レッド・タイズ

GAリアンデル

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バーサーク・ルサンチマン/5

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 突然の奇妙な事態に遭遇した買い物客達は立ち止まり困惑の色を示す。
「なんだこの放送? 悪戯か?」
『ああ言っておきますが、これは悪ふざけでも催し事でもありません。……いえ、催し事ではあるのかも知れないですね』
 超越者はスピーカー越しに一方的に言葉を続ける。
『では早速証明致しましょう』
 ぱん、と乾いた音が一つ鳴って、静寂。
 音は買い物客達の足元で弾け、床に黒い跡を残した。
『この建物には警備用の機銃が備えられており、私にはその全ての操作が可能です。
 そして絶叫。
「うわぁぁぁ!!」
 一斉にその場から逃げ出そうと狂奔の波となって駆け出した。
『ああ逃げないで下さい。あなた方には仕事がありますから。役目が義務が』
 乾いた音が数度鳴って走り出していた客達の先頭の数人がぐらりと揺れて頽れる。その脳天から漏れ出た赤い血が小川と成り、白い床を赤く染め上げていった。
「な、なんだよ……コレ」
「しんでるの……?」
 立ち止まった人々は真っ青になった顔で死体達を見下ろす。たかだか数分で彼らの世界を構成する“現実感”と言う日常は非日常へと作り替えられてしまっていた。
『神は死んだ』
 スピーカー越しの声に人々は力なく顔をそちらへと向けて超越者の語る声に耳を傾ける。
『たった今、あなた方を縛る現実は死にました。平和という名の神亡き今、人間本来の生を取り戻したのです』
「何を言ってるんだ……?」
 一人が言葉を漏らした。
『少し難しかったでしょうか。なら簡単に言いましょう。女子供老人を除く“成人男性”限定で殺し合いをして下さい』
 あまりにもふざけた命令に一人の男が叫んだ。
「ふざけるな! そんな事出来るか!」
『おや。まだ神に縛られているのですか。可哀想に……あなたを助けてくれる神はこの場にはいないのに。あなたとあなたの家族を助けられるのは“あなた”だけなのに』
「は……?」
 男は自分の家族の方へと振り返った。妻と娘は不安そうな表情で男を見つめ返す。
『あれがあなたの家族ですか。そうですね、じゃあこうしましょう』
 うぅん、と考え込む様な仕草をスピーカー越しに感じて男は息を呑んだ。
『今この場にいる人間の中に私の仲間が数人紛れています。先程提示した条件での殺し合いに参加しなかったり、もし参加者が死んでしまった場合は私の仲間がその方の家族や友人を殺します。ただそれだけではつまらないので、そこに紛れた私の仲間を見つけ出し殺す事が出来た方の家族また友人や恋人を含めてこの建物から解放しましょう』
「な……!?」
『ところであなた、中々良い演技ですよ。おかげでスムーズに進行が出来ました』
「何を言ってるんだ!? 俺は────」
 直後、男は他の“参加者”から羽交い締めされた。
「テメェがあいつの仲間なのか!?」
「おい、見てんだろ超越者! 俺が捕まえたぞ!」
「ふざけんな、俺が捕まえたんだ!」
「うるせぇ!」
「お、おい俺はあいつの仲間なんかじゃ……!」
 男が弁解しようとした矢先、その顔面に拳が叩き込まれた。そして続く様に他の男達も殴る蹴る等のリンチを開始した。
「俺だ!」
「俺が殺した!」
「ちげぇだろ、俺が殺したんだ!」
 男達は既に動かなくなった男の身体を嬉々として踏みつける。
 そして自分こそが殺したのだと高らかに吠える。

 平和な休日の昼は突如としてこの世の地獄として顕現した。
 
 

 
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