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第四章 ~王子の旅・天空路~
〈217〉そして千五百年前の夢
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夢が終わったのかな。それにしても戦っているブランネージュって格好良かったよなー。
軽鎧に杖か。
気が付けば、大きな大きな湾曲した壁の前を飛んでいた。
木の壁からは生き生きとしたはっぱを茂らせた枝がちょろちょろと生えている。
これは壁じゃないよね。世界樹の幹だ。今日の昼に見たよりも瑞々しくて生き生きしているのはわかる。
≪セイレイがなんのようだ≫
枝の葉の隙間から、緑色の三角帽の小さいおっさんが声をかけてくる。
“なにって、あたしたちはどこにでもいるのよ”
≪ここは、ヨウセイのセカイジュだ≫
“せいれいのせかいじゅにも、あなたたちだっていたじゃない”
緑色ちゃんが少し離れた葉っぱに座って相手をしている。
そうか、ユグドラシルにも妖精がいるんだね。見たことないんだけど。
≪おれたちだってどこにでもいる≫
“あたしたちといっしょね。あら?”
緑色ちゃんがこっちを向いた。
“あなたはひょっとしておうじ?”
“おうじだ!”
“しゅんすけ”
“あれ?おれをおぼえているの?”
“もちろんよ!やっぱりひかってるわ”
“めちゃくちゃひさしぶりじゃん”
“もういないとおもってた”
“にせんごひゃくねんぶりね”
“そんなにか”
“ふふふ、とにかく、うえに行きましょ!しゅんすけ”
“まそがいっぱいできもちいいのよ、しゅんすけ”
“ほら”
“ほらほら”
“う、うん”
黄色ちゃんと緑色ちゃんに両手をひっぱられて飛ぶ。
やっぱり夢の中じゃ名前を呼んでくれるんだね。うれしいよ。
黄色ちゃんと緑色ちゃんに手を引かれながら上に登っていくと、木の幹がいったんすぼまって、そこから沢山枝分かれして、まるで森のようになっていた。枝と枝の間にはちょっとした道が出来ている。
その道を歩いている人影があった。
“おうさまだわ!”
“でも、いまはおうさまじゃないわね”
“あら、おうさまじゃなくて、おさですって”
それはいつも見る父さんだった。大人のハイエルフ。
衣装は、お城で見かける物とは違って、生成りの簡素な衣装。装飾はされているようだけど、色は付いていないんだ。
鎧は来てないけれど、腰に剣を佩いている。
“さあ、しゅんすけいくわよ”
“うん”
“おうさま!”
“こんにちは、おうさま”
「おや、みんなげんきだねぇ」
“こっちのせかいじゅさんも、げんきだもん”
「そうだね」
≪ぶらんねーじゅこっちはひさしぶり≫
小さいおっさんもぽよんぽよんとはっぱを飛びながら付いて行く。
こいつらは飛べないんだよな。
「そうなんだよ、やっと抜け出してきたよ」
“いそがしいの?”
「そうでもないけど、前みたいに簡単じゃなくて」
“いまはせいれいじゃないから?”
「確かに今はハイエルフだけどね」
ブランネージュはそのまま大きな木の中の小道を歩いていく。
「こんにちは」
『おや、ブランネージュやないの』
ハイエルフが声をかけた先には、夕べ会ったガオケレナが中腰から振り返るようにこちらを向いていた。
「なにをされているんですか?あ、それ」
『せや、フリルフリルマッシュルームがここに生えているやろ』
「ええ、これって美味しいですよね」
『あの子が好きやって言うから、食べさせてやろうと思って』
「そう。
彼は元気?」
『まあ、全盛期ほどではないけれどね』
「うん。顔見に来たんだけど」
『会ってやって』
“おうじ、はやく”
“こっちこっち”
“うん”
みんなでブランネージュのサラサラしたプラチナブロンドに隠れるように絡まる。
すると、覚えのある感覚があって、気が付けばリアルに昼にお邪魔した部屋にいた。
多少のしつらえが違うけど。椅子やテーブル、タペストリーとかね。
『ブランネージュ!』
「アマビリータ!あいたかった」
『ほんと?ずいぶん久しぶりだよ。しかもなんだかますます格好良くなっちゃって』
「種族が変わっちゃって」
『それはエルフ?』
『ブランネージュはハイエルフに変わったんやで』
『そうなんだ、ガオケレナ。でも格好いいね』
「これは、罰なんだ」
『罰?』
「大切な愛する人が出来てしまって、ちょっとね」
『ブランネージュに愛される人ってだれ?』
「ふふふ、怒られちゃったから言えないよ」
≪なんだ?精霊王様も罰を受けるのか?≫
キッチンらしき出入り口から出てきたのは、アマビリータの同級生って感じの少年だった。
「アーリマンも久しぶり!」
これがあのアーリマン?
真っ黒な角が生えていて顔は人だけどミノタウロスみたいな存在感だった?
それがジェスターハットと言うより柔らかそうなナイトキャップのような先が二つに分かれた三角帽をかぶり、パジャマのような服装でトレーに茶器を乗せて立っている。
『アーリマンもこっちにお座り』
「う……うん」
部屋にチャイの香りが広がって、ブランネージュが自分のアイテムボックスから焼き菓子を出して広げている。
『これは?』
「エルフたちは料理が上手でね。こんな甘いお菓子も焼くんだよ」
『へえ』
「食べてみて」
≪うまい≫
『うん!本当に美味しい!』
『ほんま、程よく甘くていいねぇ』
「よかった」
しばらくブランネージュがまとめているエルフの集落の話題をしていた。
「エルフたちは、同族なのに喧嘩したり、ほかの種族をないがしろにしたりしてもう大変」
『そうなんだ。精霊は皆素直だもんね』
「そうだよ。それに比べたらエルフとか他の人たちってさ面倒なんだよね」
父さん王様をやりたくなかったのかな。なのにずぅっと長をさせられているんだね。
『妖精は癖があって大変だったなー』
「でも、君がいなくても自然を大切にしているよ」
『うん。それは知ってる。でもねなんか俺の中でわめいている声が聞こえてさ。それで出してあげたんだよあれからずいぶん経っているからね』
「アーリマン?」
≪アローマティが夢に出てきて、眠ると誘惑に負けそうで寝られなくて≫
『うん、また魔界から奴らが声をかけてきているらしい』
『こんなところに閉じこもっているのにしつこいわね』
「こんなところって、君の中じゃないかガオケレナ」
『なあ、ブランネージュ。ちょっと頼みたいことがあるんやけど』
「なに?」
『リンドラークの方の砂漠化が進んでてさ』
「ああ、人同士の戦のせいなんだ。放牧の民が勢力を広げててさ」
『あっちに魔素が繋がりにくくなってて、この子を地中に植えてきてほしいんやけど』
そうして、ガオケレナ母さんが小さな植木鉢をひとつ渡す。
「これは?」
『これはバオ。あたしの子供やねん』
「わかった。あっちの代替わりした黒ライオンは、植えてくれるだろう」
『頼んだよ!』
あれがバオだったんだね。
『ブランネージュ』
「なあに?アマビリータ」
『僕がここにいるからって、君が僕の代わりまでしなくていいからね。君はもうエルフの長なんだし』
「アマビリータ、大丈夫だよ。種族が変わって本質は変わらないんだよ。エルフだって自然を大事にして生きているんだ」
『ならいいけど』
「ただ、前と違って妖精ちゃんのほうの存在が分かりづらくなっているのは確かなんだよね」
『そう』
「それに、ちょっと自由が少なくなっててね」
『うん。無理しちゃだめだよ』
「ありがとう。じゃあお暇するよ」
『え、もう?本当に忙しいんだね』
『あたしが送っていくよ』
『ねえ、また会いに来てくれる?』
「もちろん!
すぐは難しいかもしれないけど」
そうして今度は直接大きな木の根元に転移した。
木の西の方には細い滝が上の方から流れていた。
これがあのもみじ型の湖の源流なのだろう。
「まずいな」
『なにが?』
「ガオケレナ、木に戻って!」
『なに?』
「はやく!アマビリータとアーリマンを守って!」
『わ、わかった!』
細い滝の小さな滝つぼの畔にゆらゆらと陽炎のようなものが建ちあがっている。
“あれは!”
“まかいのいりぐち!”
“また、あくまがくるの?”
“そんな……こわい”
陽炎のようなものがだんだん黒っぽい裂け目になったかと思うとそれが広がっていく。
そして中から人と同じようなサイズのミノタウロスが出てくる。
ただ、全身黒くて、目が赤い。見覚えのある黒い軍服を着ている。
「また来たのか」
『これたな、この世界に』
ミノタウロスの他には女の悪魔もいる。
「君はタローマティ」
『あら?オマエは……ブランネージュ?いい男になったじゃない。
でも、ここの魔素はすこし減ったかしら』
「ああ、人々が増えたからね。人は魔法も使うが、大地の魔素を枯渇させるほどの戦はしていないよ」
『それはよかった』
「で、君は何をしに来たのかな?」
いつものブランネージュにはあり得ないほどのピリピリした緊張感が空気越しに伝わる。
『今回は、見に来ただけよ、そんなに警戒しないで!』
「見に来ただけ?」
『ええ、あのあと我々は他の世界の魔素を得ることが出来て、なんとか魔界の維持が出来たのよ』
「そうか」
『でも、その魔素を頂いた世界がもう今は無くて、こんど勇者に魔界を荒らされたら、困ることになるのよ』
「それで?」
まさか他の世界を滅ぼしたのか?
ブランネージュも同じ考えなのか、難しい顔をしている。
『だから、自然豊かで魔素の豊富なこの大陸の様子を勉強しに来たのよ』
嘘だ!
「荒らしに来たわけじゃないんだな」
『もちろん。またあの神の雷?を落とされちゃたまらないもの』
“だめだよとうさん!そいつをいれちゃ”
“そうよ!おいださなきゃ”
「でも、もう魔界の入り口が閉ざされたんだ」
“そういえばさっきの空間の隙間が消えている”
≪わがオウのかわりにじぶんたちが、あいつらをみはる≫
≪せいれいばっかりに、いいところとられるわけにはいかんからな≫
三角帽のおっさん達が女悪魔に付いて行こうとすると、
『あら、この子は丁度いいわね』
すこし屈んで足元に手を伸ばした女悪魔が一人のおっさん妖精を摘まむ。
≪なにをするんじゃ!≫
『あんた、アーリマンの代わりになりなさいよ!』
≪え?ええ?≫
『ほら』
アローマティがおっさんにキスをすると、たちまちそいつが大きくなっていく。
「なにをするんだ!」
『アーリマンに会いたかったんだけど、どうやら出てきてくれないし、きみに代わりになってもらおうかなって』
≪やだやだ!≫
バタバタと嫌がっている。まだ小犬ぐらいのサイズだ。
『あたらしい大魔王になれるのよ良いでしょ?』
≪やだやだ!≫
ブワーッ
突然小さなつむじ風が巻き起こって、そこに二人の妖精が立っていた。
『やめろー!』
≪やめてくれタローマティ!≫
『あら、アーリマン。マイダーリン、元気じゃないの。やっぱりあたしの浮気が許せないのね!可愛いわ』
ヒュン
女悪魔が一気にアーリマンに近づくと、アマビリータから引きはがして腕を絡めるようにしてしがみついている。
≪やめろ離せ。もう、俺は騙されない!甘い言葉で俺を操りこの世界を壊させるんだろう?≫
『ちっ、何千年も経ってるものね、そこの妖精王や世界樹に余計なことを言われたのね』
『余計な事じゃない!妖精を正しく導くのは僕の役目だ!』
アマビリータが叫ぶ。よく見たら前と同じく軽鎧に剣を手にしている。
「タローマティ、アーリマンを離してください」
ブランネージュもアイテムボックスからあの魔石の嵌った杖を出した。
『あら、精霊王じゃなくなった貴女が私に勝てるとでもいうの?』
杖の魔石はあの時とは違って、黄色いドラゴンはいなくて空っぽだ。
「種族が変わっただけで、私の本質は変わってないよ」
≪ブランネージュ様!助けて≫
『アーリマン、あたしから離れるの?愛しているのに』
≪うそだ!悪魔は平気で噓をつくんだ!俺も悪魔にされていたから知っている≫
『ちょっと、暴れないで!ちっ』
≪わわわっ≫
どさっ
アーリマンが投げ飛ばされた。もともとアーリマンの方が離れたがって力を入れていたから余計に吹き飛んだ感じだ。
≪ブランネージュ様、もう一度、俺を封印しろ!≫
「でも、やっと自由になったのに!」
≪いいから!≫
「う……うん」
父さんはしぶしぶアイテムボックスから龍玉をだしたところに、アーリマンはもう一人の元はちっさいおっさんだった妖精の首根っこもつかんで一緒に龍玉に向かって飛び込む。
二人の大きな妖精が飛び込んだ龍玉がまたゴルフボールサイズに小さくなる。
『ブランネージュ、またそれを貸して』
「でも」
『妖精を守るのは僕の役目だから』
そういってハイエルフから龍玉を受け取ると消えた。
「また、ガオケレナに引きこもっちゃうんだ」
寂しそうなハイエルフの表情にこっちも泣きそう。
“おうさまさびしそう”
“おうさまのたいとうなおともだちは、ようせいおうだけだもん”
“そうなんだ”
『にげられちゃった』
タローマティの台詞にブランネージュが言う
「もう魔界に帰ってくれ」
『無理なの、あの入口は私に開けられるものではないから』
「君の父という魔王が開けるのか?」
『いいえ。魔王城に務めている魔導士だわ』
「そうか。帰れるようになるまでどうするの?」
『ここは、魔界のような恐ろしい戦は無いし、のんびりさせてもらうわ』
「自然を破壊しないのならいい」
『ありがと』
そういうと、女悪魔は黒鳥の様な羽根を広げて飛び立ってしまった。同じように軍服のミノタウロスも羽を広げて彼女に寄り添う。護衛なのかな?
バサリバサリ……
父さんは純粋な精霊らしい心を持っているんだな。
あんなに隠れていない悪意があったのに、タローマティ―を放ってしまった。
“どうして逃がした!”
思わず話しかける。
「あのぐらいなら、この大陸は大丈夫だよ」
“どうしてそう言えるんだ”
「そりゃあ沢山悪魔がきたら大変なことになるだろうけどね。彼女は魔王の娘だから、神の雷ならいいけど、私たちが力づくで追い返して、逆に魔界から仕返しに沢山来ても困るだろう?」
“そりゃそうだけどさ”
「大丈夫、いつかこの大陸にも、悪魔たちから救ってくれる勇者がくるんだよ」
“そうなの?”
「うん、ケット・シーがそう言ってくれたことがあるんだ」
“ゼポロ神は勇者を呼べるのか”
「そうは言ってなかったけど。ケット・シーの所にいた人間族の子も、異世界から来た人でね、そんなことを言ったらしい」
あれ?ケット・シーの所に転移した異世界人って戦中に来た人じゃなかったっけ?そんなまるで平和な日本で流行ってたゲームやライトノベルを知ってる人じゃないだろ?
それに何千年前の話だよ。
“破壊された自然を元に戻すのにはすごく時間がかかるんだよ”
「そうだね。ちょっとした水魔法や土魔法ぐらいじゃ付け焼刃な時があるよ。
だけど、今人々は文化の花を開かせていっているんだ。それはもう生き生きと新しい町を造ったり、道具を造ったり、商売をしたり冒険をしたり。そういう事を止めるわけにはいかないんだよね。彼らがいなかった時の方が自然が多かったけどね。
人々の営みも自然なことだから」
“そっか、やっぱりすごいな”
父さんの着眼点がスケール大きくて。
「うん?」
“でも、戦争とかは止めたいよね”
「そうだね。争いごとをしちゃうのも人々の本能なのかな。集落が大きくなると揉めるんだよね」
“亡くなる人がいると悲しむ人がいるのに”
「そうなんだよ、解ってるくせに争っちゃうんだよね。困るよね」
そうか、勇者が来てくれたらいいよね。
でも、今は必要じゃないかな。だって魔界なんてほんのたまにしか通じないみたいだし。
やっぱり、ここで悪魔たちを逃がしたことが、ダメだったのではないの?
「じゃあ私はユグドラシルの所に帰るよ」
“うん、いつか会うまで元気でね”
「あれ?きみは?いつもの緑色ちゃんじゃないんだね」
“緑色ちゃんは隣にいるよ”
“おうじのとなりはわたしのばしょ!”
“夢の中でもそんなことを言うんだ”
“ふふふ”
“おうじ、あたしあさごはんはぱんけーきがいい!”
“くいんびーのはちみつの!”
“わかったわかった。もうすぐ目覚めるからそうしたら作ってやるよ”
“やったー”
“おうじだいすき!”
“もう名前を呼んでくれないのか?”
“おうじはおうじよ!”
くすん。さみし
「おうじ?」
俺たちのやり取りにきょとんとした表情のブランネージュ。
“そう!このこはおうじなのよ、おうさま!”
「そうなんだ、よろしくねオウジ君」
“えーん”
ブランネージュにそう呼ばれるのはもっとショック!
「わ、泣いちゃった!」
“なきがおかわいい”
夢の中だから平気だもん。
軽鎧に杖か。
気が付けば、大きな大きな湾曲した壁の前を飛んでいた。
木の壁からは生き生きとしたはっぱを茂らせた枝がちょろちょろと生えている。
これは壁じゃないよね。世界樹の幹だ。今日の昼に見たよりも瑞々しくて生き生きしているのはわかる。
≪セイレイがなんのようだ≫
枝の葉の隙間から、緑色の三角帽の小さいおっさんが声をかけてくる。
“なにって、あたしたちはどこにでもいるのよ”
≪ここは、ヨウセイのセカイジュだ≫
“せいれいのせかいじゅにも、あなたたちだっていたじゃない”
緑色ちゃんが少し離れた葉っぱに座って相手をしている。
そうか、ユグドラシルにも妖精がいるんだね。見たことないんだけど。
≪おれたちだってどこにでもいる≫
“あたしたちといっしょね。あら?”
緑色ちゃんがこっちを向いた。
“あなたはひょっとしておうじ?”
“おうじだ!”
“しゅんすけ”
“あれ?おれをおぼえているの?”
“もちろんよ!やっぱりひかってるわ”
“めちゃくちゃひさしぶりじゃん”
“もういないとおもってた”
“にせんごひゃくねんぶりね”
“そんなにか”
“ふふふ、とにかく、うえに行きましょ!しゅんすけ”
“まそがいっぱいできもちいいのよ、しゅんすけ”
“ほら”
“ほらほら”
“う、うん”
黄色ちゃんと緑色ちゃんに両手をひっぱられて飛ぶ。
やっぱり夢の中じゃ名前を呼んでくれるんだね。うれしいよ。
黄色ちゃんと緑色ちゃんに手を引かれながら上に登っていくと、木の幹がいったんすぼまって、そこから沢山枝分かれして、まるで森のようになっていた。枝と枝の間にはちょっとした道が出来ている。
その道を歩いている人影があった。
“おうさまだわ!”
“でも、いまはおうさまじゃないわね”
“あら、おうさまじゃなくて、おさですって”
それはいつも見る父さんだった。大人のハイエルフ。
衣装は、お城で見かける物とは違って、生成りの簡素な衣装。装飾はされているようだけど、色は付いていないんだ。
鎧は来てないけれど、腰に剣を佩いている。
“さあ、しゅんすけいくわよ”
“うん”
“おうさま!”
“こんにちは、おうさま”
「おや、みんなげんきだねぇ」
“こっちのせかいじゅさんも、げんきだもん”
「そうだね」
≪ぶらんねーじゅこっちはひさしぶり≫
小さいおっさんもぽよんぽよんとはっぱを飛びながら付いて行く。
こいつらは飛べないんだよな。
「そうなんだよ、やっと抜け出してきたよ」
“いそがしいの?”
「そうでもないけど、前みたいに簡単じゃなくて」
“いまはせいれいじゃないから?”
「確かに今はハイエルフだけどね」
ブランネージュはそのまま大きな木の中の小道を歩いていく。
「こんにちは」
『おや、ブランネージュやないの』
ハイエルフが声をかけた先には、夕べ会ったガオケレナが中腰から振り返るようにこちらを向いていた。
「なにをされているんですか?あ、それ」
『せや、フリルフリルマッシュルームがここに生えているやろ』
「ええ、これって美味しいですよね」
『あの子が好きやって言うから、食べさせてやろうと思って』
「そう。
彼は元気?」
『まあ、全盛期ほどではないけれどね』
「うん。顔見に来たんだけど」
『会ってやって』
“おうじ、はやく”
“こっちこっち”
“うん”
みんなでブランネージュのサラサラしたプラチナブロンドに隠れるように絡まる。
すると、覚えのある感覚があって、気が付けばリアルに昼にお邪魔した部屋にいた。
多少のしつらえが違うけど。椅子やテーブル、タペストリーとかね。
『ブランネージュ!』
「アマビリータ!あいたかった」
『ほんと?ずいぶん久しぶりだよ。しかもなんだかますます格好良くなっちゃって』
「種族が変わっちゃって」
『それはエルフ?』
『ブランネージュはハイエルフに変わったんやで』
『そうなんだ、ガオケレナ。でも格好いいね』
「これは、罰なんだ」
『罰?』
「大切な愛する人が出来てしまって、ちょっとね」
『ブランネージュに愛される人ってだれ?』
「ふふふ、怒られちゃったから言えないよ」
≪なんだ?精霊王様も罰を受けるのか?≫
キッチンらしき出入り口から出てきたのは、アマビリータの同級生って感じの少年だった。
「アーリマンも久しぶり!」
これがあのアーリマン?
真っ黒な角が生えていて顔は人だけどミノタウロスみたいな存在感だった?
それがジェスターハットと言うより柔らかそうなナイトキャップのような先が二つに分かれた三角帽をかぶり、パジャマのような服装でトレーに茶器を乗せて立っている。
『アーリマンもこっちにお座り』
「う……うん」
部屋にチャイの香りが広がって、ブランネージュが自分のアイテムボックスから焼き菓子を出して広げている。
『これは?』
「エルフたちは料理が上手でね。こんな甘いお菓子も焼くんだよ」
『へえ』
「食べてみて」
≪うまい≫
『うん!本当に美味しい!』
『ほんま、程よく甘くていいねぇ』
「よかった」
しばらくブランネージュがまとめているエルフの集落の話題をしていた。
「エルフたちは、同族なのに喧嘩したり、ほかの種族をないがしろにしたりしてもう大変」
『そうなんだ。精霊は皆素直だもんね』
「そうだよ。それに比べたらエルフとか他の人たちってさ面倒なんだよね」
父さん王様をやりたくなかったのかな。なのにずぅっと長をさせられているんだね。
『妖精は癖があって大変だったなー』
「でも、君がいなくても自然を大切にしているよ」
『うん。それは知ってる。でもねなんか俺の中でわめいている声が聞こえてさ。それで出してあげたんだよあれからずいぶん経っているからね』
「アーリマン?」
≪アローマティが夢に出てきて、眠ると誘惑に負けそうで寝られなくて≫
『うん、また魔界から奴らが声をかけてきているらしい』
『こんなところに閉じこもっているのにしつこいわね』
「こんなところって、君の中じゃないかガオケレナ」
『なあ、ブランネージュ。ちょっと頼みたいことがあるんやけど』
「なに?」
『リンドラークの方の砂漠化が進んでてさ』
「ああ、人同士の戦のせいなんだ。放牧の民が勢力を広げててさ」
『あっちに魔素が繋がりにくくなってて、この子を地中に植えてきてほしいんやけど』
そうして、ガオケレナ母さんが小さな植木鉢をひとつ渡す。
「これは?」
『これはバオ。あたしの子供やねん』
「わかった。あっちの代替わりした黒ライオンは、植えてくれるだろう」
『頼んだよ!』
あれがバオだったんだね。
『ブランネージュ』
「なあに?アマビリータ」
『僕がここにいるからって、君が僕の代わりまでしなくていいからね。君はもうエルフの長なんだし』
「アマビリータ、大丈夫だよ。種族が変わって本質は変わらないんだよ。エルフだって自然を大事にして生きているんだ」
『ならいいけど』
「ただ、前と違って妖精ちゃんのほうの存在が分かりづらくなっているのは確かなんだよね」
『そう』
「それに、ちょっと自由が少なくなっててね」
『うん。無理しちゃだめだよ』
「ありがとう。じゃあお暇するよ」
『え、もう?本当に忙しいんだね』
『あたしが送っていくよ』
『ねえ、また会いに来てくれる?』
「もちろん!
すぐは難しいかもしれないけど」
そうして今度は直接大きな木の根元に転移した。
木の西の方には細い滝が上の方から流れていた。
これがあのもみじ型の湖の源流なのだろう。
「まずいな」
『なにが?』
「ガオケレナ、木に戻って!」
『なに?』
「はやく!アマビリータとアーリマンを守って!」
『わ、わかった!』
細い滝の小さな滝つぼの畔にゆらゆらと陽炎のようなものが建ちあがっている。
“あれは!”
“まかいのいりぐち!”
“また、あくまがくるの?”
“そんな……こわい”
陽炎のようなものがだんだん黒っぽい裂け目になったかと思うとそれが広がっていく。
そして中から人と同じようなサイズのミノタウロスが出てくる。
ただ、全身黒くて、目が赤い。見覚えのある黒い軍服を着ている。
「また来たのか」
『これたな、この世界に』
ミノタウロスの他には女の悪魔もいる。
「君はタローマティ」
『あら?オマエは……ブランネージュ?いい男になったじゃない。
でも、ここの魔素はすこし減ったかしら』
「ああ、人々が増えたからね。人は魔法も使うが、大地の魔素を枯渇させるほどの戦はしていないよ」
『それはよかった』
「で、君は何をしに来たのかな?」
いつものブランネージュにはあり得ないほどのピリピリした緊張感が空気越しに伝わる。
『今回は、見に来ただけよ、そんなに警戒しないで!』
「見に来ただけ?」
『ええ、あのあと我々は他の世界の魔素を得ることが出来て、なんとか魔界の維持が出来たのよ』
「そうか」
『でも、その魔素を頂いた世界がもう今は無くて、こんど勇者に魔界を荒らされたら、困ることになるのよ』
「それで?」
まさか他の世界を滅ぼしたのか?
ブランネージュも同じ考えなのか、難しい顔をしている。
『だから、自然豊かで魔素の豊富なこの大陸の様子を勉強しに来たのよ』
嘘だ!
「荒らしに来たわけじゃないんだな」
『もちろん。またあの神の雷?を落とされちゃたまらないもの』
“だめだよとうさん!そいつをいれちゃ”
“そうよ!おいださなきゃ”
「でも、もう魔界の入り口が閉ざされたんだ」
“そういえばさっきの空間の隙間が消えている”
≪わがオウのかわりにじぶんたちが、あいつらをみはる≫
≪せいれいばっかりに、いいところとられるわけにはいかんからな≫
三角帽のおっさん達が女悪魔に付いて行こうとすると、
『あら、この子は丁度いいわね』
すこし屈んで足元に手を伸ばした女悪魔が一人のおっさん妖精を摘まむ。
≪なにをするんじゃ!≫
『あんた、アーリマンの代わりになりなさいよ!』
≪え?ええ?≫
『ほら』
アローマティがおっさんにキスをすると、たちまちそいつが大きくなっていく。
「なにをするんだ!」
『アーリマンに会いたかったんだけど、どうやら出てきてくれないし、きみに代わりになってもらおうかなって』
≪やだやだ!≫
バタバタと嫌がっている。まだ小犬ぐらいのサイズだ。
『あたらしい大魔王になれるのよ良いでしょ?』
≪やだやだ!≫
ブワーッ
突然小さなつむじ風が巻き起こって、そこに二人の妖精が立っていた。
『やめろー!』
≪やめてくれタローマティ!≫
『あら、アーリマン。マイダーリン、元気じゃないの。やっぱりあたしの浮気が許せないのね!可愛いわ』
ヒュン
女悪魔が一気にアーリマンに近づくと、アマビリータから引きはがして腕を絡めるようにしてしがみついている。
≪やめろ離せ。もう、俺は騙されない!甘い言葉で俺を操りこの世界を壊させるんだろう?≫
『ちっ、何千年も経ってるものね、そこの妖精王や世界樹に余計なことを言われたのね』
『余計な事じゃない!妖精を正しく導くのは僕の役目だ!』
アマビリータが叫ぶ。よく見たら前と同じく軽鎧に剣を手にしている。
「タローマティ、アーリマンを離してください」
ブランネージュもアイテムボックスからあの魔石の嵌った杖を出した。
『あら、精霊王じゃなくなった貴女が私に勝てるとでもいうの?』
杖の魔石はあの時とは違って、黄色いドラゴンはいなくて空っぽだ。
「種族が変わっただけで、私の本質は変わってないよ」
≪ブランネージュ様!助けて≫
『アーリマン、あたしから離れるの?愛しているのに』
≪うそだ!悪魔は平気で噓をつくんだ!俺も悪魔にされていたから知っている≫
『ちょっと、暴れないで!ちっ』
≪わわわっ≫
どさっ
アーリマンが投げ飛ばされた。もともとアーリマンの方が離れたがって力を入れていたから余計に吹き飛んだ感じだ。
≪ブランネージュ様、もう一度、俺を封印しろ!≫
「でも、やっと自由になったのに!」
≪いいから!≫
「う……うん」
父さんはしぶしぶアイテムボックスから龍玉をだしたところに、アーリマンはもう一人の元はちっさいおっさんだった妖精の首根っこもつかんで一緒に龍玉に向かって飛び込む。
二人の大きな妖精が飛び込んだ龍玉がまたゴルフボールサイズに小さくなる。
『ブランネージュ、またそれを貸して』
「でも」
『妖精を守るのは僕の役目だから』
そういってハイエルフから龍玉を受け取ると消えた。
「また、ガオケレナに引きこもっちゃうんだ」
寂しそうなハイエルフの表情にこっちも泣きそう。
“おうさまさびしそう”
“おうさまのたいとうなおともだちは、ようせいおうだけだもん”
“そうなんだ”
『にげられちゃった』
タローマティの台詞にブランネージュが言う
「もう魔界に帰ってくれ」
『無理なの、あの入口は私に開けられるものではないから』
「君の父という魔王が開けるのか?」
『いいえ。魔王城に務めている魔導士だわ』
「そうか。帰れるようになるまでどうするの?」
『ここは、魔界のような恐ろしい戦は無いし、のんびりさせてもらうわ』
「自然を破壊しないのならいい」
『ありがと』
そういうと、女悪魔は黒鳥の様な羽根を広げて飛び立ってしまった。同じように軍服のミノタウロスも羽を広げて彼女に寄り添う。護衛なのかな?
バサリバサリ……
父さんは純粋な精霊らしい心を持っているんだな。
あんなに隠れていない悪意があったのに、タローマティ―を放ってしまった。
“どうして逃がした!”
思わず話しかける。
「あのぐらいなら、この大陸は大丈夫だよ」
“どうしてそう言えるんだ”
「そりゃあ沢山悪魔がきたら大変なことになるだろうけどね。彼女は魔王の娘だから、神の雷ならいいけど、私たちが力づくで追い返して、逆に魔界から仕返しに沢山来ても困るだろう?」
“そりゃそうだけどさ”
「大丈夫、いつかこの大陸にも、悪魔たちから救ってくれる勇者がくるんだよ」
“そうなの?”
「うん、ケット・シーがそう言ってくれたことがあるんだ」
“ゼポロ神は勇者を呼べるのか”
「そうは言ってなかったけど。ケット・シーの所にいた人間族の子も、異世界から来た人でね、そんなことを言ったらしい」
あれ?ケット・シーの所に転移した異世界人って戦中に来た人じゃなかったっけ?そんなまるで平和な日本で流行ってたゲームやライトノベルを知ってる人じゃないだろ?
それに何千年前の話だよ。
“破壊された自然を元に戻すのにはすごく時間がかかるんだよ”
「そうだね。ちょっとした水魔法や土魔法ぐらいじゃ付け焼刃な時があるよ。
だけど、今人々は文化の花を開かせていっているんだ。それはもう生き生きと新しい町を造ったり、道具を造ったり、商売をしたり冒険をしたり。そういう事を止めるわけにはいかないんだよね。彼らがいなかった時の方が自然が多かったけどね。
人々の営みも自然なことだから」
“そっか、やっぱりすごいな”
父さんの着眼点がスケール大きくて。
「うん?」
“でも、戦争とかは止めたいよね”
「そうだね。争いごとをしちゃうのも人々の本能なのかな。集落が大きくなると揉めるんだよね」
“亡くなる人がいると悲しむ人がいるのに”
「そうなんだよ、解ってるくせに争っちゃうんだよね。困るよね」
そうか、勇者が来てくれたらいいよね。
でも、今は必要じゃないかな。だって魔界なんてほんのたまにしか通じないみたいだし。
やっぱり、ここで悪魔たちを逃がしたことが、ダメだったのではないの?
「じゃあ私はユグドラシルの所に帰るよ」
“うん、いつか会うまで元気でね”
「あれ?きみは?いつもの緑色ちゃんじゃないんだね」
“緑色ちゃんは隣にいるよ”
“おうじのとなりはわたしのばしょ!”
“夢の中でもそんなことを言うんだ”
“ふふふ”
“おうじ、あたしあさごはんはぱんけーきがいい!”
“くいんびーのはちみつの!”
“わかったわかった。もうすぐ目覚めるからそうしたら作ってやるよ”
“やったー”
“おうじだいすき!”
“もう名前を呼んでくれないのか?”
“おうじはおうじよ!”
くすん。さみし
「おうじ?」
俺たちのやり取りにきょとんとした表情のブランネージュ。
“そう!このこはおうじなのよ、おうさま!”
「そうなんだ、よろしくねオウジ君」
“えーん”
ブランネージュにそう呼ばれるのはもっとショック!
「わ、泣いちゃった!」
“なきがおかわいい”
夢の中だから平気だもん。
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