Brave of soul ~運命の導きの章~

jisai

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第8話 戦いが始まる

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深琴たちはそれぞれ違う方向へ探しに向かった。みんなと別れたあと街外れの場所まで探しに来ていた深琴。

「こっちじゃないのかしら?」

ハマは街中の人通りが見通せる高い建物に来ていたが、そこから見える範囲には先ほどの者の姿は見当たらなかった。

「ちきしょ~こっちの方は違うみたいだ。」

その頃、ピロは仲間の元にきていた。

「アーマー!」

出かけていたはずのピロに不意に声をかけられたアーマーと呼ばれた男は振り向いた。昼間にもかかわらず酒とタバコのだらしのない雰囲気でピロに答える彼は、鍛え上げられた身体を惜しみなく晒し、赤い髪の毛は邪魔にならない程度に整えられている。腰にはなかなかの大剣を差してはいるがそれ以外の装備はあまり良さそうな物では無いようだ。背丈もしっかりあり、けっして悪い外見ではないのだが素行や雰囲気がその良さを掻き消してしまっているようだ。
 
「ん~おう! ピロちゃんじゃないか!そうかそうか! ようやく酒と女に興味が湧いたか!」

「アーマー! ハマが呼んで来いって、 あのな……」

ピロの腕を捕まえ自分の席の所まで連れてくるが、ピロに応援を要する事態を手短に説明された。

「はあ? なんでそげな金にもならんよーな事をおまえらはしよーと?……俺はそげん事、手伝わんばい! だいたいその盗まれた男が悪いっちゃろ?」

「いや……アーマー男じゃないよ、手伝うのは女の子だよ」

その言葉にピクっと反応したアーマーの態度が一変する。

「何? お・ん・な? 女や? ピロ!」

「う、うん……そうだよ」

体を揺さぶられながらなので上手く答えられないピロだった。
アーマーはその場に居た皆に協力を求めた。

「いいやみんな! 一人のか弱い女性を助ける為、力を貸してやるぞ!」

「え――― なんだよ」

その大声に周りにいた仲間が少しばかりの不満の声を上げるその反面、アーマーの行動には必ず面白い事が起きると思っている仲間は今度はどんなことが……そんな期待感をもたせるアーマーはどこか人を惹きつける魅力をもっていたのだろう。仲間を引き連れて捜索の手伝いをすることとなった。

「そぎゃんこつ言わんで手を貸せばいいったい! みんな準備するぜ~」

その頃、ヤンヤは街の中ではなく、近くの森に場所を変え捜索していた。

(相手がシーフなら、いつまでも街中にいると考えてもいられないからな……おっと!いた!)

彼の勘が当たり、その先には何人かの怪しい者が集まっていた。同じようなフードローブそれは悪い盗賊シャドウシーフの一団と思われる様相であった。

「あいつらか……よし」

ヤンヤは確認すると魔法の紙を取り出し、その紙に水を垂らすと紙は鳥の姿になって飛んで行った。

「これであいつらのアジトがわかれば取り戻せるな、ついでにやつらが他で盗んできた物も頂くけどな」

気付かれないようにそのシーフの一団を追跡するヤンヤ。
シーフの一団は街から離れると、森の中にある岩場の洞穴を利用して出来た隠しアジトに来ていた。

「あそこがアジトか……よし! あとは皆と合流してからだ」

一団のアジトを確認したヤンヤはその場を離れ合流場所に来ると、既に集まっていた仲間と取り返す算段を練ることになった。

「おう!ヤンヤ奴らの居場所はわかったのか?」

「ばっちし!」

その場で簡単ではあるが深琴と初めて会うハマのクラン(チーム)メンバーに挨拶をした。するとクランメンバーの一人であるアーマーが深琴に声をかけた。

「深琴っていうと? じゃぁ、琴って呼ばせてもらうばい」

アーマーが言うと改めて頭を下げる深琴だった。そしてヤンヤが地面に図を描き作戦をみんなに伝えはじめた。

「まず、ハマはピロとミーチャ、タックル、チョコと一緒に左側から隙を見てアジト内に入って荷物を捜索して」

「了解!」

名前を挙げられたメンバーのハマが代表で答えた。

「アーマーはディープとミワン、コレット、桔梗ききょうを連れて、正面からやつらを引きつけてくれ!」

「あいよ!」

アーマーも同じく答えた。
「俺はブラウンとシューター、モモ、ヒロサス、プッシュ、深琴ちゃんのメンバーで後ろから突く!」

その作戦どおりに配置に着こうとする皆に声をかけた。

「あとは各自用意してある武器と魔法具のチェックもしてくれ、よし! みんなよろしく頼むぜ!」

手早く段取りをするヤンヤに深琴が声をかけた。

「あの! ヤンヤさんハマさん、みなさんも……すみません私のせいでこんな事になってしまって」

「なに、大したことじゃないよ、みんな暇を持て余していたし、それにタダで引き受けた訳じゃないしね!」

「そうそう、悪い盗賊シャドウシーフのアジトともなれば、金になりそうな物もあるはずだし! その辺を考えた上で協力するんだから、気にしなくていいよ、深琴ちゃん」

ハマとヤンヤもみんなが同意して行動していることを深琴に伝えた。周りにいるメンバーも迷惑だと思っている表情には見てとれなかった。

「いいや! ちゃんとお礼してもらわんといかんね!」

「え?」

しかしアーマーが二人とは違った意見を聞こえるように言いだした。

「そりゃ皆は金目の物が手に入ればそれでいいかもしれんっちゃけど、俺はそれだけじゃ動かんばい!」

その言葉を聞いて深琴は彼が求めている物を聞いてみた。

「それでは、どうすればいいですか? 用意できる物であれば」

「そげんもんはいらん! 俺が欲しいのは……」

「欲しいのは?」

「こっーーーとーーとデ~トする!」

アーマーのその発言に頭を抱えた者、呆れた雰囲気で対処する者、いつものよくある事のように対応するクランメンバーたちだった。

「え?」

深琴はそんな要望が来るとは思ってもいなかったので、あぜんとなり固まるが、周りの仲間は『またか』と言った表情になっていた。

「あ~始まった……気にしないでね! 深琴ちゃん」

フォロー入れるヤンヤそしてハマも苦笑いしながら伝えた。

「アーマー 誰かれ構わず口説くのはやめとこ……深琴ちゃんアーマーは女と見る
と、この手の事ばっか言ってるんだ……気にしないでね」

ハマが付け加えるが、アーマーはその意見に反論した。

「なんばいいよ~と? 誰でも構わずって、俺もちゃんと選んど~と」

アーマーを引きずりながら配置に就こうとするハマ

「はいはい……アーマーお仕事お仕事!」

引きずられながらもアーマーは深琴に投げキッスをしながら引きずられる格好で配置場所に連れて行かれた。

「こっと~後でね~」

そして、皆が配置についたのを確認して合図を送るヤンヤ。

「よし! 今だ!」

その合図で最初にアーマーたちがシーフの見張りを斬り倒し、騒ぎを起こす――すると中からシーフの仲間たちがぞろぞろと出てきた。

「おら~さっさと俺たちにやられちゃいなさい!」

充分に引きつけて斬り合うアーマーらにシーフたちが出てきた所で、ハマのグループが隙を見てアジトの中に突入する。

「よし! 今だ! みんな行くぞ!」

ハマのかけ声でハマグループがアジトに入って行った。
その様子を確認したヤンヤたちが動きだす。

「んじゃ、俺たちもそろそろ行くよ!」

その言葉にヤンヤたちも剣を抜くと、後方からシーフに向かって斬りかかった!
すばやい動きのシーフたちも挟み撃ちに合い動揺し始める――徐々にではあるがシーフたちは押されていき、アーマーや他の仲間たちの動きもよく、完全にシーフたちを圧倒する働きだった。

「おらおら~こんなもんか!」

その時、一閃いっせんが仲間のブラウンの体を貫く!ブラウンは体から大量に血を流しながら、力なく倒れてしまった。

「う!――」

その出来事で仲間たちに衝撃が走り、味方である人が倒れる姿を見て深琴は呆然とした。

「え? なに」

「ブラ!」

アーマーは周りを警戒しながらも倒れた仲間の名前を呼ぶ。

「どこから?」

ヤンヤは仲間を倒した攻撃の基を探すと、森の中で光る物があることにきがつき、仲間たちも辺りを警戒したが、次の閃光でプッシュとモモが射抜かれて倒れてしまった。
その様子を見て仲間の中にさらに動揺が走った。

「うあ!」

「くそ! どこから?」

そして、次の閃光が森の中から深琴に向けられ発射された!

「え? きゃ!」

狙われたのを直感で感じ、目を閉じ身をかがめる深琴だったが、なぜか平気だった……目を開くと、そこに深琴を庇うようにヤンヤがいた。

「ぐっ!……」

ヤンヤは深琴を庇ったせいで相手の放った攻撃が右腕を貫くと鮮血が流れ落ちる……それを見た深琴の表情は青ざめた。

「ヤンヤさん!」

「ヤンヤ!」

アーマーも彼の名を叫ぶ!受けた傷は深手であるにも関わらず、ヤンヤは気丈に皆に声をかける。

「大丈夫だ……アーマー! 森の中に敵がいる! 頼めるか?」

右腕を抑えながら伝えると言葉を聞いたアーマーは森の中から狙ってくる敵めがけ、用意していた魔法弾を投げこんだ。

「わかった!……そこか」
 
魔法弾を喰らった敵は爆発で吹っ飛ぶと沈黙した。残りのシーフもほぼ片づけ、残りはすでに逃げ去っていったようだ。

「ヤンヤ!」

ヤンヤは仲間の声を聞きながら他の皆を気に掛けていた。駆け寄ったアーマーたちに声をかけるがアーマーはヤンヤの怪我が大きいのを直ぐにわかった様で手当てを促す。

「大丈夫だ、他のみんなを頼む」

「何言ってるん、お前だって重症ばい! 手当てせんと!」
深琴も我に返って、急いでヤンヤに声をかけた。

「ヤンヤさん……ごめんなさい! 私のせいで」

「これくらい、大丈夫だ……この程度の傷なら何とかなる」

答えるヤンヤだが、鮮血が傷の大きさを語っていた……そこにアジトから出てきたハマたちがやって来る。

「アーマー! ヤンヤ! 大丈夫か!」

「止血しなきゃ! 今、手当をします!」

深琴は今にも泣きそうな顔をしながらヤンヤの手当てに集中した。ハマは予想以上に仲間の被害が出たようすを把握して悲壮な表情になっていた。

「そんな……ブラウン! プッシュ! モモ……」

三人の亡骸を仲間が確認している。

「アーマー、他の被害は?」

「三人だけだ……くそっ!」

尋ねるハマの声は弱弱しいものだった。アーマーが悔しそうに言葉を吐きグッと強く拳を握りしめた。深琴はヤンヤの応急処置をしながら思っていた。

(こんなことになったのは私のせいだ、皆さんをこんなことに巻き込んだのは私の……)

その深琴の表情を見てヤンヤは深琴の気持ちを察し、自分が大怪我しているにも関わらず優しく話してくれた。

「深琴ちゃん……これは君のせいじゃないよ……俺たちが甘かっただけなんだから」

「私が盗まれなければ……私が、皆さんに頼らなければ……こんな事にならなかったんです」

今度はその言葉を聞いていたハマが話した。

「深琴ちゃん……俺達はそんなふうに思ってはいないよ……結果はどうあれ、俺たちなりに計算はして、この作戦を立てて参加したんだし」

「でも! こんな事になってしまったんですよ!」

泣きながら言う深琴にアーマーも答えた。

「琴――確かにお前の持ち込んだ件がきっかけになったかもしれない……けど作戦の参加、不参加を決めるのは各々おのおのだ。 今回の事は皆が招いた結果だ―― それがどんな結果であってもな……」

アーマーはハマの言葉に付け加え、深琴だけの責任じゃないと念を押す。そして仲間の遺体を一か所に集め、みんなで手を合わせた。

「一旦、街にもどろう――三人の事もあるし……このままにして置くのも可哀そうだ」

ハマが提案するとアーマーはヤンヤの右腕を見ながら答えた。

「そうだな、治療をしなきゃいけない奴もおるし、戻った方がよかったいね」

一行はイリノアの街に引き返す形になった――三人の仲間の亡骸とともに……
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