終末の世界で

雨宮 叶月

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第5話 希望

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「はぁっ、はぁっ」

ロイは漏れ出る日光を頼りに、走った。

「…………っ」

アイリーンが苦しそうに呻《うめ》く。

ロイは、肩に回したアイリーンの手をさらに強く握った。

走る速度を上げる。

それでも、見えるのは瓦礫ばかりだ。

フェンリスの声は聞こえない。
でも、後ろから追ってくるカイルの足音も聞こえない。


「……はっ、」


ロイは瓦礫につまずき、膝から崩れ落ちた。

もう、体力なんて残っていない。走っているときも、どこに体力があったのかと思っていた。

ロイは片足を踏ん張り、ふらふらと歩き出した。

しかし、そこでロイは気付いた。
いつの間にか、目の前に森があった。

揺れる視界の中必死に走ったからなのだろうか。空は曇っていても、太陽の光を受ける緑の木がやけに美しく見えた。

「アイリーン…森を抜けたら、街が見えるかもしれないから、」

息も絶え絶えに言う。

アイリーンは顔を上げた。
そして、柔らかく微笑んだ。

「私のことは、置いて、行って」

地面に手と膝をつき、血が口から落ちる。

「そんなこと、言わないでください…!」
「私ももう、限界だから。……もう1歩は、貴方が代わりに歩いて。」
「…え?」
「…希望を見せてくれて、私たちと出会ってくれて、ありがとう」

そう言うとアイリーンは、最期の力を振り絞ってロイに回復魔法をかけた。
魔力はほぼ0に近かったため、ロイの体が少し軽くなる程度だったが、ロイはそれだけで充分だった。

「アイリーン……」
そんな風に託されたら、進むしかないじゃないか。

ロイは目元を拭いながら歩いた。それでも、涙は止まらない。

「っふぅ、はぁっ、ぐずっ、っぅ、」

どうして、こんなにも仲間を失わなければならないのだろうか。
もっと、みんなといたかった。一緒に笑いあえたら、それだけでよかったのに。

ロイの足は次第に速くなり、走り始める。



ロイは走った。木々を突き抜けていく、清らかな風を受けながら、自分が出会ってきた人のことを考えた。

荒野で一緒に暮らした仲間、御者のおじいさん、屋台の店主達、たくさんの依頼人、ギルドのみんな、街の人々。

…そして、大切な仲間。
ヌイ、エリス、カイル、アイリーン。

みんな大好きで、一緒にいたくて、でも失ってしまう、手に収まりきらないほどの光。

自分には、命をかけて守ってもらうような価値はないのに。


ロイの走る速度は次第に遅くなっていき、ついに止まった。
その場に膝から崩れ落ちる。

視界がかすむ。夢を見ているような感覚で、ロイは仰向けに倒れた。


「あ……」


ロイの瞳には、光を受けて輝いている緑の葉が視界いっぱいに映った。
現実か、幻か。

ここはまさに、ロイの探す『緑の大地』だった。

思わず手を伸ばす。

『緑の大地に触れた者は、己の人生の本当の意味が分かる。』
この伝承の意味が、少し分かった気がした。

夢を諦めず、仲間と共に人生を歩む。
何気ない日々の愛おしさ。

『…希望を見せてくれて、私たちと出会ってくれて、ありがとう』
ふと、アイリーンの言葉が思い浮かんだ。

『……ヮン』
『ロイは、希望を見せてくれて…』
『……お前の見る景色を、俺も見たかった』
大切な仲間の声が、再生されていく。


そのとき、ロイは温もりを感じた。
ヌイのふさふさとした毛の感触。そして、エリスとカイル、アイリーンの手がロイに添えられている感覚。

まるで、ロイの見ている景色を、みんなで見ているような。

ロイは、希望に満ちた瞳でふわりと笑った。



「…ああ、そうだ。私が見たかったのは、この景色だ。」


目を閉じる。

ロイは息を吐いた。
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