17 / 42
第17話 救出
しおりを挟む
一方、シーフの街に侵入した“聖夜”メンバーは、深琴がそんなことになっているとは知らずに探していた。三組に分かれて別々の場所を探していたが、アーマーとミワン、ハマとピロの二組は先ほど見えた大きな光が気になり起きた方向に向かっていた。
「なんだったんだ? さっきの光は?」
先ほどの光が気になったハマは急いで向かっていた。
「アーマー! 何の光だったのかしら?」
ミワンがアーマーに言うと、アーマーも同じように気になっていた。
「ああ、あの光は……何かあったんか?」
二人が光った場所の方に向かっている途中で、偶然にもディープとヒロサスに出くわし、合流する形となった。
「アマさん」
「ミワンさん」
「ディープこっち来てたっちゃか?」
「どうしたんですか? 二人とも慌てて」
「お前らは見んかったっちゃか? あの光を?」
「あの光?」
合流しながらディープとヒロサスの二人に先ほど見えていた光の事をミワンが説明した。
「そんな光、僕たちは確認できなかったですよ?」
「とにかくその方向に行って見るっちゃ!」
「そうですね、深琴さんの行方も何か解るかも知れませんし」
アーマーたち四人が光の見えた方へ移動していると、自然と目的地を同じとするハマとピロとも合流することになった。
「ハマ! 気づいたっちゃか?」
「ああ!……あの光なんだったか確かめたくて」
こうして三組に分かれたはずの六人は先ほどの光の発生源を探しに再び行動を共にすることとなった。
その頃、深琴とレバンナは縄で縛られて独房のある場所に連れて行かれていた。レバンナは連れて行かれる最中にシーフの一人に尋ねた。
「マスターシーフはいつ帰ってくるんだ?」
「七日後には戻ってくると聞いていますが」
「そうか」
会話を聞いていた深琴はレバンナに聞いた。
「ねえ、マスターシーフってここのギルドマスターの事?」
「そうだよ……今はシーフを世間からの有りようを変える為に、あっちこっち飛び回って協力をもらっている所だって聞いてる」
「協力?」
レバンナはマスターシーフのやっていることを深琴に説明し始めた。
「元々シーフって稼業は世間的にあまり褒められた仕事ではないように見られてるよな……だから世間的にもシーフ側的にも、お互いを上手く理解しあえる様に根回ししてるのさ」
「ん~よくわからないのだけど」
「要はシーフと言う仕事が世間から疎まれないように『ちゃんとした仕事』だと、
他の稼業や領主、最終的には国に認めさせるって事だよ」
「え? でもギルドでちゃんとした形は取れているんでしょ?」
二人を連行しているシーフが、その会話がもどかしくて口添えした。
「それは、そのギルドが力を持っていれば何とかなるって事です。力のないギルドだと、ただの盗人や盗賊の類と同じに見られていたんですよ……しかも扱い方もひどいです…それを嘆いた我々のマスターシーフのアラン様が、シーフの地位向上の為にいろいろ考えて行動してくださってくれているのです」
「へ~そうなんだ! ここのマスターはすごい事をやろうとしているのね」
その深琴の言葉を聞いたレバンナは、マスターシーフについてさらに語った。
「そうだ、シーフと言っても俺達だって普通に暮らしているし、何かあればいろんな事にも協力して来た。なのに俺達は他の稼業に比べると全く日陰で陰湿な印象で扱われてきたんだ」
「そんな悲惨な状態から救って、地位向上を掲げて動いてくれているアラン様は私たちにとって大事な存在で、希望でもあるんです」
レバンナたちの話を聞いて歩いていると、あっという間に独房まで着いてしまった。二人は別々の独房に入れられ、二人を連行してきたシーフがレバンナに小さな声で語りかける。
「しばらくの辛抱ですアラン様が帰って来て、理由を聞けば解放されますから」
「わかってる」
言葉少なくレバンナは返した。深琴はレバンナの隣にある独房に入れられ、案内したシーフは去り際に用事があれば呼んで下さいと伝えてその場を去っていった。
ここまでのレバンナの対応に違和感を感じた深琴は聞いてみた。
「ねえレバンナ……シーフの中でこういう事ってよくあるの?」
「ん? 独房に入るような事か?」
「ええ……なんか慣れた感じだったし……緊張感というか、不安な感じがレバンナからしないから、もしかしてよくあるのかな~って」
それを聞いてレバンナは素直に答えていた。
「まあ、子供の頃はギルドに迷惑な事も結構して謹慎もあったかな……まあオヤジの対面もあるし、しめしがつかないと不味いから、ちゃんとする様になったつもりだけどな~」
そのレバンナの言葉を聞いて深琴はさらに疑問を抱いた。
「レバンナのお父さんって……このシーフギルドで偉い人なの?」
「親父はここのマスターシーフだな」
一瞬にして深琴の思考回路が止まったのだろう表情にもそれが見てとれた。
「え? いま……マスターシーフって言った? あなたのお父さんが?」
「そうだけど……なにか変か?」
レバンナは当たり前のように深琴の質問に答えたが、その答えは彼女にとってはかなりの衝撃であったようだ。
「ちょ!……だってマスターシーフの息子ならなんで独房なんかに入るのよ! 普通もっと権限とか威厳とかなんかこう、優遇されてるっていうか――」
「親父はそういう事はしない主義なんだよ……まあ、俺もそういうの嫌いだしな……みんなと公平に扱ってもらわないと、なんかこっちが具合悪いんだよな」
自分と父親の考え方を伝えたレバンナだが、深琴は隣の独房で大きな声で騒いでいる。
「レバンナ! 何とか言ってここ出してもらってよ! あなた偉いんでしょ! マスターの息子でしょ! 早くこんな所から出してよ~」
「はいはい……来週にはマスターが帰って来るらしいから、それまでゆっくりしてな」
「こんな所でゆっくりも何もないよ~嫌だよ~出してよ~お風呂入りたいよ~」
隣の独房の中で横になって話を聞き流しているレバンナのことなど露知らず、深琴は諦めきれずに鉄格子越しに喚いて駄々をこねていると、そこに誰かの足音が近づいて来た。その音はレバンナの房の前で止まり、そして一人の男の声が独房の中に響き渡った。
「レバンナさん……どうですか? ここの居心地は?」
それは先程のジャミスであった。ジャミスは鉄格子越しにレバンナを見ながらそう話しかけると、うっすらと笑った。
「今回の件はあなたに感謝しなくてはいけませんね」
「なに?」
レバンナは彼が何を言うのかを見極めようと、ジャミスの発言に注意を向ける。
「あなたとマスターアランをどうやって失脚させようか思案していたので助かりましたよ」
「どういう意味だ、ジャミス」
「そういう意味ですよ……私はマスターアランのやり方は好きではないのです。わざわざシーフ業を世間に認めさせると困るシーフ達もいるんですよ」
「お前はマスターのやろうとしている事の本当の意味がわかってないんだな」
薄ら笑いを浮かべていたジャミスの片側の眉が上がり、レバンナの言葉に反論する。
「ええ解りかねます……それに、そうしないでいいと言う方々が他にいるのです……わたしは、その方々と意見が合うのですよ」
レバンナはジャミスに自分たちの考えを理解してもらえない事がわかり、少し暗い面持ちで問う。
「それでお前は、俺とマスターをどうしたいんだ?」
その反応にジャミスはここぞとばかりに上から目線で言い放つ。
「そうですね~私はただ、このギルドから居なくなってくれれば良かったと思ってたんですけどね~他のシーフギルドにもマスターアランの行動が気に入らないって苦情が来まして……その人たちと相談して決めたことがあるんですよ……マスターアランには亡くなってもらう――もちろん、今回の件が無ければ、あなたも死なずに済んだのかも知れませんがね……私たちの大切な宝を窃盗しようとしたことと、不審者の侵入を手伝ったことが罪状にできましたし、ついでではありますが、あなたにも死んでもらう事にしました」
「そうか……何か企んでいると思ってたが、そういう事か、噂に聞いていたが、悪い盗賊に属するという事か……」
ジャミスの考えを見透かしたように表情を変えないレバンナに片側の眉を上げてジャミスは更に言った。
「おや、知っていたんですか? 私の計画を……それはなかなかに凄い洞察力ですよ――ですがあなたは今や囚われの身、弁明も釈明も何もすることができないのですよ」
レバンナは背を向け特に反応も示さずに聞いていた。
ジャミスはそんなレバンナの態度が気にいらなかった。今の状況はジャミスにとって生まれて初めてレバンナより有利な立場だというのに、レバンナが焦る素振りも見せないことがジャミスにとって苛立たせた。ジャミスは独房の鉄格子を叩いてまくしたてる。
「いいですか! あなたも、マスターアランもあと数日の命なんですよ! 命尽きるまでせいぜいここで自分のしたことを悔いていなさい!」
ジャミスの発言を聞いていた深琴が口を挟んだ。
「あの~その話の中に私は関係ないので……私は釈放って事でいいんですよね?」
深琴が柄にもなく、好意を持てない相手に愛想笑いと手もみしながら聞いてみると、ジャミスは興味を示すことなくあっさりと応えた。
「ん? あなたは、我々の物を盗もうとしたんですから当然処刑ですよ」
それを聞いた深琴は食い下がろうとジャミスに言う。
「え~なんで~私は関係ないし~それぐらいの事で処刑されるなんてありえないよ~何も取ってないんだし~」
ふてくされた様に言うがジャミスは感情に変化もなく淡々と言った。
「どちらにしろ今の会話を聞いてしまいましたからね~あなたもレバンナと一緒に処刑という事ですよ……それでは、またその日にお会いしましょうレバンナ」
ジャミスは独房を後にする。その出て行く姿に深琴は叫びながら訴え続けた。
「ちょっと~そんな事言わないで~考え直して~何でもするから~」
ジャミスは深琴の言葉に構わず去っていった。彼が居なくなったのを確認して深琴が言う。
「やっぱりダメだったわ。わたし色気ないしな~もっと情報引きだしたかったんだけど……あのジャミスって人、見向きもしなかった。レバンナもあの人相手にいろいろと大変なんだね」
「ジャミスが何か企んでいたのは分かっていたんだ……ただそれがあいつ一人の事なのか、他にどのぐらい協力者がいるのかが分からなかったんだけどな……まさか悪い盗賊と手を組むなんてな」
「その悪い盗賊ってどんな人たち?」
「簡単に言えばなんでもやる集団さ、シーフにもいろいろいるみたいで俺達の目指すシーフは義を持った盗賊、つまり義賊という言い方をする。それとは反対に金や利益になることだったら何でもするのが悪い盗賊ってことさ」
「目指す物が違うってこと?」
「いや、奴らにはポリシーやプライドなんてものは存在しないさ、自分たちが良ければ他のことなんかどうでもいいと思っているような集団……だから仲間も簡単に裏切るし、不利だと知ればすぐに陣営を乗り換えることもしょっちゅうある」
「欲望の赴くままに――って感じかしら」
「ああ……シーフと言っても人だ――人である以上は誰かしらに出会い、知り合って助けたり助けられることがあるはず。それを自己本位に動いてしまえば必ず歪が生まれ、その生まれた歪は、人と人を悪い関係にする。 だから人間社会には法律という規則を持たせ人との関わり合いを円滑にしている」
「レバンナって凄いわね、そんなことを理解しているなんて」
「ごめん、これは俺の考えじゃないよ、親父の受け売りだ……ただ俺にもわかっていることはシーフにもルールがあるってことだ。それを反故してしまえば俺達は社会の嫌われ者の集団になるしかない」
ちょっと立派に聞こえた言葉はレバンナに対する深琴の中のイメージを変えていた。深琴はレバンナが考えているであろうこれからについても聞いてみた。
「それじゃ~このまま黙っているわけではないのね?」
「ああ……ただ、まだ動けないから暫くはここで大人しくしててくれないか」
「しょうがないな~レバンナのタイミングまで待つわ……こんな所は嫌なんだけどね」
「なんだったんだ? さっきの光は?」
先ほどの光が気になったハマは急いで向かっていた。
「アーマー! 何の光だったのかしら?」
ミワンがアーマーに言うと、アーマーも同じように気になっていた。
「ああ、あの光は……何かあったんか?」
二人が光った場所の方に向かっている途中で、偶然にもディープとヒロサスに出くわし、合流する形となった。
「アマさん」
「ミワンさん」
「ディープこっち来てたっちゃか?」
「どうしたんですか? 二人とも慌てて」
「お前らは見んかったっちゃか? あの光を?」
「あの光?」
合流しながらディープとヒロサスの二人に先ほど見えていた光の事をミワンが説明した。
「そんな光、僕たちは確認できなかったですよ?」
「とにかくその方向に行って見るっちゃ!」
「そうですね、深琴さんの行方も何か解るかも知れませんし」
アーマーたち四人が光の見えた方へ移動していると、自然と目的地を同じとするハマとピロとも合流することになった。
「ハマ! 気づいたっちゃか?」
「ああ!……あの光なんだったか確かめたくて」
こうして三組に分かれたはずの六人は先ほどの光の発生源を探しに再び行動を共にすることとなった。
その頃、深琴とレバンナは縄で縛られて独房のある場所に連れて行かれていた。レバンナは連れて行かれる最中にシーフの一人に尋ねた。
「マスターシーフはいつ帰ってくるんだ?」
「七日後には戻ってくると聞いていますが」
「そうか」
会話を聞いていた深琴はレバンナに聞いた。
「ねえ、マスターシーフってここのギルドマスターの事?」
「そうだよ……今はシーフを世間からの有りようを変える為に、あっちこっち飛び回って協力をもらっている所だって聞いてる」
「協力?」
レバンナはマスターシーフのやっていることを深琴に説明し始めた。
「元々シーフって稼業は世間的にあまり褒められた仕事ではないように見られてるよな……だから世間的にもシーフ側的にも、お互いを上手く理解しあえる様に根回ししてるのさ」
「ん~よくわからないのだけど」
「要はシーフと言う仕事が世間から疎まれないように『ちゃんとした仕事』だと、
他の稼業や領主、最終的には国に認めさせるって事だよ」
「え? でもギルドでちゃんとした形は取れているんでしょ?」
二人を連行しているシーフが、その会話がもどかしくて口添えした。
「それは、そのギルドが力を持っていれば何とかなるって事です。力のないギルドだと、ただの盗人や盗賊の類と同じに見られていたんですよ……しかも扱い方もひどいです…それを嘆いた我々のマスターシーフのアラン様が、シーフの地位向上の為にいろいろ考えて行動してくださってくれているのです」
「へ~そうなんだ! ここのマスターはすごい事をやろうとしているのね」
その深琴の言葉を聞いたレバンナは、マスターシーフについてさらに語った。
「そうだ、シーフと言っても俺達だって普通に暮らしているし、何かあればいろんな事にも協力して来た。なのに俺達は他の稼業に比べると全く日陰で陰湿な印象で扱われてきたんだ」
「そんな悲惨な状態から救って、地位向上を掲げて動いてくれているアラン様は私たちにとって大事な存在で、希望でもあるんです」
レバンナたちの話を聞いて歩いていると、あっという間に独房まで着いてしまった。二人は別々の独房に入れられ、二人を連行してきたシーフがレバンナに小さな声で語りかける。
「しばらくの辛抱ですアラン様が帰って来て、理由を聞けば解放されますから」
「わかってる」
言葉少なくレバンナは返した。深琴はレバンナの隣にある独房に入れられ、案内したシーフは去り際に用事があれば呼んで下さいと伝えてその場を去っていった。
ここまでのレバンナの対応に違和感を感じた深琴は聞いてみた。
「ねえレバンナ……シーフの中でこういう事ってよくあるの?」
「ん? 独房に入るような事か?」
「ええ……なんか慣れた感じだったし……緊張感というか、不安な感じがレバンナからしないから、もしかしてよくあるのかな~って」
それを聞いてレバンナは素直に答えていた。
「まあ、子供の頃はギルドに迷惑な事も結構して謹慎もあったかな……まあオヤジの対面もあるし、しめしがつかないと不味いから、ちゃんとする様になったつもりだけどな~」
そのレバンナの言葉を聞いて深琴はさらに疑問を抱いた。
「レバンナのお父さんって……このシーフギルドで偉い人なの?」
「親父はここのマスターシーフだな」
一瞬にして深琴の思考回路が止まったのだろう表情にもそれが見てとれた。
「え? いま……マスターシーフって言った? あなたのお父さんが?」
「そうだけど……なにか変か?」
レバンナは当たり前のように深琴の質問に答えたが、その答えは彼女にとってはかなりの衝撃であったようだ。
「ちょ!……だってマスターシーフの息子ならなんで独房なんかに入るのよ! 普通もっと権限とか威厳とかなんかこう、優遇されてるっていうか――」
「親父はそういう事はしない主義なんだよ……まあ、俺もそういうの嫌いだしな……みんなと公平に扱ってもらわないと、なんかこっちが具合悪いんだよな」
自分と父親の考え方を伝えたレバンナだが、深琴は隣の独房で大きな声で騒いでいる。
「レバンナ! 何とか言ってここ出してもらってよ! あなた偉いんでしょ! マスターの息子でしょ! 早くこんな所から出してよ~」
「はいはい……来週にはマスターが帰って来るらしいから、それまでゆっくりしてな」
「こんな所でゆっくりも何もないよ~嫌だよ~出してよ~お風呂入りたいよ~」
隣の独房の中で横になって話を聞き流しているレバンナのことなど露知らず、深琴は諦めきれずに鉄格子越しに喚いて駄々をこねていると、そこに誰かの足音が近づいて来た。その音はレバンナの房の前で止まり、そして一人の男の声が独房の中に響き渡った。
「レバンナさん……どうですか? ここの居心地は?」
それは先程のジャミスであった。ジャミスは鉄格子越しにレバンナを見ながらそう話しかけると、うっすらと笑った。
「今回の件はあなたに感謝しなくてはいけませんね」
「なに?」
レバンナは彼が何を言うのかを見極めようと、ジャミスの発言に注意を向ける。
「あなたとマスターアランをどうやって失脚させようか思案していたので助かりましたよ」
「どういう意味だ、ジャミス」
「そういう意味ですよ……私はマスターアランのやり方は好きではないのです。わざわざシーフ業を世間に認めさせると困るシーフ達もいるんですよ」
「お前はマスターのやろうとしている事の本当の意味がわかってないんだな」
薄ら笑いを浮かべていたジャミスの片側の眉が上がり、レバンナの言葉に反論する。
「ええ解りかねます……それに、そうしないでいいと言う方々が他にいるのです……わたしは、その方々と意見が合うのですよ」
レバンナはジャミスに自分たちの考えを理解してもらえない事がわかり、少し暗い面持ちで問う。
「それでお前は、俺とマスターをどうしたいんだ?」
その反応にジャミスはここぞとばかりに上から目線で言い放つ。
「そうですね~私はただ、このギルドから居なくなってくれれば良かったと思ってたんですけどね~他のシーフギルドにもマスターアランの行動が気に入らないって苦情が来まして……その人たちと相談して決めたことがあるんですよ……マスターアランには亡くなってもらう――もちろん、今回の件が無ければ、あなたも死なずに済んだのかも知れませんがね……私たちの大切な宝を窃盗しようとしたことと、不審者の侵入を手伝ったことが罪状にできましたし、ついでではありますが、あなたにも死んでもらう事にしました」
「そうか……何か企んでいると思ってたが、そういう事か、噂に聞いていたが、悪い盗賊に属するという事か……」
ジャミスの考えを見透かしたように表情を変えないレバンナに片側の眉を上げてジャミスは更に言った。
「おや、知っていたんですか? 私の計画を……それはなかなかに凄い洞察力ですよ――ですがあなたは今や囚われの身、弁明も釈明も何もすることができないのですよ」
レバンナは背を向け特に反応も示さずに聞いていた。
ジャミスはそんなレバンナの態度が気にいらなかった。今の状況はジャミスにとって生まれて初めてレバンナより有利な立場だというのに、レバンナが焦る素振りも見せないことがジャミスにとって苛立たせた。ジャミスは独房の鉄格子を叩いてまくしたてる。
「いいですか! あなたも、マスターアランもあと数日の命なんですよ! 命尽きるまでせいぜいここで自分のしたことを悔いていなさい!」
ジャミスの発言を聞いていた深琴が口を挟んだ。
「あの~その話の中に私は関係ないので……私は釈放って事でいいんですよね?」
深琴が柄にもなく、好意を持てない相手に愛想笑いと手もみしながら聞いてみると、ジャミスは興味を示すことなくあっさりと応えた。
「ん? あなたは、我々の物を盗もうとしたんですから当然処刑ですよ」
それを聞いた深琴は食い下がろうとジャミスに言う。
「え~なんで~私は関係ないし~それぐらいの事で処刑されるなんてありえないよ~何も取ってないんだし~」
ふてくされた様に言うがジャミスは感情に変化もなく淡々と言った。
「どちらにしろ今の会話を聞いてしまいましたからね~あなたもレバンナと一緒に処刑という事ですよ……それでは、またその日にお会いしましょうレバンナ」
ジャミスは独房を後にする。その出て行く姿に深琴は叫びながら訴え続けた。
「ちょっと~そんな事言わないで~考え直して~何でもするから~」
ジャミスは深琴の言葉に構わず去っていった。彼が居なくなったのを確認して深琴が言う。
「やっぱりダメだったわ。わたし色気ないしな~もっと情報引きだしたかったんだけど……あのジャミスって人、見向きもしなかった。レバンナもあの人相手にいろいろと大変なんだね」
「ジャミスが何か企んでいたのは分かっていたんだ……ただそれがあいつ一人の事なのか、他にどのぐらい協力者がいるのかが分からなかったんだけどな……まさか悪い盗賊と手を組むなんてな」
「その悪い盗賊ってどんな人たち?」
「簡単に言えばなんでもやる集団さ、シーフにもいろいろいるみたいで俺達の目指すシーフは義を持った盗賊、つまり義賊という言い方をする。それとは反対に金や利益になることだったら何でもするのが悪い盗賊ってことさ」
「目指す物が違うってこと?」
「いや、奴らにはポリシーやプライドなんてものは存在しないさ、自分たちが良ければ他のことなんかどうでもいいと思っているような集団……だから仲間も簡単に裏切るし、不利だと知ればすぐに陣営を乗り換えることもしょっちゅうある」
「欲望の赴くままに――って感じかしら」
「ああ……シーフと言っても人だ――人である以上は誰かしらに出会い、知り合って助けたり助けられることがあるはず。それを自己本位に動いてしまえば必ず歪が生まれ、その生まれた歪は、人と人を悪い関係にする。 だから人間社会には法律という規則を持たせ人との関わり合いを円滑にしている」
「レバンナって凄いわね、そんなことを理解しているなんて」
「ごめん、これは俺の考えじゃないよ、親父の受け売りだ……ただ俺にもわかっていることはシーフにもルールがあるってことだ。それを反故してしまえば俺達は社会の嫌われ者の集団になるしかない」
ちょっと立派に聞こえた言葉はレバンナに対する深琴の中のイメージを変えていた。深琴はレバンナが考えているであろうこれからについても聞いてみた。
「それじゃ~このまま黙っているわけではないのね?」
「ああ……ただ、まだ動けないから暫くはここで大人しくしててくれないか」
「しょうがないな~レバンナのタイミングまで待つわ……こんな所は嫌なんだけどね」
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
【完結】異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~
かずきりり
ファンタジー
望んで異世界へと来たわけではない。
望んで召喚などしたわけでもない。
ただ、落ちただけ。
異世界から落ちて来た落ち人。
それは人知を超えた神力を体内に宿し、神からの「贈り人」とされる。
望まれていないけれど、偶々手に入る力を国は欲する。
だからこそ、より強い力を持つ者に聖女という称号を渡すわけだけれど……
中に男が混じっている!?
帰りたいと、それだけを望む者も居る。
護衛騎士という名の監視もつけられて……
でも、私はもう大切な人は作らない。
どうせ、無くしてしまうのだから。
異世界に落ちた五人。
五人が五人共、色々な思わくもあり……
だけれど、私はただ流れに流され……
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる