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ルクスペイ帝国編(シャラン視点)
慈しまれるシャラン
しおりを挟むシーズン最後にして最大の王家主催の夜会。
どうやら、数々のお茶会や夜会の話題を掻っ攫った本人たちが、満を持しての登場ということで、かつてない程の盛り上がりだそうだ。
僕とミカエル様の事なのだけど。
王国での出来事も、お茶会やサロンに吟遊詩人を招いて盛り上がったと聞いている。
皇后様主導の下、僕たち二人の本が執筆されているとか。舞台化まで進んでいるらしい。
皇帝陛下が物凄く乗り気だと、ミカエル様がボヤいていた。
ガブリエル皇太子殿下は、父上と母上は芸術が大好きだからね、諦めが肝心だよ。と、心構えを教えてくれた。皇太子妃殿下とのラブロマンスで、先に同じ経験をされた方の言葉は重い。
そう言えば、絵姿も描かれるらしい。
今回の社交界デビューで、僕とミカエル様の絵姿も解禁だとか。誰が指示しているのかは、聞かないでおこう。
ちなみに、皆さんと話す時はちゃんと、お義父様、お義母様、お義兄様、お義姉様と呼んでいる。
こう呼ばないと、みなさんが本当に悲しそうな顔をするのだ。そんな愛情に溢れた家族だから、ミカエル様に無理矢理にも婚約者を決めさせることがなかったのかもしれない。
きっと、独り身を貫くとミカエル様から聞かされた時は、心配なさったのだろうな、と思う。そのぶん、僕の話を聞いた時は、とても嬉しかったと、こっそり教えて貰った。
この日のために誂えてた、お互いの色を使い、ひと目で婚約者だとわかる様にしてあるイブニングコートに腕を通す。
ヘアスタイルも、ミカエル様に貰ったイヤーカフがよく見えるようになっている。
ステンレスや侍女達の意気込みがわかる、渾身の出来だ。もちろん、ミカエル様から頂いた蝶も飾られている。
コンコン、と扉が叩かれる。どうやらミカエル様が様子を見に来てくれたらしい。お通しする様に言うと、ミカエル様が僕を見て一瞬息を詰めて固まる。
「───凄く、もの凄く綺麗だよ。シャラン。」
僕もミカエル様に見惚れていたので、ハッと我に返った。
「ミカエル様も、凄くお似合いで格好良いです。いつもとヘアスタイルも違って、ドキドキします。」
ミカエル様も左耳のイヤーカフを見せつけるように、髪をサイドに流している。ウットリとミカエル様を見つめていると、徐々に距離が近づいていく。
「ゴホン。お二人とも、正気に戻ってください。そろそろ迎えがくるのでは?」
ステンレスの言葉にチラリと周囲を確認すると、目をキラキラさせた侍女達の視線が刺さる。
───危なかった。
「そうだった。迎えに来たよ、シャラン。もうすぐ時間だ。」
「はい。……やはり、少し緊張しますね。」
僕はゆっくりと深呼吸をした。
「先生方にも、とても褒められていたじゃないか。心配しないで。私がずっと隣にいるから。いざとなったら必ずフォローするよ。」
「ありがとうございます、ミカエル様。頼りにしてます。」
差し出された手に、エスコートしてもらう為にそっと手を乗せた。ミカエル様と見つめ合いにっこりと微笑み、歩き出す。
────いよいよ、僕のお披露目だ。
ざわめく人々の声が聞こえる。この帝国のほとんどの貴族が集まっていた。
現在、王族専用の出入口で僕達は待機しているところだ。フロアの喧騒を聞いて、再び緊張している僕の手を握りしめて、目を合わせてくれるミカエル様が微笑む。
「大丈夫だよ、シャラン。隣にいるからね。」
「あらあら。シャランちゃん、心配しないで。私たちが、ちゃあんと守ってあげるわよ。」
お義母様が自信たっぷりに、にっこりと微笑む。
「いざとなったら、お義父様に任せなさい。」
お義父様は大きく頷いて胸をポンと叩いた。
「何か言われたら、私に任せなさい! 張り倒してやるわ!」
……お義姉様、心強いですがお腹の子に障ります。
「シャラン、私の最愛の妻は最高だろう?」
お義兄様、ここでも惚気けるのですね。
「……ふふ。おかげさまで緊張がほぐれました。
ありがとうございます。」
僕は、ミカエル様の手をキュッと握り返して、ふにゃりと笑った。ミカエル様も、もう大丈夫だと思ったようで、にこりと笑ってくれる。
「ガヴィ、ウチの弟たちが可愛いわ。守りたい、この笑顔。」
「弟想いのアレッシアも素敵だよ。」
三人目を懐妊中でも新婚夫婦のようなお二人のやりとりに、帝国の未来は安泰だなあ、と僕はそんな事を考える余裕まで出てきた。
王族の入場を知らせる合図が鳴った。
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