要らねえチート物語

汐乃タツヤ

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第四章

第44話 未知との遭遇

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 球技大会が終わった日の夕方。
 母さんはパートに出ていたので、家にいたセレスに球技大会を無事終えたのとドッジボールで優勝したことを報告した。
 セレスから「おめでとうございます。練習を重ねた成果が出ましたね」と祝いの言葉を受け取った後、自分の部屋でのんびりしていると、スマホが振動する。
 
 画面を確認すると、三浦から『優勝やったね!!』というメッセージと共に優勝記念にメンバー全員で撮影した画像が添付されていて、ご丁寧にも『☆祝・2-D ドッジボール優勝☆』と光り輝くテロップが書き加えられていた。

 こうやって優勝という結果を残せるなんて、今までの自分では想像もつかない。
 他に結果を残したと言えば、小学生の頃に夏休みの宿題で絵を出した時の『がんばったで賞』という名の参加賞しかなかったもんなあ……。

『わざわざ画像の編集までしてもらって悪い。結構手間がかかったんじゃ?』
『そうでもないよ。アプリを使えば簡単に文字を入れられるから』
『そんなアプリがあるんだ。俺は写真を全然撮らないからそんなの知らなかったな』
『他にも色んなエフェクトを追加できるから結構面白いよ。あ、でも吉村君なら能力を使えば自力でエフェクトを出せそうだね』
『……それは事故が起きる予感しかしないから止めておく』

 メッセージのやり取りがひと段落すると、『ちょうど回ってきたから送っとくね』と俺がクラスメイト達に胴上げされている動画が送られてきた。

 わざわざこんな動画まで送らなくてもいいのに。というか、どこに出回ってるんだこの動画は。

「ただいまー。聖也まさや、試合はどうだった?」

 パートから帰ってきた母さんに画像を見せたら「優勝なんて凄いじゃない!! しかもアンタが写真の中心にいるなんて初めて見たわ!!」と想定以上の驚き方をされ、ついでに動画を見せると「お父さんにも知らせるから、私にも送りなさい!!」と騒ぎ出す始末だった。

 ……いくらなんでも大げさ過ぎない?
 俺が比良塚ひらつか高校に受かった時でさえ、母さんはここまで興奮してなかったぞ。

 こんな調子で我が家はお祭り騒ぎとなり、その日の夕食はやたらと豪華なものになった。

 その翌日、俺が教室に入ると、男子数名から質問が飛んでくる。

「球技大会が始まる前から練習してたって聞いたけど、どれくらい練習をしたんだ?」
「吉村! 試合の作戦は全部お前が考えたんだってな。どんな作戦だったのか教えてくれよ」

 俺が質問に答えているうちにチャイムが鳴り、ゆかり先生が教室に入ってきた。

「昨日はドッジボール優勝おめでとう! 私も見たけど決勝戦は凄かったわねー。沢村君の攻めも、吉村君の受け……守りも。で、では、球技大会も終わったことだし、今度は勉強を頑張っていきましょう!」

 そんなこんなで、球技大会が終わってから10日が経った。
 最初こそ色々と声をかけられもしたが、今はそれも落ち着き、どうにか能力を暴発させることもなく平凡な日々を過ごしている。

 それはいいのだが、凶悪な強さで力が出てしまう俺の能力を何とかするメドは全くついてなかった。
 今はまだ能力を発動させずに済んでいるが、このまま月日が過ぎて環境や状況が変わったら、どうなるか分からない。
 
 特に社会人になったら、力仕事をする場面だってあるだろうし、走らなきゃいけないくらいに急ぐことだってあるだろう。
 リモートワークで家にいたままできる仕事もあるらしいけど、望み通りのところに都合良く就職できるとは到底とうてい思えない。

 かといって、能力を制御しようにも、何をすれば練習になるのかさえ不明なままだ。
 ドッジボールの時は、全力で投げたボールが相手に届く前に、宿ったエネルギーを使い切るようイメージした必殺技にすることで、何とか人並みの強さに抑えたってだけ。
 あくまでもその場しのぎに過ぎず、力加減を自由にできるようになったとは言えない。

 そうなると頼みの綱はセレスに能力を解除してもらうことだが、もともとセレス自身でも俺から能力を外せない程強固に定着させたのに加えて、この世界にいるせいでセレスの力が相当弱くなってしまった。
 そのため、力を高めるためにセレスは毎日鍛錬たんれんをしているわけだけど……。

× × ×

「今日もお疲れ。……ところで、少しは力が戻ってきた感じとかってある?」
「いえ、ほぼ変化はありません。元々短い期間で力は身につかないのですが、予想した通り、こちらの世界ではさらに時間がかかりそうです」

 どれくらい力を取り戻したのか気になって鍛錬たんれん中のセレスに尋ねてみたが、やはりほとんど進展は無いみたいだ。

 前に聞いた話では、100年鍛錬たんれんを続けてようやく俺の能力を解除できる可能性が出てくるという。

 もちろん、そんな長い年数を待っていられないから、いい方法を考えなきゃいけない。 だけど、セレスでは能力を外すことができないし、俺が能力を制御しようと練習すれば、上手くいかずに何かしらの事故を起こしてしまう。
 俺達2人だけでは完全に手詰まりだ。何か手助けが来ないものか……。

「そういえば、セレスがこっちの世界にいたまま長く戻って来ないってなったら、別の神がこっちの様子を見に来たりはしない?」
「それが、私のいた世界は時間の流れが他の世界よりも大分緩やかなんです。そのため、この世界に長くいたとしてもさして問題にならないと思います」
「え、そうなの?」

 考えてみたら、俺が死んだ時もセレスの世界で過ごしたのはたった数分くらいなのに、生き返った時には1時間近く経っていた。
 ということはこっちで長く過ごしても、セレスの世界ではその10分の1くらいの時間しか経っていないってことか。

「それだと、セレスの様子を見に来るとしても大分遅くなりそうだな……」
「さらに言いますと、よほど事態が悪化しない限りは、マサヤの能力によってこの世界に混乱が生じるのを私だけで防ぐように命じられました。特に時間制限もありませんでしたので、そもそも様子を見に来るかどうかも分からないのです」
「そうは言っても、何も音沙汰おとさたが無い状態でセレスをずっと放っておくとは思えないけどなあ」
「それが、他の神はタカヒロのいる世界の混乱を収める方が優先されていますので、私の方まで手が回らないのではないかと……」

 そうだった。俺と同じ能力を渡されて異世界に行った結果、魔王軍に洗脳され、凶悪な強さで人類を現在進行形で追い詰めているタカヒロがいたんだ。
 それなら俺達の方が後回しになるのも納得せざるを得ない。

 とはいえ、俺とセレスだけじゃどうにもならないし、何としても他の神に手伝ってもらいたい。しかし助けを求めるにしても、セレスが元いた世界に帰るだけの力を取り戻すのでさえ、数十年はかかるって話だからなあ……。
 もしも、セレスがスマホみたいな道具でも持っていたら、他の神に連絡が取れてこんなに悩まなくて済んだのに。
 
 ……待てよ。

「そうだ。魔法で他の神に連絡を取るっていうのは? それならセレスが向こうの世界に直接戻ろうとするよりも、必要な力が少なくて済んだりしない?」

 俺の提案にセレスが「あっ」と声を上げる。
 その手があったと言うような反応に俺の期待が高まるが、すぐにセレスの表情が浮かないものになる。

「確かに、元の世界に戻る魔法よりは必要な力は少ないのですが、それでも20年はかかるかと……」
「げっ、連絡を取るにも、そんなに時間がかかんの!?」
「他の世界に干渉すること自体が多大な力を必要としますので……」
「そ、そうなんだ……」

 考えてみれば、ゲームでも他の世界に干渉するには、いくつもの手順をこなさなきゃいけないとか、大掛かりな装置が必要になるとかでハードルが高いんだから、そう簡単にはいかないか……。

 ……あれ? セレスがこっちの世界に来たとは知らずに、三浦とセレスを呼び出す召喚儀式をやった時は、天使や悪魔に加えて奇怪な化け物といった、こことは明らかに別世界の存在を呼び出せたよな。
 ってことは、俺なら他の世界に干渉できる力があるんじゃないか!?

「あのさ、前にあったことなんだけど……」

 俺が召喚儀式で起きた出来事を一通り説明して、これって他の世界に干渉できたってことだよなとセレスに確認すると……。

「それは……他の世界に干渉しているのは間違いないですね……」
「やっぱり!? じゃあ俺がセレスのいた世界に繋ぎを取れる可能性はあるんだ!!」
「可能性はゼロではないと思いますが……この世界や私の世界以外にも、多くの世界が存在しているのです。話を聞く限り、マサヤの場合は無作為むさくいに世界へ干渉しているようですので、上手くいくかと聞かれれば、非常に厳しいかと」

 う、確かに。
 召喚結果があまりにもバラバラで、ある程度の絞り込みさえできなかったからセレスの意見はもっともだ。
 化け物を召喚してしまった時なんて、俺と三浦も危うく殺されるところだったし、下手すると大惨事だいさんじになりかねない。
 失敗した時のリスクをできるだけ小さくする方法って何かないか……?

 そうだ。相手を直に呼び出すのが危険なんだから、俺の必殺技でテレパシーを飛ばして相手とやり取りすればいいんだ。それなら直接攻撃を受ける心配も無いしな。

「ちょっと今から、セレスの世界にテレパシーで連絡を取れるか試してみる。これなら別の所に繋がっても大した害はないだろうし」

 セレスが見守る中、セレスの世界に俺の言葉が届くように全力で念じる。

『こんにちは。俺は地球という星に住んでいる吉村聖也よしむらまさやと言います。あなたはセレスという女神を知っていますか……』
(@¥$#!%?*+&~;=>”!!)
「うわあ!!」

 突如激しい頭痛と共に頭の中に甲高い金属音のような声が響き渡った。
 俺は悲鳴を上げて思わず手で耳をふさぐが、頭の中に声が響いているのだから、効果があるはずもない。

(&※¥☆×*〒◎+%§∬#<◆!!!!)
「ああああああ!!!!」
「マサヤ!! 一体どうしたんですか!?」

 頭の中でさらに声が大きくなり、頭痛もより激しくなる。
 床にうずくまって悶絶もんぜつする俺をセレスが慌ててゆさぶってくるが、頭が割れそうな程の痛さに返事をする余裕さえなかった。

 き……消えろ。この頭の中で響き渡る声なんか消えてくれ!!

 必死に念じ続けるも声が収まらず、凄まじい頭の痛みに精神が限界を迎えそうになった時――頭の中で響いていた声がピタリと止んだ。

 テ、テレパシーでも……こんなひどい目に遭うのかよ……。

 想像を絶する頭痛で精神力が尽きた俺はそのままバタリと倒れた。
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