【完結保証】超能力者学園の転入生は生徒会長を溺愛する

兔世夜美(トヨヤミ)

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第十章 Butterfly Effect

第十八話 例えそれが罪でも

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 チーム対抗トーナメント本戦は八月十日から始まる。
 今日は以前くじ引きで作成したトーナメント表に従い、一回戦が行われる。
 各ブロックの予選で特に戦績の良かった上位三組にはシード権が与えられるため、白倉たちのチームは今日は試合はない。
 本戦会場はNOA校内にある武道館だ。
 普段は部活動や体育の授業で使用される建物も、戦闘鳥籠<バトルケイジ>のように超能力戦闘用に造られており、その防護力の高さは戦闘鳥籠<バトルケイジ>を遙かに越える。
「…嵐たちのチームは今日試合あったよな…」
 白倉は自販機などが置いてある談話室の椅子に腰掛け、ため息を吐く。
 岩永が行方不明になったままなのは知っている。
 どうするのだろう。
「…最悪不戦敗だな。
 予選突破した際のメンバーで挑むのが最低限のルールだ」
「…うん」
 隣に腰掛けた時波がジュースの缶を片手に言って、周囲を見回した。
 その岩永チームのほかの三人の姿は今日、まだ見ていない。
「……白倉。
 あいつらの心配をするなとは言わないが、お前はいつ身体に異変が起こるかしれないんだ。
 自分のことに集中しろ」
「……」
 心配で言ったのだが、白倉は泣きそうな顔をして俯いてしまった。
 気持ちがよくわかるからこそ、それ以上なにも言えなくなる。
 白倉と岩永がまともに会話を交わしたのは、吾妻に訊く限り、岩永がもう一人の自分と心中を図ったあの日。
 それも岩永が頑なに自分自身を責めたため、顔を叩いてしまったと聴いた。
 そのあとあんなことがあって、時間を巻き戻して、そのあと、ほとんど会っていないはずだ。
 だからこそ、心配で心配で仕方がないだろう。
 それに、リバウンドは岩永にも起こる。それもある。
 なのに、いなくなるなんて。
 時波はひっそりため息を吐き、ジュースを口に含んだ。
「…お前も心配だが、若干」
「ん?」
 立っていた藍澤が、時波を見下ろし口を開く。
「なにがあったか言わなかっただろう?
 二つ目の能力が覚醒したとは聴いたが」
「……ああ」
 時波は間抜けな声を上げ、瞳を瞬いた。
 確かにそうなんだけど、自分の身体に不調はない。
 能力も普通に使える。
 ただ、あのとき会ったあの岩永。
 本当は誰なんだということが、気にかかって。
 誰にも詳しいことは言えないし。
「……しかし、今危険なのは白倉や岩永だろう」
「それはそうなんだが…少しは我が身も案じろよ」
「…肝に銘じる」
 藍澤の心配ももっともだ。
 白倉のことを言えないなと思う。
「……しかし、心配事が多いのは事実だな。
 村崎が帰ってきていないと聴いたぞ」
「えっ!?」
 藍澤の言葉に白倉が顔を上げ、立ち上がる。
 隣にいた吾妻がこちらを見上げた。
「岩永を探しに行ったきり、帰寮してないらしい」
「…………そんな。
 気持ちは分かるけど」
「…どこにいるんだか」
 かすれた声を上げ、再び腰を下ろした白倉の手を吾妻が握る。
 藍澤はそれを見ながら、困ったように眉を寄せた。
 岩永と実は会ったことを、言いたいが言えない。
 本当は今すぐにでも村崎に言うべきだから、村崎がいなくてほっとしているかもしれない。
 しかし、村崎はまさか実家に帰っていないよな?
 帰っているなら岩永と鉢合うが。いっそその方が良い気もする。
「………………ほんとに、なにが原因だろ」
 吾妻が不意に呟く。
「ん?」
「いや、あいつらがここに来てる原因。
 意味がわからない」
「…ああ」
 頭上で交わされる会話に、白倉はどきりとした。
 自分はなんとなく想像がついている。
 ああ、でも、理由がわからない。
 なにがあった。彼らの世界で。



「………………第一回戦がもうすぐ始まりますね」
「ああ」
 そのころ、武道館の入り口には、人気はなく流河と優衣だけが立っている。
 なぜか敬語の流河は青い顔をして敷地内を見回した。
「……不戦敗確実だなあ…」
「…もう、諦めるか。
 そもそも場合やないって」
「…そうなんだけどさー…。
 ……岩永くん、あんなに楽しみにしてたのに」
 勝ち進んで優勝したい、と言っていた岩永を思い出す。
 そう遠くない日のことのはずなのに、すごく懐かしい。
 優衣は腕時計を見て、ため息を吐いた。
 第一回戦開始時刻は十時半。
 今は十時。もう、時間がない。
 不戦敗だと腹をくくるか、と思ったとき、校舎の方から走ってくる人影を見つけ、目を瞠った。
「流河、あれ」
「え………あ!」
 流河も気付いて瞳を見開く。
 駆けてくるのは間違いなく村崎と、岩永だ。
「間に合ったー!」
 流河は諸手をあげて喜ぶ。
 優衣もホッと息を吐いた。
「もう、遅いよ!
 よかった見つかってー!」
 思わず岩永に抱きついた流河は、戸惑う気配に気付いて顔を上げる。
 なんだか違和感がある。
「………流河。
 そいつ違うぞ」
「え…?」
 村崎の言葉に流河はそっと離れて彼の顔を見上げた。
 そういえば、身長が結構高い。
「……れ?
 向こうの岩永くん?」
「ああ。
 あいつはまだ見つかっとらん」
「…………」
 流河は眩暈を感じてその場にしゃがみ込む。
 優衣も大きく落胆して、顔を覆った。
「いや待て。
 試合には出るぞ」
「……え?」
 村崎の淡々とした声に、二人は顔を上げる。
「なんのために連れてきたと思っとる。
 そもそもこいつらの責任やからな。
 責任をとってもらおうと思って」
「…………不本意やけど、静流がそう言うならしかたない」
 村崎に指さされ、岩永は複雑そうな顔でそう言った。
「…………………村崎くんがそういうことを言い出すとはすんごい意外」
「意外とルールにうるさいもんな。
 …ルール違反やぞそれ」
 まあ岩永には違いないから微妙だけど。
「背に腹は代えられん。
 …あいつが楽しみにしとったんや。
 遅れても、来てくれると思う」
 村崎の祈るような言葉に、流河と優衣は納得した。
 だから村崎は戻ってきたのか。
 もう一人の岩永を連れて。
 確かに彼に異変がなければ、一応安全だと思える。
「よし!
 じゃあとりあえず受け付けに行こうか!
 赤信号みんなで渡れば怖くないだね」
「一蓮托生って言えばええやろ」
 先陣切って武道館の中に向かう流河を追いかけ、優衣が小声でつっこむ。
「俺は一蓮托生やない…」
 と、岩永がぼそっと呟き、村崎に軽く頭を叩かれた。
「……でも意外だね。
 いくら村崎くんの言うこととはいえ、素直に協力するなんて」
「それは確かに」
 廊下を歩きながら流河と優衣が不思議そうに岩永を見上げる。
 交換条件でもないと素直に頷かないタイプに思えるが。
「……まあ、交換条件っぽいものがないとは言わない」
「やっぱり…」
「やけど」
 岩永は不意に明るく微笑んで、
「俺、チーム戦は結構好きやったから、久々に参加したかったし」
 と、子供みたいに言った。
 彼のそんな無邪気な姿は見たことがなかったので、流河も優衣もびっくりする。
 意外と子供だ。
「…久々?」
「ああ、俺の世界はもう三年近く中止になっとるから、久々チーム戦」
 引っかかって尋ねた村崎に、岩永はさらっと答える。
「……それにもびっくりだけど、彼、ちょっとテンションが高いね」
「久々で興奮しとるんやない?」
 流河と優衣は小声で会話し、彼の横顔を見上げた。
 本当に楽しそうだ。
「……あ」
 流河は不意に廊下に志津樹の姿を見つけ、足を止める。
「チームメイトと一緒じゃないんだね」
「電話中?」
 志津樹はこちらに背中を向け、なにかをスマートフォンに向かって必死に話している。
「とにかく、家にいるんですね?
 ならいいです。
 勝手にいなくならないでください」
 ちょっと怒った口調でそう言い、通話を切ってスマートフォンをポケットにしまった。
 それから何気なくこちらを向いて、目を見開く。
「うわあっ!
 い、いつから!?」
「………ついさっきやが、なんでそんなに驚く。
 儂らはお化けか」
 尋常じゃない大声とリアクションだったので、村崎が眉を寄せている。
 流河と優衣は苦笑を浮かべた。
 誰が相手か知らないが、そこまで驚かなくても、と思う。
「い、いやその、……………びっくりして」
 志津樹は空笑いを浮かべ、ごまかそうとする。
 それから岩永の存在に気付き、息をのんだ。
「…………あれ、なんでいるの?」
「…いやー、彼はね」
 そうだ。志津樹も岩永がいなくなっていることは知っているんだった。
 誤魔化せないし、素直に言うしかない。
 幸いこの場にはほかの生徒はいないし。
「こいつはもう一人の嵐や。
 内密に頼む」
「……は?
 え?
 もう一人の?
 あの?」
「ああ」
 村崎が肩を抱き込んで小声でささやくと、志津樹はおもしろいくらい驚いて戸惑う。
 おそるおそるという風に岩永を見て、食い入るように凝視する。
 流河が何気なく岩永の横顔を見ると、彼はなぜか頬を染めていた。
「…あ、あの、静流の弟くん?」
「そうや」
「うわー……初めて見た…」
 興奮気味にそう呟き、一歩近づいて志津樹の顔をじっと見る。
 岩永は身長が結構高いがそれでも志津樹よりは低い。
 志津樹は茶の瞳に見つめられ、うっかりどきりとしてしまう。
 自分が知っている岩永とは違う。
 でも岩永だし、綺麗だし、どことなく彼よりも色気がある。
 岩永は不意に手を伸ばしぎゅっと抱きついた。
「わ」
 志津樹はびっくりして声を上げる。
 ふわりと鼻先に岩永の髪が触れて心臓が跳ね上がった。
 すごいいい匂いがする。
「かんわええ!
 静流とちごてかわええ!
 めっちゃ初々しい。弟にしたい!」
 岩永は思いきりハイテンションで志津樹の頭を撫で撫でする。
 どうやら、ものすごく気に入ったようだ。
「……あんな彼、初めて見たよねえ」
「今日は珍しいもんばっかり見るな」
 流河と優衣は遠巻きに感心している。
 村崎はなんとも言いにくい。
 彼は自分の愛する岩永じゃないのに、微妙におもしろくなくも感じて、それに苛つく。
「なあなあなあなあ、お兄ちゃんて呼んで?」
「……兄はそこにいますし、お兄ちゃんは無理です」
「あー、照れてるかわええー」
 すごくデレデレしている岩永の姿は非常に珍しい。
 彼はこんな顔も出来たのか。
 残忍な姿しか見ていなかったから、すごく新鮮で驚き。
 志津樹もあの岩永とは違うとわかっていても意識してしまうらしく、頬が赤い。
「ほな嵐さん」
「……まあ、それなら」
「よっしゃ!」
 その会話に既視感を感じて、流河は首を傾げる。
「ああ、そうだ。
 志津樹くんが転校してきたばっかのときに、ああいう会話、岩永くんとしてたって聴いたよ」
 吾妻くんに、と流河は手を叩く。
「ああ、……逆やな」
「逆だねえ」
 そのときの会話に似てるけど、立場が逆。
「…というかあの、試合が始まりますよ?
 俺も試合あるし」
「…もっと話したい」
「試合終わったら話しましょう?」
 時計を示して言う志津樹に、岩永は寂しそうだ。
 志津樹の妥協案に寂しげな瞳で頷いた。
「…………あの人さあ、敵なんだよね。
 一応」
「………なんか微妙になってきたわ」
 今は一応チームメイトだし。
 というか、彼はチーム戦大丈夫なんだろうか。
 いかにも単独で戦うのが得意そうだけど。
「…そもそも、君は結構手を抜いてね。
 岩永くん、君ほど強くないから」
「ああ、わかった。
 加減はする」
 岩永も久々のチーム戦を楽しみたいし、志津樹ともっと話したいからか、素直に頷いた。

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