ひとりぐらし

雨宮 叶月

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氷室伊織の場合

第43話 少女Eの想い③

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私はいつも物事を一人で解決してきた。

例えば、小学1年生のころ。折り鶴を折るのだが、上級生が教えてくれることになっていた。

しかし、誰も私のところには来なかった。聞いても迷惑だろうと思い試行錯誤して折った。授業終わりくらいまで折り続けている私のところには最後まで誰も来てくれなかった。


また、同時期の頃、探検ごっこのようなものをやっていた。友達に私の鉛筆を何本か貸していたのだが、チャイムが鳴ると同時に放り投げて走って行ってしまった。階段だったためすべて折れてしまったが、謝ってはくれなかった。

私は徐々に「ひとり」が一番楽だと気付き始めた。

ずっと、ひとりでいたい。

そうすれば、好きな時に勉強できて、休むことができる。失敗は誰にも知られない。生きているのが辛い、価値が分からない。



どれだけ過程で頑張っても、みんな結果しか見ない。

そんな人生なんていらないと思った。






………でも、本当は愛されたかった。

みんなに好かれたくて、ここまで一生懸命頑張って、上辺だけの笑顔を張り付けて、いや、それは最近かもしれない、お世辞を言って、誰にも逆らわないで。


物語のヒロインが羨ましかった。
何もせず、自分の意志だけでみんなから愛されている。

私は、自分の意思を強く持つことなんて、許されなかったというのに。



自由を侵害されるのは怒りと悲しみを感じる。話が通じない人にいくら話しても通じない。すぐ泣く人も好きではない。それで「苦しんでいる」というのなら泣くのも怒るのも我慢している私はどうなるの?


____________________________________


6時間目が移動教室だったとき。そのあとはすぐ掃除だったが、授業が長引いた。

数学の先生が「早くしろ」とみんなに呼び掛けた。私ももちろん急いだ。

しかし、前から人が横切ったので止まった。


後ろが詰まっていたのか、「ーー!!!」と大きな声で名前を呼ばれた。

たまたま前にいただけかもしれない。先生は何も考えず言っただけかもしれない。


息ができなかった。学年のみんなの前で注意されたことなんて初めてだった。



後悔した。何に?自分でも分からない。
でも自分を憎んだ。

私は何を恐れているのだろう。



失敗は取り返せても、名誉は、心は、取り返せない。


___________________________________


なぜだろう、私が強く責められ続けるのは。過去の失敗を持ち出されて、消えたいという気持ちが強くなるのも。分かっているのに。傷つくことにも、もう慣れたのに、苦しい。

良い子を演じても、悪者にされ続ける。

もう、疲れた。

この世界が、大嫌い。でもそれ以上に、自分が嫌い。



礼儀正しくしても、そうじゃない人の好感度のほうが上。努力しても報われない。

今までの行動だって忘れられて逆ギレされる。

過程なんて意味がない、だってみんな結果しか見ないから。




みんな、ハッピーエンドに慣れすぎている。

いつか自分は報われる、自分の第一志望に行ける。

そう思って疑っていないんだ。




私が外や学校でどんなに良い子を演じていい行動をしているのかも知らないくせに。

「あなたは悪い奴だ。いい子であって欲しかった」なんて。



私だって昔は、認めてもらいたくて頑張った。でも、その時貴方は私の努力を否定したでしょう?誰かと比べたでしょう?そして、私は完璧を目指すようになった。なれるわけがないのに。


もし家族がいなかったら、どんなに安心するだろう。本当の意味で人生を生きることができるだろう。

今のままじゃ私の心が完全に壊れる。




大丈夫、ひどい言葉を言われても。大丈夫。ゴミのほうが私よりも良いと言われても。大丈夫。涙を流す必要もない。分かってる。勉強の時間を邪魔されても、過去の失敗を責められても。憎悪を向けられてこんなに苦しいのはなぜ?涙が止まらないのはなぜ?





______________________________________


生徒会に入って2回目の旗上げ。私は重大なミスを犯したことに気付いた。



リボンが、ない。



探してもない。きっと家にあるのだろう。

私は気づかないふりをすることにした。しかし、私の席は前から2番目。いつか声をかけられる。


びくびくしながらも職員室に向かった。

厳しいと言われる体育の先生に会った。


挨拶は返してくれたが、最後に「ーー、リボン」。私ははっとしたふりをした。駄目だ。授業の時先生に言わなければならない。


1時間目は体育だが、テストも近いので教室で授業となった。本当に、運が悪かった。


担当の先生は、面接の時に理不尽なことを言った生徒指導、体育の先生だった。



私の前の男子もネクタイを忘れていたが、軽く流されていてホッとした、しかしここからが悪夢の始まりだった。



「先生。リボンを忘れました。」



「え、お前生徒会だろ?なんで忘れるんだよ。」


「すみません。これからは気を付けます。忘れないようにします。」




「いや、前生徒会を持ち上げさせてくれって話したよな?これからどうするんだ?親御さんに持ってきてもらうことはできないのか?」



「はい。次からは絶対に忘れません。」




「いや、今日が本番なんだよ。これからどうするんだ?」



生徒会だからって忘れ物をしないわけではない。
それに、今日は本番でもなんでもない。言っている意味が分からなかったし、思ったよりも話が長引いた。これから気を付ける、のではだめなのかと一生懸命考えたが、やはり分からなかった。



「職員室に行って貸してもらうことは、、、」



「ダメに決まってるだろ。そんなことしたらたくさんの人が来てしまうだろ。」



言葉を遮られた。私だってこれは違うと思った、でもほかにどういえばいいのか分からなくて泣きたくなった。リボンはあってもなくても授業には関係ない、教科書は忘れていないんだから。ここまででいいじゃないか、人間完璧にはできていない。


「ところで、お前このクラスで活躍しているか?」



先生が何を言いたいのか瞬時に理解できた。私としては活躍していると思う。クラスで一番勉強できるのは私だし、たくさんの人に勉強を教えている。恐らく先生は呼びかけをしていない、ということを責めたいのだろう。

では生徒会になったのになぜ私が呼びかけをしていないのか?



呼びかけをする必要がないほどみんながちゃんとしているからだ。



同じクラスのもう一人の生徒会は代議員で、最初からしていた。そのため続けていても違和感はないし、最近は必要ないのに担任の前で呼びかけをしたりしていた。


勉強ができている、活躍できていると自分でいうのはおかしい。だから。



「、、、いいえ。」



職員室ではお前の噂をあまり聞かない。それに比べてもう一人の生徒会はちゃんとしている。本当によく頑張っている。お前はどうなんだ?」



「すみません、これからはします」

話がずれてきていると思った。そして私がどれだけ頑張っているのか知らないくせに、と思った。
あの子のことばっか褒める。これじゃ私が、悪者、では?


あとから思ったが、「このままで受けさせてください」と言うべきだったのかもしれない。


もうすぐチャイムが鳴るからか、次からはちゃんとしろよ、で終わった。



やっと解放された、と思ったが、甘かった。



その日は教科書を忘れていた人が多かった。
だから先生が注意みたいなのをしている合間に、私のことが何度も何度も持ち出された。


「お前活躍していないだろ?」

「……」

「そうだよな?」


「……はい」


無理やり言わされるこの空気が耐えられなかった。


「まあ、教科書はあるけど。」


もったいない、と言いたげなその声。まるで私が教科書も忘れたほうが良かったというようだった。


先生の話は私ともう1人の生徒会を比べる発言が9割。


別に悲しいわけじゃない。恥ずかしかった。情けなかった。そして、自分をこの上なく憎み、消えたいと思った。誰からも忘れられたい。


先生が忘れ物チェックをするといった。


「ーー。」



「…ありません。」



「、、、。違う、教科書があるかどうか。リボンがどうのこうのという話じゃない。」



すぐに言い直した。でももう私は限界だった。恥ずかしかった。死にたかった。




この失敗は未だに覚えている。笑顔を作ろうとするたびに頭をよぎって、笑えなくなる。胸が詰まって体が熱くなる。そして自分を殴りたくなる。




そのあとその先生が「厳しいこと言ったけど、まあ頑張って」と言った。

ぐっと言い返したくなる言葉を飲み込んだ。きっと後に優しいことを言って印象を良くさせるつもりだったのだろう。


言葉では上手く表せないが、とにかく苦痛だった。私はいつだって頑張っている。



休憩中、その先生が顧問をしている部活の子が「怖かったね、大丈夫?」と言ってくれた。救われるような思いだった。



しかし私が声が小さいながらも頑張って呼びかけをしていたのにも関わらず「委員長なんだからもっと頑張って」と言われたのをきっかけに気持ちは冷めていった。

私は委員長ではなく副委員長、児童会ではなく生徒会。

誰も私に興味なんかあるはずない。別にいいけれど、見かけで判断されたくはなかった。

昼休憩の時ももともと仲が良かった子たちが慰めようとしてくれたが、言ってくれたことは何かが違った。違和感があった。きっと私とその子たちが感じたことは違うのだろう。


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