最弱オレが、最強魔法騎士様のパートナーになった件

竜也りく

文字の大きさ
32 / 46

【アクセラード視点】胸を借ります

「俺なりに全力を尽くします」

母上にはそう言ったものの、胸中はなかなかに複雑だ。目の前に立つ兄上は闘志だけでなく、明らかに「たたきのめしてやる」という意思を前面に出していた。

「修練場には結界を張っておくわ。修練場は壊れないから、存分になさい」

母上の言葉を背に、俺は兄上の方へと歩みよる。

「胸を借ります」

「ふん、ちゃちな魔法など使う暇は与えんぞ。格の違いを思い知るがいい」

兄上が静かに剣を構えた。

両腕を上げ剣先は俺の顔へと向ける、攻めとともに防御にも優れた型だ。スッと伸びた背筋が美しい。

顔を見ればからんできて、毎回俺を見下すような発言ばかりしてくる兄上は正直苦手だが、剣を構える時の静謐なたたずまいには、いつも見惚れてしまう。

今まで兄上に勝てた試しなどない。兄上も父上も、ラットファム家に相応しくあるために鍛錬を続け、騎士仲間からも『人外』と言われるほどの実力者だ。

剣だけで戦えば万にひとつも俺に勝ち目はないだろう。これまでは兄に勝つなんておこがましいことだと、想像したことさえなかった。

よく女の子に間違えられていた俺とは違い、子供の頃から兄上は体格も良くて、物心つく頃には身体能力の差は明らかだったし、兄上の剣術の才は俺から見てもずば抜けていて、きっと剣の神に愛されているんだろうといつも羨ましかった。

だが、魔法込みで戦えば、イールの言う通り、俺にも勝機があるのではないか。

敵わぬまでも、俺の生き様やこれまでの努力は証明できるかもしれない。

そう思った。

「アクセル様、頑張って! 絶対に勝てる!!!」

イールの、何にも心配していないような朗らかな声援に、ふと頬が緩む。

その声を聞くだけで、不思議なことに兄の姿がいつもより小さく見えてきた。

強者のオーラは炎のように兄上の体を包んで巻き上がるように強く見えているというのに、それでも勝てない敵ではないと俺の本能が告げている。

イール、君の言う通り、俺の全力を尽くせばいい勝負ができるだろう。

イールにひとつ力強く頷いてみせてから、俺は鍛錬場の真ん中に向かう。右手で剣を構え、左手は遊ばせる騎士らしからぬ構えだ。

父上や兄上の前でこれをやるのは勇気が要るが、これが俺の今の戦闘スタイル。そして、俺の決意の形でもある。

「ふん、ラットファムの者とも思えぬ醜い構えだな。父上の教えも、騎士の流儀も忘れたか」

案の定、兄上があからさまに眉を顰める。けれどもうその威圧に気圧されるつもりはない。

「魔法も剣も自在に使える……俺なりの、戦闘に特化した最高の構えです」

この勝負の裁定を務める父上が、感情の見えない表情で俺たちの間に立つ。

「言葉は不要だ。自らの主張は、戦いの中で技を以て語るが良い」

父上の重い声が響く。俺も兄上も、言葉を発しなかった。

「始め!」

父上の声が響くと同時に、凄まじい勢いで兄上が修練場の土を蹴った。

そう認識した瞬間には剣が俺の頭上に振り下ろされる。片手で止められるほど兄上の剣は軽くない。だが、これは想定通りだ。兄上は昔から、初撃に渾身の一撃を放ってくる人だった。

右手の剣で初撃を受け止めた瞬間、兄上の腹めがけて思い切り衝撃波を打ち込んで剣の重さも兄上自身の身体も弾き飛ばした。

動きが速い魔物は追っても疲れるだけだ。攻撃のために向こうから近づいてくる瞬間を狙うのが一番効率がいい。その経験を活かした反撃だった。

兄上は驚くほどあっけなく修練場の端まで吹き飛んで、壁に背中をしたたかに打ち付ける。

無論、この程度で戦意を喪失するような兄上ではない。

「ぐっ……」

それを充分に理解していた俺は、兄上が呻きながら立ち上がろうとする隙に自らに肉体強化とスピードアップの呪文を重ねがけする。B級の魔物と戦うくらい、思い切ってあげておかないと無理だろう。

「まさか俺の一撃を防ぐとは思わなかったぞ!」

たいしたダメージも負わなかったのか、すぐに体勢を立て直した兄上は一瞬で間を詰めて打ち掛かってくる。さすがに打たれ強い。

だが、俺もB級魔物と戦えるレベルの身体強化をかけている。先程よりもはるかに軽く受け止めることができた。兄上の剣を跳ね上げこちらから積極的に幾度となく打ち込むが、驚くほど華麗に捌かれてしまう。けれど、兄上の額には、ジワリと汗が滲んでいた。

「いつものお前より、体捌きも剣筋も早い。めちゃくちゃな構えのくせに、生意気な……!」

「肉体強化とスピードアップで身体能力を底上げしています」

「なるほど、魔法か……だが、その程度で俺に勝てると思うなよ?」

激しく剣で打ち合っていたところにフ……と兄上の力が抜けて、俺は僅かに体勢を崩した。まさか兄上が力押しでは無くフェイントをかけてくるとは思わなかった。

その隙を兄上が見逃す筈もない。

「身の程を思い知るがいい!」

目に見えぬほどの速さで兄上の剣先が空気を裂いた瞬間、凝縮された気が巨大な刃となって俺に襲いかかる。とっさに防護壁を張ったが、それすら切り裂く。まるで強力な魔法を見た気分だ。

「終わりだ!」
感想 1

あなたにおすすめの小説

邪神の嫁として勝手に異世界召喚されたけど、邪神がもろタイプだったので満更でもないです

我利我利亡者
BL
椎葉 譲(しいば ゆずる)は突然異世界に召喚された。折角就活頑張って内定もらえてこれからって時に、冗談じゃない! しかも、召喚理由は邪神とやらの神子……という名の嫁にする為だとか。こっちの世界の人間が皆嫌がるから、異世界から神子を召喚した? ふざけんな! そんなの俺も嫌だわ! 怒り狂って元の世界に戻すよう主張する譲だったが、騒ぎを聞き付けて現れた邪神を一目見て、おもわず大声で叫ぶ。「きゃわいい!」。なんと邪神は猫の獣人で、何を隠そう譲は重度のケモナーだった。邪神は周囲からあまりいい扱いを受けていないせいかすっかり性格が捻くれていたが、そんな事は一切気にせず熱烈にラブコールする譲。「大好き! 結婚しよ!」「早く元の世界に帰れ!」。今日もそんな遣り取りが繰り返される。果たして譲は、邪神とフォーリンラブできるのか!? 孤独な邪神でもある黒猫獣人×重度のケモナーでもあるおチャラけ根明

宰相閣下の絢爛たる日常

猫宮乾
BL
 クロックストーン王国の若き宰相フェルは、眉目秀麗で卓越した頭脳を持っている――と評判だったが、それは全て努力の結果だった! 完璧主義である僕は、魔術の腕も超一流。ということでそれなりに平穏だったはずが、王道勇者が召喚されたことで、大変な事態に……というファンタジーで、宰相総受け方向です。

救世の神子として異世界に召喚されたと思ったら呪い解除の回復アイテムだった上にイケメン竜騎士のツガイにされてしまいました。

篠崎笙
BL
剣崎勝利の家は古武道で名を馳せていた。ある日突然異世界に召喚される。勇者としてではなく、竜騎士たちの呪いを解く道具として。竜騎士ゲオルギオスは、勝利をツガイにして、その体液で呪いを解いた。勝利と竜騎士たちは悪神討伐の旅へ向かったが……。 

【完結】あなたのいない、この異世界で。

Mhiro
BL
「……僕、大人になったよ。だから……もう、───いいよね?」 最愛の人に先立たれて3年。今だ悲しみから立ち直れず、耐えられなくなった結(ゆい)はその生涯を終えようとする。しかし、次に目が覚めたのは、生命を見守る大樹がそびえ立つ異世界だった。 そこで亡き恋人の面影を持つ青年・ルークと出会う。 亡き恋人への想いを抱えながらも、優しく寄り添ってくれるルークに少しずつ惹かれていく結。そんなある日、ある出来事をきっかけに、彼から想いを告げられる。 「忘れる必要なんてない。誰かを想うユイを、俺はまるごと受け止めたい」 ルークの告白を受け入れ、幸せな日々を送る結だったが、それは突然終わりを迎える。 彼が成人を迎えたら一緒に村を出ようと約束を交わし、旅立つ準備を進めていた矢先、結は別の女性と口づけを交わすルークの姿を目撃してしまう。 悲しみの中で立ち止まっていた心が、異世界での出会いをきっかけに再び動き出す、救済の物語。 ※センシティブな表現のある回は「*」が付いてますので、閲覧にはご注意ください。   ストーリーはゆっくり展開していきます。ご興味のある方は、ぜひご覧ください。

後悔なんて知ったことではありません!~ボクの正体は創造神です。うっかり自分の世界に転生しました。~

竜鳴躍
BL
転生する人を見送ってきた神様が、自分が創造した世界に誤って転生してしまった。大好きな人を残して。転生先の伯爵家では、醜く虐げる人たち。 いいよ、こんな人たち、ボクの世界には要らない!後悔しても知ーらない! 誰かに似ている従者1人を伴って、創造神スキルで自由に無双! …………残してきた大好きな人。似ている侍従。 あれ……?この気持ちは何だろう………。 ☆短編に変更しました。

【R18】兄弟の時間【BL】

BL
色々あってニートになった僕、斑鳩 鷹は当たり前だけど両親にめっちゃ将来を心配されまさかの離島暮らしを提案されてしまう。 待ってくれよ! アマゾンが当日配送されないとこなんて無理だし、アニメイトがない世界に住めるか!  斯くて僕は両親が改心すればと家出を決意したが行く宛はなく、行きついたさきはそいつの所だった。 「じゃぁ結婚しましょうか」 眼鏡の奥の琥珀の瞳が輝いて、思わず頷きそうになったけど僕はぐっと堪えた。 そんな僕を見て、そいつは優しく笑うと机に置かれた手を取って、また同じ言葉を言った。 「結婚しましょう、兄さん」 R18描写には※が付いてます。

目撃者、モブ

みけねこ
BL
平凡で生きてきた一般人主人公、ところがある日学園の催し物で事件が起き……⁈

魔王に転生したら、イケメンたちから溺愛されてます

トモモト ヨシユキ
BL
気がつくと、なぜか、魔王になっていた俺。 魔王の手下たちと、俺の本体に入っている魔王を取り戻すべく旅立つが・・ なんで、俺の体に入った魔王様が、俺の幼馴染みの勇者とできちゃってるの⁉️ エブリスタにも、掲載しています。