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等々力千歌

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天使のハープ

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人々がまだ真面目だった時の話。
街の人々は毎日毎日勤勉に働いていた。
辛い仕事も誰かの役に立つと信じて一生懸命に働いていた。しかし、代わり映えのない仕事ばかりの毎日に、人々は苦痛を感じるようになっていたのだった。真面目な人々はこの鬱憤を晴らす事もできないままに毎日働いていた。いつしか街はため息の音ばかりするようになっていた。

その街のある会社にもそんな人が働いていた。サラリーマンはパソコンを打ちながらため息をついていると窓の外から音楽が聞こえる。


ポロンポロン…


ハープのような音色が聞こえる。初めは聞き間違いかと思っていたが、耳を塞いでも聴こえてくるくるのでこの世の音ではない事は確かだった。仕事のし過ぎで幻聴が聴こえてしまったと男は心配したが、会社中の人、いや、街中の人にこの音色が聴こえている事がわかった。

そのハープの音色はこの世のモノでは考えられない程に美しく澄み渡った音をしていた。街の人々は初めは訝しく思っていたが、美しい音色が止むまで仕事をとめて聞き惚れていた。

1時間程するとハープの音色は止まった。人々はあの音色は何か判らないままに仕事に戻った。すると、いつのまにか仕事への鬱憤が綺麗さっぱり無くなっている事に気付いた。

あの音色は天使が弾いたハープの音色だった。苦痛を感じながら働く勤勉な人々を不憫と感じた天使は、価値観を変える幸せのハープによって「辛い仕事」は「楽しい事」だという風に価値観を変えてしまったのだった。

それから人々は毎日幸せな気持ちで働いた。辛いと思っていた仕事を楽しく感じるようになったのは明らかで、価値観を変える不思議な音色を人々は敬愛を込めて「天使のハープ」と呼んだ。

しかし、暫くすると街はまたため息の音に包まれていた。人々は辛い仕事が楽しいという事に慣れてしまったのだった。また「天使のハープ」が聴くことが出来れば…と、誰もがそう思っていた。


ポロンポロン…


すると、また美しい音色が聴こえてきた。天使のハープだった。不憫に思った天使がもう一度幸せのハープを演奏し、人々の価値観を変えたのだった。天使は人々が幸せに生活し続ける事が出来るようにそれから毎日1時間ずつ演奏した。人々は自分達の為に演奏をしてくれているであろう天使に深く感謝していた。


ポロンポロン…


街の人々は毎日幸せだった。1日に1時間、天使のハープが聞こえる度に価値観がリセットされ、あらゆる事が幸せに感じるようになったのだ。天使のハープを聴くために生活スタイルを改め、仕事の休憩時間に聴けるようにした会社もあった。
街からため息は消え、人々は幸せになった。


そんなある日、急に音色が聴こえなくなった。人々が充分に幸せになったと感じた天使は、幸せのハープを演奏することを辞めたのだった。人々は強く不平不満を漏らした。彼らの生活に深く天使のハープが根付いたため、当たり前の存在になっていたのだった。元々は天使に感謝もしていたが、今では演奏を辞めたことを非難する者も現れた。人々はハープの音色が聴こえなければ働かないと言い、天に向かってボイコットを始めた。


ポロン…ポロン…


天使は嘆いてハープを演奏する。その音はとても悲哀を含んでおり、聴く者の心を悲しい気持ちにさせた。天使は幸せのハープではなく、悲しみのハープを演奏していた。悲しみのハープは人の価値観を変えて、色々なことを悲しい事だと認識させる力があった。人々は音色を聴くだけで悲しい気持ちになるため、天使に演奏を辞めてくれるように懇願した。天使は人々がまた勤勉に働く事を条件とし、演奏を辞めたのだった。

それから人々は天使のハープのない生活に戻り、また勤勉に働くようになった。しかし、ため息をつくと天使が悲しみのハープを演奏するため、その街ではため息をつく事が禁止になったという。
                                                      おしまい
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