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光留と花南
調査結果
しおりを挟む光留達が調べ物を始めて一時間が経つと、閉館の音楽が鳴り響いた。
「光留君」
「お疲れ様、花南。十五時……、もうそんな時間か」
光留が腕時計に目をやる。
「でも、蝶子ちゃんの公演、まだ終わってないよね」
「舞台は一公演二、三時間くらいの事多いからな」
とはいえ、閉館する公民館にいつまでも居座るわけにもいかない。
「光留君、お腹空いてない? ホテルでお昼取り損ねちゃったし」
「そう言えば……」
「ファミレスは無いけど、紅茶の美味しい喫茶店が近くにあるんだけど……」
その口ぶりから、花南がその店によく通っていたことがうかがえた。
「じゃあ、花南のおススメ教えてくれる?」
光留が笑いかけると、花南は嬉しそうに頷いた。
公民館から少し離れた場所に、その店はあった。
レトロな雰囲気の店内にはテーブル席が二つと、カウンター席が三つ。小ぢんまりとした落ち着いた空間だ。
カウンター席には男女が座っていて、楽しげに会話をしていた。
「いらっしゃいませ。あら、花南ちゃん」
迎えてくれたのは、少しふくよかな中年の女性だった。
「お久しぶりです。席空いてますか?」
「いつもの席?」
「はい。今日は、ふたりで来ました」
花南が光留を紹介する。
「あらぁ、花南ちゃんの彼氏さん? 羨ましいくらいのイケメンねえ」
「こんにちは」
「はい、こんにちは。じゃあ、花南ちゃん、いつものお席どうぞ」
「ありがとうございます」
花南は光留を連れて、慣れた様子で奥のテーブル席へと向かう。
「ここね、学校で辛いことがあったときによく来てたの」
「そっか……」
接客してくれた女性は、この店の主人の奥さんで、ひとりで訪れる花南をよく気にかけてくれていたのだという。
「ここのパスタ、すごくおいしいから、光留君と一緒に食べたくて……」
そう言って、少し照れたように笑う花南。
少しずつ自分のことを話してくれる彼女に、光留も嬉しくなる。
その心の奥に、自分が受け入れられているような気がして。
「花南のおススメなら間違いないね。楽しみだよ」
花南おすすめのクリームパスタと、季節のケーキを注文する。
料理が来るまでの間、ふたりは調べた内容を整理することにした。
「花南は何か気になったこととかある?」
「うん。光留くんが言ってた通り、うち――“宮島家”は神職の家系だったみたい。でも、昔みたいに霊感のある人が少なくなって、神社は別の人に譲ったって。さすがに凰鳴神社みたいに『巫女姫』とか『守り人』みたいな役職はなかったけど」
「それだけわかれば十分だよ。……となると、やっぱり花南には巫女の素質があるのかもな」
「そう?」
「うん。普通の人でも霊感を持つ人はいるけど、花南みたいに“霊力がないのに引き寄せやすい”っていうタイプは珍しい」
光留自身、潜在的な能力は高かったが、“視えていなかった頃”は霊の存在を身近に感じたことはほとんどなかった。
“月夜”が守ってくれていたからかもしれない。
「花南は、ご両親が神職とは関係ない仕事だったから、無関係だって思ってたかもしれないけど」
現代では、神職の家系図にこだわる人は少ない。
特に花南は女の子として育ち、いずれ嫁ぐことを想定されていたのなら、実家の家系図に興味を持たなかったのも自然なことだ。
「でも今は、その性質は俺が切っちゃったから、多分その神様とももう縁はないと思う」
花南が“引き寄せられていた”のは、神が彼女を呼んでいたからかもしれない。
けれど、花南は光留のものであり、他の神に譲る気など毛頭ない。
「そっか……」
「うん、ごめんね?」
光留は悪びれもせずに言う。
自分の神様との縁を切られても、花南は光留を責めたりしない。
むしろ、その表情には安堵さえ浮かんでいた。
「光留くんが謝ることじゃないよ。むしろ、切ってくれてありがとう」
そんなふうに微笑んでくれる花南が、光留は愛おしくてたまらない。
「俺の方も、あの神社のご神体が何かわかったよ」
「そうなの?」
「うん。あの神社にはいくつか神器が奉納されてたから、本体がどれか分かりにくかったけど、本体は“刀”だ」
「刀……。もしかして……」
花南は、ふと何かを思い出したように目を見開く。
「心当たり、ある?」
「多分……。上京して少し経ったころかな。お父さんが“刀がうちにある”って言ってて。銃刀法違反になる前に手放した方がいいって言ったんだけど、なんだかすごく興奮してて、あんまり聞いてもらえなかったんだよね」
ご神体に宿る魂が、いつから“落神”と化したのかはわからない。
けれど、その刀が宮島家に災厄をもたらしていたことは間違いない。
花南に被害が及びにくかったのは、鳳凰神の守護する町にいたこと、凰鳴神社のお守り、そして光留が個人的に渡した護符など、複数の“防壁”に守られていたからだ。
だけど一年前、凰鳴神社の結界が弱まり、花南が落神や悪霊に取り憑かれる事態になった。
蝶子も原因がわからないと言っていたが、その落神の仕業かもしれない。
花南の魂が喰われることで、自身の力を分け与えた人間の血肉を養分にして狂暴化した。
花南に憑いていた落神や悪霊は蝶子や光留によって浄化されたが、逃げ延びたそれらがこの町に戻り、再び力をつけようとして今に至るのだろう。
「そうか……。でも、これで確実に花南の実家に“核”があるってわかった。ありがとう、花南」
光留の役に立てたことが嬉しくて、花南はふっと息をつく。
そのとき、注文していた料理が運ばれてきた。
「はい、お待たせ。なんだか暗い顔してるけど……別れ話かい?」
「あ、いや違います! 俺たち、来年結婚するんです。でも、彼女のご両親とまだ話ができてなくて……」
「あら、そうなの? こんなイケメンのお婿さん連れてきたら、あたしだったら即OKしちゃうんだけどねぇ」
おどけた店主の奥さんに、ふたりは思わず吹き出す。
「ふふ、心配してくれてありがとうございます。でも、きっと大丈夫です。わたしが今まで友達もまともに作れなかったから、ちょっと驚いてるだけだと思います」
「俺も、納得してもらうまで説得するつもりなので」
「なら良かった。頑張りなさいよ。これはおばちゃんからのサービス」
ウインクしながら、彼女は紅茶とコーヒーをテーブルに置く。
「ありがとうございます」
その気遣いに、ふたりの心はじんわり温かくなった。
濃厚なクリームが絶妙に絡んだパスタは、甘すぎず辛すぎず、スパイスの加減も心地よい。
季節のデザートは、いちごと抹茶のシフォンケーキ。ふわふわの食感と生クリームのさっぱりとした甘みがたまらない。
美味しさと懐かしさからか、花南の表情は柔らかく、光留もいつまでも見ていたいと思う。
「あ、花南。クリーム付いてる」
「え?」
光留が花南の口元を見つめ、指先で口端のクリームを拭う。
そしてその指を、何気ない仕草で自分の口へ運ぶ。
「ん、甘い」
その仕草に、花南の心臓は一気に跳ね上がる。
「~~~~~っ、光留くんのバカ!」
「え? あ、なに? 俺、なんかした!?」
恥ずかしさで真っ赤になる花南と、理由が分からずうろたえる光留。
そのやり取りに、カウンター席の客が生温かい視線を送っていた。
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