転移先は日本でしたが、あまりにも楽しいのでスローライフを目指します!~従者(ヤンデレ)がついてきた件~

雨宮 叶月

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第4章

夜灯

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 夜の帳が降りるころ、リビングの明かりの下で私はパソコンに向かっていた。
 卒業研究の締め切りが近い。あと少しで完成するのに、最後の分析が思うように進まない。

「……もう少し、もう少しだけ」
 小さくつぶやいたそのとき、後ろから影が伸びた。

「星羅さん」
 静かな声。振り向くと、隼人さんがココアを片手に立っていた。
 白いシャツの袖を少しだけまくり、いつものように落ち着いた笑みを浮かべている。

「集中してますね」
「すみません、もう少しで終わりそうで……」
「いいえ。星羅さんが頑張る姿は、見ていて飽きませんから」

 彼はカップを差し出した。
 「少し休憩しましょう」と言いながら、私の隣に腰を下ろす。
 その仕草があまりに自然で、どこか安心してしまう。

「ありがとうございます。隼人さんの淹れるココア、いつも美味しいです」
「ええ。星羅さんの好きな香り、ちゃんと覚えてますから」

 そう言って、彼は私の頬に手を添えた。
 少し冷たい指先。けれど、その温度が逆に心地よい。

「無理はしないでくださいね」
「はい。でも、もう少し頑張りたくて」
「……そうですか」

 その瞬間、ほんの一拍だけ――彼の笑みがわずかに揺れた。

 気のせいだろうか。
 でも、その目の奥に宿る何かが、少しだけ胸を締めつけた。


 翌日。研究室では、私の発表準備の打ち合わせが行われていた。
 グループの中で、同期の一人・海くんが何かとサポートしてくれている。
 同じ班で話す機会が増えただけなのに、周りは妙に茶化してくる。

「篠原と海って仲良いよな~」
「いやいや、研究の話ばっかりですよ」
 笑ってごまかしたけれど、ふと――隼人さんがこの光景を見たら、どんな顔をするだろう、と思ってしまった。

 その日の帰宅は夜九時を過ぎていた。
 部屋の明かりはついていたが、隼人さんはソファに座ったまま、無言で資料に目を通していた。

「……ただいまです」
「おかえりなさい。遅かったですね」

責めているわけじゃないのに、なぜか心臓が強く打つ。

「ごめんなさい、少しゼミが長引いて……」
「そうですか。誰と一緒でした?」
「え……? いつもの班の人たちです」

 その言葉に、彼はほんの僅かだけ目を細めた。
 けれど、すぐに穏やかな笑みを取り戻す。

「……そうでしたか。星羅さんが頑張っているのは、俺が一番知っています」
 そう言って、立ち上がるとキッチンへ向かい、温かいスープをテーブルに置いた。

「冷えたでしょう。食べてください」
「隼人さん……」
「あなたが笑ってくれないと、俺の夜は終わらないので」

 その言葉に胸が熱くなる。
 けれど――どこか、背筋が震えるような感覚もあった。


 食事を終えて、私が片付けをしていると、後ろから腕が伸びてくる。
 静かに、でも逃げられないほどの力で抱きしめられた。

「……隼人さん?」
「寂しかったですよ」
「えっ……」
「星羅さんが、俺の知らないところで誰かと笑ってると思うと……少し、落ち着かなくなります」

 低い声が耳元で震える。
 優しいのに、どこか危うい。

「……でも、頑張ってる姿は本当に好きです」
「…ありがとうございます」
「だから、ちゃんと覚えておいてください」

 囁きが、頬をかすめた。
「俺は一番近くで見ている。誰よりも、あなたの努力も、疲れも、全部知っています」

 彼の腕が、少しだけ強く締まる。
 息が詰まりそうなのに、不思議と嫌じゃなかった。

「……これからも、ずっと隣にいてくださいね」
 その声は、まるで誓いのようで――
 私はただ、小さくうなずくしかなかった。

 温もりと、わずかな怖さが同居する夜。
 それが、私たちの“普通”になっていくのを、私はまだ知らなかった。
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