【本編完結・外伝投稿予定】異世界で双子の弟に手篭めにされたけど薬師に救われる

miian

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第四章 交錯

介入 大輝side

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 優馬と良太が転移魔術で湖の側から消え去った後、後を追いかけようにも俺には転移魔術なんてものを使えるはずがなく、負傷しているラウリアとユグリルがいる場所へと向かった。ちょうどテントから出てきたユグリルがこちらに気づき駆け寄ってくる。

『大輝様!ラウリア様の意識が戻りました』
『そうか、良かった……』

 テントへと入り、横たわっているラウリアへ近づくと『やぁ、大輝!ひさしぶ……ゲホッ……』と咳き込みながら立ち上がろうとした。

『まだ横になってろ。無理するな』

『久しぶりに大輝に会えて嬉しくってね!』

 ラウリアは『お言葉に甘えて横になったまま失礼するよ』と言い、視線だけをよこした。ラウリアの顔色は良くなり、脈も安定しているようで安堵する。
 色々と聞きたいが、まだ本調子ではない人間に聞くのは良くないだろうと思い、話も早々に去ろうとした時、ラウリアがユグリルに声かけた。

『ユグリル、そろそろ夜遅くなってきて獣が出るかもしれないから、良太を呼び戻した方が……』

『……あいつらは帰ったぞ……』

『えぇ?!僕を置いて帰るなんてひどい……!ん?あいつら?って他は誰だ?……何か忘れているような……あ、ユニィか……』

 ラウリアがユグリルに指示を出そうとしたので2人が転移魔術で城へと戻ったことを教えてやると、先に帰ったことを嘆いていた。
 このユニィとは優馬のことだろう……そう言えば、スハンも最初優馬のことをユニィと呼んでいたなと思い出す。
 良太が優馬のことをゆうにぃと呼んでいるから聞き違えたのだろう。

 その優馬の存在自体をラウリアは一瞬忘れているようだった。まだ意識が戻ったばかりで混乱しているのだろうか?でも、ラウリアの様子を見るに優馬のことを純粋に覚えていないような反応だ。
 
 ほとんどの人間は魔力のない人間を嫌う節がある。でも、タルラークでラウリアは優馬と行動を共にしていたはずなのに存在自体を忘れるだろうか?
 ラウリアも混乱しているようで、ひとまず俺は『まだ病み上がりなんだから、とりあえず今日は休め』と言ってテントを後にした。

 翌朝、もうすっかり回復したラウリアは『積もる話もあるし一緒に馬車に乗ろう!』と言い、馬車に一緒に乗ることにした。馬車に乗るとラウリアは『早く帰って良太に会いたい』と口を開いたので、それに合わせて良太について話を聞く。

『……だよ!あの可愛い顔で睨まれると背筋がゾクゾクしちゃうんだ!それでね……』

 ラウリアは良太の話になると、いつも以上に流暢に喋り始め、ラウリアの心情など聞いてもないことをベラベラと話す。どうもラウリアは良太に好意を寄せているらしい。

(……悪趣味だな……)

 あんな性格悪い奴のどこに好意を寄せる要素があるんだろうか?純粋に謎だ。

『でも、ルウファ新聞に僕の婚約者と書かれてから僕につれない態度で……内部情報を漏らした人間が誰かも見つかってないからそれもまた良太の怒りに拍車をかけてしまって……』

 ルウファ新聞号外については、優馬がタルラークに連れて行かれてから読んだ。薬を作ることばかりで他のことに興味などなく、あの新聞の話題で世間が賑わっていることも知らなかった。俺がもっと前から周りのことを少しでも知ろうとしていたら優馬を助けることができたかもしれないのに……と悔やんだ。

『……ゆう……ユニィ……についてはどうなんだ?』

『ユニィ?……ユニィ……あぁ、あの魔力のない……?いや、魔力があって地位もあったな……』

 昨日テントを出た後、騎士たちにもそれとなく確認してみると、認識阻害と記憶妨害で優馬のことを覚えている者はいなかった。それとは別に良太は別の魔術をラウリアにかけたようだ。ラウリアのように優馬を元から知っている人間には忘却魔術で優馬に関する記憶を消そうとした様子が窺えたのだ。

 しかしながら、忘却魔術をかけた後、良太はどうも認識改変でラウリアに優馬のことを魔力のある地位の高い人間と認識させようにしたみたいだ。だが、魔術のかけすぎでラウリアの記憶が曖昧になって混乱しているようだった。ユグリルの様子を見るにユグリルも記憶が曖昧になっている。

『ラウリア、まだ病み上がりだからこの薬を飲んでくれ』

 革袋から回復薬に混乱を治す気付け薬を混ぜた物をラウリアに差し出す。ラウリアは薬が何かも気にせず、一気に飲み込んだ。信頼されているのか無頓着なのか分からない。

『大丈夫か?』

『ん?あぁ……なんだか頭がスッキリした気がするよ』

『ラウリア、よく聞いてくれ。ユニィは救世主・良太の大切な客人で、他国・ユラーセルから言葉の勉強をしに来ている』

 良太の大切な客人と言ったのはラウリアの認識にそれが強く刻まれているようだからだ。

『大切な……客人……?あぁ、だから良太は彼の面倒をよく見ているんだね……』

 混乱から元に戻ったところで記憶を誘導するようにする。俺に魔術を解除することはできないが、記憶の訂正をすることぐらいはできるだろう。認識改変がうまく作動しなかった理由の1つに改変する内容の情報が少なすぎたのも上げられるかもしれない。ラウリアに細かい情報を与えて認識させていく。

『ユニィはユラーセル国で地位のある貴族で、言葉の勉強をしに来ている。ユラーセル国は秘境の地・ナミルに比べると随分マシだが、閉鎖的だろ?ご両親が反対する中、押し切って憧れの活気栄えたグルファン王国に来たものの、仕送りを止められてしまったみたいだ』

『そう……』

『ユニィは勉強するだけならどこでも出来るから帰ってこいと両親に言われている。だから彼に図書館で働かせてくれないか?語学勉強だけでなく図書館で仕事も担っていると知れば、グルファン王国にいる大義名分は得られるし、ご両親も誉れ高くて反対もしないと思うんだ。この前スハンに会ったが、人手が欲しいとも言ってたからちょうど良いと思うんだが』

『彼は苦労人なんだね!まぁ、グルファン王国としてもユラーセルと繋がりが持てるのは嬉しいからね』

 もちろん優馬はユラーセル国の人間ではないので今の話はでまかせだ。気になったのは入館証についてだ。入館証と言っても紙などではなく図書館のシステムに認識させればいつでも入れるようになる。
 ラウリアに詳しく聞くと、ユニィの入館証は作ったことがないと言うので、どうも良太は優馬の入館証を改竄して入れるようにしたみたいだ。確かに3階に普通の人間、ましてや魔力のない人間が入室を許可されるとは考えにくかった。

 とりあえず優馬への認識は魔力と地位のある人間で固定できたようだから一先ずそこは安心だ。優馬が魔力のない人間だと思い出されると行動しづらくなる。
 ラウリアに優馬のことをどれくらい認識しているのかと聞いたが、ほとんど関わりを持たなかったらしく、良太と一緒の部屋で過ごしていて良太が甲斐甲斐しく食事を持っていっているくらいしか知らないとのことだった。
 優馬も言っていたが、図書館と部屋でしか本当に過ごしていなかったらしい。

(……ほぼ軟禁じゃないか……)

 優馬をなんとか良太から引き離したかった。優馬と2人で話したいが、良太が阻止してまず無理だろう……。
 良太は俺の存在を知ったから、俺に関わらせないように図書館へ行かせるのをまず禁止するだろうな……。
 何か策がないか考える。

『さっき良太の態度がつれなくなったと言っただろ?それを解決しよう』

『えぇ?!ほんとに?!あの噂も風化するだろうと思っていたのに全然風化する気配もなくて困ってたんだよね』

『まずは、良太の婚約者であることは違うともう一度発表するんだ。そうだなニッチスにもう一度記事を書かせたらいい。”救世主・良太とは婚約者ではない。部屋に扉もなく、婚約者も事実無根である。魔物を全滅させるための協力関係を結んでいる。魔物を抑え込んでこの国、この世界の皆の安全を確保することを第一に考えている”と。繋がっている扉も実際に壊して壁にしたらいい。あぁ、ニッチスに直接、繋がっている扉なんてないと部屋を一度見せてやるのもいいかもしれない。城でニッチスと対談するというのはどうだろう?婚約者という噂も消えて、魔物に対して王族は真剣に取り組んでいることも伝わるはずだ。タルラーク国王にもあまりいい顔されなかったんだろ?』

 昨日、ユグリルに魔物の状況や他国との情勢について聞いたところ、グルファン王国が魔物の出現に関与しているのではないかと他国は疑っているらしい。グルファン王国が大きい国のためあまり公に責め立てられることはないが……。
 まぁ、魔物の出現場所を考えても、グルファン王国を中心に出現しているので、その反応もあながち間違いではないと思う。

『そうなんだよね。魔物の知能も上がってるせいで、苦戦を強いられることもあるし、魔物が出るからと他国との貿易も難航し始めていて……。ニッチスと対談はいいね。早速ユグリルに対談の打診と日程を組んでもらうよ』

『あぁ、そうだ、それなら俺も城で働こう。回復薬や傷薬をいつも街まで取りに来てもらってたが、城で作っていつでも手に入る状態にすれば騎士たちも安心するだろ?』

『えぇ?!大輝、本当かい?以前はあんなに城で働くなんて嫌だって言ってたのにどういった心変わりだい?いや、もちろんこちらとしては嬉しい限りだけどね』

『魔物の出現で怪我をする人々も増えているし、薬師としては見過ごせないからな……。まぁ、魔物の出現だけじゃなくて毒蛇に噛まれて生命の危機に瀕する王子もいるしな……』

 最後の言葉は目の前にいる王子にかけて投げかける。王子は気まずそうに明後日の方を向く。

『そもそもヤコラはちょっとやそっとで噛み付かないだろ?何したんだ?』

『良太が湖の方に行ったからバレないようにこっそり後をつけて茂みに入ったらヤコラを踏んじゃって……』

 ストーカーじみた行為をする大国の王子に呆れた目をしてしまい、ラウリアはさすがに恥ずかしかったのか『今日はいい天気だね』と話をそらした。

 城へ到着後、今後についてラウリアと話していたらノックもせずに入ってくる人間がいた。良太だ。
 良太はこちらに気づくや否や、殺気を隠そうともせず睨みつけてくる。予想していた通りの反応で思わず冷笑してしまいそうになる。
 優馬への対応や部屋について伝えると俺がここまですると思っていなかったのだろう、驚き、そして憎しみの目で俺を見た。

 もちろん良太が優馬を連れて逃げてしまえばこの策だって意味がないことは分かっていた。ただ良太はわざわざラウリアやその周りの人間に対して認識改変をさせようとした点を考えると、良太はこの世界で優馬と良太の地位を確立させたかったんじゃないかと思った。
 そもそも良太が大人しく王族に従って結界作業をしているのも意外だった。

 このまま大人しく良太が引き下がるとも思えないが、少しの間でも優馬から引き離すことができただろう。
 次の行動に出るべく、ラウリアの部屋を後にした。
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