【本編完結・外伝投稿予定】異世界で双子の弟に手篭めにされたけど薬師に救われる

miian

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第四章 交錯

異変

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 湖の側で良太に転移魔術で城へと戻った後も良太は行為をしようと俺に口付けてきた。それを払いのけ、良太を睨みつける。俺を無視して翻弄されたことが悔しかった。良太に対する苛立ちと胃の不快さも相まって涙をまた流しそうになる。でも、泣いたところで良太は何が悪いかとも考えないだろう……と思いぐっと堪えた。

「……シャワー浴びるけど、ついてくるな」

 さすがの良太も俺の機嫌の悪さには気づいたのか、ちょっとシュンとして「分かった」と言った。
 眉をはの字にして悲しそうな良太の顔を他の人が見たら「優馬の気にしすぎだ」「良太が可哀想」「神経質じゃないか?」と言って俺を責めるだろう。元の世界でそうだったように……。
 でも、良くも悪くも今は俺と良太しかいない。良太を無視してお風呂場へと向かった。念入りに身体を洗ってお風呂から出ると、良太が「もう今日は絶対にいやらしいことしないから一緒に寝ていい?」と聞いてきた。

「この枕挟んでこっち側には来るなよ」

 この部屋から出て行けと言っても、良太は言うことを聞かないだろう。無駄な抵抗かも知れないが、枕をベッドの真ん中に置いて境界線にし、こちらに入ってくるなと念押しする。
 良太が「分かった」と言ったので、良太がいる反対側を向くようにしてにベッドへ横になり目を閉じた。

 翌朝目が覚めると良太はまだ眠っていて、手だけは枕の境界線を越えて俺の背中から抱きかかえるようにしてお腹へ置かれていた。良太のことだから無視してくるのではないかと懸念していたけど、さすがに我慢したようだ。
 手は境界線を越えてるけど……。良太の手をどけて起き上がる。

「んー……ゆうにぃ……おはよう……」

 顔を洗っていたら良太が目を覚ましたようだ。寝ぼけた声で目をこすりながらあくびをする。よくよく思い起こしてみると、こちらの世界でこんな風に良太の起きる仕草を見るのは初めてかも知れない。いつもは先に起きて作業しに行っていることが多いからだ。

(あ、そっか……先に帰ってきたからラウリア王子たちはまだお城にいないのか……)

 なので良太は今日一日、この部屋にいるつもりなのだろう。また手を出してくるかもしれないので身構えとかないと……そう気を引き締めて警戒したものの、良太は意外と手を出してこず一緒に魔鏡を見たりして過ごした。

 夜になったであろう頃に、良太が後ろから抱きしめてきた。少し気を抜いた時だったので油断していた。

「ゆうにぃ、ずっと気張りすぎだよ……」

「お前はやることしか考えてないのかっ?!」

 こちらが気を抜いたところで手を出そうとする計画的な良太の考えに腹が立ち、思わず怒鳴る。

「良太とはしないっ!もう寝るから、今日もこっち側には入ってくるなよ!」

「はぁ……分かったよ。あ、ゆうにぃ、もう図書館には行っちゃダメだからね」

 ベッドへ向かおうとすると、良太が図書館には行かせないと言ってきた。思わず足を止めて良太の方を見てしまう。
 大輝さんと図書館で鉢合わせしたので、そう言われる可能性は分かっていたけど、いざ言われると心が悲しみでショックだった。

(……もうスハンとも大輝さんとも……会えないのかな……?)

 ぎゅっと歯を食いしばって悲しみがバレないように隠した。俺が動揺したり悲しい顔をすると良太はそこに付け入ってくると気付いたからだ。ここで嫌だと反抗すれば、交換条件を出してくるかもしれない。それに何よりもこれ以上、スハンと大輝さんに迷惑をかけたくなかった……。
 スハンの怯えた顔や大輝さんに食ってかかる良太を思い出す。

(2人のことが好きだから……これ以上迷惑をかけちゃいけない……)

「……分かった。もう図書館には行かない」

 良太は意外だったのか、驚いた表情をした。良太は「まだ機嫌直らないの?」と声をかけてくるけど、それを無視してベッドへと横たわった。良太は俺の機嫌がまだ悪いと感じたらしく、この日も手だけは境界線を越えていたけど何もしては来なかった。

 翌朝、良太が朝食を取りに行った後、「王子がもう帰ってきてた……もっと遅く帰ってくればいいのに……はぁ……」とぶつくさ文句を言いながら朝食を食べ終えた後、部屋を出ていった。

 図書館へ行くための魔法石は取り上げられてしまい、日中部屋で過ごすことになるのは久しぶりだった。

(スハンに手紙を書いたら届けてくれるだろうか……?)

 スハンには心配ばかりかけさせてしまったのに、最後挨拶もままならず会えなくなってしまうことが寂しくて、せめて手紙くらいなら届けてくれるんじゃないか……と思いを馳せた。図書館に行けないことを嘆くのではなく、スハンへ手紙を書くことを励みにして言葉を勉強しようと心に決める。

 その日の夕方、良太が不機嫌になりながら帰ってきた。部屋に入ってきた時の良太の形相が恐ろしく、身じろぎしてしまう。俺の顔を見て、ハッと我に返り、苦虫を潰したような表情をした。

「……ゆうにぃ……明日から図書館に行っていいよ……」

「……え……?図書館に行っていいの……?」

「あと、これから少しの間だけ夜は別の部屋で過ごすことになった……」

「え……?」

 良太が何を言っているのか分からず聞き返してしまう。良太も納得しておらず悔しそうな顔をしているのに、もう一度良太が言った言葉は「図書館に行っていい」「夜は少しの間だけ別で過ごす」とのことだった。

(一体どういうことだ……?)

 良太が嫌な顔をしながらそんなことを言うのも相まって、俺の頭の上も疑問符がいっぱいだ。

「……ついてきて」

「…………?!」

 なんと良太が部屋の扉を開けてくれたのだ。驚いているともう一度今度は苛立ちながら「ついてきて」と言われて足を動かした。どこに行くのか尋ねたかったものの良太が不機嫌で聞くことはできなかった。

 階段を降りて2階の部屋へとたどり着く。部屋には誰もいないものの机の上に食事が並べられていて、美味しそうな匂いが漂っていた。ゴクリと唾を飲み込む。確かお城についた初日もここでラウリア王子と良太と食事をした部屋だ。
 良太は黙って椅子に座り、俺は驚いて立っていると「座りなよ」と良太に促され、良太の向かい側の椅子に座った。「食べよう」と言われたけど、本当に食べて良いのか躊躇してしまう。
 何の説明もなく連れて来られて戸惑っている俺を気にすることなく良太は黙々と食べ始めたので、俺も説明があるとは期待せずに食事に手をつけ始めた。

 少ししてから部屋の外が騒がしくなり始めた。何だろうと扉の方を見ると、扉が開き、「えっ?」と声を上げて驚いてしまう。笑顔のラウリア王子と焦ったような困惑したような表情をした大輝さんが入ってきたのだ。

「はっ?!なんで入ってきてるんだよ!こっちが利用している時は入ってくるなって言っただろ!と言うか何でお前がいるんだ」

 良太がブチギレて立ち上がる。ラウリア王子が良太を抱きしめる勢いで近づく。良太に睨まれた大輝さんが肩をすくめて「ラウリアが勝手に……」と言い、良太は「くそっ、結界を張っておけば良かった」と悪態づいた。

 良太を抱きしめることは叶わないと分かったラウリア王子は怒っている良太をいとも気にせず、空いている良太の横の席へと腰を下ろした。ラウリア王子は良太に笑顔で話しかけた後、大輝さんにも話しかけ、大輝さんは呆れたような諦めたような感じで俺の横の空いている席へと座った。ラウリア王子の向かい側に座る形だ。

 俺が大輝さんを見て、どうしてここに大輝さんがいるんだろう?そんな表情を読み取ってか、ちらっとこちらを見て大丈夫だと言うように頷いてくれた。良太がすかさず、「ゆうにぃの横に座らないで。離れて。ゆうにぃ、僕たちはもう部屋に戻ろう」と言い放つ。

 良太が立ち上がり、俺の方へ来ようとした時にラウリア王子が必死に引き止めて何か言った後、渋々座りなおした。ラウリア王子は気さくに何か話しているけど、良太も大輝さんも無言で地獄絵図のような空間だった。

「なんでお前がまだいるんだよ」

 おもむろに良太が大輝さんに話しかけた。確かにどうして大輝さんがここにいるのか謎だった。
 ん?今、「まだ」って言った?どういうことだ?と疑問符が頭に浮かぶ。良太の様子といい、大輝さんがいることといい今日はいつもと違うことばかりだ。

「城勤務するって言っただろ?ルウファの店から城へ毎日通ってたら時間がかかりすぎるから、城に住まわせてもらうことになったんだ」

「はぁ?!聞いてないんだけど?!」

 良太は隣にいる王子をきっと睨みつけて何か罵っている。

(え?今、大輝さん、城で勤務するって言った……?)

 数時間前にはもうスハンにも大輝さんにも会えないと落ち込んでいたのが嘘みたいだった。
 いや、でもまぁ、ずっと部屋にいるからお城の中で大輝さんに会うことはほぼ叶わないだろうとは思うけど、一緒のお城にいれる、と考えただけで気持ちが楽になった気がした。

「……何が狙い?ゆうにぃと僕を引き離したいの?でも、無駄だよ。だって、ゆうにぃは……「やめてっ!!」」

 良太が何と言おうとしたか分からない。でも、良太が大輝さんを睨んだ後、俺に視線をよこして不敵な笑みを浮かべたのだ。
 良太が大輝さんに「僕と付き合ってる」とか「僕の恋人だ」と言うかもしれないと思い、思わず立ち上がってやめてと懇願する。俺がいきなり大きな声を出して立ち上がったものだから、周りはシーンと静まり返り、視線が集まったので思わず下を向いてしまう。

「……良太、もうご飯は大丈夫だから部屋に戻ろう……」

 大輝さんの視線を感じたけど、そちらを見ることはせず食事していた部屋を出た。良太がすぐ後をついてきて、廊下を無言で歩く。

 部屋へと戻り扉がパタンと閉じると同時に良太が俺の腕を掴んだ。元々不機嫌だった良太はより一層不機嫌さを増していた。

「ゆうにぃ、さっき僕が何て言うと思ったからやめてって言ったの?そんなに僕との関係があいつにバレるのが嫌なの?」

「…………」

「あの男にゆうにぃが僕に抱かれて喘いでるって教えてあげよっか?それとも手っ取り早くセックスしてる時に部屋に呼ぼうか?ハメ撮りしてあいつにあげる?いや、でも、イヤらしいゆうにぃを見せるのは嫌だな……」

「……言わ……ないで……」

 良太なら本当にやりかねない。大輝さんに知られたくなくて、良太に言わないでとすがるように小さな声で言った。弱気なところを見せたら良太がつけあがることも分かっていたけど、それでもどうしても大輝さんには知られたくなかった。

「……ふぅん……嫌なんだ……ゆうにぃにとってあいつって何なの?」

「こっちの世界で……俺のことを……気にかけてくれる……人……あの人は、俺と良太が……兄弟だって知ってるし、そう言った面で知られ……たくない……」

 良太が何故そんなことを聞くのか分からなかった。でも、答えるまで腕を離すつもりはないようだし、率直に思っていることを答えた。
 こっちの世界に来て、俺を気にかけてくれる人で嫌われたくなかったし、迷惑をかけたくなかった…ただそれだけだ……。

 良太は俺を怪しむような表情で見ていたものの、俺の表情を見て本当だと思ったのか「ふぅん」と言った。
 腕に力を込められ、痛みで眉を上げながら、パッと良太を見ると噛みつくようなキスをしてきた。

「……んっ……ちょっ……」

「ゆうにぃ、言われたくないならあの男と今後一切関わらないで。ゆうにぃは僕のものなんだから覚えておいて」

 良太は「もう行かないと」と言い、部屋を出ていった。
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