契約結婚のススメ

文月 蓮

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仕掛けられた罠

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 視察先ではレティシアのかけた防御魔法が発動することなく、無事に帰ってくることができて、ひとまずほっとする。
 見つけた魔法陣の解析も進めなければならないが、同じようなものがほかにもないか、調査を行なうべきだとレティシアはアロイスに提案する。

「陛下の寝室に入らせていただくことはできませんか?」
「可能だとは思うが、ほかにも仕掛けられている可能性があるのか?」
「それを確かめたいのです。なければそれはそれで安心する材料となります」
「そうだな……。エヴァに相談してみよう」

 次のチームに護衛を引き継いだレティシアたちは、近衛の責任者であるエヴァリストに相談を持ちかけた。

「いいですよ。でも、レティシア夫人だけだと後でいろいろとごねられる可能性があるので、誰かと一緒に作業をしてください」

 エヴァリストからは条件付だったが、存外あっさりと許可がでた。
 確かに、あとでレティシアが仕込んだと疑われるのは困る。魔法については専門家がいるのなら手を借りたほうが効率はいい。
 レティシアは近衛の控え室にいる魔法使いに声をかけてみた。

「どなたか、陛下のお部屋の調査を手伝っていただけないでしょうか?」

 しかし、誰もレティシアの要請に応える者はいない。
 どうしようかとレティシアが悩んでいると、アンリが手を挙げた。

「俺が手伝う」
「アンリ、わかってるんだろうな?」
「そいつを手伝うなら、おまえも同じになるぞ」

 進み出ようとしたアンリに、ほかの魔法使いたちが低い声で脅す。

「俺たちの仕事はなんだ? そんなことも忘れたのか? ほら、レティシア、行くぞ」

 アンリは残っていた魔法使いを軽蔑した表情で一瞥いちべつした。
 アンリの鋭い眼光に、魔法使いたちはたじろいだが、彼のほかに協力を申し出てくれる魔法使いはいなかった。

「助かります」

 アンリがレティシアを手伝うのであれば、アンリもまたほかの魔法使いたちから無視されることになるだろう。
 全てをわかった上でのアンリの発言に、レティシアは礼の言葉しか出てこなかった。
 レティシアはアンリと共に陛下の寝室へ向かう。
 だれもいない寝室にふたりは足を踏み入れた。
 国王の寝室だけあって、調度はどれも上質のものが揃えられている。

「アンリ、魔力の痕跡がないかを確認してもらえる? あるとすれば、これに似たものだと思うのだけれど」

 レティシアは今日見つけたばかりの紙片をアンリに見せる。
 珍しいものを見るような表情に、レティシアは少し安堵する。
 彼がこの魔法陣を仕掛けた犯人である可能性は低そうだ。
 そう考えて、レティシアはもう少し情報を開示することにする。

「わかった。でも、紙に書かれた魔法陣が起動するのか?」
「おそらくだけれど、紙ではなくてインクに秘密があるんだと思う」
「インク!?」

 アンリが大きく目を見開く。

「詳しくは調べてみないとわからないけれど、インクに魔石かなにかを混ぜたのかも」
「なるほど。それなら可能かもしれない。思いつかなかったな……」

 魔法陣は魔法使いがいなければ発動させられないという思い込みがあった。
 けれどもしレティシアの予想が正しければ、これからは誰もが魔法を手軽に使うことができるようになってしまうだろう。

「とりあえず、見つけてもすぐに触らないで。おそらく罠が仕掛けられているはずだから」

 レティシアは魔法陣を解除しようとして、攻撃魔法を受けたことをアンリに伝えた。

「ちょっ、大丈夫なのかよ?」
「大した傷じゃなかったし、もう治したから大丈夫!」

 心配してくれる人がいるというのは嬉しいものだ。
 レティシアの顔には笑みが浮かんでいた。

「じゃあ、俺はここから半分を調べる。そっちは任せた」
「はい」

 部屋の中央で分担して、国王を害そうとする魔法陣がないかを確認する。
 アンリが寝台を調べ始めたので、レティシアは反対側のライティングデスクから調べることにした。
 念のための調査だったのに、残念ながらレティシアの感覚に引っかかるものがある。

「アンリ、ちょっと来て」
「なんだ?」

 寝台のマットレスをひっくり返そうとしていたアンリが手を止め、レティシアに駆け寄る。

「ここ、わかる?」
「んんー? いや、ちょっと待て」

 アンリの感覚では捉えられなかったらしく、なんどもライティングデスクに手をかざしている。

「えっと、ちょっとだけ手を貸してもらえる?」
「なんだよ?」

 自分では見つけられないのが悔しかったらしく、アンリはぶっきらぼうな口調で答えながらも手を差し出した。

「ここ、変な感じがするの」

 レティシアはアロイスの手をつかみ、わずかに魔力を流す。

「うわ、ちょっ、気持ちわりぃな」
「我慢して」

 他人の魔力を身体に受け入れるのはどうしても違和感が生まれる。その違和感が大きいと、気持ち悪く感じてしまうのも仕方がないことだった。
 けれど、いまアンリにこの新種の魔法陣の仕掛けを教えるためには、レティシアの感覚を強引にでも共有させるのが一番手っ取り早い方法だった。

「ほら、ここにすこし引っかかるような感じがするでしょう?」
「あ……、もしかして、これか?」

 今度はアンリにも魔法陣の感覚がわかったらしく、レティシアはアンリの手を離す。
 レティシアの感覚に引っかかったのは、ライティングデスクの引き出しだった。
 おそらく引き出しを開けたとたんに、なんらかの攻撃魔法が発動するはずだ。

「開けるぞ?」

 防御魔法の魔法陣を展開したアンリが、レティシアに確認する。

「だめ。できれば証拠として残したいから、そのまま魔法陣に魔力を流して書き換えた方が安全だと思う」
「ちっ、わかったよ。俺がやる」
「気をつけて」

 レティシアは念のため防御魔法を展開しておいた。
 アンリが引き出しを開けずに魔力を流し始める。

「……っと、これでいいはず」

 魔力を流し終えたアンリは、ほっとした様子で引き出しに手をかけた。
 レティシアはなんだか不吉な予感がした。

「あ、待って」
「え?」

 レティシアの制止もむなしく、アンリの手が引き出しを開ける。
 レティシアは念のためにと用意していた防御魔法を咄嗟に発動させる。
 だが、間に合わない。


「っああああ!」

 アンリの悲鳴が王の寝室に響いた。
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