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第五章 逃亡
誰? 良太side
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ーーゆうにぃは一体どこに向かっているんだ?
追跡で確認するとゆうにぃはフグラセン国からずっと南へ下がっている。その場所が以前行ったタルラーク国付近だと気付いた。そして、またいつかのように待ち伏せすることにした。
まだ魔力の戻りは万全じゃない。でも、魔力を大量に消費する転移魔術や結界を闇雲に使うのは避けていたおかげで、一度くらいの転移魔術は使っても良さそうだ。今日まで魔力の戻り具合を見ていたけど、魔術が完璧に回復するのはあと5ヶ月ほどだろう……。魔力が枯渇しそうになって1年経つ頃に完全に魔力が戻るという事実がどうにもこうにも歯がゆかった。
魔力の状況について少し悩んだものの、いくら追いかけてもゆうにぃに追いつけない。魔界へ戻る魔力も残しておかないといけないが、早くあの男の元からゆうにぃを引き離さないと。
ーーゆうにぃ、次、僕の手元に戻ってきたらもう逃がさない。
ゆうにぃと一緒に過ごしたタルラーク国付近の湖へと転移した。あの時と変わらず真緑の草原に小鳥の鳴き声とそよ風に包まれている。あの頃が懐かしい。
程なくして2人の人影が遠くの方からこちらへと向かってくるのが見えた。
「お前、誰?」
徐々に近づいていた2人が目前に見えた時、戸惑い、問いかけの言葉を投げかけた。そこにはゆうにぃがいるはずなのに、見知らぬ人間が2人、広い草原にポツンと立っているだけだったからだ。白い外套を着ている2人は風が靡くとそよそよと金色の髪が揺らいでいるのが見えた。向こうも僕に気づいているようで、外套のフードを下ろした。分かっていたけど、ゆうにぃではなく、初めて見る顔だ。1人は肩上くらいまでの金色の髪に金色の瞳をしている。もう1人は金色の髪で黒い瞳の男だ。
(一体どういうことだ?)
訳が分からず、じっと目の前の2人を観察した。そこで気付いた。目の前にいる1人の男ーー釣り目で生意気そうな表情をした身長の低い男にゆうにぃにかけた追跡魔術がかかっているのだ。
「お前、誰?」
もう一度、同じ質問をした。それでも、2人は何も喋らずこちらの出方を見ている。何も喋らないので何を考えているか分からない。でも、ゆうにぃにかけたはずの追跡魔術が生意気そうな顔のやつにかかっている時点で邪魔者なことには変わりはない。
「ゆうにぃはどこ?何で、ゆうにぃにかけた魔術がお前にかかってんの?」
聞いても、目の前の2人は無言で答える気がなさそうだ。ゆうにぃを捕まえるどころか今どこにいるのかさえ分からず、舌打ちして氷の攻撃魔術を放った。
「トルデン、よせっ」
氷の刃を放つと身長の高い男が結界を張って防いだ。そのことを生意気な人間が咎めている。でも、その結界は弱弱しくて、すぐにでも壊れてしまいそうだ。目の前のその男には魔力がありそうなのに何故そんな低いレベルの結界を?
そして、生意気な人間が男の名前を呼んだことで、この2人が誰なのか分かった。トルデンは第二王子の名前だ。とすると、この目の前にいる生意気そうな人間は……
「あぁ、お前が自己犠牲の前召喚者か。ちびって聞いてたからもっとなよなよしてる奴かと思ってた」
「はぁ?!何だよ、お前っ!」
釣り目できっとこちらを睨みつける表情は本当に生意気だ。生意気だと感じる反面、屈服させたくなるような加虐心をそそられる。生意気なヤツはまだ何か言っているが、傍らにいる男ーートルデンが庇うように前に立った。その仕草が、ピエナの森で待ち伏せをした時の光景を思い出して、苛立ちを覚える。まるで僕が悪者みたいだ。
「ゆうにぃはどこ?」
「お前に教える必要はないだろ」
いちいち反抗的な返事をするちびにムカつき、また氷の刃を放った。トルデンが素早くそいつを抱えて氷の刃を避けると、こちらに金色の何かを放った。
目の前に白い稲妻が落ち、地面は真っ黒に焼け焦げた。目の前に落ちたその攻撃魔術は初めて見るタイプだった。
「……雷の魔術か」
この国でよく騎士たちが使うのは水や火が多く、それ以外では風と土で、雷の魔術は見たことがなかった。魔術の書でも出てきたことはない。そして、違和感があった。この世界で攻撃魔術と結界のような護る魔術の両方を使える人間はいないはずだ。
「トルデン、よせって言っただろ?」
「友也に怪我はさせられませン。できれば穏便に済ませたいんだケド……」
トルデンという男が流暢な日本語を喋っていることに驚いた。友也と呼ばれた男は召喚者なのでこちらの世界の言葉を話せるはずだ。どうしてわざわざ日本語を?
「ゆうにぃの場所を教えたら穏便に済ましてやる」
友也の自己犠牲能力は特に気にする必要はない。トルデンの結界はあまり強くないので、気にすべきは雷の魔術くらいだろう。先ほどの穏便に済ますという発言、そして僕の足元に雷の魔術を放ったことからも僕に危害を与えようとは考えていないらしい。
(ーーこの2人を殺せばゆうにぃをもっと追い込めるかな?)
もうゆうにぃが手に入るのなら僕はどんな手段でも使う。もうこの世界が滅びようがどうでもいい。
「教えるわけないだろ?」
「お前たちに関係ないよね?さっさと教えて」
もう一度氷の刃を放つと、案の定トルデンが結界を張ってやり過ごす。一歩近づいて、今度はトルデンの方にだけ氷の刃で切りつけた。その氷の刃をトルデンはすぐさま雷の矢で打ち消した。その隙に土の壁を2人の間に作って別れさせる。トルデンは恐らく結界についてはそんなに大きな物を作ることも長時間の維持もできないのだろう。そして、雷の魔術と同時に使うことも。
2人めがけて氷の雨を降らせる。トルデンが少し大きめの結界を張り、何とかやり過ごす。もう一度氷の刃を放つと今度は雷の魔術でそれを打ち消した。土の壁で2人を別れさせたというのに、トルデンは強かに友也を守っている。
「お前のそんなその場しのぎの攻撃魔術でオレたちはやられない」
生意気な男が憎たらしい口調で僕に言う。あいつを人質にしてゆうにぃの居場所を聞いた後、苦しめて殺してやる。トルデンの目の前で友也を殺し、その後にトルデンを殺す。もう一度氷の雨を降らせ、その間に友也の方に一気に間合いを詰めた。すると向こうも一気にこちらへと向かってきた。外套の中に手を突っ込み、何かを取り出す仕草をした。慌ててそいつの手を掴み、引き寄せた。生意気な男がキッと僕を睨みつける。
「こいつに何もされたくなければゆうにぃの居場所を言え」
「いや、このタイミングを狙ってたんだ」
トルデンが返事するよりも前に生意気な男がこちらを見上げてほくそ笑み、口を開いた。僕の服を掴むとその掴んだ手にぎゅっと力を入れた。パリンという音とともに魔法石が壊れる音がする。
「うぐっ……」
生意気な男ーー友也がうめき声を上げながらその場にうずくまる。突然の出来事に驚き、一瞬たじろいだが隙を見せてはいけないと意識を戻し、攻撃すべくうずくまる友也に向かって手を掲げた。でも、攻撃魔術を放つことができなかった。
(一体何をしたんだ……?!)
魔法石をしまっていたポケットを見る。魔法石にかけていたはずの結界がなくなっていた。壊れないようにかけていた魔法石の結界を奪われたせいで、限界を超えていた魔法石は割れてしまったらしい。こいつは怪我だけを奪えるわけじゃなかったのか……。いや、ゆうにぃの追跡魔術を貰っている時点で気付くべきだった。こいつは怪我だけじゃなく魔術も貰うことができるのだと。
仕方なく短剣を取り出して友也に向けて突き立てようとしたその時、トルデンが攻撃を仕掛けながらこちらへと近づく。友也を庇うように、でも、きちんと僕を引き離そうと地面の間に白い稲妻を打ち込み、僕に距離を置かせた。最後は追いつくや否やトルデンは友也を抱き寄せている。仕方なしに友也を抱えているトルデンに向かって短剣を突き立てようとした時、目の前に1人の初老の男が現れた。白髪で彫りが深い男だ。その男の登場で辺りは静まりかえる。
『……お久しぶりです、ユング国王陛下……』
『我が国の国境付近でこのようなことをしても良いとでも?』
トルデンがその現れた男の名を呼ぶ。そしてその現れた男が国境付近と口に出したことにより、そいつがタルラーク国の国王陛下だと分かった。その男はチラッとこちらを見ると『…………か』と小さく呟いた。
『去れ』
こちらが何かを尋ねるよりも先に低い声で冷たく言い放つ。攻撃魔術の魔法石を壊されてしまってはどうしようもない。しかもどうやら、タルラーク国は目の前の2人の味方のようだ。しょうがなしに2人とその目の前の男から少し離れることにした。
タルラークの国王陛下は距離をとったことを確認するとパッとどこかへと消え失せた。トルデンと友也もいない。目の前から消えて1人ぽつんと草原に立っている。訳の分からない状況のままとりあえず手持ちの魔法石を確認すると、攻撃魔法石全てとアルツナハインへの転移魔法石、グルファン王国の城と図書館へ行ける転移魔法石が壊れていた。バルドと会話ができる通信石とエンフィルから手に入れた開錠の魔法石は元から壊れにくいためか何とか残っていて、もう一度結界を張り直しておく。元々結界が張られていなかった掌握魔術の魔法石も無事だ。
これでは戦う術がない……。手に持っている短剣を見下ろした。ゴウリ国へ向かった際にラウリアとの攻防であの短剣ーーラウリアがこちらの世界にやって来た僕に渡していた短剣ーーが舞い戻って来たのだ。ふと前髪を触る。ラウリアとの戦闘時に髪の一部を切られたのだ。あれから何日も経ったので伸びてはいるが、あの時のことを思い出すと腸が煮えくり返る。
タルラークの国王陛下は先ほど聞き間違えでなければ僕を見て『召喚者の犠牲者か』と小さく呟いた。一体どういうことだ?調べてみる必要がありそうだ。日が沈み、誰もいなくなった草原を後にした。
追跡で確認するとゆうにぃはフグラセン国からずっと南へ下がっている。その場所が以前行ったタルラーク国付近だと気付いた。そして、またいつかのように待ち伏せすることにした。
まだ魔力の戻りは万全じゃない。でも、魔力を大量に消費する転移魔術や結界を闇雲に使うのは避けていたおかげで、一度くらいの転移魔術は使っても良さそうだ。今日まで魔力の戻り具合を見ていたけど、魔術が完璧に回復するのはあと5ヶ月ほどだろう……。魔力が枯渇しそうになって1年経つ頃に完全に魔力が戻るという事実がどうにもこうにも歯がゆかった。
魔力の状況について少し悩んだものの、いくら追いかけてもゆうにぃに追いつけない。魔界へ戻る魔力も残しておかないといけないが、早くあの男の元からゆうにぃを引き離さないと。
ーーゆうにぃ、次、僕の手元に戻ってきたらもう逃がさない。
ゆうにぃと一緒に過ごしたタルラーク国付近の湖へと転移した。あの時と変わらず真緑の草原に小鳥の鳴き声とそよ風に包まれている。あの頃が懐かしい。
程なくして2人の人影が遠くの方からこちらへと向かってくるのが見えた。
「お前、誰?」
徐々に近づいていた2人が目前に見えた時、戸惑い、問いかけの言葉を投げかけた。そこにはゆうにぃがいるはずなのに、見知らぬ人間が2人、広い草原にポツンと立っているだけだったからだ。白い外套を着ている2人は風が靡くとそよそよと金色の髪が揺らいでいるのが見えた。向こうも僕に気づいているようで、外套のフードを下ろした。分かっていたけど、ゆうにぃではなく、初めて見る顔だ。1人は肩上くらいまでの金色の髪に金色の瞳をしている。もう1人は金色の髪で黒い瞳の男だ。
(一体どういうことだ?)
訳が分からず、じっと目の前の2人を観察した。そこで気付いた。目の前にいる1人の男ーー釣り目で生意気そうな表情をした身長の低い男にゆうにぃにかけた追跡魔術がかかっているのだ。
「お前、誰?」
もう一度、同じ質問をした。それでも、2人は何も喋らずこちらの出方を見ている。何も喋らないので何を考えているか分からない。でも、ゆうにぃにかけたはずの追跡魔術が生意気そうな顔のやつにかかっている時点で邪魔者なことには変わりはない。
「ゆうにぃはどこ?何で、ゆうにぃにかけた魔術がお前にかかってんの?」
聞いても、目の前の2人は無言で答える気がなさそうだ。ゆうにぃを捕まえるどころか今どこにいるのかさえ分からず、舌打ちして氷の攻撃魔術を放った。
「トルデン、よせっ」
氷の刃を放つと身長の高い男が結界を張って防いだ。そのことを生意気な人間が咎めている。でも、その結界は弱弱しくて、すぐにでも壊れてしまいそうだ。目の前のその男には魔力がありそうなのに何故そんな低いレベルの結界を?
そして、生意気な人間が男の名前を呼んだことで、この2人が誰なのか分かった。トルデンは第二王子の名前だ。とすると、この目の前にいる生意気そうな人間は……
「あぁ、お前が自己犠牲の前召喚者か。ちびって聞いてたからもっとなよなよしてる奴かと思ってた」
「はぁ?!何だよ、お前っ!」
釣り目できっとこちらを睨みつける表情は本当に生意気だ。生意気だと感じる反面、屈服させたくなるような加虐心をそそられる。生意気なヤツはまだ何か言っているが、傍らにいる男ーートルデンが庇うように前に立った。その仕草が、ピエナの森で待ち伏せをした時の光景を思い出して、苛立ちを覚える。まるで僕が悪者みたいだ。
「ゆうにぃはどこ?」
「お前に教える必要はないだろ」
いちいち反抗的な返事をするちびにムカつき、また氷の刃を放った。トルデンが素早くそいつを抱えて氷の刃を避けると、こちらに金色の何かを放った。
目の前に白い稲妻が落ち、地面は真っ黒に焼け焦げた。目の前に落ちたその攻撃魔術は初めて見るタイプだった。
「……雷の魔術か」
この国でよく騎士たちが使うのは水や火が多く、それ以外では風と土で、雷の魔術は見たことがなかった。魔術の書でも出てきたことはない。そして、違和感があった。この世界で攻撃魔術と結界のような護る魔術の両方を使える人間はいないはずだ。
「トルデン、よせって言っただろ?」
「友也に怪我はさせられませン。できれば穏便に済ませたいんだケド……」
トルデンという男が流暢な日本語を喋っていることに驚いた。友也と呼ばれた男は召喚者なのでこちらの世界の言葉を話せるはずだ。どうしてわざわざ日本語を?
「ゆうにぃの場所を教えたら穏便に済ましてやる」
友也の自己犠牲能力は特に気にする必要はない。トルデンの結界はあまり強くないので、気にすべきは雷の魔術くらいだろう。先ほどの穏便に済ますという発言、そして僕の足元に雷の魔術を放ったことからも僕に危害を与えようとは考えていないらしい。
(ーーこの2人を殺せばゆうにぃをもっと追い込めるかな?)
もうゆうにぃが手に入るのなら僕はどんな手段でも使う。もうこの世界が滅びようがどうでもいい。
「教えるわけないだろ?」
「お前たちに関係ないよね?さっさと教えて」
もう一度氷の刃を放つと、案の定トルデンが結界を張ってやり過ごす。一歩近づいて、今度はトルデンの方にだけ氷の刃で切りつけた。その氷の刃をトルデンはすぐさま雷の矢で打ち消した。その隙に土の壁を2人の間に作って別れさせる。トルデンは恐らく結界についてはそんなに大きな物を作ることも長時間の維持もできないのだろう。そして、雷の魔術と同時に使うことも。
2人めがけて氷の雨を降らせる。トルデンが少し大きめの結界を張り、何とかやり過ごす。もう一度氷の刃を放つと今度は雷の魔術でそれを打ち消した。土の壁で2人を別れさせたというのに、トルデンは強かに友也を守っている。
「お前のそんなその場しのぎの攻撃魔術でオレたちはやられない」
生意気な男が憎たらしい口調で僕に言う。あいつを人質にしてゆうにぃの居場所を聞いた後、苦しめて殺してやる。トルデンの目の前で友也を殺し、その後にトルデンを殺す。もう一度氷の雨を降らせ、その間に友也の方に一気に間合いを詰めた。すると向こうも一気にこちらへと向かってきた。外套の中に手を突っ込み、何かを取り出す仕草をした。慌ててそいつの手を掴み、引き寄せた。生意気な男がキッと僕を睨みつける。
「こいつに何もされたくなければゆうにぃの居場所を言え」
「いや、このタイミングを狙ってたんだ」
トルデンが返事するよりも前に生意気な男がこちらを見上げてほくそ笑み、口を開いた。僕の服を掴むとその掴んだ手にぎゅっと力を入れた。パリンという音とともに魔法石が壊れる音がする。
「うぐっ……」
生意気な男ーー友也がうめき声を上げながらその場にうずくまる。突然の出来事に驚き、一瞬たじろいだが隙を見せてはいけないと意識を戻し、攻撃すべくうずくまる友也に向かって手を掲げた。でも、攻撃魔術を放つことができなかった。
(一体何をしたんだ……?!)
魔法石をしまっていたポケットを見る。魔法石にかけていたはずの結界がなくなっていた。壊れないようにかけていた魔法石の結界を奪われたせいで、限界を超えていた魔法石は割れてしまったらしい。こいつは怪我だけを奪えるわけじゃなかったのか……。いや、ゆうにぃの追跡魔術を貰っている時点で気付くべきだった。こいつは怪我だけじゃなく魔術も貰うことができるのだと。
仕方なく短剣を取り出して友也に向けて突き立てようとしたその時、トルデンが攻撃を仕掛けながらこちらへと近づく。友也を庇うように、でも、きちんと僕を引き離そうと地面の間に白い稲妻を打ち込み、僕に距離を置かせた。最後は追いつくや否やトルデンは友也を抱き寄せている。仕方なしに友也を抱えているトルデンに向かって短剣を突き立てようとした時、目の前に1人の初老の男が現れた。白髪で彫りが深い男だ。その男の登場で辺りは静まりかえる。
『……お久しぶりです、ユング国王陛下……』
『我が国の国境付近でこのようなことをしても良いとでも?』
トルデンがその現れた男の名を呼ぶ。そしてその現れた男が国境付近と口に出したことにより、そいつがタルラーク国の国王陛下だと分かった。その男はチラッとこちらを見ると『…………か』と小さく呟いた。
『去れ』
こちらが何かを尋ねるよりも先に低い声で冷たく言い放つ。攻撃魔術の魔法石を壊されてしまってはどうしようもない。しかもどうやら、タルラーク国は目の前の2人の味方のようだ。しょうがなしに2人とその目の前の男から少し離れることにした。
タルラークの国王陛下は距離をとったことを確認するとパッとどこかへと消え失せた。トルデンと友也もいない。目の前から消えて1人ぽつんと草原に立っている。訳の分からない状況のままとりあえず手持ちの魔法石を確認すると、攻撃魔法石全てとアルツナハインへの転移魔法石、グルファン王国の城と図書館へ行ける転移魔法石が壊れていた。バルドと会話ができる通信石とエンフィルから手に入れた開錠の魔法石は元から壊れにくいためか何とか残っていて、もう一度結界を張り直しておく。元々結界が張られていなかった掌握魔術の魔法石も無事だ。
これでは戦う術がない……。手に持っている短剣を見下ろした。ゴウリ国へ向かった際にラウリアとの攻防であの短剣ーーラウリアがこちらの世界にやって来た僕に渡していた短剣ーーが舞い戻って来たのだ。ふと前髪を触る。ラウリアとの戦闘時に髪の一部を切られたのだ。あれから何日も経ったので伸びてはいるが、あの時のことを思い出すと腸が煮えくり返る。
タルラークの国王陛下は先ほど聞き間違えでなければ僕を見て『召喚者の犠牲者か』と小さく呟いた。一体どういうことだ?調べてみる必要がありそうだ。日が沈み、誰もいなくなった草原を後にした。
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