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本編1 警戒される男
12・行かないで異世界人様 俯瞰視点
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「そ……、そなたは、異世界から来られたのですか?」
いよいよ以って猶予は無さそうだ。
異世界人の様子を見ていたティーロッカ殿下は、ついに勇気を出した。
震える足を叱咤して動かすと、一歩ずつ、異世界人へと近寄って行く。
護衛達が口々に「危険です、殿下」と言って止めようとするが、王子はもう、自分は守られながら安全な位置にいるべきではないと判断したのだ。
声を掛けられた異世界人が眉を顰めて王子を見詰める。
射貫くような視線を受け、背筋に冷たいものが流れるような気がしても。
会話が出来る、それなりの距離に来るまでは、王子が足を止める事は無かった。
異世界から来たと言っても、会話ぐらいは出来るはずだ。
まだ彼は何もしていないじゃないか。
ならば、もしかしたら、こちらが丁寧に接すれば、二か月前の事件のようにはならないかも知れない。
あぁせめて、……せめて、あの少年から、異世界人様の注意を逸らさねば。
「来訪された理由をお聞きしても宜しいでしょうか?」
「いや、別に……その…、来訪って…程じゃねぇんだが、よ……。」
自分の質問に対して異世界人が答えてくれようとしている。
その事で王子は、僅かに安堵する思いだった。
ここまでは確かに、まるで二か月前を再現するように状況が進んでいた。
だがあの時とは違い、今、祭壇上にいる異世界人はタカロキ、あるいは最初に興味を持ったカカシャ以外の者に対しても、話をしようとしているではないか。
二か月前の自称勇者と、この異世界人は、きっと違うのだ。
だが……王子が安堵するのは早かったようだ。
「え~と、……なんだその、一応、勇者……? を、やりに来たん…だが。」
すっ…と髪を掻き上げながら、異世界人は再び周囲へと視線を巡らせた。
自分の言葉がどのような影響を及ぼすか、それを見届けようとするかのように。
――― 異世界から来た 勇者を やり に…… ―――
ヒュッ、と。王子は息を呑み。呼吸すら忘れた。
同様に、周囲も静まり返った。
ややしばらく経過し。
誰からともなく「勇者だと…」、「そんなまさか…」という呟きが漏れ出た。
見る間に動揺が広がって行く。
異世界人が発した「勇者をやりに来た」という言葉の真意について、絶望、希望、……相反する事態を想定し、僧侶達の感情は大いに乱れる事となった。
ある者は、二か月前の自称勇者と全く同じだ、と絶望した。
またある者は、この異世界人は自称勇者を殺しに来たのでは、と希望を抱いた。
周囲の動揺など耳にも入らないかのように、異世界人は淡々と王子に話し掛ける。
「なぁ、アンタって王子サマ?」
「ドゥーサンイーツ王国の第三王子、ティーロッカと申します、異世界人様。」
「ちょっと聞きたいんだが……。」
速やかに返答する声が震えなかったという点だけで、王子の対応は立派なものだ。
気丈にも王子が一人で、異世界人に対応する、その間。
一応、先程。異世界人の注意が王子に向けられているのを確認出来たので、僧侶と神官兵が一人ずつ、この事態を大急ぎで司教へと報告しに向かっている。
残りの神官兵達もさりげなく、僧侶達を遠巻きに下がらせ、それを庇うように少しずつ立ち位置を整えている。
どこまで太刀打ち出来るかは分からないものの、もしも異世界人が王子やカカシャに危害を加えようとしたなら、すぐに飛び込める距離へと近付いて行く。
ここで異世界人に対して、どのような回答を王子が口にしようとも、今、その発言内容を咎められる立場の者はいない。
……否。例え、立場的には王子に物申せたとしても。
異世界人から発せられている、この威圧感の中。毅然とした態度で振る舞っている王子を、誰が責められようか。
報告を受けた司教がすぐに戻って来てくれるはず。
司教が姿を見せるまで、どうにか時間を稼いで貰える事を、皆が祈っていた。
カターン……!
「そうか、分かった。」
皆の祈りを引き裂くように、大聖堂の広い空間に硬い音が響く。
異世界人が祭壇から降り立った音だった。
歩き出す異世界人を、警戒した護衛達がその背中に王子を庇って立つ。
が、異世界人の向かう先は王子ではなかった。
「邪魔したな。」
「あの……、どちらへ?」
王子の横を擦れ違う瞬間。
異世界人は短い言葉を残した。
「……どっか。」
それを聞いた王子の整った顔が驚愕と後悔とで歪む。
あぁどうして……!
先程の異世界人様からの質問はどれも、当人にとっては確かに気になる事だろうと判断したから。出来る限り、聞かれた事には簡潔に答えたはず。
特に異世界人様の気を悪くするような事柄では無かったし、実際、聞いている最中の異世界人様は気分を害した様子は無かった……のに。
貴方をお呼びした、と……言えば良かった?
でもそんな事は、すぐに嘘だと分かってしまうのに……。
いよいよ以って猶予は無さそうだ。
異世界人の様子を見ていたティーロッカ殿下は、ついに勇気を出した。
震える足を叱咤して動かすと、一歩ずつ、異世界人へと近寄って行く。
護衛達が口々に「危険です、殿下」と言って止めようとするが、王子はもう、自分は守られながら安全な位置にいるべきではないと判断したのだ。
声を掛けられた異世界人が眉を顰めて王子を見詰める。
射貫くような視線を受け、背筋に冷たいものが流れるような気がしても。
会話が出来る、それなりの距離に来るまでは、王子が足を止める事は無かった。
異世界から来たと言っても、会話ぐらいは出来るはずだ。
まだ彼は何もしていないじゃないか。
ならば、もしかしたら、こちらが丁寧に接すれば、二か月前の事件のようにはならないかも知れない。
あぁせめて、……せめて、あの少年から、異世界人様の注意を逸らさねば。
「来訪された理由をお聞きしても宜しいでしょうか?」
「いや、別に……その…、来訪って…程じゃねぇんだが、よ……。」
自分の質問に対して異世界人が答えてくれようとしている。
その事で王子は、僅かに安堵する思いだった。
ここまでは確かに、まるで二か月前を再現するように状況が進んでいた。
だがあの時とは違い、今、祭壇上にいる異世界人はタカロキ、あるいは最初に興味を持ったカカシャ以外の者に対しても、話をしようとしているではないか。
二か月前の自称勇者と、この異世界人は、きっと違うのだ。
だが……王子が安堵するのは早かったようだ。
「え~と、……なんだその、一応、勇者……? を、やりに来たん…だが。」
すっ…と髪を掻き上げながら、異世界人は再び周囲へと視線を巡らせた。
自分の言葉がどのような影響を及ぼすか、それを見届けようとするかのように。
――― 異世界から来た 勇者を やり に…… ―――
ヒュッ、と。王子は息を呑み。呼吸すら忘れた。
同様に、周囲も静まり返った。
ややしばらく経過し。
誰からともなく「勇者だと…」、「そんなまさか…」という呟きが漏れ出た。
見る間に動揺が広がって行く。
異世界人が発した「勇者をやりに来た」という言葉の真意について、絶望、希望、……相反する事態を想定し、僧侶達の感情は大いに乱れる事となった。
ある者は、二か月前の自称勇者と全く同じだ、と絶望した。
またある者は、この異世界人は自称勇者を殺しに来たのでは、と希望を抱いた。
周囲の動揺など耳にも入らないかのように、異世界人は淡々と王子に話し掛ける。
「なぁ、アンタって王子サマ?」
「ドゥーサンイーツ王国の第三王子、ティーロッカと申します、異世界人様。」
「ちょっと聞きたいんだが……。」
速やかに返答する声が震えなかったという点だけで、王子の対応は立派なものだ。
気丈にも王子が一人で、異世界人に対応する、その間。
一応、先程。異世界人の注意が王子に向けられているのを確認出来たので、僧侶と神官兵が一人ずつ、この事態を大急ぎで司教へと報告しに向かっている。
残りの神官兵達もさりげなく、僧侶達を遠巻きに下がらせ、それを庇うように少しずつ立ち位置を整えている。
どこまで太刀打ち出来るかは分からないものの、もしも異世界人が王子やカカシャに危害を加えようとしたなら、すぐに飛び込める距離へと近付いて行く。
ここで異世界人に対して、どのような回答を王子が口にしようとも、今、その発言内容を咎められる立場の者はいない。
……否。例え、立場的には王子に物申せたとしても。
異世界人から発せられている、この威圧感の中。毅然とした態度で振る舞っている王子を、誰が責められようか。
報告を受けた司教がすぐに戻って来てくれるはず。
司教が姿を見せるまで、どうにか時間を稼いで貰える事を、皆が祈っていた。
カターン……!
「そうか、分かった。」
皆の祈りを引き裂くように、大聖堂の広い空間に硬い音が響く。
異世界人が祭壇から降り立った音だった。
歩き出す異世界人を、警戒した護衛達がその背中に王子を庇って立つ。
が、異世界人の向かう先は王子ではなかった。
「邪魔したな。」
「あの……、どちらへ?」
王子の横を擦れ違う瞬間。
異世界人は短い言葉を残した。
「……どっか。」
それを聞いた王子の整った顔が驚愕と後悔とで歪む。
あぁどうして……!
先程の異世界人様からの質問はどれも、当人にとっては確かに気になる事だろうと判断したから。出来る限り、聞かれた事には簡潔に答えたはず。
特に異世界人様の気を悪くするような事柄では無かったし、実際、聞いている最中の異世界人様は気分を害した様子は無かった……のに。
貴方をお呼びした、と……言えば良かった?
でもそんな事は、すぐに嘘だと分かってしまうのに……。
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