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オレなりの未来
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その夜。
家族での食事を終えて食後のお茶を楽しんでいるタイミングで、オレはようやく覚悟を決めて口を開いた。
「父さん、話があるんだけど」
「うむ、何かあったか」
父さんだけでなく、母さんも、弟のマルセロもオレに耳を傾けてくれる。なんだか緊張するけれど、ちゃんと自分の考えを口にするって、今日は決めたから。
アルロード様と話して、オレもさすがに逃げているわけにはいかないと思ったんだ。
「父さん、オレの嫁ぎ先を探してくれてるんだよね?」
「うむ……」
歯切れ悪く返事をする父さん。その様子から見るに、まだ色よい返事を貰えていないんだろう。
「オレがオメガだって分かってから、その……皆気を遣ってそっとしておいてくれてありがとう。オレ、自分でもすごく混乱してて、その事について自分がどう思ってるのか皆に話した事無かったから、ちゃんと話しておこうと思って……聞いてくれるかな」
「ルキノ……」
早くも母さんの目が潤んでいる。このところずっといつも心配そうにオレを気遣って話しかけてくれていたから、きっと感極まっているんだと思う。
マルセロも神妙な顔で頷くから、オレはちょっとだけ笑って見せた。
ごめんな、オレがオメガなんかになっちゃったばかりに、突然跡取りの役割が回ってきて、お前だって戸惑ってるよな。
「正直に言うと、まだ自分がオメガだってことに抵抗を感じてるのは確かなんだ」
ぽつりと話し始めたら、ただ静かに聞いてくれる。
そのことに、家族の優しさを感じてオレもちょっと泣きそう。
「でも、もう騎士にはなれないって事だけは確定してるから、それがただ悲しくてさ、なんでオレが、ってそればっかり考えちゃって全然前向きになれなくて……心配かけちゃってごめんな」
「ルキノ……! 可哀相に。あんなに頑張っていたのに」
母さんがオレをぎゅっと抱きしめて、本格的に泣き出してしまった。
ごめんね、という思いを込めて抱きしめ返す。母さんに抱きしめられたのなんて久しぶりも久しぶりで、なんだか気恥ずかしい。
でも、大切そうに抱きしめてくれるその腕は、子供の時に感じたそのままの温かさだった。
「お前のせいではない。お前は、よく鍛錬していた。自慢の息子だ」
「父さん……」
滅多に褒めない父さんがそんな事を言ってくれて、胸が熱くなる。マルセロも同意を示すように一生懸命に頷いてくれて、オレはこうしてちゃんと家族と向き合うべきだったんだと改めて思った。
「マレーヌ、腰掛けた方がいい、ゆっくり話を聞いてやろう」
父さんがチラ、と目線を向けると、心得たというようにマルセロが頷く。
「母さん、ソファに座ろ? このままだと兄ちゃんが話しにくいよ」
「そう、そうね……」
グスッ、グスッと悲しい音が聞こえて、母さんの腕にぎゅっと力が込められた。オレもギュッと抱き返したら母さんの嗚咽が酷くなってしまった。ごめん、母さん。
涙がなかなか止まらない母さんをマルセロが支えてソファに連れ戻してくれて、新しいお茶が運ばれてきたところで、オレは改めて話し始めた。
「まずは、騎士科に在籍したままにさせてくれてありがとう。おかげでオレ、やっと気持ちが落ち着いてきた」
「うむ」
「良かった……」
母さんがホッと息をつく。ちょっとは安心して貰えたみたいだ。
「それでオレ、ちゃんと将来の事について考えたんだ。実際のところヒートがあるから騎士どころか、どこかの護衛になるのも難しいと思う。かと言って、誰かの嫁になる覚悟も正直まだなくてさ」
「そうだよね……」
小さな声でマルセロが同意してくれる。
彼なりに、マルセロなりにオレの境遇を心配してくれてるんだろう。
「だから……父さんが結婚相手として、オレを護衛として扱ってくれそうな人を探してるって聞いて、ちょっと安心したんだ」
「なぜ、それを……!」
父さんが驚愕の表情を浮かべるけど、いったんそれは置いといて貰って。
「嫁と言いつつ実際は護衛ってのに納得してくれる人を探すのは難しいと思うんだけど、もしオレでいいって人がいたら、よろしくお願いします」
父さんに深々と頭を下げる。
父さんはきっと、オレよりもずっとたくさんの人に頭を下げて、色んな縁を辿っているんだろう。
オレが普通に騎士になっていたら、そんな苦労は必要なかった。
「ルキノはそれでいいのか。俺は……本当にそれでいいのか、ずっと迷っていた」
父さんが苦しそうな顔で呟いていて、オレは、父さんもずっと迷って悩んでいたことを知った。
「うん。でも、もし相手が見つからなかったら……オレ、冒険者になろうと思うんだ」
「冒険者だと……!」
「そんな、危険よ。町の外でヒートになって動けなくなったらどうするの! 命を落とすのよ!?」
「考えたんだけど、冒険者ならオメガでもなれない事はないし、オレはヒートも軽いし、そもそもヒートはある程度時期が決まってるから、自分で危険な時期は出かけないとか、対策できると思うんだ」
「でも、生活の保障もないのよ? それに野外で寝て、食事も自分で用意するのでしょう? お風呂も何日も入れないと聞くわ」
家族での食事を終えて食後のお茶を楽しんでいるタイミングで、オレはようやく覚悟を決めて口を開いた。
「父さん、話があるんだけど」
「うむ、何かあったか」
父さんだけでなく、母さんも、弟のマルセロもオレに耳を傾けてくれる。なんだか緊張するけれど、ちゃんと自分の考えを口にするって、今日は決めたから。
アルロード様と話して、オレもさすがに逃げているわけにはいかないと思ったんだ。
「父さん、オレの嫁ぎ先を探してくれてるんだよね?」
「うむ……」
歯切れ悪く返事をする父さん。その様子から見るに、まだ色よい返事を貰えていないんだろう。
「オレがオメガだって分かってから、その……皆気を遣ってそっとしておいてくれてありがとう。オレ、自分でもすごく混乱してて、その事について自分がどう思ってるのか皆に話した事無かったから、ちゃんと話しておこうと思って……聞いてくれるかな」
「ルキノ……」
早くも母さんの目が潤んでいる。このところずっといつも心配そうにオレを気遣って話しかけてくれていたから、きっと感極まっているんだと思う。
マルセロも神妙な顔で頷くから、オレはちょっとだけ笑って見せた。
ごめんな、オレがオメガなんかになっちゃったばかりに、突然跡取りの役割が回ってきて、お前だって戸惑ってるよな。
「正直に言うと、まだ自分がオメガだってことに抵抗を感じてるのは確かなんだ」
ぽつりと話し始めたら、ただ静かに聞いてくれる。
そのことに、家族の優しさを感じてオレもちょっと泣きそう。
「でも、もう騎士にはなれないって事だけは確定してるから、それがただ悲しくてさ、なんでオレが、ってそればっかり考えちゃって全然前向きになれなくて……心配かけちゃってごめんな」
「ルキノ……! 可哀相に。あんなに頑張っていたのに」
母さんがオレをぎゅっと抱きしめて、本格的に泣き出してしまった。
ごめんね、という思いを込めて抱きしめ返す。母さんに抱きしめられたのなんて久しぶりも久しぶりで、なんだか気恥ずかしい。
でも、大切そうに抱きしめてくれるその腕は、子供の時に感じたそのままの温かさだった。
「お前のせいではない。お前は、よく鍛錬していた。自慢の息子だ」
「父さん……」
滅多に褒めない父さんがそんな事を言ってくれて、胸が熱くなる。マルセロも同意を示すように一生懸命に頷いてくれて、オレはこうしてちゃんと家族と向き合うべきだったんだと改めて思った。
「マレーヌ、腰掛けた方がいい、ゆっくり話を聞いてやろう」
父さんがチラ、と目線を向けると、心得たというようにマルセロが頷く。
「母さん、ソファに座ろ? このままだと兄ちゃんが話しにくいよ」
「そう、そうね……」
グスッ、グスッと悲しい音が聞こえて、母さんの腕にぎゅっと力が込められた。オレもギュッと抱き返したら母さんの嗚咽が酷くなってしまった。ごめん、母さん。
涙がなかなか止まらない母さんをマルセロが支えてソファに連れ戻してくれて、新しいお茶が運ばれてきたところで、オレは改めて話し始めた。
「まずは、騎士科に在籍したままにさせてくれてありがとう。おかげでオレ、やっと気持ちが落ち着いてきた」
「うむ」
「良かった……」
母さんがホッと息をつく。ちょっとは安心して貰えたみたいだ。
「それでオレ、ちゃんと将来の事について考えたんだ。実際のところヒートがあるから騎士どころか、どこかの護衛になるのも難しいと思う。かと言って、誰かの嫁になる覚悟も正直まだなくてさ」
「そうだよね……」
小さな声でマルセロが同意してくれる。
彼なりに、マルセロなりにオレの境遇を心配してくれてるんだろう。
「だから……父さんが結婚相手として、オレを護衛として扱ってくれそうな人を探してるって聞いて、ちょっと安心したんだ」
「なぜ、それを……!」
父さんが驚愕の表情を浮かべるけど、いったんそれは置いといて貰って。
「嫁と言いつつ実際は護衛ってのに納得してくれる人を探すのは難しいと思うんだけど、もしオレでいいって人がいたら、よろしくお願いします」
父さんに深々と頭を下げる。
父さんはきっと、オレよりもずっとたくさんの人に頭を下げて、色んな縁を辿っているんだろう。
オレが普通に騎士になっていたら、そんな苦労は必要なかった。
「ルキノはそれでいいのか。俺は……本当にそれでいいのか、ずっと迷っていた」
父さんが苦しそうな顔で呟いていて、オレは、父さんもずっと迷って悩んでいたことを知った。
「うん。でも、もし相手が見つからなかったら……オレ、冒険者になろうと思うんだ」
「冒険者だと……!」
「そんな、危険よ。町の外でヒートになって動けなくなったらどうするの! 命を落とすのよ!?」
「考えたんだけど、冒険者ならオメガでもなれない事はないし、オレはヒートも軽いし、そもそもヒートはある程度時期が決まってるから、自分で危険な時期は出かけないとか、対策できると思うんだ」
「でも、生活の保障もないのよ? それに野外で寝て、食事も自分で用意するのでしょう? お風呂も何日も入れないと聞くわ」
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