Brave of soul ~運命の導きの章~

jisai

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第13話 勧誘

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 オルトは店主におさえてもらった妹の泊った宿屋の部屋に来ていた。部屋の中はちゃんと片づけられており、次の客が使用できるようになっていた。

「この部屋に何か」

 オルトは部屋を見渡すと何か手がかりが残ってないのかを探す。

 すると、向かった場所の手がかりでは無かったが、ここにいたもう一人の知っている人物の痕跡があった。

「ん? これは?」

 部屋の鏡台の所にある椅子の背もたれに何かが刻まれていた。

「ここに来ていたのか! それならば、なぜ私にここでの出来事を伝えなかったのだ」

 そしてもう一つは、深琴がこの部屋で自分の預けた手紙に触れ、魔力が反応した感じが、テーブルの上に、ほのかに残っていてそれを触るように確かめた。

「深琴……中身を見たのか?」

 そう言うと、オルトは椅子に腰を下ろし考えはじめた。

(もし中身を見たとしても内容は分からないはず……しかしこの感じだと、深琴に魔力が反応したという事か)

 心の中で推察していると部屋のドアを叩く音がした――それは店主であった。

「旦那! いいですかい?」

「どうした? 何か用か?」

「はい……実は……」

 店主が話しだすとオルトは一瞬、険しい表情になった!

「なに?! 近衛兵このえへいが来る?」

「はい……先日、旦那が壊したこの街の宝物庫に関して修繕隊と一緒に調べに来るらしいんですよ」

「そうか……兵がくるか……しかし近衛このえが来るほどの事だとも思えないがな」

「ええ、普通なら来ても周辺守備隊の兵が来る程度なんですが……今回はどういう訳か、中央の近衛兵が来るんで、旦那にいて頂いた方がいいと思いまして」

「そうか、破壊したのは私だ……仕方がない。一応向こうには連絡はしておいたんだがな……」

 オルトの返事を聞いて、店主は伝えて部屋をでていった。

(何かが起こっているのか? ウォーセンで?)

 オルトの周りでもいくつかの事が重なり動き始めていた……


 深琴たち一行はイリノアの街を出てから二週間以上かけて、大都市ラスグーンにようやく辿たどりついた。

 到着するとアーマーたちは宿の手配を早々に済ませ、荷物などの整理をすると情報収集に早速、うごきはじめた。

 ハマとヒロサス、ディープの三人はクラン大会の出場受付所に向かい、アーマーたちは追いかけているシーフたちが立ち寄りそうな場所を手分けして情報を集めていた。

「結構人数いますね、今回の大会参加者」

 ヒロサスが大会参加者の受付掲示板を見ながら言う。ハマもその掲示板を見て呟く。

「うん、これだけいれば何人か入ってくれるかもしれないね」

 少し安堵感をもって掲示板を見ていた。しかしディープが口を滑らしハマの不安を煽ってしまう。

「でも、単独枠の出場者は少ないよね……団体枠出場の方が多いし、見つかるかな」

「ディープ君……それは」

 その言葉にハマが少し弱腰の考えがよぎってしまう……弱気な雰囲気になってしまったのでヒロサスがフォローを入れた。

「クラン大会は団体戦に関して言えば、大会賞金目的の即席クランも多いでしょうし、

 単独枠のクラン大会出場者は自分のクランに不満をもっている人が多いって聞きますから、

 希望はありますよ! この辺で大会出場者が集まりそうな場所に移動してみましょう! 何か見つける方法が見つかるかも知れませんし」

 三人はその場を移動していった……その姿を物陰から様子をみる黒い影がある事に気づくことはないままに。

 その頃アーマーと行動を共にする深琴、ミワン、ピロの四人はラスグーンで一番大きな商店にやって来ていた。店の中はごった返し さすが人気店といった賑わいだった。

「さて、とりあえずこの店から探りを入れてみるばい」

 中の賑わいを見ながらようすを見るミワンと深琴、アーマーも店の中に入って行く。

 すこし離れた場所にいるピロ。アーマーが早速情報を集めている間に深琴とミワンは周りを見渡しシーフらしき人物が居ないかを確認する。そしてピロは出入り口を見ながら怪しい人物がいないかを確認していた。

「ちょっと聞きたことがあるっちゃけど……」

 アーマーは知らない人にも臆する事もなく声をかけていた。

「深琴ちゃんどう?」

「特に怪しい人はいなさそうですね…… そう言えばハマさんたちはクラン大会でしたっけ? その会場に行ってるんでしたよね?」

 ミワンと深琴は二人で店を見渡していた。興味はあったが知識のなかったクラン大会の概要を深琴は回りに注意しながらミワンに聞いてみた。

「わたし、何にもしらないんで教えてほしいんですけど、クラン大会ってなんですか?」

「そうか、深琴ちゃんはクラン入ったばっかりでそう言うの分からないものね……クラン大会ってね簡単に言えば出場して賞金を稼いだり、知名度を上げるのよ」

「賞金と知名度ですか?」

「そう、大会にもいろいろな種類があるんだけど今回の大会は団体戦と単独戦の二つがあるみたいね。内容は団体戦の場合だと、五対五から十対十など、人数によってクラス分けされているわ、単独戦はクランに所属している人が対象なんだけど一対一で対戦して賞金を狙っていく感じかな。一人で戦うしクランの代表者的な意味もあるから強い人が出ていることが多いわね」

「へ~クラン大会ってそういうのをいうんですか」

「今回の大会はね、他にも運営公式大会のほかにや非公式、完全に危ない奴らしか出場しない裏大会とかいった大会もあるのよ」

「裏大会……いろんな大会があるんですね」

「そうね、クラン自体のイメージが対人戦に特化した――もっと言えば傭兵や用心棒などの仕事も多く回ってくるから、大会に出場して上位に入れば賞金だけでなく知名度も上がるから仕事も入りやすいしメンバー補充が楽になって行動もしやすくなる感じかな。私たちのクランはあまりそういう大会とは縁がないから、出場したことは無いんだけどね」

 そんな話をしながらミワンと深琴が店の中を注意深く見渡していると、ピロは一人で何者かを注視していた。ピロが見た先には黒ずくめの怪しい男の姿があり、ちょうどその男は店から出ていこうとするところだった。ピロは直感が働きその男を追って店をでた。

(あれは?もしかして……)

「? ピロさん」

 それに気づいた深琴もピロを追うようについ、店から出て行った。

 シーフらしき怪しい男は店を出ると人ごみの中を歩く、それを追うようにピロが後を追った。そしてそのピロを深琴が見失わないようにさらに追っていく。ピロは元々アサシン系のクランに属していたことから追尾や隠密行動は得意分野の一つだった。彼の装備は最小限に必要な物だけを装備している。服、靴、手袋、そしてダガーと実用的で無駄を感じさせなかった。背もそれほどなく目立たない。身体はぜい肉を一切ないほど細見であった。普段その目は鋭さを隠しているのだが、今の眼光は狙った獲物を捕らえたように逃がさない鋭さをもっていた。

 ピロはその男の後ろ姿にイリノアの街で見た黒ずくめの男と同じ服だと気が付いていた。それは黒ずくめの服の後ろに一か所焦げた跡がある服だと記憶していたので、その同じ焦げ跡を見たことで確信出来た。後を付けていた男がとある場所に入って行く……そこは、かなり大きな壁で隔たれた場所だった。

「ここか……」

 ピロはひとり呟いて、辺りの様子を確認しようと後ろを振り返ると、自分の真後ろに、そこにいるはずのない深琴がまったく気配を感じさせないまま立っていて、驚きのあまり思わず仰け反ってしまった。

「うわッ!」

「どうも」

 ピロに気づかれて会釈する深琴は愛嬌を振りまいた。

「何やってんだ!」

「え? ピロさんが何かを見つけたのかと思って付いてきました。」

 顔を手で軽く覆うピロに対して深琴はキョトンとした表情で立っている。

「あのな……お前が一人付いて来たってしょうがないんだよ! みんなを呼びに行かないと無理だ」

「そうですね~それじゃ私が見張ってますから、ピロさんが皆さんを呼んできてもらえますか?」

 深琴の言葉が気にさわったピロ。

「なんで俺が! お前の方が呼びに行けばいいだろ!」

「そうなんですけど……私、道がわからなくなってしまって」

「おまえな~……わかった――みんなを連れて来るから、俺が呼びに行っている間はここで様子を伺っていろ!」

 苛立ちを隠すことなく深琴に言い、その場からみんなを呼びに行くピロ。

 その様子を見ている深琴は、にこやかに返事をした。

「はい」

 ピロが離れて行くのを確認すると、深琴は軽く深呼吸をし、真剣な表情に変わった。

(ごめんなさい……)

 深琴の脳裏に前の戦いの記憶が思い出されてしまう。そう想うと深琴は一人、シーフと思われる者の入って行った壁に隔たれたこの場所に入り込もうと決心する。

(やっぱり私……これ以上みなさんに迷惑をかけられないです……)

 そして一人、壁の向こうに忍び込んで行くのだった。
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