初めまして日本から勇者やりに来ました結婚してくれ! ~異世界人は現地人を溺愛する~

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本編1 警戒される男

8・一目出逢った瞬間に恋の花咲く事もある @泉州

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手を取り合うオレとロイズ。
ロイズはオレに手を握られたまま、瞬きする事しか出来ねぇでいる。
まるでオレ達二人だけ、時間が止まったようだった。


まっ、気の所為なんだがな。

実際には、何人かの奴らがオレを捕まえようとして来てよ。
オレは、純情な反応をするロイズを見詰めるので忙しいってのに。
捕まりたくはねぇし、だからってソイツらに怪我させたいワケでもねぇし。適当に片手で振り払ったりぐらいで、出来る範囲内で優しく済ませてやったツモリだ。
神様が言ってた勇者能力を、無駄に発揮しちまったような気がするぜ。


何人か振り払ったら、流石に空気を読んでくれたんだろう。
コッチに近寄って来る奴はいなくなった。

よし、これでやっと落ち着いて、ロイズに話し掛けられるな。



「なぁ……、良かったら名前、教えてくれ。」
「はぁっ? なんでだよ?」
「お前の口から聞きたいからだ。良くなくても是非、教えてくれ。頼む。」

ロイズって呼ばれたのは聞いたが、それはそれ、だ。
オレは天使本人から、名前を教えて貰いたかった。


「……断る。」
「名前が分からなかったら、オレは天使って呼ぶしかねぇんだが?」
「…きっ………気持ち悪いっ。断るっ。」
「おぉぅ……。」


ふ、らぁ……っ。


あ、危ねぇ、危ねぇ……。
震えながらキッパリ言い放つロイズが余りにも可愛すぎて、一瞬、眩暈したぞ。



「もぉ~っ、手ぇ、離せ……っ。」

ちょっと気分を落ち着ける為に、握った手の甲を撫で回したら、それはお気に召さなかったらしい。
手を引き抜こうとして、ロイズがジタバタしだす。


コレはコレで可愛らしい仕草なんだが、ロイズが腕のスジでも痛めたら大変だ。
名残惜しい気持ちを我慢して、取り敢えず一旦、手を離してやるべきか。


自分の欲望と、ロイズへの気遣いと。
天秤に掛けたオレは、手を離してやる事にしたんだが……ロイズの滑らかな手が余りにも触り心地が良過ぎてな。

なかなか離せずにいたら……。


「手、離したら名前、教えてやるっ。」
「おい、離すな! 逃げられるだろ!」

せっかくロイズが提案してくれたってのに、精悍な男がそれを、勝手に却下した。
オレが話し掛けられたのに、だ。
ロイズはその男に目線をやって、絶望したような顔をする。


そんな表情を見たら。オレが。そんな顔させねぇ、って気持ちになるだろ。
些か不本意だがロイズから目線を外して、オレが苦情を入れてやる。


「おい、そこのお前。オレは逃げないから、無駄にロイズを叱るんじゃねぇっ。」
「ちょ…、名前っ。知ってるじゃんか。なんで聞いたんだよ?」
「お前の口から聞きたいからだ。……たまたま耳にしたからって、許可も無しで勝手に呼ぶワケには行かねぇだろう?」

正直に言ったのに、ロイズはあからさまな疑いの目をオレに向けて来る。

もしかしてオレが何か企んでる、とでも思ってンのか?
どうやってロイズに好かれようか。って事ぐらいしか考えてねぇぞ?



いつの間に飛び降りてたのかは知らんが、精悍な男はロイズのそばに寄って来た。
今さっきオレが叱ってやったのも気にしてねぇのか、腕組みしてオレとロイズとを交互に見やる。実に飄々とした態度だ。


「あー、……ロイズ? 一応ちょっと聞くが、………どういう事だ?」
「知らないっすよ。神官長が知らないのに、おれが知るわけないでしょお?」

なるほど、精悍な男は神官長。ロイズのお陰で把握した。
結構な身分にありそうな肩書の割に、神官長の外見は割と若そうだ。オレよりちょっと年上、ぐらいか?
だが外国人の外見年齢は分からねぇからなぁ、あんまり当てにはならねぇよな。


「お前、何かやったのか?」
「何もやってないっすよ!」
「神官長、とか言うお前。上から見てなかったか? ロイズは何もしてねぇだろ。」

さっきと言い、今と言い……ロイズに向かって非難するような言葉を吐く神官長に、オレはキッパリと言ってやった。
神官長は何故かオレに、不思議そうな表情を向ける。
何故かロイズも……いや、ロイズがコッチを見る分にはどんな理由だったとしても、どんな表情でも大歓迎だ。


「ロイズから許可無しで名前を呼ぶワケには行かない。……じゃなかったのか?」
「お前、ナニ勝手に呼んでんだよ。気持ち悪りぃな。」
「………っ! ぁぐ、ぐはあぁぁ……!」

ロイズの口から名前を教えて貰ってから!
呼び捨てにしていいかって!
聞くツモリだったのに!
オレって奴は!


ショックでオレは膝から地面に崩れ落ちた。
体勢を崩すのに巻き込むワケには行かねぇから、ロイズの手を解放する。



ついつい先走って、その前に呼び捨てしちゃったぜ。
あぁ失敗した、最悪だ……。
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