[短編集]ゆめゆめうつつゆめうつつ

等々力千歌

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夢見心地

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大人になるにつれて夢を見る事が減った。
自分だけ特別にそうなったって訳じゃなくて、元々夢ってそういうものなんだろうと思う。




何かの本で読んだ。

脳みそは寝ている間に、無意識の内にその日の体験や新しく得た知識を整理しているらしい。そして夢っていうのは、体験や知識を整理する過程で見る、余剰な情報なんだとか。

幼い頃は経験や知識の絶対量が少ないから、寝ている間に整理しなきゃいけない情報が膨大になる。だからよく夢を見る。内容にしたって、突飛なものが多かったはずだ。

手から光線を出せたり、空を自由に飛んでみたり、動物と自由に意思疎通ができたり、海の上を歩いてみたり、宇宙人と友だちになってみたり、車よりも早く走ってみたり、好きな人と両思いになったり、死んだ人と話したり。

しかし、そんな突拍子も無い夢を見る事は減ったはずだ。人生経験を重ねるにつれて、絶対に起きる事、絶対に起きない事が全て線引きできる様になるからだ。それが大人になるという事なのかもしれない。

もちろん、新しい経験や刺激的な情報は生きていれば出会うだろう。だが、どこか物足りない。自分の持っている尺度で測れる程度の、その程度の新鮮さしか持ち合わせていない。




要するに世界は裏返らないのだ。

幼い頃によく見た夢がある。自分が地球に針の様な棒の様な概念のものを突き刺し、そこを起点に地球を裏返すのだ。プラスチックのボールに切れ目を入れて裏表を逆にするイメージだろうか。力を入れるとメリメリと音を立てて地球が裏返っていく感触。丁度、南極大陸の基地に親指を入れると綺麗に裏返せるのだ。裏返した後は特に何かあるわけでは無い。地球の内側が外側になって、外側が内側になる。そして先ほどまで地球の数百倍も大きかった自分は、いつの間にか等身大のサイズに戻っていて、裏返った地球の中で困ったなぁと首を傾げるのだ。




そして目が覚める。

いつものベッドの中だ。
それを確認すると地球が裏返って無いことを思い出して安心する。危ないところだった。危うく地球の真ん中で閉じ込められるところだった。
そんな事を大真面目に考えて安堵するのだ。実際に夢を見ている間や、目覚めた直後は、夢がどれだけ現実離れしていても違和感を持てない。
不思議と心地が良くて、嫌な気持ちにならない。

そして今では、もういくら寝ても夢なんてものは見なくなった。悲しいほどに大人になったという事だと思う。たまには現実では起こり得ない様な、理解不可能な夢を見たいものだ。寝起きでボサボサになった髪の毛をかきながら、なんとなくそう思った。おっと、今日は何日だったか。何気なく壁にかけてあるカレンダーを見た。



第六月曜日か。

朝28時発の特急列車に乗って、たまに運転手になって、土星の周りを周回しなければならない。円環の上のレールは昔、母が良く聴かせてくれた昔話で僕が造ったものだから、それは良いとして、お風呂場、と言っても出てくるのはヤクザとかポニーテールって事なんだけど、それがなんだか良くない傾向だ。エルニーニョ現象とかニュースで言ってたか。お気に入りのコーンフレークが切れてたから、仕事は残業させて貰うとして、とりあえず、太陽系を手で払いのけながら地球を掴む。よくわからないけど、いつものとおり裏返すか。



◆□◆□◆□◆□


その男は、ずっと眠っていた。
全身からはチューブが伸びており、意識を取り戻さない彼の生命を維持するのに必要な栄養素を延々と供給している。

彼の傍らで女が泣いている。
「…先生、主人の容体はどうなんでしょうか」

医者は横たわった男の眼の前で、2、3度ライトを往復させ、力なく首を横に振った。

「…えぇ、正直なところ難しいでしょうな。事故によって完全なる全身麻痺を発症しています。仮に意識が戻ったとしても、私らには意識が戻ったのかどうかすら分からないでしょうね。」

「そんな…。それでは主人はこのまま、一生寝たきりになるという事でしょうか…」

女の問いに、医者は半ば諦める様に呟いた。





「…せめて良い夢を見れれば良いのですが」

               おしまい。
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