【本編完結・外伝投稿予定】異世界で双子の弟に手篭めにされたけど薬師に救われる

miian

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第五章 逃亡

経緯 大輝side

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 城で勤務することを決意したものの、優馬を連れ出したところで解決にはならないことは分かっていた。
 確実に引き離す方法……。
 良太は優馬を諦める気はなく、そうなると全てを遮断させるほかならなかった。
 そして、行けるかわからないが、秘境の地・ナミルを目指す他ないと。

 だが、秘境の地・ナミルは簡単には入れない。言い伝えとして語られるレベルだった。
 スハンに一縷の望みをかけて、図書館へと訪れた。


ーー遡ること俺がこちらの世界へやってきた頃……

 俺は国王陛下の病を治すために図書館へ調べに行った。
 そこで図書館で働き始めて間もないスハンと妹のミンと初めて出会った。
 ミンは特殊な病・エリトテマに侵されていた。
 
 エリトテマはコロコロ症状が変わる難病だ。
 喘息になったかと思えば、高熱を出し、時には身体中にチクチクするような痛みを与えたりと症状が決まっておらず、その都度それにあった薬を飲む必要がある。
 
 ミンの症状を見て俺はある薬を処方した。徐々にだがその薬の効果は表れ始めた。
 定期的に薬を飲む必要があるが、いずれは完治するだろう。
 それから間もなくして、スハンから手紙を渡された。

『スハンの妹・ミンを救ってくれてありがとう』

 青みがかった和紙にそう書かれていた。その日は青い満月だった。
 俺がこの世界へ来るよりも前に第二王子のトルデンと前召喚者が城から逃げて行方知れずになっていた。
 その手紙の主について何となく想像できたものの、特にそのことについて触れることはなかった。


 その時の記憶を頼りに俺はスハンに会いに行った。

『スハン、助けて欲しい……。優馬を助けたいんだ』

 俺はスハンにナミルへ行くための方法を教えて欲しいと尋ねた。スハンは2つ返事で頷いてくれた。
 ナミルへ行くための供え物、月と太陽が重なる日に入国審査があること、そして入国石が必要だと言うこと。
 スハンは青い満月の日に手紙を出してくれた。
 青い満月の日に送れる手紙は一方通行なため、返事は満月を3回迎えないといけない。
 
 スハンは入国石をナミルにいる2人に用意してもらえないか聞いてくれたのだ。
 彼らの返事に期待を抱きながら、その間に供え物を集めることにした。
 
 日中は城での勤務があるため、必然的に供え物は夜集めるしかなかった。
 グルファン王国近辺で採れるものはなんとかなる。でも、他国でしか採れないものは一体どうすれば……。

 その時、疫病の薬を作るためにアルツナハインへと赴くこととなり、必要な薬を水面下で多めに渡す代わりに供え物の素材がある国へ行ける転移魔法石を貰うことにした。

 そして、夜が来るたび転移魔法石を使用して各国の供え物の素材を集めた。
 ただどうしてもすばしっこい生き物や中々出てこない素材に苦戦していた時だった。
 手に入りにくい素材がその国の木の根元などに置いてあることがあった。
 偶然かと思ったそれは他の国でも同様のことがあり、誰かが過去に置いていったものだと分かった。
 稀に食い散らかされていることがあるものの、そのおかげで俺は短期間で供え物の素材を集めることができた。
 残る素材は転移魔法石で行けないような特殊な場所、ピエナの森や運要素のあるキノスの森などだ。

 そして、エンフィルが死ぬ前日、青い満月の日に返事は来た。

『入国石は何とか用意する。3回目の満月を迎える時、ルゥ国のルミアースの森で会おう』

 気がかりだった入国石が何とか手に入りそうで肩を下ろし、スハンと向き合った。

『スハン、ミンの薬を多めに渡しておく。薬の作り方も教えておく。そして、俺が優馬を連れ出したら良太はスハンの元へ行くかもしれない……だから、ミンと一緒に神殿に行って欲しい。ここに来る前にユーシアにスハンとミンのことを頼んできた』

 俺が優馬を連れ出そうとしていることが良太にバレれば、良太は必ずスハンの元を訪れるだろうと考えた。
 2人に害が及ぶ前に神殿に匿って貰えれば良太も迂闊には近寄れない。

 その翌日、エンフィルが死に、想像していなかった形で俺たちは城を後にすることとなった。
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