32 / 51
仕掛けられた罠
しおりを挟む
視察先ではレティシアのかけた防御魔法が発動することなく、無事に帰ってくることができて、ひとまずほっとする。
見つけた魔法陣の解析も進めなければならないが、同じようなものがほかにもないか、調査を行なうべきだとレティシアはアロイスに提案する。
「陛下の寝室に入らせていただくことはできませんか?」
「可能だとは思うが、ほかにも仕掛けられている可能性があるのか?」
「それを確かめたいのです。なければそれはそれで安心する材料となります」
「そうだな……。エヴァに相談してみよう」
次のチームに護衛を引き継いだレティシアたちは、近衛の責任者であるエヴァリストに相談を持ちかけた。
「いいですよ。でも、レティシア夫人だけだと後でいろいろとごねられる可能性があるので、誰かと一緒に作業をしてください」
エヴァリストからは条件付だったが、存外あっさりと許可がでた。
確かに、あとでレティシアが仕込んだと疑われるのは困る。魔法については専門家がいるのなら手を借りたほうが効率はいい。
レティシアは近衛の控え室にいる魔法使いに声をかけてみた。
「どなたか、陛下のお部屋の調査を手伝っていただけないでしょうか?」
しかし、誰もレティシアの要請に応える者はいない。
どうしようかとレティシアが悩んでいると、アンリが手を挙げた。
「俺が手伝う」
「アンリ、わかってるんだろうな?」
「そいつを手伝うなら、おまえも同じになるぞ」
進み出ようとしたアンリに、ほかの魔法使いたちが低い声で脅す。
「俺たちの仕事はなんだ? そんなことも忘れたのか? ほら、レティシア、行くぞ」
アンリは残っていた魔法使いを軽蔑した表情で一瞥した。
アンリの鋭い眼光に、魔法使いたちはたじろいだが、彼のほかに協力を申し出てくれる魔法使いはいなかった。
「助かります」
アンリがレティシアを手伝うのであれば、アンリもまたほかの魔法使いたちから無視されることになるだろう。
全てをわかった上でのアンリの発言に、レティシアは礼の言葉しか出てこなかった。
レティシアはアンリと共に陛下の寝室へ向かう。
だれもいない寝室にふたりは足を踏み入れた。
国王の寝室だけあって、調度はどれも上質のものが揃えられている。
「アンリ、魔力の痕跡がないかを確認してもらえる? あるとすれば、これに似たものだと思うのだけれど」
レティシアは今日見つけたばかりの紙片をアンリに見せる。
珍しいものを見るような表情に、レティシアは少し安堵する。
彼がこの魔法陣を仕掛けた犯人である可能性は低そうだ。
そう考えて、レティシアはもう少し情報を開示することにする。
「わかった。でも、紙に書かれた魔法陣が起動するのか?」
「おそらくだけれど、紙ではなくてインクに秘密があるんだと思う」
「インク!?」
アンリが大きく目を見開く。
「詳しくは調べてみないとわからないけれど、インクに魔石かなにかを混ぜたのかも」
「なるほど。それなら可能かもしれない。思いつかなかったな……」
魔法陣は魔法使いがいなければ発動させられないという思い込みがあった。
けれどもしレティシアの予想が正しければ、これからは誰もが魔法を手軽に使うことができるようになってしまうだろう。
「とりあえず、見つけてもすぐに触らないで。おそらく罠が仕掛けられているはずだから」
レティシアは魔法陣を解除しようとして、攻撃魔法を受けたことをアンリに伝えた。
「ちょっ、大丈夫なのかよ?」
「大した傷じゃなかったし、もう治したから大丈夫!」
心配してくれる人がいるというのは嬉しいものだ。
レティシアの顔には笑みが浮かんでいた。
「じゃあ、俺はここから半分を調べる。そっちは任せた」
「はい」
部屋の中央で分担して、国王を害そうとする魔法陣がないかを確認する。
アンリが寝台を調べ始めたので、レティシアは反対側のライティングデスクから調べることにした。
念のための調査だったのに、残念ながらレティシアの感覚に引っかかるものがある。
「アンリ、ちょっと来て」
「なんだ?」
寝台のマットレスをひっくり返そうとしていたアンリが手を止め、レティシアに駆け寄る。
「ここ、わかる?」
「んんー? いや、ちょっと待て」
アンリの感覚では捉えられなかったらしく、なんどもライティングデスクに手をかざしている。
「えっと、ちょっとだけ手を貸してもらえる?」
「なんだよ?」
自分では見つけられないのが悔しかったらしく、アンリはぶっきらぼうな口調で答えながらも手を差し出した。
「ここ、変な感じがするの」
レティシアはアロイスの手をつかみ、わずかに魔力を流す。
「うわ、ちょっ、気持ちわりぃな」
「我慢して」
他人の魔力を身体に受け入れるのはどうしても違和感が生まれる。その違和感が大きいと、気持ち悪く感じてしまうのも仕方がないことだった。
けれど、いまアンリにこの新種の魔法陣の仕掛けを教えるためには、レティシアの感覚を強引にでも共有させるのが一番手っ取り早い方法だった。
「ほら、ここにすこし引っかかるような感じがするでしょう?」
「あ……、もしかして、これか?」
今度はアンリにも魔法陣の感覚がわかったらしく、レティシアはアンリの手を離す。
レティシアの感覚に引っかかったのは、ライティングデスクの引き出しだった。
おそらく引き出しを開けたとたんに、なんらかの攻撃魔法が発動するはずだ。
「開けるぞ?」
防御魔法の魔法陣を展開したアンリが、レティシアに確認する。
「だめ。できれば証拠として残したいから、そのまま魔法陣に魔力を流して書き換えた方が安全だと思う」
「ちっ、わかったよ。俺がやる」
「気をつけて」
レティシアは念のため防御魔法を展開しておいた。
アンリが引き出しを開けずに魔力を流し始める。
「……っと、これでいいはず」
魔力を流し終えたアンリは、ほっとした様子で引き出しに手をかけた。
レティシアはなんだか不吉な予感がした。
「あ、待って」
「え?」
レティシアの制止もむなしく、アンリの手が引き出しを開ける。
レティシアは念のためにと用意していた防御魔法を咄嗟に発動させる。
だが、間に合わない。
「っああああ!」
アンリの悲鳴が王の寝室に響いた。
見つけた魔法陣の解析も進めなければならないが、同じようなものがほかにもないか、調査を行なうべきだとレティシアはアロイスに提案する。
「陛下の寝室に入らせていただくことはできませんか?」
「可能だとは思うが、ほかにも仕掛けられている可能性があるのか?」
「それを確かめたいのです。なければそれはそれで安心する材料となります」
「そうだな……。エヴァに相談してみよう」
次のチームに護衛を引き継いだレティシアたちは、近衛の責任者であるエヴァリストに相談を持ちかけた。
「いいですよ。でも、レティシア夫人だけだと後でいろいろとごねられる可能性があるので、誰かと一緒に作業をしてください」
エヴァリストからは条件付だったが、存外あっさりと許可がでた。
確かに、あとでレティシアが仕込んだと疑われるのは困る。魔法については専門家がいるのなら手を借りたほうが効率はいい。
レティシアは近衛の控え室にいる魔法使いに声をかけてみた。
「どなたか、陛下のお部屋の調査を手伝っていただけないでしょうか?」
しかし、誰もレティシアの要請に応える者はいない。
どうしようかとレティシアが悩んでいると、アンリが手を挙げた。
「俺が手伝う」
「アンリ、わかってるんだろうな?」
「そいつを手伝うなら、おまえも同じになるぞ」
進み出ようとしたアンリに、ほかの魔法使いたちが低い声で脅す。
「俺たちの仕事はなんだ? そんなことも忘れたのか? ほら、レティシア、行くぞ」
アンリは残っていた魔法使いを軽蔑した表情で一瞥した。
アンリの鋭い眼光に、魔法使いたちはたじろいだが、彼のほかに協力を申し出てくれる魔法使いはいなかった。
「助かります」
アンリがレティシアを手伝うのであれば、アンリもまたほかの魔法使いたちから無視されることになるだろう。
全てをわかった上でのアンリの発言に、レティシアは礼の言葉しか出てこなかった。
レティシアはアンリと共に陛下の寝室へ向かう。
だれもいない寝室にふたりは足を踏み入れた。
国王の寝室だけあって、調度はどれも上質のものが揃えられている。
「アンリ、魔力の痕跡がないかを確認してもらえる? あるとすれば、これに似たものだと思うのだけれど」
レティシアは今日見つけたばかりの紙片をアンリに見せる。
珍しいものを見るような表情に、レティシアは少し安堵する。
彼がこの魔法陣を仕掛けた犯人である可能性は低そうだ。
そう考えて、レティシアはもう少し情報を開示することにする。
「わかった。でも、紙に書かれた魔法陣が起動するのか?」
「おそらくだけれど、紙ではなくてインクに秘密があるんだと思う」
「インク!?」
アンリが大きく目を見開く。
「詳しくは調べてみないとわからないけれど、インクに魔石かなにかを混ぜたのかも」
「なるほど。それなら可能かもしれない。思いつかなかったな……」
魔法陣は魔法使いがいなければ発動させられないという思い込みがあった。
けれどもしレティシアの予想が正しければ、これからは誰もが魔法を手軽に使うことができるようになってしまうだろう。
「とりあえず、見つけてもすぐに触らないで。おそらく罠が仕掛けられているはずだから」
レティシアは魔法陣を解除しようとして、攻撃魔法を受けたことをアンリに伝えた。
「ちょっ、大丈夫なのかよ?」
「大した傷じゃなかったし、もう治したから大丈夫!」
心配してくれる人がいるというのは嬉しいものだ。
レティシアの顔には笑みが浮かんでいた。
「じゃあ、俺はここから半分を調べる。そっちは任せた」
「はい」
部屋の中央で分担して、国王を害そうとする魔法陣がないかを確認する。
アンリが寝台を調べ始めたので、レティシアは反対側のライティングデスクから調べることにした。
念のための調査だったのに、残念ながらレティシアの感覚に引っかかるものがある。
「アンリ、ちょっと来て」
「なんだ?」
寝台のマットレスをひっくり返そうとしていたアンリが手を止め、レティシアに駆け寄る。
「ここ、わかる?」
「んんー? いや、ちょっと待て」
アンリの感覚では捉えられなかったらしく、なんどもライティングデスクに手をかざしている。
「えっと、ちょっとだけ手を貸してもらえる?」
「なんだよ?」
自分では見つけられないのが悔しかったらしく、アンリはぶっきらぼうな口調で答えながらも手を差し出した。
「ここ、変な感じがするの」
レティシアはアロイスの手をつかみ、わずかに魔力を流す。
「うわ、ちょっ、気持ちわりぃな」
「我慢して」
他人の魔力を身体に受け入れるのはどうしても違和感が生まれる。その違和感が大きいと、気持ち悪く感じてしまうのも仕方がないことだった。
けれど、いまアンリにこの新種の魔法陣の仕掛けを教えるためには、レティシアの感覚を強引にでも共有させるのが一番手っ取り早い方法だった。
「ほら、ここにすこし引っかかるような感じがするでしょう?」
「あ……、もしかして、これか?」
今度はアンリにも魔法陣の感覚がわかったらしく、レティシアはアンリの手を離す。
レティシアの感覚に引っかかったのは、ライティングデスクの引き出しだった。
おそらく引き出しを開けたとたんに、なんらかの攻撃魔法が発動するはずだ。
「開けるぞ?」
防御魔法の魔法陣を展開したアンリが、レティシアに確認する。
「だめ。できれば証拠として残したいから、そのまま魔法陣に魔力を流して書き換えた方が安全だと思う」
「ちっ、わかったよ。俺がやる」
「気をつけて」
レティシアは念のため防御魔法を展開しておいた。
アンリが引き出しを開けずに魔力を流し始める。
「……っと、これでいいはず」
魔力を流し終えたアンリは、ほっとした様子で引き出しに手をかけた。
レティシアはなんだか不吉な予感がした。
「あ、待って」
「え?」
レティシアの制止もむなしく、アンリの手が引き出しを開ける。
レティシアは念のためにと用意していた防御魔法を咄嗟に発動させる。
だが、間に合わない。
「っああああ!」
アンリの悲鳴が王の寝室に響いた。
0
あなたにおすすめの小説
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です
勘違い妻は騎士隊長に愛される。
更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。
ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ――
あれ?何か怒ってる?
私が一体何をした…っ!?なお話。
有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。
※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。
カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~
伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華
結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空
幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。
割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。
思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。
二人の結婚生活は一体どうなる?
片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく
おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。
そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。
夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。
そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。
全4話です。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください
無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――
十年越しの幼馴染は今や冷徹な国王でした
柴田はつみ
恋愛
侯爵令嬢エラナは、父親の命令で突然、10歳年上の国王アレンと結婚することに。
幼馴染みだったものの、年の差と疎遠だった期間のせいですっかり他人行儀な二人の新婚生活は、どこかギクシャクしていました。エラナは国王の冷たい態度に心を閉ざし、離婚を決意します。
そんなある日、国王と聖女マリアが親密に話している姿を頻繁に目撃したエラナは、二人の関係を不審に思い始めます。
護衛騎士レオナルドの協力を得て真相を突き止めることにしますが、逆に国王からはレオナルドとの仲を疑われてしまい、事態は思わぬ方向に進んでいきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる