Brave of soul ~運命の導きの章~

jisai

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第41話 ファルドに向けて

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セシルは話の内容が凄い事に、かなり戸惑っていた。そして父であるファルマーの過去の話も、ちらほら出ることに微妙な気持ちでいた。

そんな姿が目にとまったヒース王が、セシルの父であるファルマーの話をしてくれた。

「セシル、君の父ファルマーは勇敢で仲間想いの良い人物だったよ……だから父を誇りに思いなさい」

「陛下も父を知存じておられるのですか?」

「当前だ……本来ならファルマーには城付きの国家魔法技工師長を任せようとしていたんだ」

「父に国家魔法技工師長?」

「まあ、断られたのだがな」

「断ったのですか? 陛下の頼みを」

ヒース王は顎に手をあてながらその当時の事を思い出しながら話してくれた。

「ファルマーには何か考えがあったのだろう……せめて近くで技工士の指導をしてほしいと頼んで、ウォーセンにとどまってもらったんだが」

セシルは父が過去の出来事や魔法技工士としての働きを何故隠していたのか? 疑問もあったが、チェスターやヒース王の言葉でその疑問はある程度は解消できた。それと、父と兄を殺した相手については何となくではあるが、この魔族などの事柄で亡くなったのではないか? と彼女の直感が働いていた。

「私には、あの魔人もどきが、私の父や兄の死に関係があるのではないかと感じています」

「ファルマーの死に、魔族が絡んでいるということか?」

「父が亡くなった場所に印されていた模様が、何か違う意味な気がして……」

「それに関しては、すこし調べておいたよ」

ジェシカとリュールはヒース王にファルマーの死の調査も依頼されていたのだった。

「え? 父の死を調べていたのですか?」

「私もファルマーが殺されたと聞いた時、そう易々とやられるとは思えなかった……だからこの二人に頼んで調査をしてもらったのだ」

「結果、オルトのグリュンヘイムの剣のことも絡んできたんだけどね」

そう伝えたジェシカは首をすくめて答え、リュールが模様の書いた紙を見せながら説明をした。

「この模様はセシルのお父さんとお兄さんの亡くなった場所の近くにあったものですよね」リュールが説明しながら模様の書かれた紙を見せた。

「ええ――そうです」

「では、こちらの模様を見た覚えは?」

そう言うと、もう一つの模様が濃く描かれた紙をセシルに見せた。

セシルはもう一つの模様を見せられたが見覚えは無く、首を横に振った。

「そうだろうね……この二つの模様は二つで一つの模様になるとしたら」

その言葉にオルトや他の者も興味を持って見ていた。二つの模様を重ね、透かせると一つの模様に見えるのであった。その模様を見たオルトやクラウス、そしてヒース王たちの顔が驚きで青ざめてしまっていた。

「その紋章は!」

思わず声を上げたのは意外にもディアナ王妃だった。ディアナはその言葉と共に少しよろめくと、それをヒース王が支えた。それはディアナにとって知り過ぎていた紋章でもあり、昔の記憶を呼び覚ますものでもあった。

心配したヒース王がディアナに声をかけた。

「ディアナ……大丈夫か?」

「ええ……」                                                                 
その問いかけに辛うじて応えるディアナではあるが、明らかに動揺しているのは誰が見てもわかった。ディアナに動揺を与えたその紋章は、ディアナの家系であるアルファイド家の紋章そのものだった……


――ディアナは元々、一般の家庭に育てられた環境だったが、当時子爵のアルファイド家の当主であったグエン・アルファイドとディアナの父は親友であり、ディアナの父と母が亡くなった時にアルファイド家の養女として迎い入れられた。アルファイド家には次期当主としてグエン・アルファイドの息子でカース・アルファイドと言う若者がいた。カースは優秀な若者で、アルファイド家の後継者として申し分のない若者であったが、いくつかの問題点も抱える者でもあった……

「その紋章は……私の家の家紋としていた物です……」

ディアナの言葉でその事を知らなかった者達は驚き、知っていた者達は、複雑な表情に変っていた。

「それではディアナ王妃の家の者が何か関係があるという事でしょうか?」

チェスターが問うと、それに応えたのはオルトだった。

「いや……ディアナの家――アルファイド家にはもうディアナしか残ってはいない……」
その答えはある意味明確ではあるが、疑問の残る答えでもあった。

「どういう事? アルファイド家にはカースと言う跡取りが居たんでしょ?」

ジェシカがオルトの答えに疑問を投げかけた。

「そのカースと言う次期当主の者は、私が……」

ディアナが重い口を開き言おうとした時にヒース王がその先の言葉を止めた。

「ディアナ、その先は言わなくていい」

「でも……」

「ヒースの言う通り、その先は言わなくていい――思い出さなくていい事も、忘れたいことも誰しもあるものだ……」

オルトもディアナの言葉を制止すると、その言葉を読みとった周りの者たちはそれ以上聞こうとはしなかった。

しばしの沈黙があった――誰しも話そうとせず誰もがこの重い空気が壊せなかった。

しかしそんな空気が大嫌いなセシルがディアナ王妃に言葉をかけていた。

「お辛いのでしたら、無理にお話にならなくても、私はこの出来事とこの先の私の未来に何か接点があるのなら、いずれ明らかになっていくと思っていますので」

そのセシルの言葉を聞いてディアナは感謝の気持ちを伝えた。

「ありがとうセシル」

「とりあえず、この紋章が誰が何の目的でファルマーさんの亡くなっていた場所に書かれていたのか? それを探らないといけないようですね」

話の雰囲気を変えようとリュールが言った。

「そうだな……その者がだれか知ることが必要かも知れないな」

オルトはその謎の先を感じていた……不明瞭な読みではあるが――自信とは真逆の不安という感覚の元で……

それから数日後の朝、予定より出発日が遅くなったがファルドに向かう一軍が西門に集結していた。

それを指揮するのはオルトであった――そのオルトに付き従ってチェスターとセシルもいた。セシルは先日の話で、オルトに願い出てファルド奪還軍に同行することを決めた。それは彼女の意思がそうさせたのか、何かに突き動かされたかは本人にも明確に解らなかったようだが、一緒に行動すれば父と兄の死の原因が分かるような気がするからだと言っていた。そしてチェスターの姉であり魔術師としても実力の高いジェシカも何故かこの遠征軍に参加をしていた。

「しかしなんで姉さんが一緒に遠征軍に参加するのさ?」

ふとチェスターが尋ねるとジェシカが答える。

「いいでしょ? 私がいないとオルトは甘々なんだから、締まらないでしょ!」

「え?」

「姉さん――スパルタだものね……」

オルトが困り顔になり、チェスターが本音をポロっと言ってしまう。

「キリッ!」

ポーズを決めてアピールするジェシカ。

オルトは改めて一緒にファルドに行く事を決めたセシルに気持ちの確認をした。

「セシル……本当にいいのか?」

「ええ……自分で父と兄の死んだ経緯を知る必要を感じたんだ――それにオルトに着いていけば何か解るような気がするし」

「セシルが選んだ道は厳しいかも知れないぞ」

支度をしながら言うオルト。

「それでも、真実を知る方が私はいいと思っている」

その言葉にチェスターはオルトの言っていた言葉を思い出していた。

(セシルは普通の生活を投げ出して――真実と家族に何が起こったかを見極めようとしている)

セシルにおもわず声をかけるチェスター。

「セシルの選択は間違っていない!」

「何よ――いきなり」

突然のチェスターの発言に少々戸惑ってしまうセシルだった。

「あ、いや、セシルがんばろう」

たどたどしく応えるチェスターだった。そこに見送りに来たヒース王たちがやって来た。

「オルト、大変だろうが、ファルドを頼む」

そう言って手を握るヒース王にオルトは自身で何かを確認するような表情で応えていた。

「ああ、必ず取り戻すさ――ドラグーンと周辺諸国の動向、情報収集の方はクラウスに任せる……それと昨日話したことも頼む」

「すでに手配をしていますよ――彼女の情報も入り次第お知らせできるようにします」

クラウスはオルトの個人的な頼みである深琴の所在を探すことも任され、手配に抜かりの無い事を伝えていた。

そして大きな音が周囲に鳴り響く。それは出発の合図の音だった。その音で各兵士長たちが出発を促うながしていった。

「しゅっぱ~つ!」

その言葉が周りに連呼され、兵士たちがゆっくりと歩きだした。

「では、行って来る」

オルトが見送りに来たヒース王たちに告げ、馬に跨またがり隊の中腹へと歩み寄って行った。それを見てジェシカとセシルも従う。チェスターは父とヒース王にしっかりとした挨拶をしていた。

「陛下、この度は無理な申し出に、許可を頂きありがとうございます――ファルドの奪還をオルトと共に必ず成功させてきます」

父であるクラウスが肩の力を抜くようにチェスターに促した。

「あまり力りきみ過ぎてオルトやジェシカに迷惑をかけんようにな」

「はっ!――心得ているつもりです」

「オルトを良き師として見て学んでいけば自ずと良い方にいくだろう」

「はい! っでは」

ヒース王も親のような心境なのだろうか、チェスターに言葉をかけていた。

二人の言葉をしっかり聞くと、チェスターはオルト達に追いつくように馬を走らせた。

西の大都市であるファルドを奪還する為にオルトたちが、また仲間の願いをかなえる為に深琴たちが動き出した。

運命という名の旅立ちで人々が交差していく。

それは新たな歴史の始まりでもあった。



そしてその光景を薄暗い物影から、じっと見ている者を、オルトを始め誰も気付くこともなかった……










――運命の導き編   完

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