【完結保証】超能力者学園の転入生は生徒会長を溺愛する

兔世夜美(トヨヤミ)

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第四章 PHANTOM OF CRY

幕間 西風の誓い

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 朝。吾妻は目覚めて、ぼんやりとした顔で昨日までのことを反芻した。
 顔がしまりなくにやける。
 夢のようだ。
 白倉と、これから晴れて恋人同士。

(デートとか、キスとか、そん先…はまだはやい!
 だけど、ああ、白倉可愛いっ!!)

 幸福な煩悩を抱えて、頭を振り、それからはたと時計を見た。
 八時半。
「…………っ」
 遅刻だと、慌てて着替えて部屋を出た。



「アホやなー」
 食堂には、岩永や夕がいた。食事中の様子で、制服姿の吾妻を見上げる。
 皆、私服だ。
「……ああ、そっか今日」
 吾妻はやっと理解して、ホッと胸をなで下ろす。
 休日だった。
「まあ、無理ないか。ここ最近大変やったもんな…」
 休日を忘れていても無理はない、と岩永。
 夕もそうだな、という風に頷く。
「とりあえず、着替えて来ぃや。
 お腹へったやろ?」
「あ、うん」
 椅子に座ったままの岩永に促され、吾妻は身を翻す。
「すぐ着替えてくる」
 笑ってそう言い、食堂を出た。


 吾妻は廊下を歩きながら、今の幸福が夢ではないことを噛みしめる。
 岩永達の様子からも、夢ではないことを感じ取れたのだ。
 しかし、白倉がいなかった。生徒会の仕事なら、岩永たちだってそうだし。
 そう考えて、足を止めた時、眼前で靴音がした。
「吾妻」
 柔らかいテノール。吾妻はがばっと顔を上げた。
 少しびっくりした顔で、白倉は吾妻を見上げている。
「白倉」
 頬を赤くして、自分をじっと見つめてくる吾妻を前に、白倉はふんわりと微笑む。
「勘違いしたの?」
  と聞くから、吾妻は自分の格好を思い出して、顔から火が出るほど恥ずかしくなった。
 岩永たちに指摘されたときは、そんなに恥ずかしくなかったのに。
「…う、うん」
「…別にそんな、恥ずかしがらないでいいのに」
 白倉は澄んだ瞳で吾妻を見上げて、傍に近寄る。
「勘違いくらい誰にだってあるし、吾妻、大変だったし…」
「…う、うん」
「…それに」
 吾妻の傍で、白倉は口元に手をやった。包帯に巻かれた左手。
「俺と恋人同士になった……ってことで、浮かれてくれてたんなら、うれしいな…」
 恥ずかしそうに、幸福そうに頬を赤らめ、白倉は言った。
 甘く掠れた声で。
 吾妻の心にクリティカルヒットだ。
「…いいの? 僕、鬱陶しくない?」
「…? なんで?
 俺も吾妻、好きなのに。うれしいのに」
「…ッッッ!」
 可愛らしく小首を傾げて上目遣いに見つめられ、吾妻は耳まで真っ赤にすると、白倉の身体をぎゅっと抱きしめた。
「……可愛い……っ!」
 こんなに可愛い生き物が、自分のものだなんて。
 幸せすぎる。
「あがつま…」
 腕の中で白倉が少し苦しそうにしたので、吾妻は慌てて手を緩めた。
「ごめん」
「ううん」
 謝ると、白倉は紅潮した顔で、首を横に振る。
「吾妻に、抱きしめられるのは、気持ちいいから、好き…」
 なんて、可愛らしい言葉。
 吾妻の心臓は激しく高鳴りっぱなしだ。
 かわいいと叫びたい。辺り構わずかわいいって叫びたい。
 今まで、自分に好意的でも、恋愛じゃないときはこんなに無防備に愛らしいこと、言ってくれなかった。
 恋ってなんて素晴らしい。
 幸せ絶頂だ。
「…吾妻?」
 恋の幸せに浸って震えている吾妻を見上げて、白倉は首を傾げる。
「あ、ごめん…。えと、今から朝食?」
 吾妻は我に返って、白倉に問う。白倉はこくりと頷いた。
「白倉にしては、珍しいね」
 休日とはいえ、随分のんびりだ。
 そう言うと、白倉は少し赤みのマシになってきた頬を、また赤らめた。
「……」
「なに? 白倉。どうしたの?」
 口元を押さえて顔を背ける白倉に、優しく問いかける。
 背けた方向に回り込み、頬をそっと包むと上向かせた。
「……は、ずかしいし、…いやがられるもん」
「そんなことしない。誓うよ」
「………」
 吾妻が微笑んで誓うと、白倉は目尻まで赤くして「ほんと?」と問う。
 大きく頷いてやる。
 白倉はホッとして、口元から手を退かす。綻んだ唇。
「…吾妻の夢見て」
「僕の…?」
 あくまで自然に問いかけたが、その時、吾妻の鼓動は白倉に聞こえるんじゃないかと危惧するくらい高鳴った。
 期待が溢れる。
「……吾妻に」
 白倉はその先を、とても小さな声でもごもごと言ったので、よく聞こえなかった。
 が、聞きづらい中で、どうにか聞こえた単語があった。
 キス、と言った。
「…僕、キスしたの?」
 期待して聞くと、白倉は真っ赤な顔で言ったら駄目、という風に睨み付けてくる。
 しかし、ここまで顔を赤くして、潤んだ瞳で睨まれても怖いどころか、たまらなくかわいい。
「……白倉」
「………だから、起きて、思い出して、浮かれてたら……やから吾妻とおなじ」
 とても恥ずかしそうに視線を逸らして、白倉は掠れた声で言う。
「…白倉」
 吾妻は手を伸ばして、優しく抱きしめる。
 腕一杯の温もり。シャンプーの匂い。
 拒まれない至福。
「…可愛い……」
「…………」
 白倉は熱く息を吐くと、吾妻の背中に手を回してきた。
 きゅっとしがみつく。
 その、少し遠慮した力加減が、またかわいい。
「…今日、おやすみだね」
「…? うん」
「出かけない? 一緒に」
 そろり、と顔を上げた白倉に微笑みかける。
「二人で」
 そう告げると、白倉は赤い頬のまま、瞳をこれ以上ないほど潤ませて、こくりと頷いた。



「…あー…がー…つー…まー…………」
 その廊下の向こう。食堂の扉の傍。
 履いていたスリッパを掴んで、今すぐ投げつけるようなポーズを取った九生を、背後から岩永が押さえている。
「まあまあ。見守るって決めたんやろ?」
「…すぐ手、出しやがったらぶっ殺ーす………」
「まあまあ」
 すぐ傍で九生と岩永の様子を無表情で眺めていた男は、ため息を吐く。
 三年一組所属、時波幸紀だ。
 時波の様子を見ていた夕が、問いかけた。
「どないした?」
「………御園」
「ん?」
 真顔で自分の方を向かれて、夕は少し緊張した。
 手塚は心底そう思ったという、真剣な顔で言う。
「吾妻の髪をむしってはいけないだろうか?」
「…………………………………や? 駄目だぞ? 白倉が泣くぞ?」
「…………やっぱりそうなるだろうな。ままならないものだ………」
 沈痛な様子でため息を吐き、時波は食堂に足を踏み入れる。
 本気度合いで怖いのは、九生より時波の方だ、と夕は思った。



 私服に着替えて、朝食を取ってから出かけた。
 あの日を思い出して、海の方に向かう。
「…あ」
「どうした?」
 吾妻は不意に、思い出して足を止める。
 真剣な顔で見つめられ、白倉は足を止めた。
「僕たち、恋人だろ?」
「当たり前じゃないか」
 白倉は笑顔で答えるが、吾妻が少し納得いかない様子だったので、拗ねたように頬をふくらませる。
「…嫌なの?」
 白倉の言葉に、吾妻はハッとして白倉の頬を撫でる。
 逃げようとした身体を抱きしめて、はっきり言う。
「嫌じゃないよ。すごくうれしい!
 キスも、デートも、いろんなこと、したい」
「………」
 心底そう願った、甘く熱のこもった声で言われ、白倉がおとなしくなる。
 今すぐしたい、と切実さのこもった声だった。
 身体が熱くなる。
「したらいいのに」
 本心のまま伝えたら、吾妻は顔を赤くする。
「したいよ」
 低い声が本気の深度で告げて、顔が近づく。
 そっと重なったキスが、一度離れてまた重なる。
 深くなる。口内に差し込まれた舌が、自分の舌を絡め取って深く貪るように求めてきた。
「…っ……」
 充分堪能したあと、吾妻の唇が離れて、解放された。
 白倉は顔を赤くして、目元に涙を浮かべて吾妻の身体にすがりつく。
「…こんなキスとか、たくさんしたい」
 ぽんぽん、と背中を撫でる手は優しい。
 すればいいのに。
 心底思ったけど、恥ずかしいから言わない。
「…だけど、あんな?
 僕、白倉と約束したよね?」
「……あ」
 そこで、白倉も吾妻の言いたいことに気づく。
 吾妻が一度破棄して、自分が再度繋いだ約束。
 自分に吾妻が勝ったら、付き合う。
「…そ、そんなん……もう、いいもん」
 言いながら、白倉はこんな言い方したら吾妻が怒るかも、と不安になってくる。
 語尾に近づくに連れ、声は小さくなった。
「…白倉」
 自分を呼ぶ声は驚いていたが、怒ってはいなかった。ホッとする。
「…そんなん、俺が、我慢できないもん」
 吾妻の胸元に抱きついて、顔を埋めて必死に伝える。
「…はやく、吾妻といろんなことしたい。
 吾妻が傍にいなきゃ、駄目だもん。
 いつかなんて、いやだ……」
 恥ずかしくなってくる。もっと顔を埋めると、吾妻の暖かい腕がきつく抱きしめてきた。
「…うれしい」
 心から想ったとわかる声で、呟かれて、嬉しくなった。
「……じゃあ、これからお付き合い、ね?
 だけど、白倉に勝つのは、僕の目標にさせて」
 男らしい、しっかり芯の通った声音。白倉は惹かれるように顔を上げる。
「白倉と戦って、いつか絶対勝つ。
 それを、白倉に誓う。
 …白倉に相応しい、強い男になる、…その目標」
 とても、暖かい、美しい微笑みがそこにあった。
 吾妻は自分を綺麗だというけど、吾妻の方が、まるで太陽みたいに、綺麗。
 真っ直ぐで眩しくて、美しい。

 もう、相応しいのに、って言うのはやめた。
 そのかわり、勝ったら、何倍にして言ってやる。
 ずっとそばにいて。これからもよろしくって、言ってやる。



「…甘い」
「甘いなー……」
 一方、二人から少し離れた道の角。
 野次馬に来た夕と岩永はそう呟いて、顔を道の向こうに引っ込めた。
「もう帰るか。ずっとあんな調子っぽいし」
「せやな」
 二人揃って頷いて、立ち上がる。
「どっか飯食って帰ろうや」
「そうだなー」
 その場を離れるように歩き出してから、岩永はふと視線を吾妻と白倉のいる方向に向けた。
 ここからは伺い知れない。
 顔が、柔らかく緩む。
「…ほんま、よかったな」
 小声でそう囁き、その場を離れる。
 生い茂った街路樹。
 木々の影で、そんなに暑くはないが、そろそろ夏だ。
 白倉たちがいる方向とは逆の道。
 足音が聞こえてきて、夕と岩永は顔を見合わせる。
「うわっ!」
 角から人影が飛び出てきて、岩永と夕は馴れた様子で避けた。
 なにかともめ事処理の仕事は多いので、馴れている。驚いた声は、こちらに駆け込んできた男のものだ。
 大きな体躯の少年と、そこそこ小柄な少年の組み合わせ。
 大きな方は岩永を越す長身だが、小さな方は夕より小柄だ。
「どないしたん?」
 岩永が問うと、息も荒く「ぶつかっただけで追いかけられて」と説明される。
「超能力使うてきた?」
 岩永の問いに、小柄な方が頷いた。
「どのあたりのランクかな…」
「ぶつかったくらいで怒る奴なら下位ランク」
 夕と岩永は顔を見合わせ、そう結論付ける。
 ほどなく角から姿を見せた男は、二十歳を超えているだろうか。
 岩永達の雰囲気から、NOAの学生だと悟り、周囲に風をまとわせた。
「風か。…夕に比べたら、小物」
 岩永の呟きが聞こえたわけではないだろうが、そのタイミングで放たれたかまいたちに岩永は夕と少年達を背後に庇う。
 両手の指で宙に円を描いた。その円に、風は吸い込まれて消える。
 碧の瞳が、金に輝く。
 驚く男に微笑み、立てた指を上から下にひっくり返した。
 瞬間、男の身体を撃って吹っ飛ばしたのは、夕の放ったかまいたち。
 向こうに倒れた身体は動かない。気を失ったか。
「…大丈夫?」
 振り返って岩永が問うと、二人は勢いよく頷いた。
「あいつのことは、俺達が報告しとくから」
「……NOAの学生さん、ですか?」
「高等部のな。じゃ」
 ひらりと手を振って、岩永と夕は駆け出す。内心、吾妻と白倉が気づいてなければいいなあ、と思いつつ。
「……強えー…」
 残された少年が呟く。小柄な方だ。
「高等部ってことは、先輩になる人たち、だよな?」
「多分」
 彼の言葉に頷いた大柄な少年は、不意に足元を見て声を上げる。
 地面に落ちていたのは、赤いお守り。
「さっきの人のかな…」
 拾い上げて、笑って呟いた。
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