ばれる女性たちと、彼女らを守る守り人にしか祓えないという厄介なモノだった。
「とても小さいものだけど……」
落神の呪詛は元の神格が高ければ高いほど強い。先ほど二人が対峙した落神も、かつては多くの人の信仰を集めた神だったのだろう。
そういった落神の呪詛は、巫女姫と呼ばれるほど高い霊力を持つ蝶子でも浄化するのに少し時間がかかる。
光留は軽く腕を振ってみる。
「でも痛みは引いているし、気持ち悪さもない。そのうち自然浄化されるだろ」
呪詛を軽く見る光留に蝶子はジトっとした目を向ける。
「あんまり呪詛を甘く見ないほうがいいわよ。そういう小さなものほど大きな爆弾になりやすいの。でも、わたしもまたしばらく忙しくなるし……」
蝶子は巫女姫ではあるが、普段は歌劇団養成所の学生でもある。成績優秀で容姿も申し分なく卒業前から期待の新人として、大きな舞台に立つ機会も増えている。
「来月海外公演なんだろ。いいよ、今んところそんなに不便は無いし、自力で抑えられる」
楽観視する光留に不安を覚えるが、彼も守り人として成長している。蝶子ほど浄化に特化しているわけではないが、対処方法も知っている。蝶子が日本を離れるのは二カ月程度。その間なら何とかなるだろう。
「そうね。あなたもまた霊力が上がってるし、それくらい自力で対処できないと困るものね」
そういって自分を納得させる蝶子。
「そういうこと。ほら、明日早いんだろ、今日はもう帰ろうぜ」
「ええ。父様、お願いしていい?」
蝶子が呼び掛けると、蝶子の横に白面の長身の男の姿をした落神が現れる。白狐と呼ばれる彼は蝶子の庇護下にある落神で、彼女の前世では父親代わりをしていたことから、今生でも蝶子を守っている存在だ。
白狐は静かに頷くと転移で二人をそれぞれの家に送った。
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