4 / 43
第一章 壊れた日常の始まり
父の異変
しおりを挟む
雨が降り、じめっとした空気が肌にまとわりつく。ボロい平屋は風通しが悪く、普段よりも空気が重い。それにつられて気分も憂鬱だった。ガシャンという音が聞こえる。苛立ち気味に父が玄関の扉を開けた。その音から父の機嫌が悪いことが分かる。ドカドカと足音が近づいてきた。
「智、ここに隠れてろ」
咄嗟にそう言うと、弟の智を狭い押入れへと閉じ込めた。
「え、兄ちゃんは……?」
背後で弟の声が聞こえたが、わざと聞こえないふりをして押入れの扉を慌てて閉めた
「おい、何やってる」
「あ……父さん、お帰りなさ……」
ーーバシン
頬に鋭い痛みが走り、父の分厚い手でいとも簡単に吹っ飛ばされた。襖にドシンとぶつかる。中にいる智が声を上げないかヒヤヒヤした。智も見つかればきっと殴られる。
(……本当は俺だって隠れたい)
でも、父は家に帰った時に誰もいないと、それこそ殺しかねないくらいの勢いで殴る。それに、もし押入れに2人で隠れているのが見つかったら逃げ場がなく終わりだ。父がこれ以上押入れに近づかないように慌てて立ち上がった。
父がまた殴るだろうと思い、出来るだけ痛くならないようにぎゅっと目を閉じた。抵抗すれば更に怒りを買うので最初だけ耐えればいいのだから。
「…………?」
いつものように殴られると思って身構えたのに、拳は振り下ろされなかった。身構えていた緊張を解き、ぎゅっと閉じていた目を開くと、父の機嫌は悪そうだが手を上げる気配はない。
「あいつはどこいった?」
「あいつ」というのは智のことだ。父はいつからか俺たちのことを名前で呼ばなくなった。
「食べるものを買いに……うぐっ……」
当たり障りのないことを言おうとしたら、父はお腹に蹴りを入れた。
さっきは殴らないって言ったのに……。
「食うものがないのは俺のせいだって言いたいのか?飯ぐらい自分で稼げ」
痛みでお腹を抱えながらしゃがむと、父が一歩俺に近づいた。蹴られると思って肩を震わせながら、丸まった。でも、拳も蹴りも飛んでは来なくて、分厚い手が顎を掴むと上を向けさせた。
「顔に痣は残ってねぇな。おい、ついてこい」
「え?今から?どこに……?」
「うるせぇっ」
怒鳴り声にビクッとして思わず顔を下げた。殴られると思ったからだ。でも、先ほどと同じく拳は飛んで来ず、低い声で「行くぞ」と言われるだけだった。父の声に苛立ちが混じっていて今にも殴りそうな勢いなのに、何かを我慢しているようだった。部屋を出る時、そっと後ろを振り返る。智は押入れの中で大人しくしているようだ。
廊下を歩く度にミシミシと音を立てる。ぼろぼろの平屋だからしょうがない。
こんな家でも母がいた頃はもっと綺麗だったし、笑い声が絶えない大好きな家だった。
父が、大きな音をたてて扉を開ける。もうあたりはすっかり真っ暗で少しヒヤッとする季節だ。父は上着を着たままだけど、俺は学校の長袖シャツ一枚だけだった。外へ行くのなら上着を持って来たのに……。
「ね、ねぇ、どこに行くの……?」
口を開いたら殴られるかもしれない。でも、こんな夜中に機嫌の悪い父に連れられて行く見えないその先の方が怖かった。
「自分の食い扶持くらいは自分で稼げって言っただろ」
「…………?」
父は立ち止まって振り向くと、俺の顔をじっと見てそう言った。その瞳に輝きはなく、夜の暗闇を吸い込んでいるかのように真っ黒だった。その意味が分からなくて、ただ狼狽えるしかなかった。
「智、ここに隠れてろ」
咄嗟にそう言うと、弟の智を狭い押入れへと閉じ込めた。
「え、兄ちゃんは……?」
背後で弟の声が聞こえたが、わざと聞こえないふりをして押入れの扉を慌てて閉めた
「おい、何やってる」
「あ……父さん、お帰りなさ……」
ーーバシン
頬に鋭い痛みが走り、父の分厚い手でいとも簡単に吹っ飛ばされた。襖にドシンとぶつかる。中にいる智が声を上げないかヒヤヒヤした。智も見つかればきっと殴られる。
(……本当は俺だって隠れたい)
でも、父は家に帰った時に誰もいないと、それこそ殺しかねないくらいの勢いで殴る。それに、もし押入れに2人で隠れているのが見つかったら逃げ場がなく終わりだ。父がこれ以上押入れに近づかないように慌てて立ち上がった。
父がまた殴るだろうと思い、出来るだけ痛くならないようにぎゅっと目を閉じた。抵抗すれば更に怒りを買うので最初だけ耐えればいいのだから。
「…………?」
いつものように殴られると思って身構えたのに、拳は振り下ろされなかった。身構えていた緊張を解き、ぎゅっと閉じていた目を開くと、父の機嫌は悪そうだが手を上げる気配はない。
「あいつはどこいった?」
「あいつ」というのは智のことだ。父はいつからか俺たちのことを名前で呼ばなくなった。
「食べるものを買いに……うぐっ……」
当たり障りのないことを言おうとしたら、父はお腹に蹴りを入れた。
さっきは殴らないって言ったのに……。
「食うものがないのは俺のせいだって言いたいのか?飯ぐらい自分で稼げ」
痛みでお腹を抱えながらしゃがむと、父が一歩俺に近づいた。蹴られると思って肩を震わせながら、丸まった。でも、拳も蹴りも飛んでは来なくて、分厚い手が顎を掴むと上を向けさせた。
「顔に痣は残ってねぇな。おい、ついてこい」
「え?今から?どこに……?」
「うるせぇっ」
怒鳴り声にビクッとして思わず顔を下げた。殴られると思ったからだ。でも、先ほどと同じく拳は飛んで来ず、低い声で「行くぞ」と言われるだけだった。父の声に苛立ちが混じっていて今にも殴りそうな勢いなのに、何かを我慢しているようだった。部屋を出る時、そっと後ろを振り返る。智は押入れの中で大人しくしているようだ。
廊下を歩く度にミシミシと音を立てる。ぼろぼろの平屋だからしょうがない。
こんな家でも母がいた頃はもっと綺麗だったし、笑い声が絶えない大好きな家だった。
父が、大きな音をたてて扉を開ける。もうあたりはすっかり真っ暗で少しヒヤッとする季節だ。父は上着を着たままだけど、俺は学校の長袖シャツ一枚だけだった。外へ行くのなら上着を持って来たのに……。
「ね、ねぇ、どこに行くの……?」
口を開いたら殴られるかもしれない。でも、こんな夜中に機嫌の悪い父に連れられて行く見えないその先の方が怖かった。
「自分の食い扶持くらいは自分で稼げって言っただろ」
「…………?」
父は立ち止まって振り向くと、俺の顔をじっと見てそう言った。その瞳に輝きはなく、夜の暗闇を吸い込んでいるかのように真っ黒だった。その意味が分からなくて、ただ狼狽えるしかなかった。
7
あなたにおすすめの小説
飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
2025/09/12 ★1000 Thank_You!!
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談?本気?二人の結末は?
美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた
こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とスタッフ達とBL営業をして腐女子や腐男子たまに普通のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
僕に双子の義兄が出来まして
サク
BL
この度、この僕に双子の義兄が出来ました。もう、嬉し過ぎて自慢しちゃうよ。でも、自慢しちゃうと、僕の日常が壊れてしまう気がするほど、その二人は人気者なんだよ。だから黙って置くのが、吉と見た。
そんなある日、僕は二人の秘密を知ってしまった。ん?知っているのを知られてしまった?が正しいかも。
ごめんよ。あの時、僕は焦っていたんだ。でもね。僕の秘密もね、共有して、だんだん仲良くなったんだよ。
…仲良くなったと、そう信じている。それから、僕の日常は楽しく、幸せな日々へと変わったんだ。そんな僕の話だよ。
え?内容紹介が内容紹介になってないって?気にしない、気にしない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる