4 / 27
4.エルは気付かない
エルは無事、魔法師の試験に合格出来た。先日行われた筆記試験は首席合格だったし、今日の実地試験もハッキリとは順位は出されなかったが、好成績のようだった。
午前中に対戦した伯爵子息のジュードも、無事に合格していた。仲良く出来たら良いなと思いつつ、待っていた馬車に乗り、自宅の侯爵家へと帰った。詳しい書類は後日届くとの事だった。
「ああ、憧れのノア魔法師団長に会えてすごく幸せだったな。これからは魔法師団でずっと一緒なんだ」
エルはノアの姿を見て、必ず合格するんだと気合いを入れて試験に臨んだ。学園では今日この日のために、一生懸命頑張って勉強した。そのおかげで座学も実技も首席で卒業が決まったのだ。学友たちと離れ離れになるのは寂しいけれど、それ以上に魔法師団に入団することの喜びの方が大きかった。
エルが魔法師団を目指していたのは学友たちには知られているので、合格したことを教えれば一緒に喜んでくれるだろう。
「ノア師団長……カッコよかったなぁ」
エルは馬車に乗りながら、実技試験で見ることのできたノアを、口元を緩めながら思い返していた。
エルは、学園に入学する前に、その年に魔法師団に入団したばかりのノアを見たことがあった。
フローラ王国最大のお祭りである復活の日のメインイベントでのことだった。当時入団したてのノアが、キラキラ輝く氷の花を舞わせて民衆の頭上に降らせたのを体験した。この幻想的な光景は今でもエルの胸に刻まれている。
触れた瞬間にひんやりとした感覚を残して消えていく儚い花。その魔力は、エルに染み込んで心が温まった。胸がキュンとなり鼓動が高まる。
この儚くも美しい魔法を使ったノアを見つめていた。艶やかな黒髪にアメジストの瞳。しっかりと鍛えられているとわかる姿に釘付けとなった。
「僕、魔法師になって、ノア殿下と一緒に働きたい。学園で頑張って勉強するよ」
一緒に来ていた両親は、微笑ましくその話を聞いていた。エルは以前から、治癒師か魔法師になりたいと言っていたのだ。今回の素晴らしい体験で、心が決まったのだろうと思った。しかし、エルの次の言葉で両親は固まった。
「ノア殿下の魔力は温かいね。何だかドキドキする。これはなに?」
胸を押さえてうっとりしているエルを見て、両親はまだ学園に入学もしていない幼さすら感じる我が子の反応に驚きを隠せなかった。
なぜなら、魔力の相性が良くないと起きない現象だからだ。しかもこの微量な魔力に反応するなんて、抜群に相性が良いのだろう。父親である侯爵は、陛下にのみ、このことを知らせておこうと考えた。ノア殿下もまだ学園に入学もしていない子が相手だと知れば戸惑うだろうと思ったからだ。
「エル。魔法師団に入るには、座学も実技も本当に頑張らないといけないよ。やれるかい?」
「うん、がんばります!」
「そうか……なら、応援するよ。頑張りなさい」
「はい!」
魔法師団に入団出来れば、二人は気付くだろう。そう思い、侯爵夫婦は後日、陛下に謁見して、エルの反応を伝えたのだった。陛下は王妃にそのことを伝えると、ノアへの見合いの打診を全て断り、エルの成長を心から楽しみにしていた。
魔法の相性の良い者同士は、たとえ同性同士でも子を授かることが出来る。現に数は多くはないが、そうして生まれた子はいるのだ。もちろん同性同士の婚姻も可能である。
そして、エルの実地試験当日、待ちきれなかった陛下は、お忍びで直接二人の出会いを見に行くことにしたのだった。
「ただいま帰りました」
エルが入団試験から帰ると、一家総出で出迎えた。
「おかえり、エル。どうだった?」
「父様、母様、兄様たち! 僕、合格しました!」
「おめでとう! さすが俺の弟。それで? 憧れのノア魔法師団長に会えたのか?」
「直接はお話できなかったけど、実技試験を見ていたよ。練習していた花を降らせるのも上手くできたんだ!」
「ノア師団長は気づいたかしら。エルが真似をしたの」
「母様、僕なりにアレンジしていますよ……でも、バレてたら恥ずかしいな」
「エル、どちらにしろノア師団長もエルの魔力に触れたのだな?」
「え……? はい。花を降らせた時に触れていましたよ」
父親が念を押してきたのに戸惑ったが、エルは事実をきちんと伝えた。
「……そうか。とうとう」
「父様?」
「エル、着替えておいで。みんなでお祝いだ」
「はいっ!」
そういうとエルは自室に一度戻って行った。
◇◇◇
「本当にこの日がきたのか……」
「父上、エルの応援をしないといけませんよ」
「わかっておる」
「エルにはどんな花嫁衣装が似合うかしらね」
「母上も少し我慢しておきましょう」
「ところで、父上。王家に連絡しなくていいのか?」
「既に把握済みだろう。むしろ朝イチで書状が届きそうだ」
とうとう、この日が来たのだ。侯爵家もエルとノアが出会ったことを知ると、会うべくして出会った二人に、感慨深い思いだった。
ちなみに、エルの次兄が言ったことは的中した。侯爵のもとに、王家の紋章入りの書状が届いた。密やかに王家と連絡を取り合いながら、二人の行く末を見守るようになったのだった。
エルはまだ気付かない。なぜこんなにもノア師団長に惹かれるのか。頭を撫でられるたびに、ノアが魔力をほんの少し流して気づいてほしがっているのも。無意識にエルからも魔力をほんの少しだけ流してしまっている事も。
「エル、今日も頑張っていたな」
「はい! ノア師団長」
二人の不器用な恋を見守るのは、魔法師団の癒しになっていた。誰もがこの後に訪れる不穏な影に、気付くことは出来なかった。
あなたにおすすめの小説
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
【完結】星に焦がれて
白(しろ)
BL
気付いたら八年間囲われてた話、する? わんこ執着攻め×鈍感受け
「お、前、いつから…?」
「最初からだよ。初めて見た時から俺はお前のことが好きだった」
僕、アルデバラン・スタクにはどうしても敵わない男がいた。
家柄も、センスも、才能も、全てを持って生まれてきた天才、シリウス・ルーヴだ。
僕たちは十歳の頃王立の魔法学園で出会った。
シリウスは天才だ。だけど性格は無鉄砲で無計画で大雑把でとにかく甘えた、それに加えて我儘と来た。それに比べて僕は冷静で落ち着いていて、体よりも先に頭が働くタイプだったから気が付けば周りの大人たちの策略にはめられてシリウスの世話係を任されることになっていた。
二人組を作る時も、食事の時も、部屋だって同じのまま十八で学園を卒業する年まで僕たちは常に一緒に居て──そしてそれは就職先でも同じだった。
配属された辺境の地でも僕はシリウスの世話を任され、日々を慌ただしく過ごしていたそんなある日、国境の森に魔物が発生した。それを掃討すべく現場に向かうと何やら魔物の様子がおかしいことに気が付く。
その原因を突き止めたシリウスが掃討に当たったのだが、魔物の攻撃を受けてしまい重傷を負ってしまう。
初めて見るシリウスの姿に僕は動揺し、どうしようもなく不安だった。目を覚ますまでの間何をしていていも気になっていた男が三日振りに目を覚ました時、異変が起きた。
「…シリウス?」
「アルはさ、優しいから」
背中はベッドに押し付けられて、目の前には見たことが無い顔をしたシリウスがいた。
いつだって一等星のように煌めいていた瞳が、仄暗い熱で潤んでいた。とても友人に向ける目では、声では無かった。
「──俺のこと拒めないでしょ?」
おりてきた熱を拒む術を、僕は持っていなかった。
その日を境に、僕たちの関係は変わった。でも、僕にはどうしてシリウスがそんなことをしたのかがわからなかった。
これは気付かないうちに八年間囲われて、向けられている愛の大きさに気付かないまますったもんだする二人のお話。
王女が捨てた陰気で無口で野暮ったい彼は僕が貰います
卯藤ローレン
BL
「あなたとの婚約を、今日この場で破棄いたします!」――王宮の広間に突然響いた王女の決別宣言。その言葉は、舞踏会という場に全く相応しくない地味で暗い格好のセドリックへと向けられていた。それを見ていたウィリムは「じゃあ、僕が貰います!」と清々しく強奪宣言をした。誰もが一歩後ずさる陰気な雰囲気のセドリック、その婚約者になったウィリムだが徐々に誤算が生じていく。日に日に婚約者が激変していくのだ。身長は伸び、髪は整えられ、端正な顔立ちは輝き、声変わりまでしてしまった。かつての面影などなくなった婚約者に前のめりで「早く結婚したい」と迫られる日々が待っていようとは、ウィリムも誰も想像していなかった。
◇地味→美男に変化した攻め×素直で恐いもの知らずな受け。
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
愛しの妻は黒の魔王!?
ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」
――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。
皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。
身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。
魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。
表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます!
11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!
名もなき花は愛されて
朝顔
BL
シリルは伯爵家の次男。
太陽みたいに眩しくて美しい姉を持ち、その影に隠れるようにひっそりと生きてきた。
姉は結婚相手として自分と同じく完璧な男、公爵のアイロスを選んだがあっさりとフラれてしまう。
火がついた姉はアイロスに近づいて女の好みや弱味を探るようにシリルに命令してきた。
断りきれずに引き受けることになり、シリルは公爵のお友達になるべく近づくのだが、バラのような美貌と棘を持つアイロスの魅力にいつしか捕らわれてしまう。
そして、アイロスにはどうやら想う人がいるらしく……
全三話完結済+番外編
18禁シーンは予告なしで入ります。
ムーンライトノベルズでも同時投稿
1/30 番外編追加
【完結】ハーレムルートには重要な手掛かりが隠されています
天冨 七緒
BL
僕は幼い頃から男の子が好きだった。
気が付いたら女の子より男の子が好き。
だけどなんとなくこの感情は「イケナイ」ことなんだと思って、ひた隠しにした。
そんな僕が勇気を出して高校は男子校を選んだ。
素敵な人は沢山いた。
けど、気持ちは伝えられなかった。
知れば、皆は女の子が好きだったから。
だから、僕は小説の世界に逃げた。
少し遠くの駅の本屋で男の子同士の恋愛の話を買った。
それだけが僕の逃げ場所で救いだった。
小説を読んでいる間は、僕も主人公になれた。
主人公のように好きな人に好きになってもらいたい。
僕の願いはそれだけ…叶わない願いだけど…。
早く家に帰ってゆっくり本が読みたかった。
それだけだったのに、信号が変わると僕は地面に横たわっていた…。
電信柱を折るようにトラックが突っ込んでいた。
…僕は死んだ。
死んだはずだったのに…生きてる…これは死ぬ瞬間に見ている夢なのかな?
格好いい人が目の前にいるの…
えっ?えっ?えっ?
僕達は今…。
純愛…ルート
ハーレムルート
設定を知る者
物語は終盤へ
とあり、かなりの長編となっております。
ゲームの番外編のような物語です、何故なら本編は…
純愛…ルートから一変するハーレムルートすべての謎が解けるのはラスト。
長すぎて面倒という方は最終回で全ての流れが分かるかと…禁じ手ではありますが
【完結】あなたのいない、この異世界で。
Mhiro
BL
「……僕、大人になったよ。だから……もう、───いいよね?」
最愛の人に先立たれて3年。今だ悲しみから立ち直れず、耐えられなくなった結(ゆい)はその生涯を終えようとする。しかし、次に目が覚めたのは、生命を見守る大樹がそびえ立つ異世界だった。
そこで亡き恋人の面影を持つ青年・ルークと出会う。
亡き恋人への想いを抱えながらも、優しく寄り添ってくれるルークに少しずつ惹かれていく結。そんなある日、ある出来事をきっかけに、彼から想いを告げられる。
「忘れる必要なんてない。誰かを想うユイを、俺はまるごと受け止めたい」
ルークの告白を受け入れ、幸せな日々を送る結だったが、それは突然終わりを迎える。
彼が成人を迎えたら一緒に村を出ようと約束を交わし、旅立つ準備を進めていた矢先、結は別の女性と口づけを交わすルークの姿を目撃してしまう。
悲しみの中で立ち止まっていた心が、異世界での出会いをきっかけに再び動き出す、救済の物語。
※センシティブな表現のある回は「*」が付いてますので、閲覧にはご注意ください。
ストーリーはゆっくり展開していきます。ご興味のある方は、ぜひご覧ください。