Brave of soul ~運命の導きの章~

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第26話 マスターアラン

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魔物の一体が攻撃を仕掛けて来た時にその時! ウルの刃がその魔物を貫き、力なく倒れた。

 そのウルを放ったのはアーマーであった。


「ギリギリ間に合ったっちゃね」

 アーマーの横にはポンがいて、彼もまた剣を構えていた。アーマーの姿を確認した深琴は、笑顔になって声を上げた。

「アーマーさん!」

「こっと~何してるのかな~? みんなのいう事忘れたっちゃか?」

「ごめんなさい!」

 頭を下げ謝る深琴に魔物が容赦なく襲い掛かるが、そこに深琴めがけて鞘に収まったままの剣が投げられた。深琴はその剣を上手く受け取り、魔物からの攻撃を鞘で受け止め、押し返した。そしてさらにもう一つ、ショートソードが剣帯ごとレバンナに投げられていた。レバンナは難なく受け取り、その剣の感触を確かめる。

 剣が投げられた方向を見ると、そこにはハマとディープの姿があった。

 ハマたちは捜索の中で深琴とレバンナの武器を見つけ、この場に持ってきていたのだった。

「ハマさん ナイスパス!」

 ディープは拍手をしながら武器を投げ渡したハマを褒めた。

 さらに、ミワンとヒロサス、ピロと桔梗も他の入口方向から現れた。

「琴ちゃん!」

「なんとか間に合いましたね」

 広場は大混乱していた。こうして深琴の仲間が駆けつけて来てくれた今でも、状況は不利なままではあるが……広場にいた観衆の避難が終わり、残ったのは深琴とクランメンバー、レバンナとシーフ幹部たち、ジャミスとその部下数名、そしてジャミスが大量に放った魔物だけとなった。ジャミスはその場に集まった者たちの状況に苛立ちを覚えた。

「なんなんだこれは……さっきまで私の計画通りだったではないか! なのに、何故、私に刃向うやつらがこんなに現れるのだ!」

 ジャミスは思わず後ずさりをしていた。魔物は依然多くいたが、深琴の仲間が一体一体倒していく。ここに遅れてアルとリリシアが合流する。

「深琴の仲間は強いな!」

「もちろん!」

「そんで、仲間想いだな!」

「ええ……私には勿体ないぐらいの仲間だよ!」

 魔物の攻撃をかわし、そのまま剣の鞘で魔物を叩き返す深琴は、ここに来てくれた仲間に感謝し、嬉しいの気持ちでいっぱいだった。

 部下が完全に倒され、魔物だけが残った頃に、ジャミスは自分の不利をようやく認識した。

「なんなんだ、こいつらは…… 何者なのだ!」

 それに応えたのはハマだった。

「俺達は聖夜に舞う天使だ!」

「なに? 聖夜に舞う天使? だと……なんだそれは? ダサすぎるだろ」

(こけたハマ)

「あら」

「俺たちはお前が処刑しようとしていたその娘を助けに来た仲間っちゃよ!」

 アーマーが言うと、視線が深琴に注がれた。

「忌々しい……その女に邪魔されたというのか! くっそーーーーーーー!」

 ジャミスの雄叫びがその場にこだました。そしてジャミスは息を整えると新たな呪文を唱え始めた。

「あいつ、まだなんか出すのか?」

「結構タフな奴っちゃね~」

 アルの問いかけに、アーマーが応えた。

 ジャミスの呪文が完成すると、次の瞬間、広場の真ん中に巨大な黒い円が現れた。

 咄嗟とっさに危険だと思ったクランメンバーがその円を避けると、その円の中から一つ目の巨人サイクロプスが現れた。

 その場にいたほとんどの者が初めて見るモンスターに唖然となった。

「まじか!」

「なんなんですか! あれは!」

 そんな中、幾人かはこの一つ目の巨人がサイクロプスであることを知っていた。サイクロプスは聖夜メンバーに襲い掛かかりメンバーは対応に追われた。もちろんレバンナに対しても例外ではなく、攻撃がくらわないように逃げながら対応するしかなかった。

 襲い掛かって来るサイクロプスの攻撃をかわすだけで精一杯の聖夜メンバーたちは、距離を取り、攻撃する機会を伺ったが、サイクロプスは意外にも素早い動きをしており、なかなか隙がなかった。アーマーやピロ、桔梗、ポンたちでさえ、初めてのサイクロプスに、どう相手をしていいかわからないでいた。その状況を見てジャミスは高笑いをしながら言う。

「ハッハハハハハ……貴様らにその巨人は倒せん、そして私の野望も消えはしない!ここで私の邪魔をする者は消えて無くなれ!」

 安全な場所まで避難して高みの見物をしているジャミスだったが、彼をしっかり守る一人の男がいる存在で手が出せなかった。

 このような状況でいち早く動けたのは、アルとリリシアだった。二人はサイクロプスと戦ったことがあるので、動揺するみんなに声をかけて必死に鼓舞した。

「お前ら!この程度の相手にビビってたら生きていけないぞ!」

「こいつはサイクロプス!頭の悪いモンスターだ。これだけの人数がいれば倒せる!」

 その声で我に返ったアーマーたちは、サイクロプスから距離を取り、反撃の間合いを見定めに入った。ジャミスは笑いを浮かべながら有利なその様子を見ている時だった。


 一瞬、柔らかな風がその場に吹くと、颯爽とサイクロプスの前に一人の男が現れていた。

 その男は巨人を見上げてそのまま巨人の目の前まで歩み出ると、それに気づいたレバンナとシーフ幹部たちの顔色に生気が蘇っていた。ジャミスからは巨人が壁となり、その男の姿が見えないでいた。そしてその男にレバンナが話しかける。

「予定より早かったじゃないか!」

「手を出さないで見ていた方が良かったか?」

「るせ!~ったく こんな事になっているんだ、何とかしろって~の!」

 サイクロプスを目の前にして余裕を感じさせる男に、レバンナは強がるように言う。幹部たちもその男の姿を見てほっとしていた。そして一人の幹部がその男の名前を発した。

「アラン様、お帰りなさいませ」

 ジャミスは先ほどからレバンナたちが何者かと会話していることには気が付いていたが、姿が見えていなかったので特に気にしていなかった。しかし聞かされたその相手の名前が予想外であったため、額から汗が流れ落ち、言葉がしどろもどろになっていた。

「ま、ま、まさか! 帰って来れない様に……手筈が、あったはずだ」

(他のシーフギルドの連中は何をしていたんだ! アランは俺たちのところで始末すると言っていたではないか!)

 アランの登場でジャミスは冷静な判断をすることが出来なかった。それとは対照的にアランの方は冷静で、サイクロプスの動きから目を離さずにいた。

「こうなったら、この場でアランもレバンナも全て始末してやる! アランを殺せ――」

 ジャミスは絶叫すると、サイクロプスは目の前のアランに襲い掛かったがすでにアランはサイクロプスの動きの特徴を把握しており、攻撃を難なくかわしていた。そして次の瞬間、アランはサイクロプスとの間合いに入ると、サイクロプスの動きより素早く攻撃を繰り出した。

『一の太刀、 下斬!』

 アランの技は目にも止まらぬうちにサイクロプスを 一刀両断にしていた。

 その剣技に誰もが目を見張り、アーマーや剣や腕に覚えのある者たちでさえ、アランの剣技を見きれなかった。

(見えんかった……)

(凄い――)

(あの人物は何者だ……)

 アーマーや桔梗と同じように、アルたちもアランに興味を持った。

 倒されたサイクロプスを見て、ジャミスの表情がみるみる変わっていくのがわかる。

「そんなまさか……サイクロプスがこんなあっさりやられるとは」

 ジャミスはどうしようもない状況に追い込まれた事に気が付いた。

「このままじゃ~私は」

 顔色が変わり、考えているジャミスにアランが大きな声で問いかけた。

「ジャミス! 何をしている!」

 その言葉にビクッと畏怖を感じたジャミスは、その問いに答える事ができなかった。

 その時、ジャミスを守っていた男がアランとジャミスの間に入って、アランのジャミスへの視線を遮った。その姿を見てシーフギルドの者たちは皆、複雑な表情を晒していた。

「アゴール、 お前は……」

「アゴール何をしているんだよ! ジャミスが悪いのはわかっているだろう?」

 アランは視線を遮ったアゴールに対して何を言うべきか戸惑った。そしてレバンナは彼がジャミスを守っている理由が分からずにいた。

「兄さん!なんでジャミスの味方してるのよ……」

 悲しげなミルの問いかけに彼女の兄であるアゴールの返事はなく、ただジャミスを守る様に立っているだけであった。大きな体は壁のように立ちはだかりシーフと言うより戦士という姿の方が当てはまっているかのような姿だった。手にする得物は形の変わったトマホークと盾を持ち、全身を鎖帷子で覆い靴も季節感のない長い鎧靴を履いていた。そして目はまるで感情のない人形に見えた。

 ジャミスは我に返り今は逃げるしかないと考え、詠唱を始めた。それを見た聖夜メンバーのピロとポンが、遠めから詠唱の邪魔をしようと隠しナイフや短剣を投げるが、アゴールに簡単に防がれてしまう。そしてジャミスが呪文を唱え終えると、ジャミスの足元に黒い円が現れ、その中にジャミスとアゴールは消えていく。

 去り際にジャミスがこう言った。

「これで終わったと思うなよ!これからだ……これは始まりに過ぎない!」

 その言葉が何を意味するのかは、その場にいた者たちには分からなかった……

 ジャミスが逃げ去ると、アランの周りに幹部たちとレバンナが集まっていた。

「アラン様おかえりなさいませ」

「オヤジ、お帰り!」

「レバンナ、これはいったいどうした事かな?」

「いや~あの~いろいろあったんだよ。オヤジがいない間にさ」

 その会話とは別の輪も近くに出来ていた。深琴の周りにクランメンバーが集まっていたのだ。

「琴ちゃん、大丈夫だった?」

「みなさん。ご迷惑かけて申し訳ありませんでした」

 深琴は頭を深々と下げてクランメンバーに謝った。

 そんな姿を見て、みんなは何も言わなかったが、アーマーが一人進みでると、躊躇なく深琴の頬を叩いた。

 そこにいた全員がハッとした。

「ここのみんなは琴のなんなんっちゃ?」

「!」

「ここにいる皆は琴の仲間じゃないのか?琴から見たら俺たちは信用に値しないっちゃか?」

 アーマーの問いかけに深琴は答えられなかった。みんなの気持ちを理解したからだ。自分の行動が皆に心配をかける結果になり、そして皆は自分のことを危険を冒して救出しなければいけなくなったのだ。

「アーマー、琴ちゃんは皆に迷惑をかけたくなくて、一人で何とかしようとしたんだよ」

「そんなんわかってるっちゃ……ただ琴にはもっと俺たちを頼ってほしいっちゃよ」

「本当にみなさん、ごめんなさい」

「あたしだって……もっと頼って欲しいと思っているのよ。私たちはクランなんだから、ね」
 ミワンはその言葉のあとに深琴の肩に手を添えた。

 みんな同じような気持ちの中、一人だけ違った気持ちをぶつける者の姿もあった。ピロである。

 今までの深琴の勝手な振る舞いに、いい加減うんざりしていた。

「甘やかしすぎだ。一人の勝手で仲間を危険に晒すこともある。それに、これで何度目だ?」

 冷静に言うピロだが怒っているのは分かる。

「ピロさん」

「ピロ!そんな言い方しなくたって琴ちゃんもわかってるよ、許してやれよ」

「チッ」

 ハマの甘さに、ピロは舌打ちした。

 そこに話を終えたレバンナたちが深琴たちの元に集まり、先ほどまで二つの輪だった形が一つの輪になった。

「良かったな。仲間が助けに来てくれて」

「ええ。また皆に迷惑はかけちゃったけど……」

「今回はうちのシーフギルドの件で迷惑をかけたようで申し訳なかった」

 そう言われて、ハマもクランマスターとしてしっかりと対応をする。

「いえ、逆にあなたの治めるギルドに我々の仲間が迷惑をかけてしまったかもしれません、こちらの方こそ申し訳ありません」

「今回は私の勝手な行動でご迷惑をかけてしまい、ごめんなさい」

 その言葉に続いて深琴もアランに詫びた。その会話の最中ではあったが、他のクランメンバーは、アランがサイクロプスを倒した“剣技”に興味があった。その話を切り出したのは、意外にもアルであった。

「あのサイクロプスを一刀両断にするとは凄い剣技を御持ちだ! どこでその剣技を?」

「昔、一緒に旅をした仲間との間で養われた技ですよ……」

「そうなのか?」

「ええ。貴方たちもこんなに良い仲間がいれば、そのうちあれ位の技は出来る様になりますよ」

 このまま話をしては終わらないと思ったレバンナは、クランメンバーたちに問いかけた。

「話が長引きそうだな。良かったら続きはうちの屋敷でしないか?」

「え? それは……」

「これも何かの縁だろ! 皆に会えたことも縁だと思って言っているんだが? どうだろう? オヤジ?」

「うむ、そうだな……出来ればレバンナの提案に賛同してもらえないか? 私も久々に戻って来たことでいろんな方々とも交流を持ちたいと思っているし、どうであろう?」

「どうする?」

 そんな自分だけの意思で決められないハマにアーマーが助け舟で、その申し出を受けるよう促した。

「せっかく誘ってくれているんだし……断る理由はないっちゃね」

「んじゃ決まりだ! 今日は久々にちゃんとしたところで寝れるぞ!」

「そうねレバンナとあんな所にずっと一緒に居たのは初めてだったわ」

 嬉しそうに言うレバンナに、深琴も体を伸ばす仕草をしながら答えた。

(二人でずっと一緒に?……なにしてたんだ~!)

 ハマは二人の会話から変な想像を掻き立ててしまい、やきもきしてしまう。


「とりあえず、よろしくお願いします! さっ! みんな招待されたんだ、一度戻って支度しよう」

 深琴とレバンナをすぐにでも離したいハマは、皆を一度、拠点のある店に移動するように伝える。

「じゃ~! レバンナ! あとでみんなでお伺いするわね!」

「おう! 待ってるよ!」

 深琴はレバンナに後で行くことを伝え、その場を聖夜メンバーと一緒に後にした。

 その場に残ったシーフたちは後片付けを始めた。レバンナは倒れているモンスターの亡骸を見ながら父親であるアランに話しかけた。

「しっかし、このモンスター片づけるの大変そうだな……」

「心配するな、片づけなくても平気だぞ」

「え? でも、ここに放って置いたらマズイだろ?」

「時間がたてば勝手に消えるさ」

 レバンナの意味が分からないといった様子を見て、幹部の一人が説明してくれた。

「召喚モンスターは、どういう仕組みかは知らないですが、倒されるとその場から消えていくんですよ」

「え? なにそれ??」

「ああ……私もその行き場所は知らないが、昔に聞いた話だと召喚元に帰るらしい」

 丁度その話をしている最中に倒されたモンスターたちの亡骸がその場から次々消えていく。

「おお!」

 片づけをしていたシーフたちから、驚きと共に歓声があがる。そして巨大なサイクロプスの亡骸も煙に包まれ消えていった。

「こういう事か!」

「これが片づけなくてもよいという意味だ」

 召喚モンスターの亡骸は残ってはおらず、そこにいた形跡が残っているだけだった。

「では後の処理は頼んだぞ」

「はい」

「レバンナ戻るぞ」

「え? 俺も屋敷に戻るのか?」

「何言ってるんだ。お前が招待したんだろ? 準備はお前がしないでどうするんだ?」

「そうだけど……」

「それと、お前には別の件での話もあるからな……」

「別の件?」

 そう言うとアランはレバンナを連れて屋敷に戻っていった。
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