最強魔王の息子は囚われの眠り姫を想う ~姫を救うため、悪徳と陰謀に満ちた都市へと赴く~

TOMeTO

文字の大きさ
14 / 40
1章 忍び寄る糸が意図するものは……

10話 一刻の安らぎ①

しおりを挟む
 ある時、ジークは頭と体の気怠さに抗いながら目を覚ました。すると、そこには見知った天井と空間が広がっていた。それと、右手には肌触りの良いシーツと布団の感触。また、左手には柔らかく暖かい手の感触があった。どちらの感触にも覚えはある。

 そして、ジークは即座に理解した。

――俺は気を失って、自宅に運び込まれたのか

 ジークは目だけを動かし窓の方を見る。窓の外からは、ほんのりとした月明りが漏れこんでくるだけで、未だ真っ暗闇にあった。どうやら、まだ夜更けではある様子。

――どれ程の時間が経ったのかは分からんが、このまま寝てもいられん

 ジークはそう思いたち、起き上がろうとした。はだけたバスローブを整えながら、ゆっくりと。頭は非常に重たく、全身も焼けるように熱いものの、起き上がる事くらいはできる。

 すると、左手の方から声を掛けられた。

「ジーク様! よかった。目を覚まされたのですね!」

 それと同時に彼女は何やら凄い勢いで覆いかぶさろうとしてくる。それをジークはヒラりと躱す。すると彼女は、躱された拍子にベッドへとダイブしていく。

 その様子にジークはため息を漏らした。

「ミレイ。怪我人に、何をするつもりだ?」

 それに対し彼女は、寝ころびながらふくれっ面となり
「何って、かなーり心配したんですからね! ハグくらいさせて下さいよ!」
とめちゃくちゃな言い分を訴えてきた。

 ジークはそれを聞き、再度ため息を漏らす。

 そして、彼はミレイから視線を逸らし答えた。

「はぁ、気が向いたらな。……それと、心配を掛けさせた事は謝る」

 すると、彼女は目を輝かせ言い放ってくる。

「え!? よろしいのですか……////// なら、今すぐにでも気を向かせて差し上げます!」 

 それと同時に、彼女は再び抱き着いて来ようとした。

 しかし、ジークはそれを再び躱す。すると、彼女は床へとダイブしていった。

「あぅっ!!」と情けない声を上げながら。

 その姿にジークは頭を抱え
「まったく、懲りないな……」と漏らす。

 次いで彼は、床に蹲る彼女へ向け問いかけた。

「それより、アイシャとミーシャは無事なのか?」

 そこでミレイは、額を抑え立ち上がりながら答えてくる。

「ぅぅ……。は、はい。家で保護しております……」

 それを聞き、ジークは
「そうか」と一言で答えると、ベッドからゆっくりと降りた。

 だがそこで、彼は少しよろめいてしまう。

 それをミレイが急いで支えてきた。

「大丈夫ですか?」

 彼女はジークに肩を貸し、心配そうな表情でそう問いかけてくる。

 それに対し、ジークは彼女を諭すように答えた。

「ああ。多少ふら付く程度だ。直によくなる」

 ただ、それを聞いても尚、彼女は心配そうな表情のまま体を支え続けてくる。

「あまり、ご無理なさらないで下さい」

 しかし、ジークは彼女の手を振り払い、しっかりと地に足を付けた。

「すまない。世話を掛けた」と答えながら。

 そして彼は、続けて
「で、追手の方は?」と問いかける。

 すると、ミレイは複雑そうな表情で答えてきた。

「ええ、撒けはしましたが……。ただ、奴らかなーりしつこかったので、諦めてくれたかどうかは……」

 それを聞き、ジークは妙に納得を示す。

「だろうな。……ここを突き止められるのも時間の問題やもしれん」

 そして、彼はドアの方へ足を進めだした。

 すると、その様子にミレイは小首を傾げ問いかけてくる。

「どちらに……?」

「どうも頭がシャキッとしない。少し、水を浴びてくる」 

 ジークがそう答えたのに対し、ミレイは止めに入ろうとしてきた。

「あー……今は行かない方が……」

 しかし、ジークは彼女が言い終わる前に、部屋を後にしてしまう。


 ジークは廊下へ出ると、真っすぐ脱衣所に向かって行く。だが、足取りは非常におぼつかない。それに、彼の頭には先程から妙な耳鳴りがしていた。恐らく、相当疲れがたまっているのだろう。

 そして、ジークは脱衣所の前に辿り着くと、ノブに手を掛けてゆっくりと扉を開け放つ。

 だが、中の状況を見た瞬間に、彼は思わず固まってしまう。

 そこには、バスタオルで体を拭いているミーシャと、下着姿のアイシャがいたのだ。

 どうやら、彼女達は風呂上りの様で、その柔肌からは湯気に乗ってシャンプーの甘い香りが漂ってくる。

 そこでジークは迂闊だったと反省するが、体はそこに縛り付けられたかの様に動かせない。そして、彼女達もまたジークを見て固まってしまっている。両者の間で長い沈黙が走った。それは、時が止まってしまったと錯覚する程に。

 しかし次の瞬間、ミーシャがバスタオルを落としてしまった事により、時が動き出す。

 その刹那、アイシャは尻尾を逆立たせ、
「きゃぁあーーーーーーッ!!!!!」と悲鳴を上げ出だした。

 また、それと共にジークへ水を含んだバスタオルが投げつけられた。すると、ジークの視界が完全に塞がれる。そして、扉は物凄い勢いで閉めつけられた。それは、手が持っていかれそうになる程の勢いで。

 ただ、それによりジークは我へと返れた。

 ジークは顔に張り付いたバスタオルを払いのけて、扉越しに言う。

「すまなかった。まぁ、その……事故だ」と。

 すると、アイシャは裏返った声で返してくる。

「わ、わかってるから……! す、すぐに出るで、とりあえずリビングで待ってて!」

 それに対しジークは
「あ、ああ。わかった」と少し言葉を詰まらせながらも、素直に従っていく。

 一方、その様子を傍から見ていたミレイは
「あらら、遅かったみたいですね……」と苦笑いを浮かべていたのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 その後、リビングへと向かったジークは椅子に腰かけ、二人を待った。ミレイに淹れて貰ったココアを啜りながら。

 まだ、頭の気怠さや体の熱。そして、妙な耳鳴りは残るものの、さっきのドタバタのお陰で少し紛らわされていた。正直、水を浴びるよりも効果的だったのかもしれない。

 そして、今は別の事に考えを巡らせている。エコーとかブラボーとか呼ばれていた男達、それとエレクの事を。

――まさか、俺があそこまで追い詰められるとは思いもしなかった。それに結局、大した情報も得られず仕舞い……。連中がミーシャの力に、なぜここまで固執するのか? 一体、彼女を使って何をするつもりなのか? そして、連中を束ね裏で手を引いている奴は何者なのか? 未だ尻尾すら掴めていない。

 はっきりとした事は、奴らがあまりにも危険な存在と言う事だけ。

 そこで、ジークはココアのほのかな苦みと、この状況に顔をしかめた。

 状況を憂いてもしょうがないのはわかっている。だが、次の一手ですら奴らの出方を窺うしかないのは、何とももどかしい。

――エレクが打ってくる次の手は何だ? このまま奴が傍観しているだけとも考え難い。
遅かれ早かれ、何か手を打ってくるはずだ。可能であれば、その前に彼女達の身の安全くらいは確保しておきたいところだが……。

 そう思い、ジークはココアにスプーン一杯の角砂糖を4杯も放り込んだ。そして、それを一気に飲み干すのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

処理中です...