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第六章 終結(神殿編)
ケッシナの森の崖 良太side
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ユーシアを追いかけて数日。悪天候続きだった日も最近は太陽が出てきて地面は徐々に乾き始めていた。でも、今いる森は湿気が多く、まだぬかるんでいる地面も多い。そのぬかるんだ地面に誰かの足跡を見つけた。大人1人の足跡だ。向かっている方向もルウファで、これがユーシアの足跡だと直感した。その足跡を追いかけ続けていると、足跡の異変に気付く。ルウファへと向かうその足跡は少し軌道がそれてグルファン王国とルウファの中間地点を目指しているように思えたのだ。
(このまま北へ行けばルウファなのにどうして?)
次に見つけた大きなぬかるみで決定的な違和感に気付いた。足跡が2人に増えていたのだ。ホルアンに追いついたのだろうか?いや、よく見ると馬の蹄の跡もある。馬に乗るのは大抵騎士が多い。でも、馬の足跡から馬は1頭しかいないようだ。こんな場所に単独で騎士がいるものだろうか?警戒しながら、足を進めたその時、胸元の通信石が震えた。バルドからだ。
『決行の日は王位継承が行われる太陽の日にする。その時にベアル市の結界を解いて欲しい』
『分かった』
僕の返事にバルドは王位継承の儀式が行われる場所を僕に伝えた。ちょうど今いる場所から遠くない場所だ。
『また何かあれば連絡する』
『あ、ちょっと待って……』
バルドが端的に用件を言い、通信石を切ろうとしたので引き留めた。
『この前聞いてたあれは……』
『あぁ、それは……』
バルドが僕の問いに答え、僕はにっと口角を上げた。バルドとの会話を終え、足跡を追おうとした時、どこかから馬の荒々しい声が聞こえた。草むらに隠れ、その声の場所を探る。ゆっくりとバレないように近づくと、馬の傍に誰かがいる。ヒヒ―ンと荒い息を立てて馬が暴れているのを、どうどうと騎士が宥めている。そいつはグルファン王国の騎士服を着ている。体格は良いが優しそうな雰囲気の男だ。そして、その横にユーシアがいた。
『ユーシア様、大丈夫でしたか?馬が蛇に驚いたようで』
『えぇ、大丈夫です。それよりも私の足腰が悪いせいで歩かせることになり申し訳ありません』
『いえ、ユーシア様を無事に保護出来て良かったです。あのまま北へ行かれていたら土砂崩れで危なかったので。それにケッシナの森自体、湿気が多く足場も悪いです。あまり馬も行きたがらないので気にしないでください。まぁ、こいつはぬかるみが好きなものの蛇が大の苦手で。もう少しで到着しますので無理なさらないでください。祭典の準備段階ですが、そこには馬車などもあり安全にルウファへとお連れすることもできます』
ユーシアが北へ行かなかったのは土砂崩れで通り抜けが出来なかったらしい。この騎士はユーシアを見つけ、一緒に戻ろうとしているようだ。先ほどの会話の内容からこの騎士は王位継承の儀式を行う祭典の場所へ向かっているのだろう。ユーシアをこのまま連れて行かれてはまずい。ユーシアには聞きたいことがある。スハンとミンの居場所やタルラークの国王陛下が言っていた召喚者の犠牲者の意味を知っているかもしれない。それに何よりもユーシアはホルアンをうまく利用するのに都合がいい。祭典の場へ行き、合流されると他の騎士たちもいて厄介だ。
『それに今から少し道の幅が狭くなりますし、崖の傍を歩かないといけません。急がずにゆっくりと行きましょう』
(あの騎士が邪魔だな……)
ユーシアに掌握魔術をかけてもいいが、騎士が仲間を呼ぶと厄介だ。騎士を殺すか、遠ざけないと。そこにヌルッとした何かが手に触れた。見下ろすと薄黄色の蛇だ。こちらに気付きシャーっと牙を剥いた。ホールドの魔術で噛みつかないように固定する。そこでユーシアと騎士を引き離す方法を考えた。幸運なことに地面はぬかるんでいて今から崖の傍を歩くというではないか。不可視の魔術を自分と蛇にかけ、そろりと近づいた。馬に僕は見えないものの何かに気付いたのか少し興奮してソワソワとし始め、ヒヒーンと馬がなく。
『どうした?ここは何度も通っている道だろ?おかしいな、蛇もいないのに』
『また雨も降りそうですし、今日はやめておきますか?』
2人が馬の異変に戸惑っている間に近づき、馬の足元に先ほど捕まえた蛇を投げ飛ばした。蛇にかけていた不可視とホールドの魔術を解除する。
『うわっ……!!』
ヒヒーンと馬が大きくいななき、前足を大きく上げた。その暴れる馬の足に蛇が噛みつき、より一層馬は暴れた。手綱を持っていた騎士が足で蹴られた。ユーシアがその騎士を助けようと腕を掴もうとした時、馬がまたいななき崖の下へと落ちて行った。手綱が騎士の手首にひっかかったせいで、騎士もユーシアも馬と一緒に崖の下へと落下してしまった。自身の不可視の魔術を解いて慌てて近づき見下ろすも、2人も馬も見えず、鬱蒼とした湿り気を帯びた深い緑色の木々しか見えなかった。
(……しまった。ユーシアまで落ちてしまった……)
崖下からは何も聞こえない。シトシトとした雨が降り始め、ほの暗い崖先をじっと見つめた。少し眺めた後、はぁとため息をついて、背を向けた。この崖から落ちたのではまず生きているのは難しいだろう。ユーシアのことは諦めてホルアンのいるルウファへと進むことにした。
(このまま北へ行けばルウファなのにどうして?)
次に見つけた大きなぬかるみで決定的な違和感に気付いた。足跡が2人に増えていたのだ。ホルアンに追いついたのだろうか?いや、よく見ると馬の蹄の跡もある。馬に乗るのは大抵騎士が多い。でも、馬の足跡から馬は1頭しかいないようだ。こんな場所に単独で騎士がいるものだろうか?警戒しながら、足を進めたその時、胸元の通信石が震えた。バルドからだ。
『決行の日は王位継承が行われる太陽の日にする。その時にベアル市の結界を解いて欲しい』
『分かった』
僕の返事にバルドは王位継承の儀式が行われる場所を僕に伝えた。ちょうど今いる場所から遠くない場所だ。
『また何かあれば連絡する』
『あ、ちょっと待って……』
バルドが端的に用件を言い、通信石を切ろうとしたので引き留めた。
『この前聞いてたあれは……』
『あぁ、それは……』
バルドが僕の問いに答え、僕はにっと口角を上げた。バルドとの会話を終え、足跡を追おうとした時、どこかから馬の荒々しい声が聞こえた。草むらに隠れ、その声の場所を探る。ゆっくりとバレないように近づくと、馬の傍に誰かがいる。ヒヒ―ンと荒い息を立てて馬が暴れているのを、どうどうと騎士が宥めている。そいつはグルファン王国の騎士服を着ている。体格は良いが優しそうな雰囲気の男だ。そして、その横にユーシアがいた。
『ユーシア様、大丈夫でしたか?馬が蛇に驚いたようで』
『えぇ、大丈夫です。それよりも私の足腰が悪いせいで歩かせることになり申し訳ありません』
『いえ、ユーシア様を無事に保護出来て良かったです。あのまま北へ行かれていたら土砂崩れで危なかったので。それにケッシナの森自体、湿気が多く足場も悪いです。あまり馬も行きたがらないので気にしないでください。まぁ、こいつはぬかるみが好きなものの蛇が大の苦手で。もう少しで到着しますので無理なさらないでください。祭典の準備段階ですが、そこには馬車などもあり安全にルウファへとお連れすることもできます』
ユーシアが北へ行かなかったのは土砂崩れで通り抜けが出来なかったらしい。この騎士はユーシアを見つけ、一緒に戻ろうとしているようだ。先ほどの会話の内容からこの騎士は王位継承の儀式を行う祭典の場所へ向かっているのだろう。ユーシアをこのまま連れて行かれてはまずい。ユーシアには聞きたいことがある。スハンとミンの居場所やタルラークの国王陛下が言っていた召喚者の犠牲者の意味を知っているかもしれない。それに何よりもユーシアはホルアンをうまく利用するのに都合がいい。祭典の場へ行き、合流されると他の騎士たちもいて厄介だ。
『それに今から少し道の幅が狭くなりますし、崖の傍を歩かないといけません。急がずにゆっくりと行きましょう』
(あの騎士が邪魔だな……)
ユーシアに掌握魔術をかけてもいいが、騎士が仲間を呼ぶと厄介だ。騎士を殺すか、遠ざけないと。そこにヌルッとした何かが手に触れた。見下ろすと薄黄色の蛇だ。こちらに気付きシャーっと牙を剥いた。ホールドの魔術で噛みつかないように固定する。そこでユーシアと騎士を引き離す方法を考えた。幸運なことに地面はぬかるんでいて今から崖の傍を歩くというではないか。不可視の魔術を自分と蛇にかけ、そろりと近づいた。馬に僕は見えないものの何かに気付いたのか少し興奮してソワソワとし始め、ヒヒーンと馬がなく。
『どうした?ここは何度も通っている道だろ?おかしいな、蛇もいないのに』
『また雨も降りそうですし、今日はやめておきますか?』
2人が馬の異変に戸惑っている間に近づき、馬の足元に先ほど捕まえた蛇を投げ飛ばした。蛇にかけていた不可視とホールドの魔術を解除する。
『うわっ……!!』
ヒヒーンと馬が大きくいななき、前足を大きく上げた。その暴れる馬の足に蛇が噛みつき、より一層馬は暴れた。手綱を持っていた騎士が足で蹴られた。ユーシアがその騎士を助けようと腕を掴もうとした時、馬がまたいななき崖の下へと落ちて行った。手綱が騎士の手首にひっかかったせいで、騎士もユーシアも馬と一緒に崖の下へと落下してしまった。自身の不可視の魔術を解いて慌てて近づき見下ろすも、2人も馬も見えず、鬱蒼とした湿り気を帯びた深い緑色の木々しか見えなかった。
(……しまった。ユーシアまで落ちてしまった……)
崖下からは何も聞こえない。シトシトとした雨が降り始め、ほの暗い崖先をじっと見つめた。少し眺めた後、はぁとため息をついて、背を向けた。この崖から落ちたのではまず生きているのは難しいだろう。ユーシアのことは諦めてホルアンのいるルウファへと進むことにした。
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