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第五章 ~ゲームに無かった展開だから遠慮しないで歯向かう~
シルシがあっても欲しいものは手に入らない・1 $フィロウ$
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きっと一目惚れだったんだ。……ぅううん、間違いなく、そう。
ボクがイグゥと初めて出会ったのは、もう二十日ぐらい前になるかな。
その日は何かの用事でたまたま出掛けてて、お昼をどうしようか、なんて考えながら町を歩いてたんだよね。
だけど何となく、それまで利用した事のある店に入る気がしなくて。
宿屋や食事処が建ち並んでるエリアを越えて、もっと先に進んで。
幾つかの屋台が出てる広場。
そこで……イグゥの後ろ姿を見た。名前も知らない頃の話だけど、イグゥって呼ぶね?
離れた位置だったのにイグゥから目が離せなかった。
百九十センチ後半……むしろ二メートル弱のボクが言ったらナンだけど。イグゥは背が高くて、だけど細っこいワケじゃなくて、立ち姿がピシッとしてて。
凄くカッコ良かった。ただ立ってるだけで堂々とした雰囲気があった。
どうして周囲の人達は誰も、あの人に注目してないのか、それが不思議で。
もしかしたら、明らかにネコ顔なのかも。
そう思いながら、ボクの足はもっと近くに寄ろうとして動き出す。
ボクはいつも全身を隠すようなフード付きの外套を着てたから、その時も、フードの奥からコッソリと覗き見るツモリでいた。
だけどイグゥは急に振り返った。
ボクは何もしてない。何も言ってない。
こんなに図体の大きくて、瞳も髪も何もかも黒いボクが、声なんか掛けられるわけが無いんだ。
なのにイグゥは振り返った。
イグゥの顔を見た時。イグゥがボクを見てるって思った時。
ドキドキを通り越して、ゾクゾクした。身体が熱くなる。
目も熱くて、視界がボンヤリして、せっかくのイグゥが良く見えない。
呼吸が……上手く息が吸えなくなった気もして来た。
こんなの初めてで分かんない。
一体ボクはどうしちゃったんだろう?
「あ、ぅううん。見てただけだから。」
貴方の事を見てた、だけ……。
反射的に口を突いて出た言葉がこれ、なんて酷過ぎだよ。
自分でも気持ち悪いんだから、きっと言われた方はもっと気持ち悪いよね。
ボクは逃げ出した。
どんな顔をされるか、目にするのが怖くて。大急ぎで自分の家まで逃げ帰った。
イグゥの事がずっと頭から離れないまま。
身体が熱くなったまま。
そして屋敷の使用人に発見された。
ボクの両瞳に、天守のシルシがある事を。ボクが天守だって事を。
きっとイグゥに欲情した所為だ。
天守の存在は喜ばしいもの。
タチだってリバだって、自分が天守になったら誇らしいはず。
だけどボクは泣きたくなった。
ボクが天守って事は、……万に一つのチャンスも奇跡も、無いって事だから。
ハーレムを作らなきゃならないのに、あの人はきっと妻にはならないから。
* * *
その翌日。
領主をしてるお父さんとお母さんは、天守のシルシが出たボクがハーレムを作るに当たってどうしたいか、ボクの意思を確認してくれた。
もしボクが望むなら、妻になり得る人達を集めて集団見合いをする事も出来るって。
有難いけどボクはそれを断った。出来るだけ自分で探してみる、って。
その言葉を信じてくれて、両親はボク抜きで妻を集めたり、ハーレム作りを一刻も早くって急かしたりせず。大々的に町の人達に広める事も控えてくれた。
推定十四歳頃から始めてた領主業の勉強は、一旦休止になった。
小規模ならともかく、ボクがハーレムを中規模以上にするツモリなら、領主業との掛け持ちは出来ないから。
翌々日からボクは何をするでもなく、ただ町に出てた。
妻になる人を探すべきなのに、声を掛ける相手が見付からない。
ボクの目はあの人……イグゥを探してたから。
フード付き外套を身に纏っても、ボクの大きな身体は隠せない。
知ってる人が見れば、あれは領主の息子だってすぐバレる。
誰も声を掛けて来ないのは、ボクが町の様子を眺めてるのは何かの仕事中か勉強中だから、とでも思ってくれてるんだよね。きっと。
その誤解も、いつまでもつかな。
ただ日数だけが過ぎてく。
あれ以来、イグゥを見掛けてないからかもだけど。
気持ちが沈んで。
前が見れない。
誰に対してかも分かんないような、いっつも後ろめたい気持ち。
責められてないのに、責められてる気分。
ねぇ……。……誰か…、………代わってよ……。
ボクに甘い両親と比べ、お兄さんだけはキッチリ厳しかった。進捗状況も聞かれたし、本とか資料とかを渡されたりした。
厳しいは……言い過ぎかな。世間一般的にはお兄さんの対応の方が普通だ。
天守のシルシがあるんだもん。いつ作るの? まだ妻が一人も居ないの? どうする気なの? ……ってなるよ。
領主の息子が領主業の勉強を休んでる。
実はシルシが見付かったらしい。
ハーレム作りが進んでないのに妻の募集をしてない。
その辺りの事が噂になって、領主の対応に疑問を持たれてから慌てても遅い、って。
分かってるよ、ボクだって。
お兄さんの言ってる事は正しい。
でも素直に言う事を聞く気になれないんだもん。
嫌いじゃないよ。ただ……羨ましいだけ。
だってお兄さんは、ボクの要らないものを何も持ってない。
高過ぎる身長も。真っ黒な毛も。子供っぽい顔も。領主の重圧も。天守の義務も。
それなのにお兄さんには、ボクの欲しいものが全部ある。
抱き締めて貰える程度にスラッとした身体。柔らかい色の髪。知性的な美形。家を出て、兵士業をして、一人暮らしで、ある程度の自由とお金。
結構前からお兄さんにオトコがいるのも知ってるよ。
「自分は領主の器じゃない」とか、「良い子でいるぐらいしか出来ない」とか言ってたのに。それでも愛されるんだから……お兄さんはいいよね。
ボクがイグゥと初めて出会ったのは、もう二十日ぐらい前になるかな。
その日は何かの用事でたまたま出掛けてて、お昼をどうしようか、なんて考えながら町を歩いてたんだよね。
だけど何となく、それまで利用した事のある店に入る気がしなくて。
宿屋や食事処が建ち並んでるエリアを越えて、もっと先に進んで。
幾つかの屋台が出てる広場。
そこで……イグゥの後ろ姿を見た。名前も知らない頃の話だけど、イグゥって呼ぶね?
離れた位置だったのにイグゥから目が離せなかった。
百九十センチ後半……むしろ二メートル弱のボクが言ったらナンだけど。イグゥは背が高くて、だけど細っこいワケじゃなくて、立ち姿がピシッとしてて。
凄くカッコ良かった。ただ立ってるだけで堂々とした雰囲気があった。
どうして周囲の人達は誰も、あの人に注目してないのか、それが不思議で。
もしかしたら、明らかにネコ顔なのかも。
そう思いながら、ボクの足はもっと近くに寄ろうとして動き出す。
ボクはいつも全身を隠すようなフード付きの外套を着てたから、その時も、フードの奥からコッソリと覗き見るツモリでいた。
だけどイグゥは急に振り返った。
ボクは何もしてない。何も言ってない。
こんなに図体の大きくて、瞳も髪も何もかも黒いボクが、声なんか掛けられるわけが無いんだ。
なのにイグゥは振り返った。
イグゥの顔を見た時。イグゥがボクを見てるって思った時。
ドキドキを通り越して、ゾクゾクした。身体が熱くなる。
目も熱くて、視界がボンヤリして、せっかくのイグゥが良く見えない。
呼吸が……上手く息が吸えなくなった気もして来た。
こんなの初めてで分かんない。
一体ボクはどうしちゃったんだろう?
「あ、ぅううん。見てただけだから。」
貴方の事を見てた、だけ……。
反射的に口を突いて出た言葉がこれ、なんて酷過ぎだよ。
自分でも気持ち悪いんだから、きっと言われた方はもっと気持ち悪いよね。
ボクは逃げ出した。
どんな顔をされるか、目にするのが怖くて。大急ぎで自分の家まで逃げ帰った。
イグゥの事がずっと頭から離れないまま。
身体が熱くなったまま。
そして屋敷の使用人に発見された。
ボクの両瞳に、天守のシルシがある事を。ボクが天守だって事を。
きっとイグゥに欲情した所為だ。
天守の存在は喜ばしいもの。
タチだってリバだって、自分が天守になったら誇らしいはず。
だけどボクは泣きたくなった。
ボクが天守って事は、……万に一つのチャンスも奇跡も、無いって事だから。
ハーレムを作らなきゃならないのに、あの人はきっと妻にはならないから。
* * *
その翌日。
領主をしてるお父さんとお母さんは、天守のシルシが出たボクがハーレムを作るに当たってどうしたいか、ボクの意思を確認してくれた。
もしボクが望むなら、妻になり得る人達を集めて集団見合いをする事も出来るって。
有難いけどボクはそれを断った。出来るだけ自分で探してみる、って。
その言葉を信じてくれて、両親はボク抜きで妻を集めたり、ハーレム作りを一刻も早くって急かしたりせず。大々的に町の人達に広める事も控えてくれた。
推定十四歳頃から始めてた領主業の勉強は、一旦休止になった。
小規模ならともかく、ボクがハーレムを中規模以上にするツモリなら、領主業との掛け持ちは出来ないから。
翌々日からボクは何をするでもなく、ただ町に出てた。
妻になる人を探すべきなのに、声を掛ける相手が見付からない。
ボクの目はあの人……イグゥを探してたから。
フード付き外套を身に纏っても、ボクの大きな身体は隠せない。
知ってる人が見れば、あれは領主の息子だってすぐバレる。
誰も声を掛けて来ないのは、ボクが町の様子を眺めてるのは何かの仕事中か勉強中だから、とでも思ってくれてるんだよね。きっと。
その誤解も、いつまでもつかな。
ただ日数だけが過ぎてく。
あれ以来、イグゥを見掛けてないからかもだけど。
気持ちが沈んで。
前が見れない。
誰に対してかも分かんないような、いっつも後ろめたい気持ち。
責められてないのに、責められてる気分。
ねぇ……。……誰か…、………代わってよ……。
ボクに甘い両親と比べ、お兄さんだけはキッチリ厳しかった。進捗状況も聞かれたし、本とか資料とかを渡されたりした。
厳しいは……言い過ぎかな。世間一般的にはお兄さんの対応の方が普通だ。
天守のシルシがあるんだもん。いつ作るの? まだ妻が一人も居ないの? どうする気なの? ……ってなるよ。
領主の息子が領主業の勉強を休んでる。
実はシルシが見付かったらしい。
ハーレム作りが進んでないのに妻の募集をしてない。
その辺りの事が噂になって、領主の対応に疑問を持たれてから慌てても遅い、って。
分かってるよ、ボクだって。
お兄さんの言ってる事は正しい。
でも素直に言う事を聞く気になれないんだもん。
嫌いじゃないよ。ただ……羨ましいだけ。
だってお兄さんは、ボクの要らないものを何も持ってない。
高過ぎる身長も。真っ黒な毛も。子供っぽい顔も。領主の重圧も。天守の義務も。
それなのにお兄さんには、ボクの欲しいものが全部ある。
抱き締めて貰える程度にスラッとした身体。柔らかい色の髪。知性的な美形。家を出て、兵士業をして、一人暮らしで、ある程度の自由とお金。
結構前からお兄さんにオトコがいるのも知ってるよ。
「自分は領主の器じゃない」とか、「良い子でいるぐらいしか出来ない」とか言ってたのに。それでも愛されるんだから……お兄さんはいいよね。
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