41 / 49
お前はそれでいいのか?
しおりを挟む
それって……?
ああもう頭が回らない。
「明日にでもあなたがどうしたいか聞くつもりでいたのよ。婚約が整ったアルファとオメガならば、確かに婚約者と発情期を過ごすことは普通だそうよ? けれど」
「馬車の用意ができた。動けるか?」
コク、と頷けば父さんがオレを抱き上げてくれる。
馬車にそっと乗せられて、あとはホテルに着くまで我慢するだけだ。毎回手間も金もかけさせてしまって家族には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
けど、家族がいるところでみっともない姿はどうしても見せたくなかった。
ホテルに着いたら、思いっきりアルロード様の香りに包まれて幸せな時間が過ごせる。それまでなんとか我慢しなくちゃ。
腕の中の枕をギュッと抱きしめた。
「ルキノ」
「……?」
そっと目を開けたら、父さんが心配そうな顔でオレを見てる。
どんどんヒートが進行してきて意識が朦朧としてきてるから、一刻も早くホテルに行きたいのに……。
「お前が嫌ならば公爵家には伝えない。まだ今日婚約が成ったばかりだ。アルロード様はすぐにお前と番いたいようだが、お前が無理をすることはないんだ」
「アルロード、様……」
そのお名前を聞くだけで多幸感に包まれる。
「そうだ。さっき母さんも言っていただろう? お前に発情期がきたら駆けつける、とアルロード様が仰っていたそうだ。だが……」
「アルロード様に、会える……?」
「あ、ああ、公爵家に連絡すればな。お前はそれでいいのか?」
「アルロード様に会えるの、嬉しい……」
「……そうか」
「着いたら御者が起こしてくれるわ。少し眠りなさい」
「うん……」
父さんと母さんの声が遠くに聞こえて、オレは枕を抱きしめたまま目を閉じた。
いくらヒートでも、父さんと母さんの前でみっともない姿は見せたくない。でも抱きしめた枕から、体に巻き付けたシーツから、アルロード様の香りが漂ってきて、思考はどんどん削られていく。
それでも、一度このかぐわしい香りを感じてしまうと、手放すなんてできなかった。
目を閉じて、もう少しだけ我慢すれば。
そう思うけれど、もう馬車の振動すらも辛くて。
早くついて欲しい。
いつもよりも道のりが長く感じるのは、すでにヒートの症状が強く出ているからなのか。
はぁ、はぁ、と荒くなる息をこらえ、太ももをもじもじとこすり合わせて耐える事どれくらいか。
ようやく、馬車の振動が止まって、オレはホッと息をついた。
こんなに体が疼いているのに眠るだなんてとてもじゃないけど無理で、一刻も早くこの疼きをなんとかしたい。
キィ、と小さな音がして扉が開く。
「ルキノ様、大丈夫ですか?」
「うん……ありがと」
いつもホテルまで送ってくれる御者のマルクは、オレからいつもいい含められてるから不用意に触ったりしない。ちょっとの刺激で反応してしまうから、この距離感がありがたかった。
できるだけ自分の身体に刺激を与えたくなくてのろのろと馬車から出て……オレは息を呑んだ。
「どこ? ここ……」
目の前にはすごくデカイお屋敷。
周囲には森と湖しかなくて、いつものホテルの周辺とは似ても似つかない。
もう足を進める気力もなくて馬車から降りたところでペタリと座り込んだ時、デカい邸の扉がすごい勢いで開いた。
「ルキノ!」
「え……」
居るはずのない人の声が聞こえて、走ってくる人のシルエットが見慣れた『あのお方』の姿に見えて、オレは妄想まで見るようになってしまったのかと呆然とする。
「可哀そうに、大丈夫?」
走り寄ってきたのはやっぱりアルロード様で、返事をする間もなく姫抱きで抱きあげられて邸の中に運ばれた。
運ばれる振動に、触れる身体の体温に、何よりも、包み込まれるみたいなアルロード様の香りの濃厚さに、頑張って抑え込んでいた熱が一気に昂ってくる。
「な……ん、で、アルロード様……」
「ルキノがヒートを起こしていると聞いていても立ってもいられなくて。ごめんね、僕がルキノの部屋に入ったせいで発情期が早まったんじゃないかと思うと心配で」
「そんな……あ、」
そっとベッドに降ろされたのに、そのわずかな衝撃にさえも体が反応してしまう。
「辛い?」
心配そうにのぞき込まれると、その美しい青い瞳がまたオレの身体に火をつける。どんどん高まってくる体の中の熱が怖くて、オレはアルロード様の視線から逃れるように枕に顔を埋めて、身を包むシーツをきゅ、と握りしめた。
「どうしよう~アルロード様の幻が実体持ってる風に見えるぅ……うう、ごめんなさい、アルロード様」
これだけ濃厚なアルロード様の香りに包まれてたら幻の存在感が強くなっちゃうのも仕方がないけど。
声も表情もなんだかすごく色っぽく見えて、今日もまたアルロード様をおかずにするの決定だ。申し訳ない気もする。でももう結婚することになるんだからいいのかな。
「アルロード様……っ」
我慢できなくなってきて、枕をぎゅっと握りしめながら自分の中心にもう片方の手を伸ばした。
「枕を抱きしめるくらいなら本人に抱き着いて欲しいんだけど」
アルロード様の幻が、そんな甘いセリフを囁きながらオレの頬や瞼、おでこに唇を落とす。
ああもう頭が回らない。
「明日にでもあなたがどうしたいか聞くつもりでいたのよ。婚約が整ったアルファとオメガならば、確かに婚約者と発情期を過ごすことは普通だそうよ? けれど」
「馬車の用意ができた。動けるか?」
コク、と頷けば父さんがオレを抱き上げてくれる。
馬車にそっと乗せられて、あとはホテルに着くまで我慢するだけだ。毎回手間も金もかけさせてしまって家族には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
けど、家族がいるところでみっともない姿はどうしても見せたくなかった。
ホテルに着いたら、思いっきりアルロード様の香りに包まれて幸せな時間が過ごせる。それまでなんとか我慢しなくちゃ。
腕の中の枕をギュッと抱きしめた。
「ルキノ」
「……?」
そっと目を開けたら、父さんが心配そうな顔でオレを見てる。
どんどんヒートが進行してきて意識が朦朧としてきてるから、一刻も早くホテルに行きたいのに……。
「お前が嫌ならば公爵家には伝えない。まだ今日婚約が成ったばかりだ。アルロード様はすぐにお前と番いたいようだが、お前が無理をすることはないんだ」
「アルロード、様……」
そのお名前を聞くだけで多幸感に包まれる。
「そうだ。さっき母さんも言っていただろう? お前に発情期がきたら駆けつける、とアルロード様が仰っていたそうだ。だが……」
「アルロード様に、会える……?」
「あ、ああ、公爵家に連絡すればな。お前はそれでいいのか?」
「アルロード様に会えるの、嬉しい……」
「……そうか」
「着いたら御者が起こしてくれるわ。少し眠りなさい」
「うん……」
父さんと母さんの声が遠くに聞こえて、オレは枕を抱きしめたまま目を閉じた。
いくらヒートでも、父さんと母さんの前でみっともない姿は見せたくない。でも抱きしめた枕から、体に巻き付けたシーツから、アルロード様の香りが漂ってきて、思考はどんどん削られていく。
それでも、一度このかぐわしい香りを感じてしまうと、手放すなんてできなかった。
目を閉じて、もう少しだけ我慢すれば。
そう思うけれど、もう馬車の振動すらも辛くて。
早くついて欲しい。
いつもよりも道のりが長く感じるのは、すでにヒートの症状が強く出ているからなのか。
はぁ、はぁ、と荒くなる息をこらえ、太ももをもじもじとこすり合わせて耐える事どれくらいか。
ようやく、馬車の振動が止まって、オレはホッと息をついた。
こんなに体が疼いているのに眠るだなんてとてもじゃないけど無理で、一刻も早くこの疼きをなんとかしたい。
キィ、と小さな音がして扉が開く。
「ルキノ様、大丈夫ですか?」
「うん……ありがと」
いつもホテルまで送ってくれる御者のマルクは、オレからいつもいい含められてるから不用意に触ったりしない。ちょっとの刺激で反応してしまうから、この距離感がありがたかった。
できるだけ自分の身体に刺激を与えたくなくてのろのろと馬車から出て……オレは息を呑んだ。
「どこ? ここ……」
目の前にはすごくデカイお屋敷。
周囲には森と湖しかなくて、いつものホテルの周辺とは似ても似つかない。
もう足を進める気力もなくて馬車から降りたところでペタリと座り込んだ時、デカい邸の扉がすごい勢いで開いた。
「ルキノ!」
「え……」
居るはずのない人の声が聞こえて、走ってくる人のシルエットが見慣れた『あのお方』の姿に見えて、オレは妄想まで見るようになってしまったのかと呆然とする。
「可哀そうに、大丈夫?」
走り寄ってきたのはやっぱりアルロード様で、返事をする間もなく姫抱きで抱きあげられて邸の中に運ばれた。
運ばれる振動に、触れる身体の体温に、何よりも、包み込まれるみたいなアルロード様の香りの濃厚さに、頑張って抑え込んでいた熱が一気に昂ってくる。
「な……ん、で、アルロード様……」
「ルキノがヒートを起こしていると聞いていても立ってもいられなくて。ごめんね、僕がルキノの部屋に入ったせいで発情期が早まったんじゃないかと思うと心配で」
「そんな……あ、」
そっとベッドに降ろされたのに、そのわずかな衝撃にさえも体が反応してしまう。
「辛い?」
心配そうにのぞき込まれると、その美しい青い瞳がまたオレの身体に火をつける。どんどん高まってくる体の中の熱が怖くて、オレはアルロード様の視線から逃れるように枕に顔を埋めて、身を包むシーツをきゅ、と握りしめた。
「どうしよう~アルロード様の幻が実体持ってる風に見えるぅ……うう、ごめんなさい、アルロード様」
これだけ濃厚なアルロード様の香りに包まれてたら幻の存在感が強くなっちゃうのも仕方がないけど。
声も表情もなんだかすごく色っぽく見えて、今日もまたアルロード様をおかずにするの決定だ。申し訳ない気もする。でももう結婚することになるんだからいいのかな。
「アルロード様……っ」
我慢できなくなってきて、枕をぎゅっと握りしめながら自分の中心にもう片方の手を伸ばした。
「枕を抱きしめるくらいなら本人に抱き着いて欲しいんだけど」
アルロード様の幻が、そんな甘いセリフを囁きながらオレの頬や瞼、おでこに唇を落とす。
158
あなたにおすすめの小説
ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために
ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話
※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」
身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。
死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。
カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。
「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」
献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。
これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
胎児の頃から執着されていたらしい
夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。
◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。
◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。
【完結】異世界に召喚された賢者は、勇者に捕まった!
華抹茶
BL
日本の一般的なサラリーマンである竹内颯太は、会社へ出勤する途中で異世界に召喚されてしまう。
「勇者様! どうかこの世界をお救いください!」
なんと颯太は『勇者』として、この世界に誕生してしまった魔王を倒してほしいと言われたのだ。
始めは勝手に召喚されたことに腹を立て、お前たちで解決しろと突っぱねるも、王太子であるフェリクスに平伏までされ助力を請われる。渋々ではあったが、結局魔王討伐を了承することに。
魔王討伐も無事に成功し、颯太は元の世界へと戻ることになった。
「ソウタ、私の気持ちを受け取ってくれないか? 私はあなたがいてくれるなら、どんなことだってやれる。あなたを幸せにすると誓う。だからどうか、どうか私の気持ちを受け取ってください」
「ごめん。俺はお前の気持ちを受け取れない」
元の世界へ帰る前日、フェリクスに告白される颯太。だが颯太はそれを断り、ひとり元の世界へと戻った。のだが――
「なんでまた召喚されてんだよぉぉぉぉぉ!!」
『勇者』となった王太子×『勇者』として異世界召喚されたが『賢者』となったサラリーマン
●最終話まで執筆済み。全30話。
●10話まで1日2話更新(12時と19時)。その後は1日1話更新(19時)
●Rシーンには※印が付いています。
救世の神子として異世界に召喚されたと思ったら呪い解除の回復アイテムだった上にイケメン竜騎士のツガイにされてしまいました。
篠崎笙
BL
剣崎勝利の家は古武道で名を馳せていた。ある日突然異世界に召喚される。勇者としてではなく、竜騎士たちの呪いを解く道具として。竜騎士ゲオルギオスは、勝利をツガイにして、その体液で呪いを解いた。勝利と竜騎士たちは悪神討伐の旅へ向かったが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる