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劇場のこけら落としにて
こけら落としにて・16 ◇第一皇子クリスティ視点
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お薦めするような芝居が思い付かなくて、ピンチな所にダディ登場。
ちょっとお茶を飲んだら上演時間。
助かった。
俺は適当に、舞台の方に顔を向けてボンヤリ考え事。
ブビィーッ!
……ぅん? ……あ、そっか。前半が終わったブザー音か。
魔術アイテムの事を考えてたら、意外と早かったな。
ここに紙とペンを持ち込めればもっと良かったんだけど、流石にそれをやったら、芝居を観てないってバレちゃうよね。
ペンの音がうるさいってジェフに怒られそうだし、我慢、我慢。
ダディが観覧席から立ち上がったのを確認。
若干遅れるタイミングで俺も席を立って、ソファーに移動した。
今日のお楽しみ、ウェンサバ劇場が誇る……かどうかは知らんけど……美味しい軽食類がテーブルに並び出す。
よ~しっ、今日は食べるぞぉ~っ!
これが楽しみで来てるからね、俺。
まずは暖かい物だよね。南瓜スープ、うまぁ~。
スコーンが何種類かあるんだぁ。プレーン味、紅茶味、バジル入りに、これはクルミ入り…かなぁ? どれも美味しいや。暖かいから余計にだね。
お腹が動いて来たから、食事っぽい物も貰おうっと。サンドイッチも色々あるしね。
あ、マリネとかあるんだぁ。サッパリしてる物もあるなんて嬉しいね。
せっかくだから、ピザも食べようかな。ちょっと重たいけど。クリームチーズとメイプルシロップのクリスピーピザだから、具材的にも生地的にもピザの中じゃ割と軽め。だよね?
あ~まだ時間、結構あるなぁ。
適当にチョコレートでも摘まんでようっと。
後はのんびり紅茶を飲みつつ……。
……あぁもう。本っ当に無駄な時間だよ。
三十分もある休憩時間、マジ、ツラいぞ。
「流石はウェンサバの看板作品だ。素晴らしい演技ですね、後半も楽しみです。レオナルド様も見た事がある作品ですが……あまりお気に召しませんでしたか?」
「……いや、そんな事は……。」
ヒマを持て余した俺はお喋りする事にした。
レイは黙ってサンドイッチを食べてるし、ジェフは物語の世界に浸ってる所だ。
どうやら食事を摂らないらしいレオは、凄くヒマそうに見えたから。
だけど、レオの返事が、いつも以上に歯切れが悪い。
ひょっとして、観てなかったり…する?
ん~、分かんないけど別にいいや。
「兄はなかなか表情に出辛いだけで、楽しんではいますよ?」
レイはそう言うけど……そうかなぁ?
楽しんでるなら良いけど、別に無理して楽しまなくても良くない?
まぁ、弟のレイが言うなら、そうなのかもな。
ほんっとに、レオ……顔が怖くて分かり難いよっ。
「それよりもクリスティ殿下? 前半部分を見終えての、殿下の感想なぞを是非……お話しいただけますでしょうか? 時間があれば後半部分の見どころなども、是非、ひとつ。」
えっ……?
……うわっ、うわ、うわぁ~っ。どうしよぉ……っ!
今回の演目は『五大悲劇』で有名なアレだし、俺は原作小説を読んでるから内容は分かってるけどさ。
今日の芝居は観てないから、前半でストーリーの何処まで進んだか分からないぞ。
もうっ、ヤだなぁ、レイったら。
そんな期待に満ちた、キラキラした目で見ないでよ。
黙って見詰められるのも落ち着かないけど、そんな期待されるのも……あぁもうっ。
どうしよう……そうだ。
こんな時こそ、芝居好きのジェフに頼ろう!
「ジェフから、何か無い?」
「……ふぅ。……黙って観ていれば良いでしょう。」
……で、す、よ、ねぇ~。
うん、分かってた。分かってたよ。
芝居の世界に没入したいタイプのジェフからすれば、「良いから黙って観てろ」なんだろうな~って。
ハイハイ、邪魔して悪かったねぇ~。
未だ、レイは期待した目で俺を見てる。
口を閉じて、俺が感想とかを言うの、待っててくれてる。
でも俺の感想ってさ、ジェフからは「他に無いのですか」って言われる事が多いんだよね。
分かってる、自分の言い方が下手だって事は。感想文とか本当に苦手なんだよ。
「あくまでも私の、個人的な感想です……。出演者全員が素晴らしい……、…。」
観念した俺は感想を言う事にした。
一応、この芝居が好きなジェフの様子を気にしつつ。
レイとレオの反応も気にしつつ。
そう言えば、レイと芝居の話とか、今までした事なかったな。
この芝居を観た人の『一般的な感想』くらい、俺の耳にも入ってるから。レイが芝居を観る時の参考にする事を考えれば、一般的感想から良さげなのを見繕って話してあげるのが良いんだろうけど。
誰かの言葉を、自分のものみたいに使う気にならなかった。
レイに嘘を吐くみたいで嫌だから。
「父親を始めとした、……。…」
我ながら酷い物言いだろうな。
部屋に劇場関係者がいなくて良かった。
言い終わったら、案の定ね。
やっぱり変な雰囲気になっちゃった。
いいや。ジェフに叱られなかっただけでも、良しって事にしよう。
「流石はクリスティ殿下。多くの作品を観て来たとあって、観劇の感想も常人とは随分、異なっているらしい。」
いいよ、レイ。そんなに気を遣わなくっても。
一緒に観劇デートとか、一般的に良くあるお決まりコースなんだけど。
こんなんだから、俺には無理だなぁ。
「あぁ、こんな時間だ。もうすぐ後半が始まりますねぇ。」
視線を時計に向けて、俺は逃げた。
でもすぐに観覧席に移動するのも悔しくて、ソファーから立ち上がらないまま。
ふと咽喉の渇きに気付いて、同じ紅茶をもう一杯飲む事にした。
最後の一杯、あんまり味が分からなかったから、ちょうど良いよね。
後半開演のブザーが鳴るまで。
俺はソファーに沈んでた。
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