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第五章 ~ゲームに無かった展開だから遠慮しないで歯向かう~

驚きの情報が出て来たけどまぁいいか

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お昼ご飯はスパゲッティ。それは決定事項として。
何スパにするか……手早く出来る物がいい。でもニンニクたっぷりのペペロンチーノは無しだな。
昨日といい今日といい、フィロウにはご馳走になってるからさ。本当はちゃんと手間を掛けて、美味しい物を作ってあげたいトコなんだけどさ。

ゴメン。今は時間を掛けてられないんだ。
手早く作って早く居間に戻らなきゃ、顔合わせが終わっちゃうかも!



冷蔵庫の中身を確認して、ミートソーススパゲッティの簡単バージョンに決めた。
これだとソースも麺も、フライパン一つで終わるからだ。

緩めにミートソースを作ったフライパンの中に、半分に折った乾麺を入れて、蓋をして茹でる。ミートソースを煮詰めながらパスタも茹で上がるから、時短にもなるし、麺に味が滲み込んで一石二鳥だ。
茹でてる間にサラダを作る。
フィロウは生野菜が嫌いじゃないから、何種類かの野菜を適当に切って盛り付けて、ガーデンサラダだって言い張ろう。ドレッシングはオリーブオイルと塩、胡椒で済ませる。スパゲッティが濃い目の味になる予定だから、ちょうどいいバランスなハズだ。



料理を作りながら。
開けっ放しな扉の向こう側から漏れて来る声に聞き耳も立ててるオレ。

オレ、耳は割と良い方だからな。
ハッキリじゃなくても会話の内容はボンヤリ分かる程度には聞こえるんだ。


どうやら二人は、自己紹介を終わらせて。
お互いの立場とかを含めた今後の話を始めたっぽい。
既にあるハーレムへの加入じゃなくて、これから出来るハーレムの初期メンバーになるって話だから。色々決めなきゃいけない事項がある感じだ。


いよいよ本当に急がなきゃ。
大体の話は聞こえてるし、仕切るのはルサーだから、顔合わせが失敗する心配はしてない。
単純にオレも参加したいぞ。



「……よし、出来たっ!」

フライパンから凄くいい匂いがしてる。
満足しながら火を止めて、脱いだエプロンを食卓イスの背もたれに引っ掛けて。
オレは二人を呼びに行った。





開けっ放しの扉を越えて居間に入るオレ。
ルサーもフィロウも、グラスに手を伸ばしたトコだった。
台所で聞いてた感じだとまだ続いてるっぽかったのに、何だかちょっと落ち着いた雰囲気だ。

「ご飯出来たけど……どうする? こっちに持って来るか?」
「そうだなァ……いや、移動するか。ここじゃテーブルが低過ぎだろ。」

飲み干したルサーがグラスをテーブルに置く。
ちょっと遅れてグラスを置いたフィロウは、真剣な表情でルサーとオレを見た。

「ルサーさん……もうちょっと続けてもいい? あとちょっと、だよね?」
「ん? あぁ、オレは構わねぇが?」
「御飯もう出来たのに、ゴメンね、イグゥ。」
「いやいや、大丈夫。気にしなくていいぞ。」
「なんかさ……。途中で御飯にしても、気になり過ぎて味が分かんなくなりそうで。せっかくイグゥが作ってくれたのに勿体無いな……って。」


二人が大丈夫なら、オレは大丈夫だ。
息を吐いたフィロウは、改めて姿勢を正してルサーを見る。


「ぁの、さっきの……お兄さんや両親の説得って、やっぱり必須なんだよね?」
「そうだ。イグザの『妻』として、後々の禍根になるような状態を見過ごす事ァ出来ねぇからな。」

確かに……ルサーの言う通りだ。
フィロウを妻にしたは良いものの、猛反発する兄と領主夫夫(ふうふ)によりオレとフィロウは会えなくなりました……とか。フィロウが家族と絶縁しました……とか。そんなの最悪過ぎるだろう。


「そうだね……分かった。頑張って石頭の相手する。」
「ぁー、……さっきも言ったがよ。エステードの気持ちが俺は想像出来るンだが…」
「お兄さんは心配し過ぎなんだよ。」
「………。……ハーレム妻へのやっかみともなりゃ、割かしどころじゃねぇ。かなりエグイぜ? それこそ、犯罪でもしでかしたぐらいな言われようだ。」

それっぽい話を、さっきオレも台所で麺を茹でながら聞いてた。
領主の息子で天守のシルシ持ちで、町の人達から尊敬されるハズのフィロウが下手したら。天守の務めを果たさず逃げ出したって、激しい非難の対象になるかも知れないってこと。


お互いに視線を受け止めながら。
フィロウは小さく微笑む。


「実はね、ボク、子供の頃の記憶が無いんだ。街道を泣きながら歩いてたんだってさ。って記憶もボクには曖昧なんだけど。推定十歳ぐらい。保護された当時からボクは何も分かんなくて。」

えっ? えっ? なんかサラッと軽めに重たい情報が出て来たんだけど!
いや…ぁの、記憶の一部が掛けてるオレが言うのもナンだけどさ。


「お兄さんがやたら心配するのは、もしかしたらその所為もあるかも知れないけど…」

オレもルサーも地味に驚いちゃってて。
リアクションする機会を逃したまま、フィロウの話が進んでく。


「ボクはお兄さんが心配してる程、世間の言葉で傷付かないよ。少なくとも、イグゥの妻になる事への非難を浴びる分にはね。それより、ボクの身体が大きい事を言われる方がよっぽど傷付くよ。」
「そうは言ってもよ…」
「真っ当な非難は、町の議会に寄せられる苦情と一緒だから。耳は傾けても、気に病んじゃダメなやつだから。」

キッパリ言い切ったフィロウ。

天守の息子だもんなぁ。
お手伝いとかで、慣れてるのかなぁ。


「感情的な非難は逆に平気。耐えなきゃ、なんて思わなくても耐えられる。これは凄く……汚い気持ちだけど……。羨ましいって事だよね? ボクも結構、誰かを羨ましいって感じながら生きて来たから……、ボクはその人達に同情すると思う。」
「お優しい事だ。」
「優しくないよ? 悪口を言う相手に上から目線……だよ? ボク、酷くない?」

何かオレがフォロー出来ればって考えたけど、特に出番は無さそうだなぁ。
とりあえずオレ、黙って聞くしか無さそうだなぁ。


「それに、よっぽど酷い事を言われても……イグゥがいるなら、ボクは平気。他人から言われるかも知れない『何か』より、イグゥと会えなくなる方がイヤ。」
「……成程な、お前サンの気持ちは分かった。ソレをよ……落ち着いて、ちゃんとエステードにも話してやれ。」
「そうだぞ、フィロウ。フィロウがそこまで考えてるって分かったら、エステードさんだってきっと、ただ闇雲に反対はしないと思うんだ。」

話が終わりそうな頃合いになって、ようやく参加出来たオレ。
これだったらお前、大人しく昼ご飯を作ってろよ。って言わないでくれ。
オレ自身もちょっと思ってるぞ。


「うん、そうする……ありがと。」

スッキリした顔で返事するフィロウ。


スパゲッティを温め直す必要があるだろうけど。
お昼ご飯は美味しく食べれそうだ。
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