せっかくBLゲームに転生したのにモブだったけど前向きに生きる!

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第五章 ~ゲームに無かった展開だから遠慮しないで歯向かう~

フィロウはもうちょい警戒した方がいいって思った

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「なんか……なんか食べよっか?」

オレがきっと変な顔をしてたんだろう。
フィロウが凄く、とても凄くぎこちない笑顔を浮かべて立ち上がった。

「夕食から時間も経ってるし、入るよね?」
「ん、あ……あぁ。」

明らかに強引な話題の切り方だけど、オレはそれに乗った。
あんまり話したくない方向なんだろうし、フィロウが雰囲気変えたいならオレに逆らう理由は無い。

「貰い物だけど美味しそうなケーキがあるんだ、ついでに飲み物も補充するね?」

一気に喋ったフィロウはオレの返事も待たず、そそくさと部屋を出てった。
オレはまた座り直す前に、本を全部、壁際にあるテーブルへと戻しとく。
条解本はすぐ手に取れるよう、本の山とは別に置いた。


ケーキを持って来るなら、テーブルは空けとかなきゃ。
食べカスとかが書物に飛んだら大変だもんな。




長ソファに身体を預けて、床へと足を伸ばして。
頭の中を空っぽにして待つオレ。

色々勉強して。分かって。ホッとして。
今日はもう、頭を使うのはナシだ。
後はもう、フィロウとイチャイチャして寝る。


「っあ……。いや、そういう意味じゃなくて…」
「イグゥっ! ぉ、お待たせっ!!」
「ぅおぉっ!」

自分の言葉に反論するのもオカシな話だけど。イチャイチャってのはつまり、単に仲良くするってだけの意味で、決してイヤラシイ意味じゃない……って言い訳し掛けたタイミングでフィロウが戻って来た。
しかも、やたらと元気……いや、威勢が良い。良過ぎだ。


なんだ? フィロウ、お腹空いてたのか?
甘い物が食べたくてションボリしてたのか?



フィロウの片手にはトレイ。トレイの上にたぶん、さっき話に出たケーキ。
反対側の手に、飲み物のボトルを二本入れたブリキのバケツ。バケツには氷が沢山入ってて、ボトルを冷やしてくれてる。
意外に力持ちだな、フィロウ。


「これ、お代わりね? 同じ物だから、それに注ぎ足しても大丈夫だよ。」

ドドンッ! コロ、コロッ。……ツツーッ。

テーブルに置いたバケツから、氷が一つ二つ、転げ出て滑った。

フィロウ、動きがガサツだぞ。
書物をどかしといて本当に良かった。


「あと、これ……。何のケーキか、知らないけど……。」

ケーキは茶色くて長方形でギッシリした感じ。
何かのリキュールかシロップが掛けられてるっぽくて、かなり湿ってる。
スポンジが凄く水分を含んでるから、ちょっとしたショックで崩れそうだ。

フィロウは慎重にケーキを切る。

二センチくらいの厚さで、それをスプーンとフォークで皿に乗せて、緊張した面持ちでオレの前に運んだ。
テーブルに置いた程度の衝撃で、皿の上のフォークがカチャって音を立てる。
カカオの匂いに混じって柑橘類の甘酸っぱい香りがした。

「……どうぞ?」
「美味しそうだな。」

皿を持ち上げてフォークを差し込んだら、中から液体がジュワッと滲み出るのと同時に、甘い香りが強くなる。
柑橘系シロップには合わない、蜂蜜やメイプルともちょっと違う。糖分を煮詰めたような、僅かに焦げたような燻したような。本来のケーキとは違う甘みを後から足したような。


とにかく違和感。


「……どうしたの?」
「フィロウ。ちょっとそのままで待っててくれ。」

自分の分も皿を持って来て、隣に座ったフィロウをオレは止めた。
素早くオレは、一口大よりも小さくした欠片を咥内に含む。
間違っても齧ったりしない。舌の上に乗せるだけ。
そしてそれは間違いじゃなかったようだ。

口の中の温度が高い所為か、噛んでもないのにスポンジから液体が滴った。
甘ったるい中にヤバいものを感じて。

「ぐ……ぅ、ップ…」

咄嗟にティッシュに吐き出した。

ティッシュがあって良かった。
ありがとう、ティッシュ。ティッシュ、ありがとう。



「いっ、ィグ…」
「食べるな!」

短くそれだけ言って、飲み掛けの葡萄炭酸をちょっとだけ口に含む。
行儀悪いけどそれで舌を洗って吐き出した。

養育所で訓練しといて良かったぞ。
もしビリーなら、こんなに口に入れなくても分かったかな。


フィロウが固まってるのを確認して、グラスの残りを一気に呷るオレ。
食べようとしないなら説明は後にさせて貰おう。
口に入れた分は吐き出したツモリだけど、一応念の為に炭酸をガブ飲みして、血液中に吸収される毒成分を薄めようって作戦だ。酒を飲んで酔っ払って来たら水を飲む、アレだ。

空になったグラスに手酌でボトルから飲み物をお代わりして。
それも一気に飲み干すオレ。
まだ固まってるフィロウの手から、皿を優しく奪ってテーブルに置く。
匂いを嗅いでるだけでも、弱い人なら効果が出ちゃう可能性があるからな。


不安気な表情で、やり場の無い手をニギニギしてるフィロウ。
オレはその手を取って、オレの方を向かせた。

「な、に……?」
「ヒトから貰った、って言ったよな? 知ってる人か?」
「え……、ぃ、いや…」

目を合わせたフィロウが瞬きしながら戸惑った声を出す。
まさかこんな風に聞かれるなんて、思ってもみなかったんだろう。

「知ってる人じゃ、ないんだな? 何処で渡された? ひょっとして……。」

一つ、思い当たった。
娼館エリアの端っこで会ったとき、フィロウが言ってたな。


「娼館エリアで会った人から、か?」
「……!」

分かりやすくフィロウが目を見張る。


あぁ、やっぱりな……。
何か良く分かんないけど、応援してくれたって話だったっけ。

目に浮かぶなぁ。
知らない人から渡された物を王子様スマイルで受け取るフィロウ。
凄い簡単に、目に浮かぶなぁ。


「もしかしてさ、その場で食べるように言われなかったか? 例えば、今ここで一緒に食べよう、とか。……まさか、って思うけど。そこで一口だけとかでも、食べてない、よな?」
「……ど、どうして……? なん、で…」


狼狽えるフィロウに説明しなきゃ。



ケーキには、尋常じゃない量のクスリが滲み込んでた……って。
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