要らねえチート物語

汐乃タツヤ

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第四章

第48話 三浦の動機

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――――――ハッ!?

 途切れていた意識が急に鮮明せんめいになる。俺は床に横たわっていて、目の前には三浦の寝顔があった。

「ええっ!?」

 反射的に起きた勢いで急角度のエビぞりになり腰に鋭い痛みが走る。

 ――そ、そうだ……ルーンの影響で頭がボーッとして……三浦と一緒に……って、俺は三浦に何をした?

 腰をさすりながら三浦を確認すると着衣の乱れはなく、特に変わったところはない。ひとまず潔白けっぱくであることが分かってホッとする。

 待てよ。あの時はルーンの気持ちよさに顔がゆるみきってたはずだ。そんな俺達を誰かが目撃していたら……ヤバいものをキメていたと思うんじゃないか?

 周囲を確認するが人の姿はない。安心していると三浦の声が聞こえてきた。

「ねえ……」

 振り返ってみると三浦は瞳をうるませながら何かを訴えている。ほんのり紅色に染まったほほゆるく開いた桜色の唇からは悩ましげな吐息がもれている。

 ――ま、まだルーンの影響が残ってるのか?

 三浦の身をよじらせる姿があまりにも色っぽくて目を離せない。

 ――いつもの三浦とは全然違う……。

 胸がどんどん高鳴っていき、言葉が出てこないまま三浦と見つめ合う。

「ねえ……見て、私の……」
「わ、私の?」
「私の作った護符の力を……ほら、悪霊がどんどん消えていく……」

 ――中身は完全にいつも通りだ。

 うっとりとした表情でオカルトじみたセリフをつぶやく三浦に色気よりも際立きわだつヤバさを感じてドキドキした気持ちが急速にしぼんでいく。

 感情を乱高下させていると、三浦が目を覚ましていつもの表情に戻った。

「あ、あれ? 私どうしたの?」
「ルーンの影響で意識が飛んでたんだよ。ついさっきまで俺も同じだった」
「そうなんだ……。意識がない間に私は何をしてたんだろう……」
「えっと、自作の護符で悪霊退治する夢を見てたっぽい」
「言われてみれば、そんな夢を見てた気がする……」

 質問が終わると三浦はスマホをチェックし始めた。どうやらつやっぽい仕草の記憶はないらしい。もし追及されたら何て答えればいいのかと内心ヒヤヒヤしていたのでホッとする。

「今が3時半だから……ルーンの効果は30分くらい?」
「30分で済んだ分まだマシな方か。にしても石が砕け散るのは予想外だったなぁ……」

 ──これじゃあ単純に力をぶっ放したのと大差ないし、心が安らぐのを通り越して完全に意識がトリップしていた……これ中毒性ちゅうどくせいがあったりしないよな?

 不安をつのらせていると突然、三浦が身体をビクッとさせて持っていたスマホを落とした。

「あ……ああああああ……」

 三浦は胸を押さえてうずくまり、ガクガクと震えだす。どう見ても正常じゃない。

「三浦!? 一体どうし……」

 その時、俺にも異変が訪れた。

「うああああああ…………」

 急に心が苦しくなり涙がこぼれ落ちてくる。何も考えられず声にならない声を上げながら涙を流すことしかできない。

 突如とつじょ訪れた心の苦しみは1時間ほど続いた。

 × × ×

「三浦、大丈夫か? まだ影響が残ったりはしてない?」
「ううん。苦しさはキレイに無くなってる……」

 これはどう考えてもルーンの影響だよな……。

「でも、どうして苦しくなったんだろう。ルーン占いで『ウィン』の文字が逆位置になったとしても、当てが外れるとか、油断して失敗するとかになるのに……」
「へ? 苦しみって意味はあったりしないの?」
「うん」

 どういうことだ? ルーンの影響で心は安らいだが、後で長い間苦しくなった。副作用だと思うが因果関係いんがかんけいがわからない。

「それにしても心が安らいだ後に苦しくなるって、真逆の現象だよね」
「だよなあ。まるで反動が出たというか……」

 三浦の意見に相づちを打っていると1つの考えがひらめいた。

「そうか、あれだ!!」
「あれって何?」
「ああ、ゲームの例えだけど、一定時間大幅にパワーアップするけど、効果が切れたら反動ではるかにパワーダウンすることがあるんだ。さっきの現象もこれじゃないかなって」
「そうなの? 他に裕福を意味するルーン文字もあるんだけど、もしそれで試してたら……」
「一旦は金持ちになるけど、後でそれ以上の貧乏になる……って怖っ!!」

 あ、危ねえ……。試したのが心の安らぎでまだよかった。

「ルーン文字を使うのはやめておこう。反動が危険すぎる」
「うーん、残念だけど仕方ないよね。今日は帰ろう……」

 三浦は残念そうにため息を吐く。反動がデカすぎたせいか、あれこれ試してみようという気は起きないみたいだった。

 × × ×

 三浦と一緒に下校しているが、特に会話がはずむわけでもなく、お互いに無言だった。

 ――このまま会話しないのも気まずいし、何か話さないと。

「あ、あのさ。今日は迷惑をかけてごめん……」
「え? 考え事してて聞いてなかった」
「今日は迷惑をかけてごめんって」
「ああ、それね。普段絶対にできない体験だったから、それは別にいいんだけど。今だって他の方法を考えてたくらいだし」
「何ていうか凄いタフだな……。よくそこまで熱心に取り組んでくれるよな」
「だってアニメみたいに特殊な力が存在する非日常を味わえるもの。関わらないなんて、もったいないじゃない」
「そっち!? てっきり魔術の実践ができるからだとばかり……」
「もちろん魔術の実践も目的の1つだよ。でもファンタジーを体験したいっていうのが一番かな。小さいころは『ラブキュア』に凄くハマってたし」
「あー、その辺の定番は押さえてたんだ」

 ラブキュアと言えば、20年近くシリーズが続いている変身もののニチアサアニメで、小さな女の子と大きなお友達の御用達ごようたしだ。俺はキチンと見たことがないから断片的な知識があるだけだが……。

 そういや、召喚儀式をやった時に三浦が着ていた服は、ガチの魔女というよりもゲームや漫画に出てくる女魔法使いという感じだった。あの格好も『ラブキュア』の影響を受けていたのかもしれない。

「でも、私は魔神みたいな存在に会ったわけじゃないし、能力のことで苦労してるわけじゃないから言える話だよね……無神経なこと言っちゃってごめん」
「いいよ。立場が逆だったら俺も同じような反応をしてたかもしれないし。それに俺の能力とやらかしを知った上で、こうして普通に接してくれるのは嬉しいよ」
「そう言ってもらえるならいいんだけど……」

 こうして会話をしていると駅に着いたので、電車に乗る三浦とは別れて俺はそのまま家へ向かった。

 ――そういえばセレスは物に魔法の力を込めることはできるんだろうか? 途中で適当な小石でも拾って試してもらおう。

 × × ×

「ダメでした。今の私では女神の力を込めることさえできないのですね……」
 
 俺の試みはセレスを落ちこませただけだった。どうやら女神の力をこめた品を授けることができないというのはアイデンティティ的に大きなショックだったらしい。
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