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プロスペロ王国編(ミカエル視点)
愛しい涙
しおりを挟む騎士団の鍛錬場で模擬戦をする事になった。団員たちも興味津々に見守っている。
先ずは、シャランがファッチャモと剣を交える事になった。
最初は心配げに見ていた団員たちも、ファッチャモの連撃を見事に躱していく姿に、徐々に歓声が上がる様になった。
「よし! 次のを連続で躱せたら、終わりにするぞ!」
最早、返事も出来ないシャランに、容赦無い突きと斬撃が襲う。
「────っ!!」
本当にギリギリのところで躱し切ったシャランはヘナヘナとそこに座り込んだ。周囲からは驚きと歓声が上がる。
「シャラン、本当に動ける様になったな! これなら、本当に安心して任せられる。」
クタクタになっているシャランの頭をグリグリ撫でる姿は余裕そのもの。その後、ファッチャモはこちら側を向いてニヤリと笑った。
「そこの護衛。名前は?」
「エイデンと申します、ファッチャモ殿下。」
「では、エイデン。次はお前の番だ。手加減無しだぞ!」
「畏まりました。では、お手合わせ願います。」
エイデンとファッチャモの試合は圧巻の一言だった。久しぶりに、本気で戦っているエイデンを見た気がする。あいつは、相手が強ければ強い程楽しくなるらしく、戦闘中に笑っているのだ。
───今みたいに。
二人共相手の力量を理解したのか、同時に間合いをとり試合を終える。二人の試合に夢中になっていた周囲はどよめきをあげた。
ファッチャモは一度休憩をとったが、私に声をかけてきた。
「次はミカエル! どうだ?」
「ああ、頼む。だが、私はエイデン程強くはないぞ。」
周囲はまた、どよめいた。帝国の第二皇子と自国の第二王子対決だ。盛り上がらないはずは無い。
エイデンが二人の間に入る。まぁ、王子同士だから判定で勝ち負けをつけるのだろう。お互い怪我でもしたら面倒だ。先程から誰も周囲を咎めないと思ったら、騎士団長自ら見学していた。
「はじめ!」
しばらく様子を見るように、お互い打ち合う。
私の剣技を初めて見るのだろう。周囲のざわめきを感じる。しかし、徐々に余裕は無くなる。ファッチャモは強い。
それは分かっていたが、時折こちらを挑発するために殺気を飛ばしてくる。私は反射的に魔力を剣に纏わせそうになるのを何度も堪えながら、剣を交える。
ファッチャモの鋭い突きを捌いた──と、思ったその瞬間、本気の殺気を充てられ反射的に魔法を発動する。青い雷撃がファッチャモの剣を持つ手を襲い、怯んだその隙に首元へ剣を持っていく。
既にエイデンが剣に炎を纏い此方に来ていた。
「参った! ミカエルは強いな。雷撃か……手加減されたな。あの殺気を浴びてもその余裕があるのか。」
「手加減していたのはファッチャモだろう? 剣技だけのつもりが魔法を使ってしまった。私の反則負けだ。手は大丈夫か?」
「大丈夫だ。しかし、護衛も流石だな。」
「ファッチャモ殿下、国際問題になるので、あの殺気はやめてくださいよ。」
エイデンは気を沈めると、剣を納めてから苦笑した。同じく駆け付けていた騎士団長にファッチャモは、こっ酷く叱られている。
見学していた他の者たちも冷や汗をかいたが、一番動揺したのはシャランだった。
イノックスの焦る声で、皆がシャランを見ると、殺気に反応して防護壁を作ったまま、滝のように涙を流していた。
「ミカエル様……。」
「シャラン!」
慌ててシャランへと向かう。すると、シャランは防護壁を解いて、私へと抱きついた。震えた腕で必死にしがみつく。
「よかった……。生きてる。」
怪我をしていないか、シャランが確認するように身体中確認すると、再びしがみついた。
「危ない! って感じた瞬間、僕、自分だけ守って……助けられなくて……うぅ……ぐすっ。ごめんなさい。」
「シャラン……。」
愛しい。
愛しいシャラン。
私の為に泣いてくれている。
「良いんだ。これからもそうしてくれ。私は本当に危ない時は雷撃で相手を消し炭にしてしまうから、心配は要らないよ。シャランが無事だと思えれば、全力で戦える。」
私も腕を回し背中をぽんぽんと叩き、あやしてやる。
「僕は、ちゃんと守れるのかな……。」
先程の事がよほど衝撃的だったのだろう。自信を失くしたようだった。
「シャラン、先程のは距離が遠すぎた。今回のシャランの役目は近くにいて守るものだ。防護壁は皆認めてくれているだろう?
私の好きになったシャランなら、きっとやり遂げるよ。」
シャランはコクリと頷く。
「ミカエル様は、太陽の様な方ですね。僕をいつも導いてくれる。」
「フフ、そんなに褒められると照れるよ。そろそろ、私の事が気になり出さない?」
揶揄って元気にさせようとしたが、シャランに返り討ちに遭ってしまった。
「お返事は無事帰って来てからします。覚悟しておいて下さいね?ミカエル様。」
まだ、涙で潤んでいる瞳がキラキラして悪戯っぽく小首を傾げて笑った。
その笑顔を見た私が、真っ赤になってしまったのは言うまでもない。
その後、騎士団員によって広められた私とシャランのやりとりが、永く語り継がれる物語の一節になるなんて、私達はまだ知らない。
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