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第八章 さよならの森の中で
第八話 禁断の手の中に
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疑ったのは、現実だ。
だって、あれは夢。
ただの悪夢。
怪我も、傷跡もなかった。
誰も知らなかった。
だから、夢。
なのに、どうして。
「…なに、その、お化け見たみたいな顔」
全く自分と同じ顔をした男はおかしそうに笑って、腕を解いた。
壁から背中を離し、近寄ってきた彼に、大股で後ずさる。
自分の大仰な反応に、彼は目を瞠って、それから愉快そうに笑い出した。
「ああ?
なに、この前のがそないに怖かったん?
トラウマやった?」
距離を取って、怯えた顔で自分を見る岩永を、笑いを納めた彼は優しい瞳で見つめる。
「ごめんなあ。
こっちにも事情っちゅうもんがあったからつい」
「………」
「そない怖がらんで、お話しよや?」
自分と全く同じ声。
自分も浮かべたことがあるだろう笑み。
でも、異常なほどに恐れた。
「なんで…?」
「うん?」
「お前は、あれは、…夢のはず!」
やっと口から出た声はかすれて、震えていた。
「夢やったのに、どうして!?」
叫ぶ自分を見て、彼は不思議そうな顔をした。
「意外やなあ。
そない頭が硬いとは思わんかったわ。
それとも現実逃避したいだけ?」
「…やって」
「この世界には超能力があり、それがいわば魔法である」
彼は生きていれば必ず一度は聞くフレーズを口にして、微笑む。
「自分が充分反則っちゅう能力持っとるのに、なんで許容できひんの?
記憶を消す超能力も、怪我を治す超能力もあってしかるべきやろう?」
「……」
彼のもっともな言葉にも、首を横に振った。
信じたくなかった。
嘘にしたかった。夢にしたかった。
それこそが現実逃避なのに。
「まあ、自分が俺を怖がっとってもええねんけどな、俺の目的としては。
刃向かって来うへん方が助かるし?」
そうだ。
あれが夢ではないなら、彼らには目的がある。
世界をまたいでくるような、目的が。
心がざわめく。
「やけど、静流は違うと思う」
彼の口から出た、最愛の人の呼び名に、心臓がひときわ大きく鳴った。
それを、自分はきっと一番恐れていた。
だって、彼は自分より遙かに強い。
「俺を見たら、寄ってくると思う。
俺を警戒しても、俺を無視できひん。
お前がおるからこそ余計に、“岩永嵐”の言葉は無視できひん。
違う?」
妖しく笑う彼の言葉を否定できない。
村崎は、その通りにするだろう。
自分がいるからこそ、自分を好きだからこそ、彼を否定できない。
世界が違って、その性格が残虐であろうとも。
「…お前は、」
「うん」
「…なんで、この世界に…」
あのときも、聞きたかったこと。
どうして世界をまたいできたのか。
彼は自分を見て目を細めた。
「それは秘密」
そう言って、自分との距離を縮めてくる。
岩永は今度は逃げられなかった。
「やけど、こっちの静流に興味はある。
やから」
自分の瞳をのぞき込んで、囁く。
「お前が油断してるなら、もらうかもな」
「村崎はやらん!」
思わず大声で反論した自分をおかしそうに笑い、彼はまた一歩離れた。
「なら、一瞬たりとも目をそらすなや?
俺が呼ばんでも、俺を見たら勝手に追って来そうやん」
「絶対、やらん」
「うん。がんばれや」
にっこり微笑んで、また壁により掛かる彼を見つめ、岩永は息を吸った。
冷静さを失うなと己に言い聞かせる。
「…俺を殺しに来たん?」
「…お前、アホやろ」
つばを飲み込んで尋ねると、彼は思いきり馬鹿にした。
「お前を殺す分にはなんも抵抗ないからええねんけどな、そんなんしたらこっちの静流や白倉たちに仇扱いされるやん?
めんどうやからやらん」
そういう、問題なんだ、と思ってしまう。
本音の響きだった。
彼には、違う世界の自分自身だとか、全く問題じゃないんだ。
価値観が違いすぎる。
「なにより、こちらの静流に憎まれるんいややからやらん」
「…お前は」
いっそ罵ってしまいたいけれど、出来なかった。
なぜか出来なかった。
「お前の前に現れた時点で、お前目的やってわかるやろ?
殺すならお前が夢扱いして安心してる隙にやるし。
こない面倒踏むはずない」
彼は周囲を手で示す。
時間が止まったような世界。
動かない村崎や流河、優衣の姿。
「…なあ、」
「力の質問なら却下」
読まれていた。
自分はこんな力使えない。
どういった能力かはわからないが、空間を静止させるような力は使えない。
この力はいったいなんなんだ、と聞きたかった。
「やけど、それに類することを伝えに来たんや」
「…類する?」
もう一度壁から背を離し、自分を真っ直ぐ見つめて微笑む同じ顔。
「“吸収”の超能力の、ええ使い方」
「……は?」
かすれた声が漏れた。
「お前の今日の戦闘。
俺の使い方をまねした部分があるやろう。
お前も、俺やから、俺が出来ることはできんねん」
それは確かに、出来るかもしれない。
事実、今日何度か彼の真似をしたのだ。
「…まさか」
そこでハッとする。
今日、戦った吾妻。
彼も、今までの吾妻にない使い方をしていた。
まるでもう一人の吾妻のような。
「うん。
あいつも思い出しとるみたいやなあ。
まあ、ドッペルゲンガーと出会った本人やから、記憶隠蔽は解けるのはやい」
「…まさか、あいつのとこにも」
彼は首を横に振る。
「俺のとこの吾妻は来てへんよ。
眠いから寝るっちゅうてな。
まあ、俺とあいつは違うから」
「……仲間、なん?」
「一応は。利害の一致ってやつ?」
彼はまた読めない笑みを浮かべて、岩永の胸に指を突いた。
「そんなことより本題や。
吸収の能力の真骨頂、知りたない?」
「……なんで?
お前が不利になるような話を…」
「そんくらいやったら俺、負けへんもん」
自信たっぷりに言う彼になにも返せない。
事実だと思うから、彼に今なにも出来ないのだ。
「それに、世界は違っても俺やから。
ちょっとはがんばって欲しいやん?」
意味がわからない。
自分を殺してもいいような発言をしておいて、そんなことを言う。
彼の思考回路が全くわからない。
「とりあえず、チーム戦は勝てや。
それまでは休戦にしといたるし」
「……そんな」
信じられない。
「まあええやんか。
お前やと俺は倒せへん。
なら、穏便にことは運ぶべきやろ?」
出来ない。
こんな、流河達を傷つけた相手を信用するなんて。
たとえ自分自身でも。
「おとなしく聞いときや。
流河たち、傷つけられたないやろ?」
彼は悪魔のように笑って言う。
「お前のためなんやから、先輩の言うことは聞くもんや」
「―――――岩永くん!」
耳元で響いた声に我に返る。
岩永が思わず顔を上げると、心配そうな顔をした流河と目があった。
「どうしたの?
いきなり立ち止まって」
流河だ。
動いてしゃべっている。
その背後を見やると、優衣と村崎が同じような顔をして自分を見ていた。
「ぼーっとしてるけど」
「あ、ごめん…」
岩永がやっとそう言うと、向こうで村崎があからさまに安堵した。
「ちょお、考え事…」
「それにしちゃ、随分意識飛んでたっぽいけどね」
「流河、気ぃ失ってたみたいな言い方すんな」
村崎が軽くとがめて、近寄ってきた。
「大丈夫か…?」
心配そうに、自分を見下ろして尋ねる。
自分の頬に伸ばされた大きな手が、触れた瞬間、思わず身を大きく退いていた。
岩永の顔に走った怯えに、村崎が声を失った。
「……あ、」
『お前が油断してるなら、もらうかもな』
あいつが、あんなこと言うから。
怖くなった。
「ごめん。
…ほんま、ちょお、考え事しとって…」
やばい。
どうしよう。
取り繕えない。
気を抜いたら指先が震え出す。
言い訳なんて浮かばない。
「…ごめん」
青ざめて謝罪を繰り返す岩永に、村崎はゆっくりと瞬きをして、動揺を押し隠すともう一度手を伸ばした。
びくりと肩を揺らした岩永を抱き寄せる。
村崎の胸元に顔が当たって、心臓の音が聞こえた。
「…大丈夫か?」
優しい声。
泣きそうになった。
いやだ。
失いたくない。
村崎も、流河も、優衣も、誰も。
「…大丈夫」
自分が強くならなきゃ。
あいつを倒せるくらいに。
強くならなくては。
「…大丈夫」
己に言い聞かせるように繰り返して顔を上げた岩永の表情は、見たことがないくらい暗く笑んでいて、村崎はなにも言えなかった。
見たことがない。
昔も今も。
そんな、なにかを忘れてしまったかのような。
岩永らしさが、どこかへ落ちてしまったような。
嫌な予感がした。
なにかが、手のひらからこぼれて落ちたような、恐ろしい予感がした。
「なにしたの?」
洋館の傍らの木の太い枝に腰掛けて、窓の中の様子を見ていた彼の傍に、影が落ちる。
「寝とったんやないん?」
「腹減ったから起きた」
吾妻の言葉に、彼は「ああそう」とやる気なく返す。
「なにしたの?
あいつの言う通り、わざわざ強くしてやることないだろ」
彼の座った枝の上に立つ吾妻を見上げて、彼はめんどうそうに、
「…都合がええから、かなあ」
と答えた。
「都合、なあ」
「そ、俺の都合」
頷いて、岩永は枝の上に立ち上がる。
「やって、ああしたほうが、あいつ不幸になりそやない?」
「…ああ、そんな?」
「殺す気はないけど」
彼はそう言って微笑む。
感情の見えない薄暗い笑み。
「自滅してくれるなら、もうけもん」
窓の向こうには、自分の姿が見える。
村崎に抱きしめられた自分の姿。
忌々しそうに見つめて、呟いた。
「あーあ、…やっぱあん時、殺しとくんやった…」
「そういえば、制限時間とかはないんだよな。
勝ち残れるのは20チームなら、どうやって俺達はそれを知るんだ?」
迷路のようなフィールドを歩きながら、藍澤が不意にそう尋ねた。
「ああ、負けたチームは強制的に戦闘エリアから弾かれる。
だから、全てのフィールドを指す戦闘エリアにいるチームの数が20になった時点で終了するんだ」
時波の説明に、藍澤はなるほど、と呟く。
「ええと」
吾妻は右手にしてあった腕時計を見やる。
「始まって四時間半は経ってるね」
「もうすぐ決まるだろう。
いつもだいたいそのくらいで終わるからな」
時波の淡々とした言葉に、吾妻はふうん、と思う。
そして、自分の身体の右側に視線を落とした。
「白倉…?」
自分の隣を歩く白倉の顔には、ずっと狐のお面。
怒ってるのかと思ったけど、その手はずっと自分の右手を握って離さない。
「……怒ってる?」
「ちょっと」
白倉はお面をしたまま答えた。
少し、拗ねた声。
「ごめん」
「こっちもごめん」
謝ると、似たような言葉が返ってきてびっくりした。
白倉は立ち止まって、お面をしたまま自分を見上げてきた。
「誤解すんな?
謝ったんじゃないぞ。
お前の『ごめん』だけじゃ済まない、って意味」
「……ああ、『済まん』て…」
白倉の言った意味がわかって、苦笑が浮かぶ。
自業自得とはいえしかたない。
「だけど、リタイアしても、予選だし。
三人が残れば…」
ルール上、一人でも残れば勝ち残ったことになるし、本戦でも試合でリタイアしてもチームが勝ち進んでいれば次の試合でまた出られる。
だから、自分がずっといなくなるわけではないはずだが。
「ちがう」
白倉はむすっとしたような声で、短く言う。
「お前が、自分からリタイアしようとしたんが、腹が立つ」
白倉の顔はお面に隠れていて、わからない。
声は怒っているけれど、本当に?
「俺を守るって、言ったのに」
なじるような声が、今すぐにでも震え出しそうで、手を伸ばして抱きしめた。
「涼太、時波、今だけ見逃して」
前を歩いていた二人を見ずに言うと、時波が間髪入れずに、
「邪魔したりするはずがない。
白倉が不安ならな」
と言って、自分たちから少し離れる音がした。
甘いなあ、と暖かい気持ちで思う。
お前にしか癒せないんだ、と言っていた気がして、うぬぼれる。
「守る」
「じゃあ、なんで俺よりはやくリタイアしようとした」
「ごめん、不安だった」
細い背中をきつく抱きしめて、目を伏せて口にした。
白倉の柔らかい髪に口元を埋めると、狐の白い耳が頬に当たった。
「なんか、朝、変な夢見たって言ったろ?
そん中で、僕は白倉を守れなくて、自分より強い奴がいて。
このままじゃ駄目だって、もっと強くならないと、って…焦った」
「…………」
「ごめん」
あれは夢なのに、どうかしているけど。
圧倒的な化野を見て、その気持ちが強くなった。
強くならなければ、白倉を守れないと、思ったんだ。
「……なんで、全部背負おうとすんの?」
腕の中で、白倉は息を吐いてそう言った。
「俺も戦える。俺には時波も九生もおる。
やのに、なんでお前一人で背負う?」
「…だけど、僕は僕の手で白倉を守りたい!」
身体を少し離して、訴えた声は泣きそうに震えてしまった。
「一生守っていくって、誓った。
白倉をなくしたら立てない。
俺は、村崎みたいに強くはない!」
息を荒げて叫ぶ吾妻を見上げて、白倉は沈黙を落としたあと、お面を外す。
「だから、なんで自分一人で背負う?」
お面の下にあったのは、微笑んだ、優しい眼差しだった。
「お前が守りたいなら、守ったらいい。
けど、不安なら俺やみんなに吐き出したらいい。
不安まで、一人で抱えることはない。
そういう意味」
「………」
「不安まで一人で抱え込んだから、静流はああなったんだろ?
静流のどこが強い」
暖かい白倉の頬に手を伸ばして、もう一度抱きしめる。
「わからない。
だけど、…僕は多分、村崎より弱い。
そんな気する」
「ただの夢で、なんでそこまで思い詰める」
「…わからない」
でも、怖いんだ。
白倉をきつくきつく抱きしめる。
胸の奥を浸食する不安。恐怖。
真っ黒の寂しさ。
なんでこんなに、ただの夢が怖いのか、自分は知らない。
「お前は強くならんでいい」
白倉は吾妻の首に手を回して囁く。
「いつもの、俺の好きなお前でいてくれ。
…間抜けでアホで、いつも笑ってる、いつものお前が、一番好き」
手を掴まれたまま、離してもらえない。
しかも、手を握る力は強い。
ちょっと痛い。
「村崎。
別に、手なんか繋がなくても」
そう言って村崎の顔を見上げたが、村崎は険しい表情のまま、黙っている。
握りしめた自分の手を引く。
「ちょお、考え事しとっただけや。
なんもないって」
「説得力がない」
「なんやそれ」
眉を寄せて、少し怒った声音を出しても、村崎は全く譲らなかった。
村崎に手を引かれる岩永を、後ろから見やって、流河は隣の優衣に話しかける。
小声だ。
「どう思う?」
「どうって言われてもな」
優衣も同感という感じの声だ。
「過保護すぎるやろ。
こないしとったら戦えんやん」
「ほな、後衛で隣におったらええ」
「俺は前衛や!」
言い合いになっている前の二人の雰囲気がいつもと違うのは明らかだった。
「…一瞬だよね?」
「ああ」
「岩永くんから目を離したの…」
ほんの一瞬だ。
一瞬目を離しただけなのに、気づいたらもう、あんな怯えた顔をしていて。
「なにも起こりようがないんだけどな」
「…やけど」
優衣は考え事をするように、顎に手をやった。
「よう考えたら、岩永がいつもと違う力の使い方をしとったんは事実やな」
「…たしかに」
いつもと、ほんの少し違う。
いつもより、卓越した戦闘を見せた。
ただ、力のうまい使い方を覚えただけだ、この日のために訓練していたし、と納得していたけど。
「…そうだ」
流河は今更に思い出して、足を止める。
「今朝、岩永くん、真っ青な顔して起きてきたんだよね」
「…真っ青?」
優衣が眉を寄せる。
「そう。
すっごい悪夢を見たって言ってたけど、なんかほんとうに、すごく嫌な夢を見たんだなって思うくらい、汗かいて、青い顔して、動揺してた感じの…」
どうしてまともにそのことを考えなかったんだろう。
「だって、ただの夢だって言うからさ。
ただの夢なんだ、って…安心しちゃった…」
「………」
優衣は腕を組んで、黙り込む。
「やから、なんでそない過保護なん」
前でも足を止めていた岩永が、少し大きめの声で文句を言った。
「俺は戦えるし、大丈夫っちゅうたやん」
「そうか?」
「そうや!」
村崎の声は抑揚がない。
表情も変化が少ない。
「…ほなら言わせてもらうが、あのときの方が自覚はあったぞ?」
「…あのとき?」
岩永が眉をひそめる。
「開かずの間の一件。
まだ、自分に変化があることを、自覚しとった」
以前のことだ。岩永も開かずの間に入って、身体が変化したことがあった。
もっとも彼の場合は、謎の超能力を使えるようになったという変化。
それも数日で治ってしまったため、あまり気に留めたことはなかった。
「…俺はいつも通りやんか」
岩永は少し呆れた。
なにを村崎は言っているんだ。
「いつも通り?」
村崎は真っ直ぐ、岩永を頭からつま先まで見て、眼差しをきつくした。
「…それが嘘やなく、本気なら、なおさら手は離せん」
「…なんやそれ」
岩永は本気で理解できなかった。
村崎はなにを言っているんだ。
「あのさあ」
割って入った声は流河のもので、彼は真顔でこちらを見ていた。
「言ったらなんだけど、俺達もそんな確証持ってないけどさ。
…君がおかしいのはほんとだよ」
「…」
岩永はいよいよ耳を疑った。
なにを言っているんだ。
「…なんか、まるで」
流河の言葉を最後まで待たずに、空から降り注いだ衝撃に視界が効かなくなった。
衝撃波だ。
村崎は目を開けて、言葉を一瞬失った。
手を離すまいときつく掴んでいたのに、右手の中に彼の手はなかった。
睨むように眼前の男を見やる。
眼鏡をした、理知的な雰囲気の男。
軍服をまとった山居だ。
気づけば周囲には、岩永はいない。
自分と山居の姿しか見えない。
「…九生の考えか?」
「ええ。さすが察しが良い」
「九生なら、話の途中やとわかったはずやがな」
山居は眼鏡を指で押し上げる。
「話の途中、は戦いを挑んではいけないというルールはありません」
「やけど、ただごとやない空気くらい、察するのが九生や」
「…その九生くんの、これが判断です」
山居は村崎を行かすまいと立ちはだかり、手のひらに鏡の破片を浮かべる。
「だからこそ、この結論なんですよ」
そう言って微笑んだ。
身体を直撃したレーザービームに、壁まで吹っ飛ばされて背中を打ち付けた。
うめき声が漏れる。
その場に倒れ込むまいと、足を踏ん張って立つ。
「もう終わりじゃねえよな?」
不敵な笑みを浮かべて、眼前に立つ九生をにらみつけた。
息が続かない。
やはり、制御装置をしたままで、九生に勝つのは不可能だ。
「…自分、どないした?」
かすれた声で、岩永は尋ねる。
自分たち二人しかいない、廃墟の中。
「…そない、攻撃的やったか?」
「俺は元々好戦的じゃろ」
九生はなにを言う、と笑う。
「…力量に差のある相手を、ここまで攻撃する奴やないはずやけど」
自分で言うのは悔しいが、事実それだけの差がある。
手も足も出ない。
「…勝てん、って思うなら、それでいいぜ」
九生は少し離れた位置で腕を組む。
「そのほうが助かる」
ああ、まただ。
また、意味がわからない。
さっきの村崎も、流河も、なにを言っているのか、言いたいのか、わからなかった。
「そのほうが、いつものお前らしいしの」
「…」
その言葉に岩永の呼吸が一瞬止まる。
「…いつも、って」
九生にも届かないくらいの小さな声で呟いた。
「…九生も、村崎も流河も、なんで急に、そないおかしなこと…」
「…おかしくもなんともないじゃろ」
九生は唐突に怒ったような顔をして、低い声で返す。
「お前の雰囲気や様子が、事実、いつもと相当違うってだけじゃ」
岩永は言葉を失うしかない。
九生までそんなことを言う。
わけがわからない。
「…お前、なにを隠しとる?」
九生は自分に近寄ってきて、うつむき加減の顔をのぞき込んだ。
「……さっき、なにがあった?」
『やけど、静流は違うと思う』
強くならなきゃいけない、って思ったんだ。
俺が強くならなきゃ、守らなきゃ。
だって、村崎はきっと、彼を攻撃できない。
「村崎が、お前になにを言いたかったか、お前はわかるんか?」
九生の言葉に、なにかが弾けた。
九生が思わず背後に飛ぶ。
岩永の手から放たれたかまいたちは、予想外の威力で避けなければ大きなダメージだったろう。
まさか、制御装置をした状態で、この威力を出せるとは思わなかった。
「俺は、負けたない」
九生が目を瞠って、素早く右手を一閃した。
自分の周囲に生み出した電磁波の刃五つを、岩永目掛けて撃つ。
岩永は手のひらを自分の前に構えて、一瞬でその手の中に電磁波を吸い込んだ。
九生が顔を引きつらせる。
咄嗟に指先を岩永に向け、最速で力を高める。
「穿て!」
文字通り全力で放った一撃だった。
それも、あっさりとその手に吸い込まれた。
蒼に光るはずの瞳が、一瞬紅に輝く。
岩永は指先を九生に向けて、叫んだ。
「――――穿て!」
岩永の指から放たれたのは、正真正銘、自分が撃ったレーザーだった。
九生はどうにか持ち前の反射神経で避けたが、自分の背後の壁が大きく破壊された。
威力を見てもわかる。
温度操作の力で、電磁波なんか生み出せない。
「…こん、アホが!」
全く、嫌な予感とは当たるものだ。
心底そう思った。
二度目に打ち出されたレーザーを相殺して、九生は岩永を睨む。
「自分、誰に教わった…?」
自然、低い声が口から落ちた。
「そんな力の使い方、誰に聞いたんじゃ?」
岩永は静かな面もちで、自分を見つめている。
いつも通りじゃない。
この攻撃的で、歪んだ雰囲気は、全然いつもの岩永じゃない。
「…他人の超能力を『奪う』力の使い方、誰に教わった…!?」
やってやれないことはないだろう。
吸収の能力は、他者の能力を吸収する力。
しかし、それは他者の超能力を放つエネルギーを吸収する力だ。
やってやれないことはない。
他者の超能力そのものを、吸収して自分のものにするようなやり方も。
でも、それは禁忌だ。
岩永は無言で、九生に指先を向ける。
その場に響いたベルの音に、目を瞬いて、宙を見上げた。
『本戦に進む20チームが選出されました。
これにて、予選第二ブロックの試合を終了します』
試合終了のアナウンス。
戦闘エリアにいるチーム数が、20になったようだ。
これで、九生のチームも、岩永のチームも勝ち抜いたことになる。
だが、今はそれどころじゃない。
周囲を覆う廃墟の風景が消えて、真っ白な巨大な部屋に変貌する。
なにもない、とんでもなく大きな白の空間。
これが、トリプルツリーの正体。
岩永と九生の周囲には、村崎や流河、優衣。そして山居や久遠、赤目もいた。
だが、それだけではない。
岩永を取り囲むのは、見たこともない数人の男たち。
顔を見て、岩永は察した。
方舟。
離れる暇なく、両腕を拘束される。
「…嵐!?」
村崎が驚いて駆け寄ろうとしたのを、九生が制する。
「悪いが、そいつはしばらく預かるぜ」
「……な、んやて…?」
村崎は耳を疑う。
どういう意味だ。
「超能力の『違法使用』。
NOAのルールに抵触するんでな」
「…違法、使用…?」
頭が理解できない。
ついていけない。
岩永の顔を見ると、今にも泣き出しそうだった。
その顔を、見た記憶がある。
不安と、押しつぶされそうな恐怖でいっぱいの、そんな顔は、一度だけ見た。
岩永と、彼を拘束する男達の姿が一瞬でその場から消える。
トリプルツリーの転送システムだ。
消える寸前、声が聞こえた気がした。
自分に、吾妻のような能力はないのに。
自分を呼ぶ、彼の。
「…なにが、起こっとる」
疑問や怒りや、悲しさ。
胸に渦巻く感情を必死で押し殺した。
九生の胸ぐらを掴みあげる。
「嵐になにが!?」
必死の剣幕で問いつめた村崎を見上げて、九生は一度、唇をかみしめる。
自分だって、望んでなかったというように。
「……もし、三度目があるとしたら、お前はどうする気じゃ?」
静かな九生の言葉に、頭を殴られた気がした。
呼吸を失う。
だってそんな。
誓ったけど、傍にいると誓ったけど。
本当は、三度目はいやだ。
絶望とは、こういうことを言うのだ。
また、その手を失うのは、堪えられない。
その微笑みを、その声を、失うのは、堪えられない。
お願いだ。
また会ったとき、あんな言葉を言わないで。
「…だれ?」
あの日の絶望を、鮮明に思い出せる。
三度目のその声を、聞きたくないんだ。
だって、あれは夢。
ただの悪夢。
怪我も、傷跡もなかった。
誰も知らなかった。
だから、夢。
なのに、どうして。
「…なに、その、お化け見たみたいな顔」
全く自分と同じ顔をした男はおかしそうに笑って、腕を解いた。
壁から背中を離し、近寄ってきた彼に、大股で後ずさる。
自分の大仰な反応に、彼は目を瞠って、それから愉快そうに笑い出した。
「ああ?
なに、この前のがそないに怖かったん?
トラウマやった?」
距離を取って、怯えた顔で自分を見る岩永を、笑いを納めた彼は優しい瞳で見つめる。
「ごめんなあ。
こっちにも事情っちゅうもんがあったからつい」
「………」
「そない怖がらんで、お話しよや?」
自分と全く同じ声。
自分も浮かべたことがあるだろう笑み。
でも、異常なほどに恐れた。
「なんで…?」
「うん?」
「お前は、あれは、…夢のはず!」
やっと口から出た声はかすれて、震えていた。
「夢やったのに、どうして!?」
叫ぶ自分を見て、彼は不思議そうな顔をした。
「意外やなあ。
そない頭が硬いとは思わんかったわ。
それとも現実逃避したいだけ?」
「…やって」
「この世界には超能力があり、それがいわば魔法である」
彼は生きていれば必ず一度は聞くフレーズを口にして、微笑む。
「自分が充分反則っちゅう能力持っとるのに、なんで許容できひんの?
記憶を消す超能力も、怪我を治す超能力もあってしかるべきやろう?」
「……」
彼のもっともな言葉にも、首を横に振った。
信じたくなかった。
嘘にしたかった。夢にしたかった。
それこそが現実逃避なのに。
「まあ、自分が俺を怖がっとってもええねんけどな、俺の目的としては。
刃向かって来うへん方が助かるし?」
そうだ。
あれが夢ではないなら、彼らには目的がある。
世界をまたいでくるような、目的が。
心がざわめく。
「やけど、静流は違うと思う」
彼の口から出た、最愛の人の呼び名に、心臓がひときわ大きく鳴った。
それを、自分はきっと一番恐れていた。
だって、彼は自分より遙かに強い。
「俺を見たら、寄ってくると思う。
俺を警戒しても、俺を無視できひん。
お前がおるからこそ余計に、“岩永嵐”の言葉は無視できひん。
違う?」
妖しく笑う彼の言葉を否定できない。
村崎は、その通りにするだろう。
自分がいるからこそ、自分を好きだからこそ、彼を否定できない。
世界が違って、その性格が残虐であろうとも。
「…お前は、」
「うん」
「…なんで、この世界に…」
あのときも、聞きたかったこと。
どうして世界をまたいできたのか。
彼は自分を見て目を細めた。
「それは秘密」
そう言って、自分との距離を縮めてくる。
岩永は今度は逃げられなかった。
「やけど、こっちの静流に興味はある。
やから」
自分の瞳をのぞき込んで、囁く。
「お前が油断してるなら、もらうかもな」
「村崎はやらん!」
思わず大声で反論した自分をおかしそうに笑い、彼はまた一歩離れた。
「なら、一瞬たりとも目をそらすなや?
俺が呼ばんでも、俺を見たら勝手に追って来そうやん」
「絶対、やらん」
「うん。がんばれや」
にっこり微笑んで、また壁により掛かる彼を見つめ、岩永は息を吸った。
冷静さを失うなと己に言い聞かせる。
「…俺を殺しに来たん?」
「…お前、アホやろ」
つばを飲み込んで尋ねると、彼は思いきり馬鹿にした。
「お前を殺す分にはなんも抵抗ないからええねんけどな、そんなんしたらこっちの静流や白倉たちに仇扱いされるやん?
めんどうやからやらん」
そういう、問題なんだ、と思ってしまう。
本音の響きだった。
彼には、違う世界の自分自身だとか、全く問題じゃないんだ。
価値観が違いすぎる。
「なにより、こちらの静流に憎まれるんいややからやらん」
「…お前は」
いっそ罵ってしまいたいけれど、出来なかった。
なぜか出来なかった。
「お前の前に現れた時点で、お前目的やってわかるやろ?
殺すならお前が夢扱いして安心してる隙にやるし。
こない面倒踏むはずない」
彼は周囲を手で示す。
時間が止まったような世界。
動かない村崎や流河、優衣の姿。
「…なあ、」
「力の質問なら却下」
読まれていた。
自分はこんな力使えない。
どういった能力かはわからないが、空間を静止させるような力は使えない。
この力はいったいなんなんだ、と聞きたかった。
「やけど、それに類することを伝えに来たんや」
「…類する?」
もう一度壁から背を離し、自分を真っ直ぐ見つめて微笑む同じ顔。
「“吸収”の超能力の、ええ使い方」
「……は?」
かすれた声が漏れた。
「お前の今日の戦闘。
俺の使い方をまねした部分があるやろう。
お前も、俺やから、俺が出来ることはできんねん」
それは確かに、出来るかもしれない。
事実、今日何度か彼の真似をしたのだ。
「…まさか」
そこでハッとする。
今日、戦った吾妻。
彼も、今までの吾妻にない使い方をしていた。
まるでもう一人の吾妻のような。
「うん。
あいつも思い出しとるみたいやなあ。
まあ、ドッペルゲンガーと出会った本人やから、記憶隠蔽は解けるのはやい」
「…まさか、あいつのとこにも」
彼は首を横に振る。
「俺のとこの吾妻は来てへんよ。
眠いから寝るっちゅうてな。
まあ、俺とあいつは違うから」
「……仲間、なん?」
「一応は。利害の一致ってやつ?」
彼はまた読めない笑みを浮かべて、岩永の胸に指を突いた。
「そんなことより本題や。
吸収の能力の真骨頂、知りたない?」
「……なんで?
お前が不利になるような話を…」
「そんくらいやったら俺、負けへんもん」
自信たっぷりに言う彼になにも返せない。
事実だと思うから、彼に今なにも出来ないのだ。
「それに、世界は違っても俺やから。
ちょっとはがんばって欲しいやん?」
意味がわからない。
自分を殺してもいいような発言をしておいて、そんなことを言う。
彼の思考回路が全くわからない。
「とりあえず、チーム戦は勝てや。
それまでは休戦にしといたるし」
「……そんな」
信じられない。
「まあええやんか。
お前やと俺は倒せへん。
なら、穏便にことは運ぶべきやろ?」
出来ない。
こんな、流河達を傷つけた相手を信用するなんて。
たとえ自分自身でも。
「おとなしく聞いときや。
流河たち、傷つけられたないやろ?」
彼は悪魔のように笑って言う。
「お前のためなんやから、先輩の言うことは聞くもんや」
「―――――岩永くん!」
耳元で響いた声に我に返る。
岩永が思わず顔を上げると、心配そうな顔をした流河と目があった。
「どうしたの?
いきなり立ち止まって」
流河だ。
動いてしゃべっている。
その背後を見やると、優衣と村崎が同じような顔をして自分を見ていた。
「ぼーっとしてるけど」
「あ、ごめん…」
岩永がやっとそう言うと、向こうで村崎があからさまに安堵した。
「ちょお、考え事…」
「それにしちゃ、随分意識飛んでたっぽいけどね」
「流河、気ぃ失ってたみたいな言い方すんな」
村崎が軽くとがめて、近寄ってきた。
「大丈夫か…?」
心配そうに、自分を見下ろして尋ねる。
自分の頬に伸ばされた大きな手が、触れた瞬間、思わず身を大きく退いていた。
岩永の顔に走った怯えに、村崎が声を失った。
「……あ、」
『お前が油断してるなら、もらうかもな』
あいつが、あんなこと言うから。
怖くなった。
「ごめん。
…ほんま、ちょお、考え事しとって…」
やばい。
どうしよう。
取り繕えない。
気を抜いたら指先が震え出す。
言い訳なんて浮かばない。
「…ごめん」
青ざめて謝罪を繰り返す岩永に、村崎はゆっくりと瞬きをして、動揺を押し隠すともう一度手を伸ばした。
びくりと肩を揺らした岩永を抱き寄せる。
村崎の胸元に顔が当たって、心臓の音が聞こえた。
「…大丈夫か?」
優しい声。
泣きそうになった。
いやだ。
失いたくない。
村崎も、流河も、優衣も、誰も。
「…大丈夫」
自分が強くならなきゃ。
あいつを倒せるくらいに。
強くならなくては。
「…大丈夫」
己に言い聞かせるように繰り返して顔を上げた岩永の表情は、見たことがないくらい暗く笑んでいて、村崎はなにも言えなかった。
見たことがない。
昔も今も。
そんな、なにかを忘れてしまったかのような。
岩永らしさが、どこかへ落ちてしまったような。
嫌な予感がした。
なにかが、手のひらからこぼれて落ちたような、恐ろしい予感がした。
「なにしたの?」
洋館の傍らの木の太い枝に腰掛けて、窓の中の様子を見ていた彼の傍に、影が落ちる。
「寝とったんやないん?」
「腹減ったから起きた」
吾妻の言葉に、彼は「ああそう」とやる気なく返す。
「なにしたの?
あいつの言う通り、わざわざ強くしてやることないだろ」
彼の座った枝の上に立つ吾妻を見上げて、彼はめんどうそうに、
「…都合がええから、かなあ」
と答えた。
「都合、なあ」
「そ、俺の都合」
頷いて、岩永は枝の上に立ち上がる。
「やって、ああしたほうが、あいつ不幸になりそやない?」
「…ああ、そんな?」
「殺す気はないけど」
彼はそう言って微笑む。
感情の見えない薄暗い笑み。
「自滅してくれるなら、もうけもん」
窓の向こうには、自分の姿が見える。
村崎に抱きしめられた自分の姿。
忌々しそうに見つめて、呟いた。
「あーあ、…やっぱあん時、殺しとくんやった…」
「そういえば、制限時間とかはないんだよな。
勝ち残れるのは20チームなら、どうやって俺達はそれを知るんだ?」
迷路のようなフィールドを歩きながら、藍澤が不意にそう尋ねた。
「ああ、負けたチームは強制的に戦闘エリアから弾かれる。
だから、全てのフィールドを指す戦闘エリアにいるチームの数が20になった時点で終了するんだ」
時波の説明に、藍澤はなるほど、と呟く。
「ええと」
吾妻は右手にしてあった腕時計を見やる。
「始まって四時間半は経ってるね」
「もうすぐ決まるだろう。
いつもだいたいそのくらいで終わるからな」
時波の淡々とした言葉に、吾妻はふうん、と思う。
そして、自分の身体の右側に視線を落とした。
「白倉…?」
自分の隣を歩く白倉の顔には、ずっと狐のお面。
怒ってるのかと思ったけど、その手はずっと自分の右手を握って離さない。
「……怒ってる?」
「ちょっと」
白倉はお面をしたまま答えた。
少し、拗ねた声。
「ごめん」
「こっちもごめん」
謝ると、似たような言葉が返ってきてびっくりした。
白倉は立ち止まって、お面をしたまま自分を見上げてきた。
「誤解すんな?
謝ったんじゃないぞ。
お前の『ごめん』だけじゃ済まない、って意味」
「……ああ、『済まん』て…」
白倉の言った意味がわかって、苦笑が浮かぶ。
自業自得とはいえしかたない。
「だけど、リタイアしても、予選だし。
三人が残れば…」
ルール上、一人でも残れば勝ち残ったことになるし、本戦でも試合でリタイアしてもチームが勝ち進んでいれば次の試合でまた出られる。
だから、自分がずっといなくなるわけではないはずだが。
「ちがう」
白倉はむすっとしたような声で、短く言う。
「お前が、自分からリタイアしようとしたんが、腹が立つ」
白倉の顔はお面に隠れていて、わからない。
声は怒っているけれど、本当に?
「俺を守るって、言ったのに」
なじるような声が、今すぐにでも震え出しそうで、手を伸ばして抱きしめた。
「涼太、時波、今だけ見逃して」
前を歩いていた二人を見ずに言うと、時波が間髪入れずに、
「邪魔したりするはずがない。
白倉が不安ならな」
と言って、自分たちから少し離れる音がした。
甘いなあ、と暖かい気持ちで思う。
お前にしか癒せないんだ、と言っていた気がして、うぬぼれる。
「守る」
「じゃあ、なんで俺よりはやくリタイアしようとした」
「ごめん、不安だった」
細い背中をきつく抱きしめて、目を伏せて口にした。
白倉の柔らかい髪に口元を埋めると、狐の白い耳が頬に当たった。
「なんか、朝、変な夢見たって言ったろ?
そん中で、僕は白倉を守れなくて、自分より強い奴がいて。
このままじゃ駄目だって、もっと強くならないと、って…焦った」
「…………」
「ごめん」
あれは夢なのに、どうかしているけど。
圧倒的な化野を見て、その気持ちが強くなった。
強くならなければ、白倉を守れないと、思ったんだ。
「……なんで、全部背負おうとすんの?」
腕の中で、白倉は息を吐いてそう言った。
「俺も戦える。俺には時波も九生もおる。
やのに、なんでお前一人で背負う?」
「…だけど、僕は僕の手で白倉を守りたい!」
身体を少し離して、訴えた声は泣きそうに震えてしまった。
「一生守っていくって、誓った。
白倉をなくしたら立てない。
俺は、村崎みたいに強くはない!」
息を荒げて叫ぶ吾妻を見上げて、白倉は沈黙を落としたあと、お面を外す。
「だから、なんで自分一人で背負う?」
お面の下にあったのは、微笑んだ、優しい眼差しだった。
「お前が守りたいなら、守ったらいい。
けど、不安なら俺やみんなに吐き出したらいい。
不安まで、一人で抱えることはない。
そういう意味」
「………」
「不安まで一人で抱え込んだから、静流はああなったんだろ?
静流のどこが強い」
暖かい白倉の頬に手を伸ばして、もう一度抱きしめる。
「わからない。
だけど、…僕は多分、村崎より弱い。
そんな気する」
「ただの夢で、なんでそこまで思い詰める」
「…わからない」
でも、怖いんだ。
白倉をきつくきつく抱きしめる。
胸の奥を浸食する不安。恐怖。
真っ黒の寂しさ。
なんでこんなに、ただの夢が怖いのか、自分は知らない。
「お前は強くならんでいい」
白倉は吾妻の首に手を回して囁く。
「いつもの、俺の好きなお前でいてくれ。
…間抜けでアホで、いつも笑ってる、いつものお前が、一番好き」
手を掴まれたまま、離してもらえない。
しかも、手を握る力は強い。
ちょっと痛い。
「村崎。
別に、手なんか繋がなくても」
そう言って村崎の顔を見上げたが、村崎は険しい表情のまま、黙っている。
握りしめた自分の手を引く。
「ちょお、考え事しとっただけや。
なんもないって」
「説得力がない」
「なんやそれ」
眉を寄せて、少し怒った声音を出しても、村崎は全く譲らなかった。
村崎に手を引かれる岩永を、後ろから見やって、流河は隣の優衣に話しかける。
小声だ。
「どう思う?」
「どうって言われてもな」
優衣も同感という感じの声だ。
「過保護すぎるやろ。
こないしとったら戦えんやん」
「ほな、後衛で隣におったらええ」
「俺は前衛や!」
言い合いになっている前の二人の雰囲気がいつもと違うのは明らかだった。
「…一瞬だよね?」
「ああ」
「岩永くんから目を離したの…」
ほんの一瞬だ。
一瞬目を離しただけなのに、気づいたらもう、あんな怯えた顔をしていて。
「なにも起こりようがないんだけどな」
「…やけど」
優衣は考え事をするように、顎に手をやった。
「よう考えたら、岩永がいつもと違う力の使い方をしとったんは事実やな」
「…たしかに」
いつもと、ほんの少し違う。
いつもより、卓越した戦闘を見せた。
ただ、力のうまい使い方を覚えただけだ、この日のために訓練していたし、と納得していたけど。
「…そうだ」
流河は今更に思い出して、足を止める。
「今朝、岩永くん、真っ青な顔して起きてきたんだよね」
「…真っ青?」
優衣が眉を寄せる。
「そう。
すっごい悪夢を見たって言ってたけど、なんかほんとうに、すごく嫌な夢を見たんだなって思うくらい、汗かいて、青い顔して、動揺してた感じの…」
どうしてまともにそのことを考えなかったんだろう。
「だって、ただの夢だって言うからさ。
ただの夢なんだ、って…安心しちゃった…」
「………」
優衣は腕を組んで、黙り込む。
「やから、なんでそない過保護なん」
前でも足を止めていた岩永が、少し大きめの声で文句を言った。
「俺は戦えるし、大丈夫っちゅうたやん」
「そうか?」
「そうや!」
村崎の声は抑揚がない。
表情も変化が少ない。
「…ほなら言わせてもらうが、あのときの方が自覚はあったぞ?」
「…あのとき?」
岩永が眉をひそめる。
「開かずの間の一件。
まだ、自分に変化があることを、自覚しとった」
以前のことだ。岩永も開かずの間に入って、身体が変化したことがあった。
もっとも彼の場合は、謎の超能力を使えるようになったという変化。
それも数日で治ってしまったため、あまり気に留めたことはなかった。
「…俺はいつも通りやんか」
岩永は少し呆れた。
なにを村崎は言っているんだ。
「いつも通り?」
村崎は真っ直ぐ、岩永を頭からつま先まで見て、眼差しをきつくした。
「…それが嘘やなく、本気なら、なおさら手は離せん」
「…なんやそれ」
岩永は本気で理解できなかった。
村崎はなにを言っているんだ。
「あのさあ」
割って入った声は流河のもので、彼は真顔でこちらを見ていた。
「言ったらなんだけど、俺達もそんな確証持ってないけどさ。
…君がおかしいのはほんとだよ」
「…」
岩永はいよいよ耳を疑った。
なにを言っているんだ。
「…なんか、まるで」
流河の言葉を最後まで待たずに、空から降り注いだ衝撃に視界が効かなくなった。
衝撃波だ。
村崎は目を開けて、言葉を一瞬失った。
手を離すまいときつく掴んでいたのに、右手の中に彼の手はなかった。
睨むように眼前の男を見やる。
眼鏡をした、理知的な雰囲気の男。
軍服をまとった山居だ。
気づけば周囲には、岩永はいない。
自分と山居の姿しか見えない。
「…九生の考えか?」
「ええ。さすが察しが良い」
「九生なら、話の途中やとわかったはずやがな」
山居は眼鏡を指で押し上げる。
「話の途中、は戦いを挑んではいけないというルールはありません」
「やけど、ただごとやない空気くらい、察するのが九生や」
「…その九生くんの、これが判断です」
山居は村崎を行かすまいと立ちはだかり、手のひらに鏡の破片を浮かべる。
「だからこそ、この結論なんですよ」
そう言って微笑んだ。
身体を直撃したレーザービームに、壁まで吹っ飛ばされて背中を打ち付けた。
うめき声が漏れる。
その場に倒れ込むまいと、足を踏ん張って立つ。
「もう終わりじゃねえよな?」
不敵な笑みを浮かべて、眼前に立つ九生をにらみつけた。
息が続かない。
やはり、制御装置をしたままで、九生に勝つのは不可能だ。
「…自分、どないした?」
かすれた声で、岩永は尋ねる。
自分たち二人しかいない、廃墟の中。
「…そない、攻撃的やったか?」
「俺は元々好戦的じゃろ」
九生はなにを言う、と笑う。
「…力量に差のある相手を、ここまで攻撃する奴やないはずやけど」
自分で言うのは悔しいが、事実それだけの差がある。
手も足も出ない。
「…勝てん、って思うなら、それでいいぜ」
九生は少し離れた位置で腕を組む。
「そのほうが助かる」
ああ、まただ。
また、意味がわからない。
さっきの村崎も、流河も、なにを言っているのか、言いたいのか、わからなかった。
「そのほうが、いつものお前らしいしの」
「…」
その言葉に岩永の呼吸が一瞬止まる。
「…いつも、って」
九生にも届かないくらいの小さな声で呟いた。
「…九生も、村崎も流河も、なんで急に、そないおかしなこと…」
「…おかしくもなんともないじゃろ」
九生は唐突に怒ったような顔をして、低い声で返す。
「お前の雰囲気や様子が、事実、いつもと相当違うってだけじゃ」
岩永は言葉を失うしかない。
九生までそんなことを言う。
わけがわからない。
「…お前、なにを隠しとる?」
九生は自分に近寄ってきて、うつむき加減の顔をのぞき込んだ。
「……さっき、なにがあった?」
『やけど、静流は違うと思う』
強くならなきゃいけない、って思ったんだ。
俺が強くならなきゃ、守らなきゃ。
だって、村崎はきっと、彼を攻撃できない。
「村崎が、お前になにを言いたかったか、お前はわかるんか?」
九生の言葉に、なにかが弾けた。
九生が思わず背後に飛ぶ。
岩永の手から放たれたかまいたちは、予想外の威力で避けなければ大きなダメージだったろう。
まさか、制御装置をした状態で、この威力を出せるとは思わなかった。
「俺は、負けたない」
九生が目を瞠って、素早く右手を一閃した。
自分の周囲に生み出した電磁波の刃五つを、岩永目掛けて撃つ。
岩永は手のひらを自分の前に構えて、一瞬でその手の中に電磁波を吸い込んだ。
九生が顔を引きつらせる。
咄嗟に指先を岩永に向け、最速で力を高める。
「穿て!」
文字通り全力で放った一撃だった。
それも、あっさりとその手に吸い込まれた。
蒼に光るはずの瞳が、一瞬紅に輝く。
岩永は指先を九生に向けて、叫んだ。
「――――穿て!」
岩永の指から放たれたのは、正真正銘、自分が撃ったレーザーだった。
九生はどうにか持ち前の反射神経で避けたが、自分の背後の壁が大きく破壊された。
威力を見てもわかる。
温度操作の力で、電磁波なんか生み出せない。
「…こん、アホが!」
全く、嫌な予感とは当たるものだ。
心底そう思った。
二度目に打ち出されたレーザーを相殺して、九生は岩永を睨む。
「自分、誰に教わった…?」
自然、低い声が口から落ちた。
「そんな力の使い方、誰に聞いたんじゃ?」
岩永は静かな面もちで、自分を見つめている。
いつも通りじゃない。
この攻撃的で、歪んだ雰囲気は、全然いつもの岩永じゃない。
「…他人の超能力を『奪う』力の使い方、誰に教わった…!?」
やってやれないことはないだろう。
吸収の能力は、他者の能力を吸収する力。
しかし、それは他者の超能力を放つエネルギーを吸収する力だ。
やってやれないことはない。
他者の超能力そのものを、吸収して自分のものにするようなやり方も。
でも、それは禁忌だ。
岩永は無言で、九生に指先を向ける。
その場に響いたベルの音に、目を瞬いて、宙を見上げた。
『本戦に進む20チームが選出されました。
これにて、予選第二ブロックの試合を終了します』
試合終了のアナウンス。
戦闘エリアにいるチーム数が、20になったようだ。
これで、九生のチームも、岩永のチームも勝ち抜いたことになる。
だが、今はそれどころじゃない。
周囲を覆う廃墟の風景が消えて、真っ白な巨大な部屋に変貌する。
なにもない、とんでもなく大きな白の空間。
これが、トリプルツリーの正体。
岩永と九生の周囲には、村崎や流河、優衣。そして山居や久遠、赤目もいた。
だが、それだけではない。
岩永を取り囲むのは、見たこともない数人の男たち。
顔を見て、岩永は察した。
方舟。
離れる暇なく、両腕を拘束される。
「…嵐!?」
村崎が驚いて駆け寄ろうとしたのを、九生が制する。
「悪いが、そいつはしばらく預かるぜ」
「……な、んやて…?」
村崎は耳を疑う。
どういう意味だ。
「超能力の『違法使用』。
NOAのルールに抵触するんでな」
「…違法、使用…?」
頭が理解できない。
ついていけない。
岩永の顔を見ると、今にも泣き出しそうだった。
その顔を、見た記憶がある。
不安と、押しつぶされそうな恐怖でいっぱいの、そんな顔は、一度だけ見た。
岩永と、彼を拘束する男達の姿が一瞬でその場から消える。
トリプルツリーの転送システムだ。
消える寸前、声が聞こえた気がした。
自分に、吾妻のような能力はないのに。
自分を呼ぶ、彼の。
「…なにが、起こっとる」
疑問や怒りや、悲しさ。
胸に渦巻く感情を必死で押し殺した。
九生の胸ぐらを掴みあげる。
「嵐になにが!?」
必死の剣幕で問いつめた村崎を見上げて、九生は一度、唇をかみしめる。
自分だって、望んでなかったというように。
「……もし、三度目があるとしたら、お前はどうする気じゃ?」
静かな九生の言葉に、頭を殴られた気がした。
呼吸を失う。
だってそんな。
誓ったけど、傍にいると誓ったけど。
本当は、三度目はいやだ。
絶望とは、こういうことを言うのだ。
また、その手を失うのは、堪えられない。
その微笑みを、その声を、失うのは、堪えられない。
お願いだ。
また会ったとき、あんな言葉を言わないで。
「…だれ?」
あの日の絶望を、鮮明に思い出せる。
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黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
─── からの~数年後 ────
俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。
ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。
「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」
そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か?
まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。
この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。
多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。
普通は……。
異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話。ここに開幕!
● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。
● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。
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