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3月15日 里英、見直す
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「「「ご馳走様でした。」」」
「あー、美味しかった。」
僕らは支払いを済ませ、店を後にした。今度は駅に向かってぶらぶら歩く。女性陣はデザートの話で盛り上がっている。抹茶ぜんざいの方が高評価だったようだ。
(橘さん、久しぶりだったな。たしか警察官になったって聞いたけど、、)
「百合さん、コータがさっきの女の人のこと考えてるよ!」
「しょうがないわよ、元カノなんですもの。」
「違いますって、、」
「あの人がコータの初めての人?」
「ちょっ、声が大きいって、、あの人とはそういうんじゃないよ。大学のときに一緒に“謎解きごっこ”をしてた仲間なだけ。」
「ふーん、、本当?」
「本当だよ。」
「ちぇー、ツマンナイの。元カノVS今カノのバチバチが見れると思ったのに」
「ご期待に添えなくて悪かったね。」
「今カノ?」
百合さんが自分を指差しキョドっている。
「百合さんが今カノじゃないんだったら私が今カノ!」
きっと僕は複雑な顔をしていたのだろう。
「何よ、コータのくせに不満なの!?」
「イイエ、光栄デアリマス。」
「よろしい。」エッヘン
駅に近づくに連れ段々と人通りが増えてきた。踏切を渡り駅向こうの商店街に入る。女性陣は薬局やお惣菜屋さんを見つけるたびに中の様子を見ている。
「コータ。はい、コロッケ。」
お惣菜屋さんの店先で揚げていた熱々のコロッケを手渡された。二人もそれぞれ手に揚げ物を持っている。僕達はそこにあったベンチに腰掛けて、舌鼓を打った。
「ん。美味しい。」パクパク
「やっぱ揚げたては最高だね。」モグモグ
「今日の夕飯どうしようかしら、、」モグモグ
「今日は寮母さんお休みの日ですから、何か買って帰りましょう。」
「里英ちゃんは夕飯どうするの?一緒に食べていく?」
「今日は学校休んじゃったし、夕飯は家で食べないと怒られそうかも、、ここのメンチカツ買っていこうかな、、」
里英ちゃんは再び揚げたてのメンチカツを買いに店へ戻っていった。
「じゃ、今夜は二人ですね。」ニッコリ
「はい。、、頑張りますね。」キリッ
僕は百合さんの耳元に口を寄せ、そっと囁いた。百合さんが顔を赤くして僕の膝を叩いた。
「もう、康太さんたらそんなことばかり、、明日はお仕事なんですからね!、、1時までですよ?」
(2人で夕飯を食べて、のんびりお風呂に入って、それから、、)
メンチカツを買い、戻ってきた里英ちゃんが僕を肘で突く。
「コータ、何こんなところで勃起させてるのよ!」ヒソヒソ
「いっ、いや、何でも無い、何でも無い。」
「あー、判った。私抜きであーんなこととかこーんなこととか、百合さんとシようと思ってたんでしょ、、」
「あは、あははは、、」
「ズルいなぁ、コータばっかり百合さんとシて、、」
「ちょっと里英ちゃん、、」
里英ちゃんが百合さんの腕にしがみついた。
「百合さぁん。今度コータ抜きで。ね?」
「うふふ。そうね。」
「やった!約束だからね!」ヤッホーイ
コロッケを食べ終わった僕達は目的のケーキ屋を探して、商店街を散策した。
商店街の東の外れに目的のケーキ屋があった。古風な店構えながら店先に今どきな手書きの看板が出ていた。入り口のドアを開けるとカランコロンとベルが鳴った。
「こんにちはー。」
「いらっしゃい。」
店の奥から人の良さそうなバンダナを巻いた中年の女性が出てきた。
「ええっとー、どれだったかなぁ?」
「あら、ウチのお店は初めてかしら?」
「あ、父が時々ケーキを買ってきてくれて、美味しかったので今日は自分で買いに来たんです。」
「父?ひょっとして和田さんのお嬢さんかしら?」
「はい。そうです。良く分かりましたね。」
「20歳の娘さんがいるって言ってたし、お父さんによく似てらっしゃるから。」
「えー、似てないですよぉ、、」
和田副店長のことをどう切り出したものか考えあぐねていたが、里英ちゃんが突破口を開いてくれた。
「父は良くこちらへ来るんですか?」
「毎月末の炊き出し会の時にね。」
「炊き出し会?」
「近所に子ども食堂っていう、安い金額で近所の子供達に食事を提供しているお店があるのよ。毎週金曜日にそこに食材を運んで来てるわ。うちに寄るのは月末の炊き出し会の後ね。」
「えーっ、父がそんなことを、、知りませんでした、、」
「もう何年になるかしら、、奥さんと始めたボランティアをずっと続けてて偉いわ。」
「!?」
「あら?聞いてない?子ども食堂はあなたのお母さんのアイデアなのよ。お母さんが亡くなって立ち消えになりかけたとき、お父さんが『妻が発案したものだからどうしても実現させたい』といってね。」
里英ちゃんはとても驚いていた。
「父は母の死に目に、仕事だって、、間に合わなかったのに、、」
「和田さんらしいわね。娘さんからしたら冷たくて不器用なお父さんに見えるでしょうけど、本当に奥さん思いの優しい旦那さんよ。」
「、、、」
「、、いつものショートケーキで良いかしら?和田さん、“最近の若い子が喜びそうなやつをお願いします”って言って買っていくのよ。“娘に寂しい思いをさせているから”って。」
「、、お父さん、、」
「じゃあ、それ5個ください。箱は3個と2個に分けて。2個の方にドライアイスをお願いします。」
「はい。少々お待ち下さい。」
「5個?」
「うん。帰って3人で食べよう。2個は里英ちゃんのお土産。」
「コータ、、ありがとう、、」
「里英ちゃん、良いお父さんだったじゃない。」
「うん、、」
「和田副店長、何でこんなにこっそりボランティアやってるんだろう?」
「ホントよね。堂々とやればいいのに、お父さんったら分かりにくいのよ、、もう、、」
ちょっと拗ねた里英ちゃんが可愛い。お父さんに対する思い違いが解けて良かった。僕と百合さんは顔を見合わせて微笑んだ。
帰り道は上機嫌な里英ちゃんに釣られて僕達も幸せな気持ちでブラブラ帰った。夕飯に大根とゆで卵の入った豚の角煮と、ひじきの煮物、オクラの浅漬などを買った。
寮に帰り着くと百合さんが紅茶を淹れてくれて、3人でケーキを食べた。
「「んー、美味しい!」」
「あ💡美味しい。」
「あのお店、これから贔屓にしようっと。」
どうやら里英ちゃんは今後、お母さんのアイデアでお父さんが作り上げた子ども食堂を手伝うつもりのようだ。
「あまり頑張り過ぎちゃだめよ?」
「はーい。勉強もしまーす。」
「忙しくなりそうだね。」
「でも水曜日はお泊りに来るから。」
「いつでもいらっしゃい。」
「あんまり空けるとコータのデカチン挿いらなくなりそうだし。」
「はいはい。」
時刻は17:00になろうとしている。
里英ちゃんはケーキの入った箱を片手に元気よく帰っていった。
里英ちゃんを見送って食堂に戻った僕達は、無駄にテンションの高かった娘のいなくなった寂しさと疲れを感じながら、並んで椅子に座っていた。
「「はぁ、、」」
同時に溜息をついた。僕達は顔を見合わせて少し笑った。僕は百合さんに手を伸ばし抱き寄せると、僕の膝の上に横向きに乗せて、あやすように軽く揺すった。百合さんは僕にすべて委ね、幸せそうに目を閉じてされるがままになっている。
昨晩1:30頃に里英ちゃんが乱入してきてから、半日ちょっとの間に色々状況が変わった。里英ちゃんは初めて男を知ったし、百合さんはアナルヴァージンを失った。山田店長代理と和田副店長の人柄も判った。
里英ちゃんが和田副店長のことを見直す良いきっかけになったようで、それが今日一番の収穫だったような気がする。
ぼんやりと百合さんの背中をポンポンと叩きながら揺すっていたら、百合さんの左手が僕の頬をそっと包んだ。
「今日はとっても良い1日だったわ。里英ちゃんにとっては人生で忘れられない1日になったでしょうね。」
「うん。」
「ありがとう。康太さん。」
「こちらこそありがとう。百合さん。」
見つめ合ってそっとキスをした。
「あー、美味しかった。」
僕らは支払いを済ませ、店を後にした。今度は駅に向かってぶらぶら歩く。女性陣はデザートの話で盛り上がっている。抹茶ぜんざいの方が高評価だったようだ。
(橘さん、久しぶりだったな。たしか警察官になったって聞いたけど、、)
「百合さん、コータがさっきの女の人のこと考えてるよ!」
「しょうがないわよ、元カノなんですもの。」
「違いますって、、」
「あの人がコータの初めての人?」
「ちょっ、声が大きいって、、あの人とはそういうんじゃないよ。大学のときに一緒に“謎解きごっこ”をしてた仲間なだけ。」
「ふーん、、本当?」
「本当だよ。」
「ちぇー、ツマンナイの。元カノVS今カノのバチバチが見れると思ったのに」
「ご期待に添えなくて悪かったね。」
「今カノ?」
百合さんが自分を指差しキョドっている。
「百合さんが今カノじゃないんだったら私が今カノ!」
きっと僕は複雑な顔をしていたのだろう。
「何よ、コータのくせに不満なの!?」
「イイエ、光栄デアリマス。」
「よろしい。」エッヘン
駅に近づくに連れ段々と人通りが増えてきた。踏切を渡り駅向こうの商店街に入る。女性陣は薬局やお惣菜屋さんを見つけるたびに中の様子を見ている。
「コータ。はい、コロッケ。」
お惣菜屋さんの店先で揚げていた熱々のコロッケを手渡された。二人もそれぞれ手に揚げ物を持っている。僕達はそこにあったベンチに腰掛けて、舌鼓を打った。
「ん。美味しい。」パクパク
「やっぱ揚げたては最高だね。」モグモグ
「今日の夕飯どうしようかしら、、」モグモグ
「今日は寮母さんお休みの日ですから、何か買って帰りましょう。」
「里英ちゃんは夕飯どうするの?一緒に食べていく?」
「今日は学校休んじゃったし、夕飯は家で食べないと怒られそうかも、、ここのメンチカツ買っていこうかな、、」
里英ちゃんは再び揚げたてのメンチカツを買いに店へ戻っていった。
「じゃ、今夜は二人ですね。」ニッコリ
「はい。、、頑張りますね。」キリッ
僕は百合さんの耳元に口を寄せ、そっと囁いた。百合さんが顔を赤くして僕の膝を叩いた。
「もう、康太さんたらそんなことばかり、、明日はお仕事なんですからね!、、1時までですよ?」
(2人で夕飯を食べて、のんびりお風呂に入って、それから、、)
メンチカツを買い、戻ってきた里英ちゃんが僕を肘で突く。
「コータ、何こんなところで勃起させてるのよ!」ヒソヒソ
「いっ、いや、何でも無い、何でも無い。」
「あー、判った。私抜きであーんなこととかこーんなこととか、百合さんとシようと思ってたんでしょ、、」
「あは、あははは、、」
「ズルいなぁ、コータばっかり百合さんとシて、、」
「ちょっと里英ちゃん、、」
里英ちゃんが百合さんの腕にしがみついた。
「百合さぁん。今度コータ抜きで。ね?」
「うふふ。そうね。」
「やった!約束だからね!」ヤッホーイ
コロッケを食べ終わった僕達は目的のケーキ屋を探して、商店街を散策した。
商店街の東の外れに目的のケーキ屋があった。古風な店構えながら店先に今どきな手書きの看板が出ていた。入り口のドアを開けるとカランコロンとベルが鳴った。
「こんにちはー。」
「いらっしゃい。」
店の奥から人の良さそうなバンダナを巻いた中年の女性が出てきた。
「ええっとー、どれだったかなぁ?」
「あら、ウチのお店は初めてかしら?」
「あ、父が時々ケーキを買ってきてくれて、美味しかったので今日は自分で買いに来たんです。」
「父?ひょっとして和田さんのお嬢さんかしら?」
「はい。そうです。良く分かりましたね。」
「20歳の娘さんがいるって言ってたし、お父さんによく似てらっしゃるから。」
「えー、似てないですよぉ、、」
和田副店長のことをどう切り出したものか考えあぐねていたが、里英ちゃんが突破口を開いてくれた。
「父は良くこちらへ来るんですか?」
「毎月末の炊き出し会の時にね。」
「炊き出し会?」
「近所に子ども食堂っていう、安い金額で近所の子供達に食事を提供しているお店があるのよ。毎週金曜日にそこに食材を運んで来てるわ。うちに寄るのは月末の炊き出し会の後ね。」
「えーっ、父がそんなことを、、知りませんでした、、」
「もう何年になるかしら、、奥さんと始めたボランティアをずっと続けてて偉いわ。」
「!?」
「あら?聞いてない?子ども食堂はあなたのお母さんのアイデアなのよ。お母さんが亡くなって立ち消えになりかけたとき、お父さんが『妻が発案したものだからどうしても実現させたい』といってね。」
里英ちゃんはとても驚いていた。
「父は母の死に目に、仕事だって、、間に合わなかったのに、、」
「和田さんらしいわね。娘さんからしたら冷たくて不器用なお父さんに見えるでしょうけど、本当に奥さん思いの優しい旦那さんよ。」
「、、、」
「、、いつものショートケーキで良いかしら?和田さん、“最近の若い子が喜びそうなやつをお願いします”って言って買っていくのよ。“娘に寂しい思いをさせているから”って。」
「、、お父さん、、」
「じゃあ、それ5個ください。箱は3個と2個に分けて。2個の方にドライアイスをお願いします。」
「はい。少々お待ち下さい。」
「5個?」
「うん。帰って3人で食べよう。2個は里英ちゃんのお土産。」
「コータ、、ありがとう、、」
「里英ちゃん、良いお父さんだったじゃない。」
「うん、、」
「和田副店長、何でこんなにこっそりボランティアやってるんだろう?」
「ホントよね。堂々とやればいいのに、お父さんったら分かりにくいのよ、、もう、、」
ちょっと拗ねた里英ちゃんが可愛い。お父さんに対する思い違いが解けて良かった。僕と百合さんは顔を見合わせて微笑んだ。
帰り道は上機嫌な里英ちゃんに釣られて僕達も幸せな気持ちでブラブラ帰った。夕飯に大根とゆで卵の入った豚の角煮と、ひじきの煮物、オクラの浅漬などを買った。
寮に帰り着くと百合さんが紅茶を淹れてくれて、3人でケーキを食べた。
「「んー、美味しい!」」
「あ💡美味しい。」
「あのお店、これから贔屓にしようっと。」
どうやら里英ちゃんは今後、お母さんのアイデアでお父さんが作り上げた子ども食堂を手伝うつもりのようだ。
「あまり頑張り過ぎちゃだめよ?」
「はーい。勉強もしまーす。」
「忙しくなりそうだね。」
「でも水曜日はお泊りに来るから。」
「いつでもいらっしゃい。」
「あんまり空けるとコータのデカチン挿いらなくなりそうだし。」
「はいはい。」
時刻は17:00になろうとしている。
里英ちゃんはケーキの入った箱を片手に元気よく帰っていった。
里英ちゃんを見送って食堂に戻った僕達は、無駄にテンションの高かった娘のいなくなった寂しさと疲れを感じながら、並んで椅子に座っていた。
「「はぁ、、」」
同時に溜息をついた。僕達は顔を見合わせて少し笑った。僕は百合さんに手を伸ばし抱き寄せると、僕の膝の上に横向きに乗せて、あやすように軽く揺すった。百合さんは僕にすべて委ね、幸せそうに目を閉じてされるがままになっている。
昨晩1:30頃に里英ちゃんが乱入してきてから、半日ちょっとの間に色々状況が変わった。里英ちゃんは初めて男を知ったし、百合さんはアナルヴァージンを失った。山田店長代理と和田副店長の人柄も判った。
里英ちゃんが和田副店長のことを見直す良いきっかけになったようで、それが今日一番の収穫だったような気がする。
ぼんやりと百合さんの背中をポンポンと叩きながら揺すっていたら、百合さんの左手が僕の頬をそっと包んだ。
「今日はとっても良い1日だったわ。里英ちゃんにとっては人生で忘れられない1日になったでしょうね。」
「うん。」
「ありがとう。康太さん。」
「こちらこそありがとう。百合さん。」
見つめ合ってそっとキスをした。
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