要らねえチート物語

汐乃タツヤ

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第一章

第9話 空を自由に飛べないな

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 結局一樹かずきに俺の能力を言い出せず、モヤモヤした気持ちを抱えたまま迎えた土曜日の朝。

「さてと、ここなら人目につかないだろう」

 警察や自衛隊が大勢いる場所を避けるため、俺は家の近くの駅から電車を使って20分、そこから更に20分程歩いた所にある森林までやってきていた。
 ここなら、もし人間離れした動きをしてしまっても、目撃者がいないから問題ない……はずだ。
 何度も遠出するのも手間だし、今回で能力を発動させないギリギリの力加減を維持したまま、身体を動かせるようになればいいんだけどな。

 とりあえずは思いついた動作を色々試していこう。
 最初は力を入れないで動き、徐々に力を強めていけば、能力が発動しないギリギリの力加減がわかってくるはずだ。
  
× × ×

 能力が発動するハードル低すぎだろ!!
 大して力を入れてないのに、思ったよりも簡単に能力が発動してしまう。

 石を真上に放り投げれば高速で射出されて空に消えてゆき、岩へデコピンをしてみれば見事に岩が砕け散る。
 何かに肘をぶつけた場合を想定して、勢いをつけて土壁に肘鉄ひじてつをしたら、直径3メートル程の大穴が空いてしまう。
 どれもうっかり人に当ててしまえば、間違いなく殺してしまう程の凶悪さだった。

 ……よく今まで1人も死人を出さずに済んだな。      
 威力が無駄にチートレベルになるこの能力の恐ろしさを改めて実感する。

 うん、能力が発動しないギリギリの力加減を狙うのは止めよう。ちょっと力の入れ方を間違えただけで大惨事だいさんじになる。むしろ能力が発動してしまう強さよりも大分力を抑えるべきだ。

 練習開始から数分で、早くも俺の心は折れ始めていた。

 何かを触る時にはできる限り力を入れないと心に決め、気分を変えるために今度は土壁へ向かって走る練習をやってみる。高速で走り出したら土壁にめり込むのは確実だが、辺りを破壊しながら走り続けるよりはよっぽどマシだ。
 ひとまずは能力が発動する速さを確認して、そこから余裕を持たせた速度で走るように意識しよう。

× × ×

 何度も高速移動しては土壁にいくつもの人型の穴を空けていきながらも、軽い早歩き程度の速さなら能力が発動せずに走れるのは把握できた。
 しかし、これでは遅すぎるので、今度は速度を上げて早歩きをしたらどうなるかと試してみる。すると歩く動作のまま尋常じゃない速度になるという、シュールかつメチャクチャキモい動きになってしまった。

 次は高速移動をしてしまった時に何とか止まれないかと考え、試しに高速で走ってる最中に急ブレーキをかけてみる。その結果、足が地面に食い込みながらも止まりはしたものの、高速で動いている状態からいきなり止まったせいで、地面に食い込んだ足を軸に身体がそれまでの勢いで前方回転して、顔面から地面にめり込んだ。

 やっぱ能力が発動したら抑え込むのは無理だ。そもそも発動させないようにしないと。

 走る時に能力が発動する力加減は大体覚えたので、次は軽くジャンプしてみることにした。
 
 ……これうっかり能力発動させたら、もの凄い高さまで跳び上がるんだよな?
 走った時にさんざん身体を土壁やら地面にぶつけても何ともなかったから、仮に能力を発動させた結果、高い所から落下しても大丈夫なはずだ。
 頭では分かっているけど、元々高い所が苦手なせいでひどく緊張する。
 
 よし、まずは慎重に10センチぐらいの高さから試してみよう。
 恐る恐る膝を屈めてジャンプする。

 すると自分が想定していた数百倍の高さまで勢いよく跳び上がっていた。

「うわあああ!!!」
 
 なおも上昇を続けていく状況に焦りながら俺は必死に考えを巡らせていた。
 どうして能力が発動した!? 
 垂直跳び10センチなんて相当手を抜いているレベルだぞ!!
 この身体を跳び上がらせるのに、そこまで力が必要………。

 待てよ、体重50キロ強もある自分の身体を跳び上がらせるって、少しの高さでも結構力を使うよな……。
 自分の見込みの甘さに気が付いた直後に上昇が止まり、急速に落下し始めた。

 お、落ちる!!
 地面までの距離が一気に縮まっていく光景に、俺はパニックを起こしていた。
 そうだ!! 全力を出せば必殺技が出るんだから上手くいけば……。

「と、飛べ!!」
 
 俺は全身に力を入れて、空を移動する自分を必死にイメージしながら叫ぶ。
 すると落下が止まり、身体がふわっと浮かぶ感じがした。
 
「やった!!」

 地面に叩きつけられるのを免れた。そう安堵あんどした瞬間。

「ぎゃああぁぁ!!!!」
 
 今度は超高速で空を飛び始めた!!
 しまった!! どうせなら空を飛ぶんじゃなくて、空中に止まるとか、身体が浮かぶとかをイメージすればよかったああぁぁ!!!!
 そう後悔するも既に遅く、いきなり何かに激突して目の前が真っ暗になった。

「痛ってえーー!!」

 一瞬死んだかと思ったが、激痛に襲われて生きているのを実感する。
 あんな超高速で飛んでいる状態で衝突したのに痛みを感じる程度で、死にもしなければ特に大きな怪我もしていないようだ。
 ロクでもない能力だけど、この身体の頑丈さだけはありがたかった。

 ところでここはどこだ?

 身体の無事が分かったところで周りを見渡すが、暗くて何も見えない。
 それになんだか息苦しく、全身が何かに圧迫されている感じがする。
 わずかに動く腕で周りを触ってみると、何やら土の感触がした。

 ……もしかして俺、生き埋めになってる!?
 全然無事じゃねえじゃん!!

 置かれている状況を理解した瞬間、俺は能力の発動などお構いなしに周りの土を必死にかき分ける。すると、土が後ろに押し出しながら前進できた。
 よし、これなら土を掘り進めて地上に出れるぞ!!

 俺はひたすら腕を動かして、特撮番組に出てくるドリル付きメカのように地中をガンガン掘り進めながら、必死に地上を目指していった。

「プハッ」

 あちこち掘り進めた後、何とか地上に出れた。
 ひとまず危機から脱出した安心感から大きく息をつく。
 ……途中で窒息ちっそくしないで本当に良かった。

 気持ちが落ち着くと、俺は地面が露出した急な斜面にいるのに気づく。下に目を向けると、見覚えのない大きな川が見えた。
 慌てて辺りを見渡すと、いくつもの山が目に飛び込んでくる。
 どうやら空を飛んでいたら山の1つに激突して、そのまま地中を突き進んでいったらしい。

 ねえ、ここどこ? 俺はどこまで飛んで行ったの?
 こんな状態になるなら、ジャンプした時に大人しく地面に叩きつけられた方がはるかにマシだった……。

 ズズズ……。

 俺が途方に暮れていると何か音を立てて地面が動いた気がする。

「今度は何だ?」

 何が起ころうとしているか分からずにうろたえていると、さらに音が大きくなる。嫌な予感がしてこの場から離れようとすると、辺りの地面が急激に崩れて俺はその土砂に巻き込まれた。

「あーーーー!!」

 何でこのタイミングで土砂崩れが!?

 土砂に流されて視界が真っ暗になり上も下も分からなくなる。
 そんな中、自分が外に出るために、ここら辺の地中をメチャクチャにほじくり返していたのを思い出す。

 土砂崩れの原因って俺じゃねえか!!
 自分の落ち度に気づいた直後に俺の身体は地面から離れ、そのまま土砂と一緒に崖下へと落ちていった。
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