要らねえチート物語

汐乃タツヤ

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第三章

第43話 ロクでもないチート能力だけど

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 宮川か白井のどちらかをヒットさせるにしても、今までと同じ手段じゃダメだ。何か相手の意表をつけるような方法じゃないと。
 といっても、取れる手段は沢村の攻撃と俺の守備しかない。これでどうすればいい?
 
 待てよ、攻撃と守備? ……そうだ!

「タイム!! タイム!!」
 
 俺はボールを足元に置いて、タイムを宣言した。
 ルールとして1試合ごとに30秒の作戦タイムが認められているのを知った時、使う奴なんているのかと思ったが、まさかここで役に立つとはな。

「みんな、急いでこっちに来てくれ!!」

 俺は声を上げて外野全員を内野へ呼び寄せると、沢村が真っ先にこっちへ駆け寄ってくる。
 
「もしかして逆転する方法を思いついたのか!?」
「そこまで言い切れるわけじゃないけど、今よりはマシになると思う」

 作戦が実行できるチャンスが来るか分からないが、俺が考えられる手段は他に無かった。沢村と話している間に他のメンバーも集まってくる。

「いいか、まず狙うのは……」

 俺が作戦を説明すると、沢村が真剣な表情でうなずいた。

「ところで、俺達はどうすればいいんだ?」

 沢村への指示を出し終えたところで、一樹かずきが自分達の行動を尋ねてくる。

「チャンスがあれば、俺と同じことをやってもらいたいけど……やっぱりそうなるか」

 俺の指示に一樹かずきは首を横に振り、坂本、上条、清水、関口の4人は揃って「無理」と即答した。
 頼んだ俺でも無茶振りだと思うし、仕方ないけどな。
 
 試合が再開され、俺のパスを受け取った沢村が白井を攻撃するが、これもかわされる。
 外れたボールが外野に飛んでいくが、凄い勢いで向かってくる沢村のシュートを捕れるメンバーは誰もいなかった。そのままボールが壁に跳ね返り、敵の外野に渡ってしまう。

 外野からのシュートをキャッチして、再び沢村にパスを回す。
 その後も沢村が白井を攻撃し続けるが全部よけられてしまい、俺が狙っているチャンスもなかなか訪れなかった。
 とうとう残り10秒になったところで、沢村にボールが渡る。……これが最後の攻撃チャンスになるな。

「どりゃああああ!!!!」

 沢村が全身全霊を込めた剛速球を、白井に辛くもよけられてしまう。――だが、これで終わりとはならなかった。

 よけられたボールを中央ラインの近くで待ち構えていた俺が受け止める!!
 白井との距離は5メートル弱、さらに沢村のシュートをよけた直後で白井の動きが止まっている今がチャンスだ!!
 待機している間に必殺シュートのイメージを固めていた俺は、即座に白井へボールを投げつけた!!
 さんざん一樹かずきと短距離のシュート練習を重ねてきたんだ。絶対に成功する!!

「なっ!?」

 攻撃に気づいた白井が驚きの表情を浮かべるが、それ以上の反応をすることはできなかった。白井の足にボールが当たって床に落ちる。

 やった!! 何とか作戦通りに白井をヒットさせたぞ!!

 白井がよけた沢村のシュートを俺が受け止めて、動きの止まった白井を攻撃する。
 この作戦を思いついて白井を狙うところまでは良かったが、いざ実行しようとなると、よけられたボールがこっちの内野に飛んでくるという状況になかなか持ち込めなかった。
 
 白井が都合のいい場所にいてくれるわけじゃないし、かといってチャンスが来るまで攻撃しないなんて真似をすれば、不審に思われたあげくに作戦に気づかれる恐れがある。

 そのため、狙い通りの状況じゃなくても、積極的に攻撃する方を優先してくれと沢村に話していたけど……本当にギリギリだった。

「くっそーー!! 油断した!!」

 白井が悔しそうにハチマキを外す。あの様子なら怪我はしていないな。
 少しホッとしていると、時間終了を知らせるホイッスルが鳴りひびいた。

「1対1で同点のため、試合を続行する!!」

 宮川がボールを持った状態で試合が仕切り直される。

「宮川ーー!! 一気に決めてやれーー!!」
「吉村ーー!! ここまで来たら勝っちまえーー!!」

 ギャラリーからさまざまな応援の声が上がってきた。
 
 しかし、白井と違って、沢村のシュートを正面から受け止める宮川にはさっきの作戦は通用しない。 
 さっきの作戦タイムでも、宮川をヒットさせるには近距離から沢村の攻撃を当てるしかない。と言いはしたが、その具体的な方法は全く示せなかった。

 待てよ。1度は一樹かずきに助けられたとはいえ、俺も宮川の攻撃を今まで防いできたわけだし、決め手が無いのはあっちも同じか?

「……まさかここまでやるとは思わなかったぜ。無理せずに時間切れで勝とうって考えたのが甘かったな」

 俺の予想に反して、宮川に焦っている様子は見られない。それどころか、自分が勝つのを疑っていない感じだ。
 宮川が身体を低く構えると、ラインギリギリまで素早くダッシュしてくる!! さらに大きく振りかぶって勢いを乗せ、今までにない剛速球を投げてきた!!

「ぐっ!!」
 
 宮川のシュートをいったん受け止めたが、勢いを完全には殺しきれず、俺の腕からボールがこぼれ落ちる!!
 床に落ちる前になんとか指先がボールに届き、わずかに落下を止めているうちに、どうにか拾い上げてヒットを免れた。

 あ、危ねえ……。まさか守備を捨てた全力攻撃をしてくるとは。
 何とか捕ることができたものの、あれを次も防げる自信は無いぞ。
 だが、シュートの威力は凄かったけど、ダッシュをした上にボールを投げる動作も大きかったから、宮川は攻撃後に体勢を崩して、すぐには動けなかったみたいだ。
 
 さっきは、俺がボールを捕るのにもたついたせいで、宮川に時間を与えてしまったが、、体勢を立て直すよりも早く沢村にパスを回して、近距離からの攻撃を当てることができれば……勝てるかもしれない。
 
 そのためには、宮川のシュートを時間をかけずにキャッチする必要がある。そもそも、あの剛速球をもう一度捕れるかどうか怪しいが、やるしかない。

 パスを受け取った沢村が宮川を攻撃する。しかし、距離を離されている状態のため、やはりキャッチされてしまう。
 
 俺が攻撃に備えて身構えていると、宮川が再び突進してきて、全力でボールを投げてきた!!

「ぐうっ……!!」

 少しでもしくじれば、腕から飛び出すくらいに強烈なシュートを身体で受け止める!!
 そのまま必死にこらえ続けていると……ボールが止まった!!

「頼む!!」

 宮川から近い場所まで移動していた沢村に急いでパスを回す。ボールを受け取った沢村がシュートするのと、体勢を立て直した宮川が沢村の方に向いて攻撃に備えるのがほぼ同時だった。
 
 俺達が今できる最大の攻撃だ。これで決まってくれ!!

「ぐあっ!!」

 沢村のシュートを宮川は受け止めることができなかった。
 はじかれたボールがそのまま床に落ちる。

「試合終了!! 2-Dの勝利!!」

 か、勝った……。俺達の実力だけで勝ったんだ!!

「やった!! やったぜ、吉村!! 俺達の優勝だーー!!」

 沢村が大喜びしながら俺の所にダッシュしてきた。
 クラスの皆も優勝したことで、凄く湧き上がっている。

「吉村、いいぞーー!!」
「よくやったーー!!」

 すると、クラスの男子達もこっちに駆け寄ってきた。と思ったら、俺の身体をガシッとつかんでくる。

「いくぞ! せーの!!」
「おわああああぁぁ!!」

 男子達が掛け声を上げると、いきなり俺を胴上げし始めた!!
 な、何だ!? このノリは!!

 ポンポンと何度も結構な高さで放り上げられて、周囲からドッと笑いが巻き起こる。
 最後に一段と高く放り上げられてから、ようやく胴上げから解放された。

「力以外は全然ダメな俺が、試合で活躍できた上にこうして優勝できたのも、吉村がいてくれたおかげだよ。本当にありがとう」

 他の男子達と一緒に胴上げしていた沢村が俺に感謝の言葉をしみじみと述べる。

「そもそもは沢村がドッジボールを熱心に取り組んでたから優勝できたんだろ。俺だけだったら、そもそも練習しようとさえしなかったぜ?」

 俺がドッジボールを練習し始めたのは、沢村の頼みを断り切れなかったのがきっかけだもんな。あれが無かったら、能力を発動させないで球技大会を乗り切ることしか考えていなかったに違いない。

「凄い盛り上がりだったね。吉村君なんて胴上げまでされてたし」

 胴上げも終わって落ち着いたところに三浦がやって来た。

「まさか胴上げされるとは思わなかったからなあ。突然のことで驚いた驚いた」
「でも、それだけみんなが優勝を喜んだってことだもんね。……うん、改めて優勝おめでとう」
「三浦も応援ありがとう。何とか期待に応えられてよかったよ」

 何度攻撃しても1対2の状況をひっくり返すことができずに俺が諦めかけていた時、三浦が応援してくれたおかげで心を持ち直し、最後まであがいた結果、逆転勝ちができた。
 そう考えてみれば、俺と沢村だけじゃなくって、三浦や一樹かずき、それからセレスに助けられたこそ優勝できたんだよな……。

「じゃあ、優勝記念にメンバー全員で撮影するから、集まってー」

 三浦がスマホを片手に俺達へ呼びかけてきた。

 え、記念撮影って……俺達の?
 俺が学校で撮影されるといえば、クラスごとの集合写真くらいで、おまけに目立たない端っこに位置するのが定番だったのに、メインで映るのか?

 理解が追いついていない俺をよそに、他のクラスメイト達もスマホを用意し始めた。すると、三浦が「こっち、こっち」と言って俺達をコート中央に誘導する。

「行こうぜ、吉村!!」
「そうだな。しかし記念撮影な……」

 俺は少し戸惑いながら、喜んでコートに向かう沢村についていくと、一樹かずき達も遅れて後に続いてきた。

 坂本、上条、清水、関口は「俺達は特に何をしたわけじゃないし……」と言って、俺と沢村が前に出るようにうながすと、後ろに下がり、一樹かずきもそれに続こうとする。

「悪い、写すのをちょっと待って欲しい」

 三浦達に撮影を少し待ってもらい、一樹かずきを呼んで、2人で少し離れた所に移動した。

「一樹《かずき》も一緒に前で写ろうぜ。お前だって立派な優勝の立役者|《たてやくしゃ》なんだからさ」
「俺が? 試合で活躍なんかほとんどしてねえぞ?」
「お前が俺をヒットから助けてくれなかったら、こっちが負けてたぜ? それに……」

 周りに聞こえないように、声のトーンを落として言葉を続ける。

「お前が練習に付き合ってくれなきゃ、実戦でボールを投げる自信なんて持てなかったんだ。そうしたら事故るのが怖くて、沢村とは最低限の練習しかやらなかったから、まず1回戦で負けてたよ。だからさ、一緒にメインで写ろうぜ」
「そっか、……分かったよ」

 俺の能力に関わることだから、一樹かずきの協力を周りの人間に話すわけにはいかない。
 だからといって、一樹かずきが後ろに引っ込んでしまうのは、俺と沢村だけがおいしい所を持っていく感じで嫌だったんだ。

 コート中央に戻ると、俺が真ん中に位置取り、一樹かずきと沢村が俺を左右に挟み、坂本達4人が後ろで控える形になる。

「じゃあ、いくよー、ハイっ!」

 写真に写り慣れていない俺だが、三浦の合図を受けて精一杯の笑顔を浮かべた。あまりいい表情じゃないかもしれないが、それは流してほしい。

 ――こうして、俺の球技大会は優勝という結果を残して幕を閉じた。

 結局、俺の能力は役に立つどころか、終始足を引っ張られっぱなしだったな……。
 身体が丈夫になっているから、練習で沢村のシュートを受けても全然痛くないというメリットがありはした。
 しかし、能力が無ければやる必要のない、投げるボールの強さを普通に抑える練習をした時に、メリットをはるかに上回る程の痛い目にあったし、一緒に練習した一樹かずきに至っては何度も死にかけている。

 ……だけど、この能力が無ければ、ドッジボールに全力で取り組むことも無く、試合で活躍することも無かっただろう。

 まともに制御もできず、能力のせいで迷惑を掛けた人は数知れず。
 ロクでもないチート能力だけど、それがきっかけになって、自分の実力で沢村達と共に球技大会優勝という、今までの俺では想像もできないような記録を残すことができた。
 
 ……それだけは能力に感謝するべきなのかもしれない。
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