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【アクセラード視点】格好良い男
「ふざけんなよ」
そう言って睨まれた時、最初は聞き間違いかと思った。
A級魔物を倒したいというのはそもそもが俺の我儘で、イールにとっては旨味が少ない。もしも守備良くA級魔物を倒せれば、卒業試験でA級魔物を倒したという実績も残るしもちろんギルドから得られる報酬は莫大だろう。
だが、今の俺の実力でA級魔物を倒せるかどうかなんて未知数だ。なんといっても俺はまだ、A級の魔物に出会ったことすらないんだから。
得られる見返りよりも危険の方が大きい賭だ。
結界でイールの安全は確保するとして、俺自身は命を落とすかもしれない。
でも、それでもいいと思っていた。
魔法学校で主席になっても、剣で一般の騎士を圧倒できるようになっても、煙たがられるだけで正当な評価は得られない。なのに進路だけは声高に指し示されて利用しようとしてくるその扱いに、俺は正直うんざりしていた。
どれだけ研鑽しても搾取されるだけなら。
自由を手にするために戦って死ぬなら、それはそれでいいじゃないか。そう思っていた。
だが、もちろんそれでイールを死なせてしまうのだけは避けなければならない。
『窮地に陥るような事があっても、イールだけは絶対に守る』
それは、そんな気持ちから出た言葉だった。だからまさか、イールがあんなにも怒るだなんて思っていなくて。
なんとか自分の考えを伝えようと口を開いてはみたものの、イールに一刀両断されては『ふざけんな』と叱られる。
『オレを巻き込むと決めた時点で、絶対に生きて帰るって心に決めろ』と凄まれてハッとした。本当に、彼の言うとおりだ。
どれだけ準備しても、自分が死んでしまってからじゃイール身の安全を確実に守ることなんてできやしないのに。
『こっちは一緒に行くって決めた時点で命かけてんだよ、アンタに! そのアンタが死ぬかも……って弱気なこと言うのは違うだろ!』
そう叫ぶイールはびっくりするくらい生命力に満ちていて、圧倒されるほどだ。
俺よりも頭ひとつ分は小さいだろう華奢な体躯。ふわふわな麦わら色の髪。怒りで震える小ぶりな唇も紅潮した頬も。くりっとした翡翠色の瞳も全て、愛らしいだけで威圧感など微塵もないはず。
なのに、俺は口を挟めずに言われるままになっている。
もしかしたら俺は、感動していたのかもしれない。
イールは、俺に命をかけるのだと言った。学園で話したこともない。今日会ったばかりといっても過言じゃない俺に、命を預ける覚悟をしてくれていた。
俺のわがままに付き合うというのは間違いなくそういうことであるのに、イールの口からはっきりとそう告げられて、俺は初めて、その覚悟を明確に感じたのかもしれない。
イールは、俺よりもずっと強くて、格好良い男だった。
『誓え! オレもアンタも五体満足で、A級魔物をこてんぱんに倒して帰るって!!!』
眉を怒らせたイールは、ついにはとんでもないことを誓えと迫ってくる。
勝てるかどうかさえ分からないA級魔物を、五体満足で、しかもこてんぱんに倒せとは、さすがに厳しい。
「誓う内容がだいぶ増えた」
思わずそう漏らしたら、イールからさらに睨まれた。
違うんだ。本当に反省している。
俺はもしかしたら、ちょっと自棄になっていたのかもしれない。
でも今は、心からイールと共に生きて帰りたいと思っているんだ。
慌ててイールの両肩を掴んで、怒りを湛えた翡翠の瞳を真っ直ぐに見つめる。そして、心を込めて誓った。
「もし窮地に陥るような事があっても、絶対に諦めない。A級魔物を倒して、五体満足でイールを連れて帰還すると誓う」
「口先だけじゃねぇだろうな」
俺の決意を確かめるように、イールが目の光を強める。
翡翠色の瞳が朝日を取り込んで輝いて、この強い瞳を見ていたら、生きようという意思が体の奥底から次々と湧き上がってくるみたいだ。
「大丈夫だ。イールがいれば、できる。そう確信できた」
イールが俺に命を預けてくれるなら、彼を無事に連れて帰るために、俺も絶対に生きて帰る。そして今までの不毛な関係は捨て去って、彼のように自由に、自分の力で生きていきたい。
「こっちは怒ってんのに、なんで嬉しそうなんだよ……」
ちょっと不満げな顔で見上げてくるイールが眩しくて、可愛くて。
俺は初めての感情に浮かれたような気分になった。
「イールのおかげで、絶対に生きて帰って冒険者になろうと決意できた。最高の気分だ」
「はぁ!? 何それ。冒険者にはもともとなろうと思ってたんだろ?」
「情けない話だが、多分さっきまで俺にとって冒険者になることは現状から離れたいという逃げの手段だったんだと思う」
だから、死んでもいいだなんて思ってたんだろう。
「今は違う。さっきのイールの言葉で目が覚めた。君のように自らの力で力強く生きていけるようになりたいんだ」
正直に心のうちを語ったら、イールは目をまんまるにして驚いている。
「オレみたいにって……アクセル様の方が百倍強いじゃん」
「精神的な強さだ。……感謝しているんだ」
俺が本気で言っているのが分かったのか、なんとも微妙な顔をしたイールは、少しだけ頬を赤くして照れを隠すように笑って言う。
「感謝してるっつうなら、さっさとA級魔物を倒して帰ってさ、たっかい魔法石買って上級魔法をぶち込んで貰おうかな」
新たな約束を貰って、俺はまたひとつ生きて帰る理由を見つけたのだった。
そう言って睨まれた時、最初は聞き間違いかと思った。
A級魔物を倒したいというのはそもそもが俺の我儘で、イールにとっては旨味が少ない。もしも守備良くA級魔物を倒せれば、卒業試験でA級魔物を倒したという実績も残るしもちろんギルドから得られる報酬は莫大だろう。
だが、今の俺の実力でA級魔物を倒せるかどうかなんて未知数だ。なんといっても俺はまだ、A級の魔物に出会ったことすらないんだから。
得られる見返りよりも危険の方が大きい賭だ。
結界でイールの安全は確保するとして、俺自身は命を落とすかもしれない。
でも、それでもいいと思っていた。
魔法学校で主席になっても、剣で一般の騎士を圧倒できるようになっても、煙たがられるだけで正当な評価は得られない。なのに進路だけは声高に指し示されて利用しようとしてくるその扱いに、俺は正直うんざりしていた。
どれだけ研鑽しても搾取されるだけなら。
自由を手にするために戦って死ぬなら、それはそれでいいじゃないか。そう思っていた。
だが、もちろんそれでイールを死なせてしまうのだけは避けなければならない。
『窮地に陥るような事があっても、イールだけは絶対に守る』
それは、そんな気持ちから出た言葉だった。だからまさか、イールがあんなにも怒るだなんて思っていなくて。
なんとか自分の考えを伝えようと口を開いてはみたものの、イールに一刀両断されては『ふざけんな』と叱られる。
『オレを巻き込むと決めた時点で、絶対に生きて帰るって心に決めろ』と凄まれてハッとした。本当に、彼の言うとおりだ。
どれだけ準備しても、自分が死んでしまってからじゃイール身の安全を確実に守ることなんてできやしないのに。
『こっちは一緒に行くって決めた時点で命かけてんだよ、アンタに! そのアンタが死ぬかも……って弱気なこと言うのは違うだろ!』
そう叫ぶイールはびっくりするくらい生命力に満ちていて、圧倒されるほどだ。
俺よりも頭ひとつ分は小さいだろう華奢な体躯。ふわふわな麦わら色の髪。怒りで震える小ぶりな唇も紅潮した頬も。くりっとした翡翠色の瞳も全て、愛らしいだけで威圧感など微塵もないはず。
なのに、俺は口を挟めずに言われるままになっている。
もしかしたら俺は、感動していたのかもしれない。
イールは、俺に命をかけるのだと言った。学園で話したこともない。今日会ったばかりといっても過言じゃない俺に、命を預ける覚悟をしてくれていた。
俺のわがままに付き合うというのは間違いなくそういうことであるのに、イールの口からはっきりとそう告げられて、俺は初めて、その覚悟を明確に感じたのかもしれない。
イールは、俺よりもずっと強くて、格好良い男だった。
『誓え! オレもアンタも五体満足で、A級魔物をこてんぱんに倒して帰るって!!!』
眉を怒らせたイールは、ついにはとんでもないことを誓えと迫ってくる。
勝てるかどうかさえ分からないA級魔物を、五体満足で、しかもこてんぱんに倒せとは、さすがに厳しい。
「誓う内容がだいぶ増えた」
思わずそう漏らしたら、イールからさらに睨まれた。
違うんだ。本当に反省している。
俺はもしかしたら、ちょっと自棄になっていたのかもしれない。
でも今は、心からイールと共に生きて帰りたいと思っているんだ。
慌ててイールの両肩を掴んで、怒りを湛えた翡翠の瞳を真っ直ぐに見つめる。そして、心を込めて誓った。
「もし窮地に陥るような事があっても、絶対に諦めない。A級魔物を倒して、五体満足でイールを連れて帰還すると誓う」
「口先だけじゃねぇだろうな」
俺の決意を確かめるように、イールが目の光を強める。
翡翠色の瞳が朝日を取り込んで輝いて、この強い瞳を見ていたら、生きようという意思が体の奥底から次々と湧き上がってくるみたいだ。
「大丈夫だ。イールがいれば、できる。そう確信できた」
イールが俺に命を預けてくれるなら、彼を無事に連れて帰るために、俺も絶対に生きて帰る。そして今までの不毛な関係は捨て去って、彼のように自由に、自分の力で生きていきたい。
「こっちは怒ってんのに、なんで嬉しそうなんだよ……」
ちょっと不満げな顔で見上げてくるイールが眩しくて、可愛くて。
俺は初めての感情に浮かれたような気分になった。
「イールのおかげで、絶対に生きて帰って冒険者になろうと決意できた。最高の気分だ」
「はぁ!? 何それ。冒険者にはもともとなろうと思ってたんだろ?」
「情けない話だが、多分さっきまで俺にとって冒険者になることは現状から離れたいという逃げの手段だったんだと思う」
だから、死んでもいいだなんて思ってたんだろう。
「今は違う。さっきのイールの言葉で目が覚めた。君のように自らの力で力強く生きていけるようになりたいんだ」
正直に心のうちを語ったら、イールは目をまんまるにして驚いている。
「オレみたいにって……アクセル様の方が百倍強いじゃん」
「精神的な強さだ。……感謝しているんだ」
俺が本気で言っているのが分かったのか、なんとも微妙な顔をしたイールは、少しだけ頬を赤くして照れを隠すように笑って言う。
「感謝してるっつうなら、さっさとA級魔物を倒して帰ってさ、たっかい魔法石買って上級魔法をぶち込んで貰おうかな」
新たな約束を貰って、俺はまたひとつ生きて帰る理由を見つけたのだった。
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