Brave of soul ~運命の導きの章~

jisai

文字の大きさ
8 / 42

第8話 戦いが始まる

しおりを挟む
深琴たちはそれぞれ違う方向へ探しに向かった。みんなと別れたあと街外れの場所まで探しに来ていた深琴。

「こっちじゃないのかしら?」

ハマは街中の人通りが見通せる高い建物に来ていたが、そこから見える範囲には先ほどの者の姿は見当たらなかった。

「ちきしょ~こっちの方は違うみたいだ。」

その頃、ピロは仲間の元にきていた。

「アーマー!」

出かけていたはずのピロに不意に声をかけられたアーマーと呼ばれた男は振り向いた。昼間にもかかわらず酒とタバコのだらしのない雰囲気でピロに答える彼は、鍛え上げられた身体を惜しみなく晒し、赤い髪の毛は邪魔にならない程度に整えられている。腰にはなかなかの大剣を差してはいるがそれ以外の装備はあまり良さそうな物では無いようだ。背丈もしっかりあり、けっして悪い外見ではないのだが素行や雰囲気がその良さを掻き消してしまっているようだ。
 
「ん~おう! ピロちゃんじゃないか!そうかそうか! ようやく酒と女に興味が湧いたか!」

「アーマー! ハマが呼んで来いって、 あのな……」

ピロの腕を捕まえ自分の席の所まで連れてくるが、ピロに応援を要する事態を手短に説明された。

「はあ? なんでそげな金にもならんよーな事をおまえらはしよーと?……俺はそげん事、手伝わんばい! だいたいその盗まれた男が悪いっちゃろ?」

「いや……アーマー男じゃないよ、手伝うのは女の子だよ」

その言葉にピクっと反応したアーマーの態度が一変する。

「何? お・ん・な? 女や? ピロ!」

「う、うん……そうだよ」

体を揺さぶられながらなので上手く答えられないピロだった。
アーマーはその場に居た皆に協力を求めた。

「いいやみんな! 一人のか弱い女性を助ける為、力を貸してやるぞ!」

「え――― なんだよ」

その大声に周りにいた仲間が少しばかりの不満の声を上げるその反面、アーマーの行動には必ず面白い事が起きると思っている仲間は今度はどんなことが……そんな期待感をもたせるアーマーはどこか人を惹きつける魅力をもっていたのだろう。仲間を引き連れて捜索の手伝いをすることとなった。

「そぎゃんこつ言わんで手を貸せばいいったい! みんな準備するぜ~」

その頃、ヤンヤは街の中ではなく、近くの森に場所を変え捜索していた。

(相手がシーフなら、いつまでも街中にいると考えてもいられないからな……おっと!いた!)

彼の勘が当たり、その先には何人かの怪しい者が集まっていた。同じようなフードローブそれは悪い盗賊シャドウシーフの一団と思われる様相であった。

「あいつらか……よし」

ヤンヤは確認すると魔法の紙を取り出し、その紙に水を垂らすと紙は鳥の姿になって飛んで行った。

「これであいつらのアジトがわかれば取り戻せるな、ついでにやつらが他で盗んできた物も頂くけどな」

気付かれないようにそのシーフの一団を追跡するヤンヤ。
シーフの一団は街から離れると、森の中にある岩場の洞穴を利用して出来た隠しアジトに来ていた。

「あそこがアジトか……よし! あとは皆と合流してからだ」

一団のアジトを確認したヤンヤはその場を離れ合流場所に来ると、既に集まっていた仲間と取り返す算段を練ることになった。

「おう!ヤンヤ奴らの居場所はわかったのか?」

「ばっちし!」

その場で簡単ではあるが深琴と初めて会うハマのクラン(チーム)メンバーに挨拶をした。するとクランメンバーの一人であるアーマーが深琴に声をかけた。

「深琴っていうと? じゃぁ、琴って呼ばせてもらうばい」

アーマーが言うと改めて頭を下げる深琴だった。そしてヤンヤが地面に図を描き作戦をみんなに伝えはじめた。

「まず、ハマはピロとミーチャ、タックル、チョコと一緒に左側から隙を見てアジト内に入って荷物を捜索して」

「了解!」

名前を挙げられたメンバーのハマが代表で答えた。

「アーマーはディープとミワン、コレット、桔梗ききょうを連れて、正面からやつらを引きつけてくれ!」

「あいよ!」

アーマーも同じく答えた。
「俺はブラウンとシューター、モモ、ヒロサス、プッシュ、深琴ちゃんのメンバーで後ろから突く!」

その作戦どおりに配置に着こうとする皆に声をかけた。

「あとは各自用意してある武器と魔法具のチェックもしてくれ、よし! みんなよろしく頼むぜ!」

手早く段取りをするヤンヤに深琴が声をかけた。

「あの! ヤンヤさんハマさん、みなさんも……すみません私のせいでこんな事になってしまって」

「なに、大したことじゃないよ、みんな暇を持て余していたし、それにタダで引き受けた訳じゃないしね!」

「そうそう、悪い盗賊シャドウシーフのアジトともなれば、金になりそうな物もあるはずだし! その辺を考えた上で協力するんだから、気にしなくていいよ、深琴ちゃん」

ハマとヤンヤもみんなが同意して行動していることを深琴に伝えた。周りにいるメンバーも迷惑だと思っている表情には見てとれなかった。

「いいや! ちゃんとお礼してもらわんといかんね!」

「え?」

しかしアーマーが二人とは違った意見を聞こえるように言いだした。

「そりゃ皆は金目の物が手に入ればそれでいいかもしれんっちゃけど、俺はそれだけじゃ動かんばい!」

その言葉を聞いて深琴は彼が求めている物を聞いてみた。

「それでは、どうすればいいですか? 用意できる物であれば」

「そげんもんはいらん! 俺が欲しいのは……」

「欲しいのは?」

「こっーーーとーーとデ~トする!」

アーマーのその発言に頭を抱えた者、呆れた雰囲気で対処する者、いつものよくある事のように対応するクランメンバーたちだった。

「え?」

深琴はそんな要望が来るとは思ってもいなかったので、あぜんとなり固まるが、周りの仲間は『またか』と言った表情になっていた。

「あ~始まった……気にしないでね! 深琴ちゃん」

フォロー入れるヤンヤそしてハマも苦笑いしながら伝えた。

「アーマー 誰かれ構わず口説くのはやめとこ……深琴ちゃんアーマーは女と見る
と、この手の事ばっか言ってるんだ……気にしないでね」

ハマが付け加えるが、アーマーはその意見に反論した。

「なんばいいよ~と? 誰でも構わずって、俺もちゃんと選んど~と」

アーマーを引きずりながら配置に就こうとするハマ

「はいはい……アーマーお仕事お仕事!」

引きずられながらもアーマーは深琴に投げキッスをしながら引きずられる格好で配置場所に連れて行かれた。

「こっと~後でね~」

そして、皆が配置についたのを確認して合図を送るヤンヤ。

「よし! 今だ!」

その合図で最初にアーマーたちがシーフの見張りを斬り倒し、騒ぎを起こす――すると中からシーフの仲間たちがぞろぞろと出てきた。

「おら~さっさと俺たちにやられちゃいなさい!」

充分に引きつけて斬り合うアーマーらにシーフたちが出てきた所で、ハマのグループが隙を見てアジトの中に突入する。

「よし! 今だ! みんな行くぞ!」

ハマのかけ声でハマグループがアジトに入って行った。
その様子を確認したヤンヤたちが動きだす。

「んじゃ、俺たちもそろそろ行くよ!」

その言葉にヤンヤたちも剣を抜くと、後方からシーフに向かって斬りかかった!
すばやい動きのシーフたちも挟み撃ちに合い動揺し始める――徐々にではあるがシーフたちは押されていき、アーマーや他の仲間たちの動きもよく、完全にシーフたちを圧倒する働きだった。

「おらおら~こんなもんか!」

その時、一閃いっせんが仲間のブラウンの体を貫く!ブラウンは体から大量に血を流しながら、力なく倒れてしまった。

「う!――」

その出来事で仲間たちに衝撃が走り、味方である人が倒れる姿を見て深琴は呆然とした。

「え? なに」

「ブラ!」

アーマーは周りを警戒しながらも倒れた仲間の名前を呼ぶ。

「どこから?」

ヤンヤは仲間を倒した攻撃の基を探すと、森の中で光る物があることにきがつき、仲間たちも辺りを警戒したが、次の閃光でプッシュとモモが射抜かれて倒れてしまった。
その様子を見て仲間の中にさらに動揺が走った。

「うあ!」

「くそ! どこから?」

そして、次の閃光が森の中から深琴に向けられ発射された!

「え? きゃ!」

狙われたのを直感で感じ、目を閉じ身をかがめる深琴だったが、なぜか平気だった……目を開くと、そこに深琴を庇うようにヤンヤがいた。

「ぐっ!……」

ヤンヤは深琴を庇ったせいで相手の放った攻撃が右腕を貫くと鮮血が流れ落ちる……それを見た深琴の表情は青ざめた。

「ヤンヤさん!」

「ヤンヤ!」

アーマーも彼の名を叫ぶ!受けた傷は深手であるにも関わらず、ヤンヤは気丈に皆に声をかける。

「大丈夫だ……アーマー! 森の中に敵がいる! 頼めるか?」

右腕を抑えながら伝えると言葉を聞いたアーマーは森の中から狙ってくる敵めがけ、用意していた魔法弾を投げこんだ。

「わかった!……そこか」
 
魔法弾を喰らった敵は爆発で吹っ飛ぶと沈黙した。残りのシーフもほぼ片づけ、残りはすでに逃げ去っていったようだ。

「ヤンヤ!」

ヤンヤは仲間の声を聞きながら他の皆を気に掛けていた。駆け寄ったアーマーたちに声をかけるがアーマーはヤンヤの怪我が大きいのを直ぐにわかった様で手当てを促す。

「大丈夫だ、他のみんなを頼む」

「何言ってるん、お前だって重症ばい! 手当てせんと!」
深琴も我に返って、急いでヤンヤに声をかけた。

「ヤンヤさん……ごめんなさい! 私のせいで」

「これくらい、大丈夫だ……この程度の傷なら何とかなる」

答えるヤンヤだが、鮮血が傷の大きさを語っていた……そこにアジトから出てきたハマたちがやって来る。

「アーマー! ヤンヤ! 大丈夫か!」

「止血しなきゃ! 今、手当をします!」

深琴は今にも泣きそうな顔をしながらヤンヤの手当てに集中した。ハマは予想以上に仲間の被害が出たようすを把握して悲壮な表情になっていた。

「そんな……ブラウン! プッシュ! モモ……」

三人の亡骸を仲間が確認している。

「アーマー、他の被害は?」

「三人だけだ……くそっ!」

尋ねるハマの声は弱弱しいものだった。アーマーが悔しそうに言葉を吐きグッと強く拳を握りしめた。深琴はヤンヤの応急処置をしながら思っていた。

(こんなことになったのは私のせいだ、皆さんをこんなことに巻き込んだのは私の……)

その深琴の表情を見てヤンヤは深琴の気持ちを察し、自分が大怪我しているにも関わらず優しく話してくれた。

「深琴ちゃん……これは君のせいじゃないよ……俺たちが甘かっただけなんだから」

「私が盗まれなければ……私が、皆さんに頼らなければ……こんな事にならなかったんです」

今度はその言葉を聞いていたハマが話した。

「深琴ちゃん……俺達はそんなふうに思ってはいないよ……結果はどうあれ、俺たちなりに計算はして、この作戦を立てて参加したんだし」

「でも! こんな事になってしまったんですよ!」

泣きながら言う深琴にアーマーも答えた。

「琴――確かにお前の持ち込んだ件がきっかけになったかもしれない……けど作戦の参加、不参加を決めるのは各々おのおのだ。 今回の事は皆が招いた結果だ―― それがどんな結果であってもな……」

アーマーはハマの言葉に付け加え、深琴だけの責任じゃないと念を押す。そして仲間の遺体を一か所に集め、みんなで手を合わせた。

「一旦、街にもどろう――三人の事もあるし……このままにして置くのも可哀そうだ」

ハマが提案するとアーマーはヤンヤの右腕を見ながら答えた。

「そうだな、治療をしなきゃいけない奴もおるし、戻った方がよかったいね」

一行はイリノアの街に引き返す形になった――三人の仲間の亡骸とともに……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...