【完結保証】超能力者学園の転入生は生徒会長を溺愛する

兔世夜美(トヨヤミ)

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第六章 DEAR

第一話 梅雨明けて

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 六月末にもなれば、梅雨も終わり、ほとんど陽気は夏のもの。
 NOAでは、八月に行われる夏の大イベント“チーム対抗トーナメント”のチームメンバー登録もほぼ済んで、皆、自主練習に忙しい時期。
「そうそう。もう全校生徒、チームメンバー決まって登録済んだし」
「もう一緒のチームになってってのはないね」
 戦闘鳥籠〈バトルケイジ〉の一つ。
 チームで練習を行っていた岩永と吾妻は、床に座り込んで休憩中。
 端の方だ。
 真ん中では流河と優衣が組み手をやっている。
「ただ、今度は一緒に練習してくださいゆう申し込みが多発すんで」
「あー」
 それがあったか、と吾妻は遠い目をする。
 大抵、自分のチームは岩永達のチームと練習しているが、全部のチームがそうではないだろう。
「まあ、全部断る気はないけど、でも全部受けられるわけはないし」
「そうだね。
 まあ、うちは大丈夫だよ」
「そうなん?」
 岩永は意外そうな顔をする。
 吾妻は微笑んだ。



「練習試合?
 断る」
 戦闘鳥籠〈バトルケイジ〉の外。
 飲み物を買いに出ていた時波は、道中練習試合を申し込んできた生徒に、悩む暇なくさっきの一言だ。
「いや、できたらでいいし…」
「うちは生徒会長がいるから、そうチーム自体の練習時間も多くとれないんだ。
 他を当たってくれ。
 行くぞ、白倉」
 時波はにべもなく言って、白倉を促した。
 白倉は苦笑して、その生徒に謝ると、背中を向けて時波を追う。
 生徒は、がっかり肩を落とした。



「――――て、時波がどうにかするでしょ」
「ああ、確かに」
 まるで見てきたような吾妻の言葉だが、岩永は納得した。
 そこに、時波と白倉が戻ってきた。
 流河と優衣が気づいて、組み手を止めるとこちらに駆け寄ってくる。
 会話に加わらなかっただけで、岩永と吾妻の傍にいた村崎が、「これで全員やな」と言った。
「これ飲んだら、あと一回だけやって、終わりにしようか」
 時波から受け取った飲料水を持って、流河が時計を見ながら言う。
 時刻は夕方の四時だ。今日は午前で授業が終わったから、四時間はやっている。
「そうだな」
 時波も異はないようで、頷いた。白倉たちも賛同する。
「あ、そうや。
 白倉」
 時波に渡されたペットボトルの蓋を開けながら、岩永が不意に声を挙げた。
「うん?」
「終わったら風呂場使わせて?」
 学校のシャワーはもう使えないだろうし、と岩永が言う。
「自分の部屋のは?」
「昨日シャワーの温度調節が壊れた」
「ああ。修理は?」
「頼んだ」
「ならよし」
 それなら明日には直っているだろう。
 あっさり了承した白倉に、岩永は喜ぶ。
 それに吾妻が焦った。
「白倉、それは…」
「?」
「駄目だよ」
 真顔で言う吾妻に、白倉は首を傾げた。
「安心せぇ。
 白倉と一緒に入るとは言っとらん。
 風呂のスペースを貸せゆうただけや」
「ならいい」
 岩永の呆れた説明に、吾妻は露骨に胸をなで下ろす。
 白倉はその様子を見上げて、不意になにかを思いついた顔で笑った。
「なら、吾妻が俺に風呂貸して?」
「へっ!?」
 白倉は小首を傾げてから、吾妻を見上げてにっこり微笑む。
 吾妻の声がひっくり返った。
「俺もすぐ浴びたいし。だけど嵐と一緒に入ったら嫌だろ?
 やから、吾妻。俺と一緒にはいろ?」
 白倉はジャージの首元を白い指で摘み、鎖骨まで肌を見せて、蠱惑的な笑みを浮かべている。
 吾妻は身体を硬直させた。顔が真っ赤だ。
「……」
「な? 吾妻の髪とか身体、洗ってあ・げ・る」
 妖艶な笑みで、上目遣いに見上げられ、吾妻はその場に崩れ落ちた。
 鼻を押さえている。
 白倉はポケットからティッシュを出して、馴れた様子で吾妻の鼻を処置した。
「…白倉があそこまでバカップルになるとは…」
 恐ろしいな、と岩永は呟く。
 そこで、ふと時波を見て、怪訝な顔をした。
「止めんでええの?」
 時波は腕を組んで我関せずだ。いつもなら吾妻になにかするのに。
「白倉が楽しんでいるからいいんだ。
 俺が妨害するのは吾妻が仕掛けた場合だからな」
 と、堂々言い切った時波に、岩永は「ああ、そう」としか言えない。
 確かに、仕掛けたのは今回は白倉だしな。
 そこで、自分をじっと見ている村崎に気づく。
 あからさまに赤面することはなくなったが、やはり馴れない。
 村崎が自分を見ているというだけで、身体が熱くなる。
「なん?」
 気づかれないように努めて普通に笑って問う。
「いや? なんでもあらへん」
「そうか?」
 いかにもなにか言いたげだったが。
「ほんまはなんかあるんとちゃう?」
「…いや」
 村崎は否定するが、やっぱりおかしい。
 また自分の所為で無理させているなら、そんなの嫌だ。
「なに?
 俺、かまへんから言うて?」
 村崎の傍に近寄って、切々と頼む。
「しかし」
「ええから。絶対困らへんから」
「……」
 村崎は顔を押さえて、呻る。相当渋っている。
「いいじゃん。言っちゃえば?
 言わない方が岩永クン気にするって。
 ホントはそうじゃないのに、“俺また不愉快にさせた”なんて誤解をさせたいのかな?」
「それはあかん」
 流河の台詞に、村崎はがばっと顔を上げて大声を出す。
「なら言えば?」
 にっこり笑った流河と視線が合う。
 村崎は躊躇いながら、岩永に視線を移した。
「なん?」
 自分を見上げてくる澄んだ岩永の瞳を見ると、やはり言えない気もするが、言わない方が気に病ませるなら。
「……儂も一緒に風呂入りたい、ってだけや」
 ぽそ、と小声で落とされた告白に、最初岩永はきょとんとした。
「……誰と?」
「お前」
「岩永クンに言うのためらった内容が、なんで他の人とお風呂入っていい?ってことになるのかな?」
 首を傾げた岩永に、村崎は覚悟を決めてはっきり岩永を示し、流河がトドメに言う。
「…っむり! あかん!」
 理解した岩永は耳まで赤くして、村崎と一気に距離を取った。
「一気に進めんでって言うたやん!」
「…やから、言うのをやめたんや。やのにお前が」
 岩永の必死な叫びに、村崎は一応言い訳を口にした。
 その背後から、
「でも、思うだけでもむっつりすけべだよね~。
 村崎クンやーらしーい」
 流河に楽しそうにからかわれ、村崎は顔を押さえた。岩永は赤い顔で優衣の背中に隠れるが、体格は岩永の方があるため意味がない。
「下手にすることした記憶あるから、がっついちゃうんだー。
 でもホントゆっくりしないとねー。
 …あ、そうだ」
 にやにや笑って囃していた流河だったが、不意になにかを思い出したらしく、手を叩く。
「やらしい村崎クンで思い出した。
 ねぇ、みんな、明日暇?」
「?」
 その場にいた村崎以外の全員が、疑問符を浮かべる。
 村崎だけが、
「やらしい言うな。しかもそれで思い出すな」
 と赤い顔で突っ込んだが流河は聴いていない。
 明日は日曜日だ。
「夕クンにさ、明日、一緒に“ZIONシオン”行かないかって誘われたの」
「…ZIONって、確か、NOAが経営しとるテーマパークやったっけ?」
「そう。一年前に出来たばっかで、俺は行ったことないけど」
 流河に確認した岩永も、行ったことはない、と言う。
「俺らもないわ」
「同じく」
 白倉、吾妻がない、と答える。
 村崎と時波もないらしい。
「俺だけか。あるん」
「優衣はあるんや」
 岩永が感心した風に言う。
「NOAが経営しとるから、NOAの学生なら無料で遊べるゆうから。
 行ってみたんや。おもろかったで。
 超能力使うて遊べるんよ」
「へー」
「夕クン、明里クンも誘うって言ってたからさ」
 だからみんなも一緒に、と言いかけて、流河は言葉を切った。
 優衣からの目配せに、意味を察して頷く。
「と思ったけど、白倉クンと吾妻クン、岩永クンと村崎クンだけ行ってきなよ」
「え? なんで?」
 びっくりしたのは岩永で、吾妻と白倉は意味を理解して、互いの顔を見つめて赤くなる。
「おばかさん。
 トリプルデートしてきなさいってことだよ。
 他の二組はまだしも、君たちは交際スタートしてからデートしてないでしょ」
 正確には、デートなら何度もしただろうが、その記憶は岩永にはない。
 だから、実質初デートだ。
 岩永がうっすら顔を染める。
「…でも、村崎って」
 騒がしいところ苦手じゃないか、という気遣った視線を向けられ、村崎は微笑む。
「一人で行くのが苦手なだけや。
 みんなで行くならかまへん」
「…そやな。みんな、やし」
 岩永も、「二人きり」じゃないし、と納得する。
 流河が意味深に笑うのを、村崎は見た。微妙な気持ちになる。
 今の岩永は、手を繋ぐことすら「急ぎすぎ!」と赤面するような純情っぷりだから、二人きりで、なんて誘ったら頷かないだろう。
 自分たち以外にもいる、という状況が大事なのだ。
 実際は、アトラクションごとにばらばらになることも多いはずだが、岩永の頭にはそれはない。
 感謝すべきか、と思った。
「ところで、それを“やらしい村崎”ってワードで思い出すなや。
 言いたいことはわかるが、村崎にちょお失礼やで」
 話がまとまったところで、優衣が気になっていたという口調で流河に言った。
「え? そう?」
 流河は明るく言って首を傾げた。
「その手前に“いやらしい吾妻”があったやろ?
 そっちで思い出せや」
「あ、そっか」
 優衣の至極当然な言い方に流河も同感、と頷く。
 吾妻が一人、「ひどい!」と叫んだ。



「あー、生き返る…」
 あのあと、結局岩永は白倉の部屋の風呂を借りた。
 吾妻が恥ずかしがったからだ。
 ちなみに流河は村崎の部屋の風呂場を借りるらしい。
 NOA学生寮の上位ランクの部屋の浴室は広く豪華で、男が三人は余裕で入れる浴槽だ。
 白倉も一緒に浴室に入ったが、身体を洗っているので、浴槽には岩永一人。
「疲れたあとってやっぱり風呂がいいな」
「…まあな」
 首を泡の付いた手で擦りながら言えば、岩永は微妙な返事。
「別にいいじゃないか。本気で無理矢理入ろうとか言わないんだし」
「そうやけど…」
 村崎のことを気にしているのだ。かわいいヤツめ。
「白倉は、本気でよかったん?」
「ん?」
「吾妻と」
 浴槽の縁に手を乗せた岩永が、真剣に問う。
 白倉は微笑んだ。
「かまわないよ」
「…へぇ」
「だって、嫌がることしないもん。あいつは」
 絶対の信頼を見せる白倉に、岩永は湯の中に顔を半分沈めた。
 自分だって、思わないけど。そう言いたいけど、恥ずかしい。
「だけど、ずっとそのままってわけにはいかんよ?
 お前も」
「……」
 顔を赤くし、視線を逸らした岩永を、遠慮なく笑う。
 それから、白倉は身体の泡を洗い流して、浴槽に足を入れた。
「大体、なに生娘ぶってんの。
 記憶ないだけで、静流に抱かれた経験、お前はあるんだからな?
 俺はないけど」
 湯に肩まで浸かった白倉の露骨な台詞に、岩永が吹き出した。
「白倉っ」
「そりゃあ、怖いんはわかる。記憶ないんは仕方ないし。
 けど、静流は自分の裸、隅々見たことあるんやから、どーんと行け」
 話の文脈がわからない。
 岩永は頭を抱えて、額を浴槽の縁に押し当てた。
「…ちゅうか、どないなことすんねん」
「うん?」
「セックス」
 掠れた小さな声で問われて、白倉は驚いた。
 もしかして、その知識も消えてしまったのか。
「……えーと」
 驚いたが、一瞬だ。
 白倉は岩永の耳元で、ごにょ、と囁いた。
 岩永が顔を上げた。泣きそうというか、とても恥ずかしそう。
「あくまで知識だから、実際どうなのかは、わからん」
「………想像だけで死にそうや………」
 そのまま、湯の中に顔半分沈んだ岩永の頭を撫でてやる。
 でも、想像してはみるんだな、とは言わない。言ったら逃げるから。
「……」
 不意に、岩永はハッとして、ざばっと首まで湯から出した。
「…お前、」
「うん」
 じっと見つめられ、白倉は緊張した。
「経験ないん?
 あの、吾妻と一緒にベッドにおったんは? あれは?」
 てっきりすることしたんだと、と岩永。
 ああ、そういえば、吾妻がしてないと弁解したけど、誰も信じなかったっけ。
「うん。触りっこしただけ」
 へらっと笑って答えたら、岩永はすごく驚いてから、吾妻に同情した様子だった。

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