死神様の恋愛マニュアル

よもやま

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4.不穏な影③

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 他愛のないやり取りで笑い合う二人の席に、突然二人組の女性が近付いてきた。振り向いたレイヴンの顔を見て、きゃあと小さな悲鳴を上げる。

「お二人ってぇ、この後ヒマですかぁ?」
「あたし達これからカラオケに行くんですけど~、良かったらご一緒しません?」

 わかりやすく、レイヴンを狙った逆ナンパだ。二人の視線は佐丸には一ミリも向かず、レイヴンの顔ばかりを見ている。友達連れなら誘えば一緒に来てくれるかもしれないと思っているのが丸わかりだった。

「カラオケ?」
「あー……個室で歌が歌える場所のこと」
「えー、お兄さんカラオケ知らないんですかぁ? やだぁ、かわいー」
「あたし達が教えてあげるんで~、一緒にいきましょうよ~」

 馴染みのない言葉に首を傾げるレイヴンを見て、女性達はきゃっきゃと盛り上がっている。さり気なくレイヴンの腕に触れるテクニックも外さない。レイヴンは困惑した顔で佐丸に助けを求めている。レイヴンの腕を掴むネイルの綺麗な指にむっとしながら、佐丸が口を開こうとした。

「やめときなって。そっちの相手、男のちんこ咥えるのだ~いすきなド変態だぜ? なぁ、良幸」

 そして突然聞こえてきた悪意のある声に、佐丸は言葉を失った。
 そこにいたのは、鹿瀬昌人――つい先日まで佐丸が付き合っていた男だった。

 ■

 鹿瀬は酷く暴力的で支配的な男だった。
 マッチングアプリ経由で知り合い、最初のうちはノーマルなセックスをしてくれていた。関係が壊れ始めたのは三回目に待ち合わせをした時だ。電車が遅れて佐丸が待ち合わせに五分遅れたことがきっかけだった。

「五分も俺の時間を無駄にしたんだから、詫びるのが当然だよな?」

 そう言って鹿瀬は、ホテルに着くなり佐丸の腹を殴ったのだった。
 突然の暴力に逆らえないまま、佐丸はほとんど準備していない後ろを強引に貫かれ中出しをされた。失神すれば平手で頬を打たれ、涎と鼻血、涙を流しながら精液塗れになった身体を写真に撮られた。

 その写真を脅しに使い、鹿瀬は佐丸を自分に都合の良い従順なセックスドールに仕立てあげたのだった。佐丸は逆らうことなどできず、ただ従順に、鹿瀬の言葉に従っていた。
 だが、従順すぎるのも鹿瀬にはつまらなかったらしい。

 鹿瀬はセックスの度に撮り溜めていた佐丸のあられもない写真を、佐丸の会社に送りつけていた。ゲイバレしただけでなく、酷い格好をしている自分を会社の人間に知られてしまった。以来、佐丸は決まっていたプロジェクトメンバーから外され、パワハラやセクハラを受けるようになった。

 なにを言っても会社の人間達は佐丸を気色悪いと言いたげな目で見てきた。パワハラやセクハラに耐えられても、ゲイである自分を否定するような視線に、佐丸は耐えられなくなっていった。

 鹿瀬に怒りを向ければ、鹿瀬は嬉しそうな顔で佐丸を殴った。佐丸を殴って勃起した性器を強引に口に突っ込まれ、精液を飲み込むまで掴んだ髪を離してくれなかった。
 そんな関係に佐丸の心が限界を迎え、飛び降り自殺を実行しようとしてレイヴンと出会ったのだった。
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