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第二部
はじめてのクエスト
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「お嬢チャン、そんなにばかにしたもんじゃないぞ?」
すぐ隣でクエストの張り紙を見ていたおじさんが、苦笑しつつ声をかけてきた。
「どうしてですか?」
「ギルドカードってのは、便利だろう?」
「そうですね」
お金を預かってくれるような銀行みたいなこともしているし、図書館でも使えた。きっとほかの場所でも身分証明書のように使えるのだろう。
「だから、戦える者だけがギルドに登録しているわけじゃないってことだ。こんなふうに、街の中で危険が少なくこなせるクエストでも、必要としている奴がいるんだよ。その分、報酬は少ないけどな」
クラウディオと同じくらい背の高いおじさんは、私が見ていたクエストの張り紙の一つを指した。
荷物の配達のクエスト報酬は、一日で半銀貨一枚となっている。
薬草採集の銀貨一枚は採集には一日もかからないと思うから、そう考えると確かに安い。
「なるほど」
「それに、この買い物のクエストなんかは、足が悪くて買い物に行けないご老人からの依頼だ。みんなの役に立つことも大事だろう?」
「そうですね」
冒険者ギルドが派遣会社とかハローワークに似ていると感じたのも、間違いではなかったようだ。
「そういうことで、お嬢チャンにお勧めなのは、この買い物クエストだな」
おじさんはにやりと笑って、クエストの紙を指す。
ふふん。だけど、私が選ぶのはそれじゃないよ。せっかく冒険者になったのだもの。それらしいことをしたいじゃないですか。
私は薬草採集の張り紙をはがした。
「クラウディオ、これにします」
「ん……」
クラウディオは抱き上げていた私を床におろしてくれた。
「おいおい。大丈夫かよ……」
おじさんは心配そうにつぶやいている。
「大丈夫です。私魔法使いですから!」
後ろでおじさんがえっと驚いたような気配がしていたけれど、こんな子供が使えるのかって心配しているのかな? まあ、私には関係ないし、気にしない。
私は期待に満ち溢れた表情で、クエストの受付窓口に並んだ。
クラウディオは何も言わずに私の後ろに並んでいる。
私がおじさんと話しているうちに、彼も何かクエストを見つけたようで、張り紙を手にしている。
うん。私につき合わせてばかりで、かなり申し訳ない。
列が進んで私の番が来た。
「お願いします」
私が何とか張り紙を窓口のカウンターの上に乗せると、見かねたクラウディオがすかさず抱き上げてくれた。
すまないねぇ。クラウディオ。
「ギルドカードをお出しください」
ポケットをごそごそと探って、ギルドカードを差し出す。
私もクラウディオみたいに鎖をつけて首から提げておこうかな。
「採集したラップの葉はこの袋に入れてください。三日以内に数量がそろわない場合は、クエストが失敗となり、成功報酬の二割を違約金として支払う必要がありますのでご注意ください」
窓口のお姉さんは、慣れているのか淡々とクエストの条件や注意点を教えてくれた。
「依頼では十枚となっていますが、それ以上も買い取り可能です。採取した薬草の入った袋をあちらの窓口に提出すれば、クエストが完了となり、報酬を受け取れます」
「はい。わかりました」
私は返してもらったギルドカードと、手渡された袋を受け取った。
「なにか質問は?」
お姉さんは、それまでの淡々とした態度からちょっと砕けた表情で、私に微笑みかけてきた。
「大丈夫です。ありがとう」
私もお姉さんににっこり笑い返して、クラウディオに床におろしてもらった。
クラウディオがクエストを受けているのを待ちつつ、私は手渡された皮の袋を確認する。
なんだか袋全体がぼんやりと光って見える。
よく見ると、袋には魔法がかけられているようだ。風火地水のいずれでもない、不思議な魔法の気配がする。
「なんだろう?」
私が首をかしげていると、頭上からクラウディオの声が降ってきた。
「どうした?」
「なんだか不思議な魔法の気配がする」
「ああ、保存の、魔法だな」
「保存?」
そんな魔法があるなんて聞いたことがない。おかしいな、魔法って精霊の力を借りて使うものじゃないの?
「どの属性の魔法なの?」
「時属性、だな」
え、なにそれ?
私は興奮して、クラウディオに詰め寄った。
「俺は、あまり、魔法には、詳しくない」
うん。そうですよね。クラウディオは戦士だもんね。聞いた私が悪かったよ。
「その袋には、時を止める、魔法が、かかっている」
「それってすごい」
鮮度を保つためだろうか。
あとで、青藍にでも聞いておこう。
私は契約している水の精霊に聞くことにした。魔法のことなら精霊に聞くのがいいだろう。
「じゃあ、行こう!」
「ルチア、ちょっと、待て」
「ん?」
元気よくギルドを出て、外に行こうとした私をクラウディオが呼び止めた。
「ラップの葉が、どんなものか、わかって、いるのか?」
あっ!
「どんな場所にあるのか、知っているのか?」
どんなものなのか、知らないし、当然採集できそうな場所もわからない。
私の元気は見る見る間にしぼんだ。
ちょっと興奮しすぎて、肝心なことを忘れていた。
「……わかりません」
「こっちだ」
クラウディオは私をギルドの一角に連れて行ってくれた。
そこには図鑑のようなものが並んでいる。
「ここで、依頼にある、ものは、大体、調べられる。ここに、無ければ、窓口で、聞けば、いい」
「クラウディオ、ありがとうございますっ!」
私は、早速図鑑に飛びついた。
しかし、ラップの葉というのがよくわからない。
どこにあるのー?
ぱらぱらと図鑑をめくるだけの私を見かねて、クラウディオが該当するページを探し始める。
「ここだ」
ラップの葉らしき絵があり、説明が書かれている。
暗い、ところ?
どうにかそんな文字を読み取って、クラウディオに確認する。
「ああ、そうだ。木の、根元に、生えて、いることが、多い」
あ! なんだかこの絵の葉っぱを見たことある気がしてきた。
「わかりました。大丈夫です」
「こっちも、行ける」
クラウディオも自分のクエストに必要なものを確認していたようだ。
そうして、ようやく私は初めてのクエストに向かった。
すぐ隣でクエストの張り紙を見ていたおじさんが、苦笑しつつ声をかけてきた。
「どうしてですか?」
「ギルドカードってのは、便利だろう?」
「そうですね」
お金を預かってくれるような銀行みたいなこともしているし、図書館でも使えた。きっとほかの場所でも身分証明書のように使えるのだろう。
「だから、戦える者だけがギルドに登録しているわけじゃないってことだ。こんなふうに、街の中で危険が少なくこなせるクエストでも、必要としている奴がいるんだよ。その分、報酬は少ないけどな」
クラウディオと同じくらい背の高いおじさんは、私が見ていたクエストの張り紙の一つを指した。
荷物の配達のクエスト報酬は、一日で半銀貨一枚となっている。
薬草採集の銀貨一枚は採集には一日もかからないと思うから、そう考えると確かに安い。
「なるほど」
「それに、この買い物のクエストなんかは、足が悪くて買い物に行けないご老人からの依頼だ。みんなの役に立つことも大事だろう?」
「そうですね」
冒険者ギルドが派遣会社とかハローワークに似ていると感じたのも、間違いではなかったようだ。
「そういうことで、お嬢チャンにお勧めなのは、この買い物クエストだな」
おじさんはにやりと笑って、クエストの紙を指す。
ふふん。だけど、私が選ぶのはそれじゃないよ。せっかく冒険者になったのだもの。それらしいことをしたいじゃないですか。
私は薬草採集の張り紙をはがした。
「クラウディオ、これにします」
「ん……」
クラウディオは抱き上げていた私を床におろしてくれた。
「おいおい。大丈夫かよ……」
おじさんは心配そうにつぶやいている。
「大丈夫です。私魔法使いですから!」
後ろでおじさんがえっと驚いたような気配がしていたけれど、こんな子供が使えるのかって心配しているのかな? まあ、私には関係ないし、気にしない。
私は期待に満ち溢れた表情で、クエストの受付窓口に並んだ。
クラウディオは何も言わずに私の後ろに並んでいる。
私がおじさんと話しているうちに、彼も何かクエストを見つけたようで、張り紙を手にしている。
うん。私につき合わせてばかりで、かなり申し訳ない。
列が進んで私の番が来た。
「お願いします」
私が何とか張り紙を窓口のカウンターの上に乗せると、見かねたクラウディオがすかさず抱き上げてくれた。
すまないねぇ。クラウディオ。
「ギルドカードをお出しください」
ポケットをごそごそと探って、ギルドカードを差し出す。
私もクラウディオみたいに鎖をつけて首から提げておこうかな。
「採集したラップの葉はこの袋に入れてください。三日以内に数量がそろわない場合は、クエストが失敗となり、成功報酬の二割を違約金として支払う必要がありますのでご注意ください」
窓口のお姉さんは、慣れているのか淡々とクエストの条件や注意点を教えてくれた。
「依頼では十枚となっていますが、それ以上も買い取り可能です。採取した薬草の入った袋をあちらの窓口に提出すれば、クエストが完了となり、報酬を受け取れます」
「はい。わかりました」
私は返してもらったギルドカードと、手渡された袋を受け取った。
「なにか質問は?」
お姉さんは、それまでの淡々とした態度からちょっと砕けた表情で、私に微笑みかけてきた。
「大丈夫です。ありがとう」
私もお姉さんににっこり笑い返して、クラウディオに床におろしてもらった。
クラウディオがクエストを受けているのを待ちつつ、私は手渡された皮の袋を確認する。
なんだか袋全体がぼんやりと光って見える。
よく見ると、袋には魔法がかけられているようだ。風火地水のいずれでもない、不思議な魔法の気配がする。
「なんだろう?」
私が首をかしげていると、頭上からクラウディオの声が降ってきた。
「どうした?」
「なんだか不思議な魔法の気配がする」
「ああ、保存の、魔法だな」
「保存?」
そんな魔法があるなんて聞いたことがない。おかしいな、魔法って精霊の力を借りて使うものじゃないの?
「どの属性の魔法なの?」
「時属性、だな」
え、なにそれ?
私は興奮して、クラウディオに詰め寄った。
「俺は、あまり、魔法には、詳しくない」
うん。そうですよね。クラウディオは戦士だもんね。聞いた私が悪かったよ。
「その袋には、時を止める、魔法が、かかっている」
「それってすごい」
鮮度を保つためだろうか。
あとで、青藍にでも聞いておこう。
私は契約している水の精霊に聞くことにした。魔法のことなら精霊に聞くのがいいだろう。
「じゃあ、行こう!」
「ルチア、ちょっと、待て」
「ん?」
元気よくギルドを出て、外に行こうとした私をクラウディオが呼び止めた。
「ラップの葉が、どんなものか、わかって、いるのか?」
あっ!
「どんな場所にあるのか、知っているのか?」
どんなものなのか、知らないし、当然採集できそうな場所もわからない。
私の元気は見る見る間にしぼんだ。
ちょっと興奮しすぎて、肝心なことを忘れていた。
「……わかりません」
「こっちだ」
クラウディオは私をギルドの一角に連れて行ってくれた。
そこには図鑑のようなものが並んでいる。
「ここで、依頼にある、ものは、大体、調べられる。ここに、無ければ、窓口で、聞けば、いい」
「クラウディオ、ありがとうございますっ!」
私は、早速図鑑に飛びついた。
しかし、ラップの葉というのがよくわからない。
どこにあるのー?
ぱらぱらと図鑑をめくるだけの私を見かねて、クラウディオが該当するページを探し始める。
「ここだ」
ラップの葉らしき絵があり、説明が書かれている。
暗い、ところ?
どうにかそんな文字を読み取って、クラウディオに確認する。
「ああ、そうだ。木の、根元に、生えて、いることが、多い」
あ! なんだかこの絵の葉っぱを見たことある気がしてきた。
「わかりました。大丈夫です」
「こっちも、行ける」
クラウディオも自分のクエストに必要なものを確認していたようだ。
そうして、ようやく私は初めてのクエストに向かった。
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